馬車の音は重苦しく

俺は、鳴り響く王宮の鐘の音で目が覚めた。

その日の空気は、俺だけ重苦しく…

動くのさえ嫌になるほどで、何もする気が起きなかった。

「おやじ,飯どうする……」

あぁ、そうだった…親父、もう居ないんだったな。

俺は、冷蔵庫に入っていたハムを取り出しフライパンでいい具合に焼き上げ、トースターから取り出したパンに焼きハムをのせた。

ほんのり香るトーストの匂いだけが俺の心をホッとさせた。

ガタガタと馬車が走る音が聞こえてきた。

俺は、食べ終えた食器をつけて大切な道具と衣服を大きめの鞄に詰めた。

馬車は、俺の家の前で止まり俺の家のドアをノックする音が聞こえた。

「私は、王家の遣いで参ったものだ。高石竜平殿いっしょに王宮まで御足労して頂こう」

堅苦しい挨拶が終わり、俺は荷物を抱えいつもより重たく感じた扉を開けた。

ガラガラッと馬車が走る音は、ずっと馬車内に鳴り響く。

「あの…俺は、いったい何の対価を支払えば…」

恐る恐るいかにもいかついって感じの人に聞いてみると

「それは、もうすぐわかります」

はぁ、っと俺が頷き返すとそれから長い沈黙が続いた。

「着きました」

高くそびえるラミネールの紋章が入った美しい国の宝とも言える王宮、、

こんな形でお目にかかるなんてな…

俺は、微笑を浮かべた。

「こちらへ」

メイドらしい女性が俺を屋内へと案内した。

中にはいくつもの絵画が飾られていた。

俺は、絵には詳しくないが何となく…

「つまらないなこの絵…」

そんなことを口ずさんでしまった。

ダンっ!何かを激しくたたきつけられた。

「~~~~ッ」

俺は、声にならない叫びを上げた。

後ろを振り向くと、フリフリのドレスにテディベアを抱えた10 歳ぐらいの小さな女の子が立っていた。

「……つ…ない…」

小さな声すぎてなんて言っているのか聞き取れない。

「えっと、、ごめんねもう1度いってくれるかな」

彼女は、バッと顔をあげて息を思いっきり吸い

「…スゥーー………けほっ、けほっ」

息を吸いすぎむせていた。

むせたせいかもしれないが、彼女は悲しそうにはたまた怒ったように

「わたくしの絵は、つまらなく無いですわ!!」

えっ?もしかしてこの絵を描いたのってこの娘なのか?

「君、お名前は?」 

「わたくしの名は、『ラミネール・アリス』第二王女なのです」

第二王女…

「っで、わたくしの絵を侮辱した根拠、お話してくださいますわよね!」

耳に響くぐらい大きな声で俺に怒鳴りつけてきた。

「それは…」っと、俺がいいかけた瞬間…

「アリス~、アリス~、うっ…うっ」

泣きながら歩いてくるアリス王女そっくりの女の子。

「どっぺる…」っと俺が言いかけると…

「ドッペルゲンガーでは、ありませんですからね」っとアリス。

「この娘は、わたくしの双子の妹『ラミネール・ラマーニュ』第三王女なのです」

キラキラ光る涙でぬれた瞳は、まるで

海の底に眠る人魚の鱗のようだ。

「どうしたのラマーニュ?」

「母様がいないの…」

「母様なら、外の庭園でいつものようにお花にお水を上げていましたよ」

二人の顔がパァーっとその言葉を聞いて輝き出した。

「ねぇ様!」

「ねぇ様!」っと、ほぼ二人同時に話した。

俺の後ろに立っていたのは、赤髪がよく目立つ第一王女『ラミネール・クラリス』だった。

「ねぇ様!遊ぼ!遊ぼ!」

「遊んで、遊んで!」

二人が飛び跳ねながらワイワイしながら走り回っていた。

「二人とも、ごめんなさい。今から、ねぇ様は、少し御用があって遊んであげられないの…また後でね」

二人は、しょんぼりした顔をしていた。

よしよしっと、クラリスが二人の頭を撫でた。

二人は、走ってどこかへ行ってしまった。

そこには、さっきとは全然違う重苦しい空気が巻き散り始めた。

「では、参りましょう…」 

コツコツと響くヒールの音が余計に緊張感を醸し出している。

大きな扉を前に俺は、おもった。

この扉を開ければ、もう二度とこの光の眩しい世界には、戻れないんだろうな…

ギィーーっと扉が開くと同時に俺は一言「さようなら…」っといった。

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