第41話 プロ見習いは出題する
5回戦を終えると、プラムは急いで対戦室を飛び出し、ウエスト・アリーナのロビーに向かった。
「あっ! プラムさん!」
「撮れてますよっ!」
「ありがとうございますっ! 見せてください!」
動画ウインドウを差し出してくるのは、配信での呼びかけでわざわざ駆けつけてくれたリスナーの女の子たちだ。
なんとなく、自分の配信は男の人が多いのかな、と思っていたプラムは、女の子が来てくれたことに驚いたと共にほっとしていた。
たとえリスナーであっても、見ず知らずの男の人と喋るのは、とてもハードルの高いことなのだ。
「今回も3セット目で《トラップモンク》が出てきましたよ」
「2ラウンドともすぐに終わっちゃいましたけど……」
ウインドウに映るのは、ジンケの5回戦を録画したものだ。
プラムは胴着のような装備に身を包み、杖を右手に握ったジンケを注視する。
「あの杖って、もう特定できたんでしたっけ……?」
プラムが控えめに訊くと、リスナーの少女たちは「あっ、はい!」と答え、ブラウザを開いた。
「《魔蝕大樹霊の
「もっと北の方にある樹海ダンジョンに出てくるボスのドロップ素材から作れる武器らしいです」
「見た目は杖で、MATも上がるんですけど、システム的には両手剣扱いっていう、珍しい効果の武器なんですよ」
「両手剣扱い……だから《剣術》なんだ」
《モンク》クラスを出現させるには、3つのスキルを装備する必要がある。
1つ目は、プリースト系クラスの基本スキルで、バフやデバフ、回復魔法の効果を強める《神学》。
2つ目は、ジャンルを問わず魔法の効果を高める《精神力》。
そして3つ目が、《剣術》や《槍術》といった、いわゆる武術系と呼ばれるスキル群の中からどれかひとつ。
対人戦で使われるようなクラスは大抵、2つのスキルの組み合わせで出現するので、この点でも《モンク》にはハンデがあると言えるだろう。必須スキルが多ければ多いほど、スキル構成に柔軟性がなくなってしまうからだ。
画面の中のジンケは、相手の攻撃を《魔蝕大樹霊の剣枝》でうまくいなしながら、動き回ってトラップ魔法をセットしていく。
準備が終わると、杖で打ち合いながら相手を誘導――相手が麻痺効果を持つ《パラライズ・トラップ》を踏んだ瞬間、地獄めいたコンボが開始される。
麻痺中に風属性魔法の《エアガロス》で吹き飛ばしたかと思うと、その先の地面が《エクスプロージョン・トラップ》で爆発。爆風で跳ね飛ばした先にジンケが先回りして杖で殴打し、ようやく地面に落としたかと思ったら、また《パラライズ・トラップ》。この頃には《エアガロス》のクールタイムが終わっていて、また吹っ飛ばす。
この恐ろしいコンボにより、対戦相手のHPは4分の3以上消し飛んだ。
「うっへあー……」
「これはひどい」
リスナーの女の子たちが苦笑混じりに言う。
ほとんど即死コンボだ。
目には見えないトラップを一度でも踏んだ瞬間に発動するというのも最高にタチが悪い。
「トラップを張りまくられる前に倒しちゃうしかなくない?」
「だよねー……」
「それが一番、ではあるんだけど……」
女の子たちに同意しつつも、プラムは難しい顔をした。
開始直後から距離を詰めて果敢に攻め、短期決戦に持ち込む……。
これがもし、ウィザード系クラスや他のプリースト系クラスだったなら、その戦法で簡単に勝てただろう。
しかし、ジンケが使っているのは《モンク》。近距離戦もできるクラスなのだ。
何より、その使い手は、槍使いとして充分以上の名を馳せているジンケである。
彼の近距離戦における圧倒的なセンスはプラムもよく知るところだ。下手をすれば、近距離戦専門のクラスでも普通に負けてしまう可能性がある。
「……あっ。もしかして……」
「どうしたんですか?」
「何か気付いたんですかっ?」
「気付いたっていうか……もしかしたら、このスタイルの本質って、そっちの方にあるんじゃないかなって」
「そっち?」
「ですか?」
近距離戦。
ついド派手なトラップ・コンボに目を惹かれてしまうが、よく見てみると、ジンケと打ち合う対戦相手は、ひどく動きがぎこちなく見える。
「トラップが怖いんだ……」
一度でもあのトラップ・コンボで即死させられた人間は、次は絶対にトラップを踏むまいと警戒するようになる。
結果、自由に動けなくなるのだ。
これは見えない檻――本来ならば取り得た選択肢が、トラップの恐怖によって奪われている。
手札を奪われた対戦相手は、腰の引けた、しかも画一的な攻撃しか繰り出すことができなくなり――
「普通に負けちゃった……」
「近距離も強いとか隙なさすぎでしょ!」
2ラウンド目は
終始防勢に見えたジンケは、しかし一太刀として受けることなく、逆に反撃を加え続けて、そのまま呆気なく勝ってしまったのだった。
「……強い……」
実感と共に呟く。
このスタイル、めちゃくちゃ強い。
第一印象ではどうやったら勝てるのかわからないくらいだったが、分析すればするほどその強さが浮き彫りになっていく。
つまり、このスタイルは、場を整えることを主眼に置くのだ。
直接的に勝利を目指すのではなく、放っておいても勝手に勝てるくらい有利な状況を作り上げていく戦法。
だから、ひとたび場を整えられたら、逆転の目はほとんどない。
その前にケリをつけるか、あるいは――
「……せめて、トラップの場所を見分けられたらな……」
トラップが設置された場所は設置したプレイヤーにしか目視できない仕様になっている。
見分ける方法があるとしたら、設置の瞬間を確認して覚えておくしか術はない。
「んんー……? でも……」
プラムは対戦録画を見直しながら首を捻る。
スペルブックを出していないから、ショートカットを使ってトラップを設置しているのは確定だ。
とすれば、キーワードを詠唱するか、ジェスチャーを演じるかしているはずなのだが……。
「口も、手も、動いてない……」
トラップを設置した瞬間らしき時点を何度も繰り返すが、ショートカット発動を意味する挙動が見つからなかった。
◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆
「くっくっく」
対戦室でひとり、オレは怪しげに笑って悦に入っていた。
「さあて、オレはどうやってトラップ魔法を発動しているのでしょうか?」
制限時間は予選終了まで!
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