第17話 学校では夫婦とは言えないね

「「ご馳走でした」」

朝ごはんを食べ終わり食器を片付ける。

作って貰った少しばかりのお礼と、

食器を洗おうとしたら断られてしまった。


まゆはゆっくりしててよ」

「あ、まゆ にこれを渡して置かなきゃいけなかった」

ゴソゴソと通学カバンを漁りあるものを私に渡した。

「これは、」

「俺とまゆの住処のここのアパートの鍵」

俺と繭しか持ってないから大事にしてね?と秋人あきとくんは微笑む。


思わず鍵をぎゅうと両手で握りしめた。

ちいさな二人の世界の鍵を。


朝ごはんの食器も片付け終わり、

制服に着替える私たち。

だが、意外なことを知る。

「ねーえー!まゆ!ちょっとお願いがあるんだけど!」

ネクタイを手に慌てる秋人あきとくん

「ネクタイ結べと?」

こくりと頷く。

「そのままじっとしててね?」

するするとネクタイを結ぶ私の動作に、感心したような不思議そうな顔をしながら、秋人あきとくんはされるがまま、言葉どおりじっとしていた。

「おぉ、ありがとう、まゆ!」

さすが嫁さん、かわいいなぁー!!と言う音声が聞こえた気がする。抱きつかれて少し苦しい。


まゆは、学校一緒に行くよね?」

ネクタイを結び終わり、鏡を見て満足そうな顔をした後、秋人あきとくんはそう私に問いかけた。

「あっ……それは」

一緒に行くとは言えなかった。

自分が恥ずかしくて引っ込み思案なのは勿論あるが、秋人あきとくんは学校の人気者だ。

そんな人と私みたいなヤツが一緒にいたら尚更注目を浴びるに決まっている。

元々は一緒にいていいほどの存在では無いのだ。


「あ、そっか、俺は先行ってるね」


「うん、気をつけて」

秋人あきとくんは先に学校へ行ってしまった。


本当は、一緒に行くって言いたい、、。

折角夫婦なのに



あれ、'仮'なのに


私の方が本気になってるんじゃん。



学校では夫婦って言えないね。

ああ、もう少し私に自信が欲しい。

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