畑の呼び声

 嵐の夜というものは不思議な感覚に襲われることだろう。


 昼間と違って暗い。雨戸を閉め、場合によってはカーテンも閉める。雨音は激しくなり風も激しい。家の様々な所からガタガタと言う音が聞こえる。相当な不安に襲われることもあるだろう。


 申し遅れたが、私は畑だ。


 畑と言うのは人間の姓ではない。野菜や果物が育つ場所のことだ。


 何故その畑が話しているか気になっていると思う。実際のところ、この言葉を話しているのは私ではない。小さき錬金術師の助けにより言葉を放っている。小さき錬金術師に私の想いを受け取ってもらい、記述してもらっているのだ。


 嘘くさい話か?


 実際その通りだ。あまり本気にせず読んでください。


 話を戻そう。


 さて、家族や同居人が居たと仮定しよう。その者達が嵐について不安に襲われた際、色々とそのことを口に出すことが出来るだろう。大きな音がすればビクッとして呟くとか、雷が鳴ったら叫ぶとか。


 さて、様々な理由により、あなたがその手の言葉を発することが出来ないとする。動揺する者達を少し上から見ているような場合もあるかもしれない。


 そんな時に私の知るところである『邪悪なる畑』があなたに囁きかけてしまうのだ。


「畑の様子を見に行こう」


と。


 夕食の支度をし、その片づけをする。外から聞こえる音は大きい。自分も何かしたいが普段やっていないことである故、どうすればいいかわからない。どこから手をつけていいかわからない。


 そんな時に邪悪なる畑は囁く。


「畑の様子を見に行こう」


と。


 洗濯物を畳んだり、布団を敷いたり、お風呂の用意をしているの見ると自分も何かしなくてはと思ってしまう。出来ることもあったが動きだしたり言い出すタイミングを逃してしまい、うまく口に出せないまま時間が過ぎていく。外から聞こえる音は大きい。


 そんな時に邪悪なる畑は囁く。


「畑の様子を見に行こう」


と。


 そう言えば、自分は畑で作物を作る仕事をしていた。しっかり仕事をしていたのだ。もしも、その畑が大変なことになったら我が家の経済は大変なことになってしまうではないか。


 そんな時に邪悪なる畑は囁く。


「畑の様子を見に行こう」


と。


 仮にあなたがその囁きに従ったとする。


 すると、あなたは立ち上がり「雨が凄いな」とつぶやく。様子を見に行く旨を伝えると家族は反対し心配するだろう。あなたは、それを押し切って外へ出ようとする。


 すると邪悪なる畑はあなたに囁く。


「雨風が強い中、家族の反対を押し切って外へ出て行くあなたは偉いですね」


と。


 レインコートや長靴、懐中電灯を身に着け外へ出るあなた。一歩一歩邪悪なる畑に呼び寄せられてしまう。そして、その後は……


 実際、状況は多種多様だ。この通りであることは稀だろう。だが、私は見過ごしてばかりはいられない。私は邪悪なる畑と闘う存在、『古の畑』なのだ。


 私は、戦い続けるだろう。


(終わらせて)

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