一章 43 マキシムvsグゼル②
ピシッ・・
振り下ろした
ピキッ・・
再び聞こえたその音に焦りの表情を浮かべる
あとコンマ数秒でグゼルを叩き切れるのにやけに長く感じる
そう思った瞬間
「
「----っ!?」
爆発にも似た衝撃波がグゼルから発せられ、マキシムは踏ん張りきれずにあと1歩と言うところで数メートル吹き飛ばされる
衝撃波自体には殺傷能力はなかったようで、ただ圧縮された風のようなものがマキシムを押しただけのようだ
しかしマキシムはギリッと歯ぎしりすると、未だ衝撃波で砂塵が止まないグゼルがいた辺りを睨む
しばらくして砂塵が収まると[砂岩の檻]から脱したグゼルがそこに佇んでいた
辺りには[砂岩の檻]の残骸が散らばっている
「先程の連携攻撃は見事だったぞ」
「・・今まではまったく本気じゃなかったって事か」
苦々しい表情を浮かべながらマキシムは立ち上がる
「その言い方は語弊があるな。俺は戦いを楽しみたいのだ。決着が早く済んではつまらないであろう」
「その言葉が今まで本気じゃなかったって言ってるようなもんだろう」
「ふむ、そうか?この姿になるのも久しぶりなのだがな」
そう語るグゼルの体は先程までの体躯よりも1回り大きくなっていた
いや、筋肉がさらに盛り上がったとでも言えばいいのか、ボディビルダーも真っ青な体型をしており、尚且それが実戦で培われたものだと言うのは想像に難くない
「はっ!さらにパワーが増したってのか?」
さらに力が増したであろうグゼルを見ながら自虐的なセリフを吐く
「(あの脳筋とまったく同じタイプだな・・面倒な・・・)」
それが誰の顔だったのかは神のみぞ知るである
「どうしたこないのか?来ないならこちらから行かせてもらうぞ」
言い終わるが否や、ドンッと言う爆発音にも似た音と共にグゼルがこちらに掛けてくる
先程の音は踏み込み時の地面を蹴った音で、グゼルがいた場所を見れば地面がかなり抉れている
「--!?」
間合いを詰められたマキシムは瞬時に
グゼルの地面を抉る踏み込みから放たれる右ストレートは、ただそれだけで衝撃波を纏うが如くマキシムの動きを阻害する
「ちっ」
舌打ちしながら力でもって強引に右ストレートに剣を合わせに行く
金属同士がぶつかり擦れ合う嫌な音と衝突時の衝撃波で吹き飛ばされるマキシム
「(防御する度に吹き飛ばされたんじゃ体力が持たねぇな・・)」
口に入った砂を吐き出しながら立ち上がり再び剣を構える
「ふむ、久しぶりにしてはまぁまぁか・・」
自身が放った右拳を見つめながら呟くグゼル
「おい、今のが全力じゃねぇんだろ?全力で来いよ」
マキシムのセリフに自身の体をチェックしていたグゼルは視線を移す
「ほぅ、我が全力を防げる自信があると?」
「さぁな」
若干不機嫌そうな表情で問うグゼルにマキシムは曖昧な返事で返す
「つくづく面白い男だな貴様は。よかろう我が全力、防げるものなら防いでみよ」
腰を落として伸ばした左手の掌をマキシムに向け、右腕は腰だめに構える所謂、正拳突きのような構えをしたグゼルは小さく呼吸を整えると、吸った状態で呼吸を止める
「行くぞ」
発した言葉は踏み出した地面を抉る音でかき消された
足が地面を駆ける度抉れ、土煙が巻き上がるその様はさながらブルドーザーのように凄まじい
その迫り来るグゼルをマキシムも左半身を前に右半身を後ろに半身の態勢になり、右手に持ったサブルムを両手で持ち、右肩に担ぎ腰を落とす
そして三度拳と剣がぶつかり合った
辺りを衝撃波の粉塵が荒れ狂う
今度はマキシムも簡単には吹き飛ばされはしなかった
しかし拮抗は一瞬だった
バキィン
「なっ----!?」
声を上げたのはマキシム
そして驚愕の光景に動きが止まる
それは素人目から見ても致命的な隙だった
「がはっ・・・」
次いで繰り出されたグゼルの左アッパーをまともに腹にくらい、弧を描くように後ろに吹っ飛ばされるマキシム
十数メートル飛ばされようやく地面に落ちる
受身もまともに取れずに落ちたマキシムはピクリとも動かない
数秒遅れて魔剣サブルムと、
その折れた剣先は砂が剥がれるようにサラサラと形を崩していった
「剣が折れて動揺したか、・・・つまらん最後だったな」
グゼルはしばらく倒れたマキシムを眺めていたが、ふと踵を返し歩きだそうとした
「ま・・・待て・・」
小さくか細い声にグゼルは一瞬驚き振り返った
見ればゆっくり起き上がろうとするマキシムの姿があった
「ほぅ、まだ生きてたか。存外頑丈なのだな」
グゼルの言葉にマキシムは近くに突き刺さっていたサブルムの柄を掴むと支えにしながら立ち上がる
その時に着ていた服の一部が剥がれ落ちる
グゼルの右アッパーを食らった辺りだが、それはよく見ると服ではなかった
「--砂!?砂を体に纏わせて威力を軽減させたのか?」
グゼルの呟きにマキシムは答えない、否答える余裕はなかった
しかし答えは是である
ただし全身を纏うには時間がなさすぎるし、よしんば時間があったとしても現状マキシムにそこまでの長時間の維持は無理なので、体前面一部分だけだったのだが、今回はそれに救われた形になったのである
「(ぐっ・・アバラが持っていかれたか・・砂を纏ってなければ完全にやられてた)」
ふらつきながら立ち上がったマキシムにグゼルは驚愕も一瞬
「まさかそんな防御策があるとはな。しかしその体ではもはやまともに動けまい。少なくともアバラは砕いた」
「ま・・まだだ・・・」
弱々しく呟いたマキシムは、懐の魔法袋からポーションを取り出し飲み干した
「ほぅ赤のポーション。どこで手に入れたかは知らんが上等な物を持っているな」
アバラを砕かれたせいで呼吸がうまくできずに酸欠状態で青白かった顔からは次第に赤味を帯び、呼吸も落ち着いてくる
が、流れ落ちる汗は止まらない
「ふむ、折れたアバラは治ったか。良いポーションだ。しかし頼みの剣がそれではもはや勝機はあるまい?」
マキシムは地面に突き刺さったままの剣を引き抜く
刀身は通常の2/3程の長さにまで短くなっているが、それでもショートソード程の長さはかろうじで保たれている
「まだ抗うか、その闘志は賞賛に値する」
グゼルは地面を抉る爆発音を響かせマキシムへ駆け出す
「だが」
頭からマキシムの間合いに突っ込むように入ると立ち止まり、パワーアップした豪腕を振るう
マキシムは剣で直接防ぐ事はせずに、迫り来る豪腕に剣を当て軌道をそらしたり、体捌きでかわしていくが、しかしそれにも限界がある
豪腕が振るわれる度に発生する風圧が動きを鈍らせる
回転しながら放たれたグゼルの回し蹴りを、威力を逃がすために後ろに跳躍しながら剣の刃で受ける
鈍い音がしたが、空中で受けたためにそれ程でもない
ただ多少間合いを開けるつもりだった後方への跳躍が倍以上に増えただけだ
無論剣は無事である
「脳筋め・・」
遥か後方に飛ばされ着したマキシムは誰にも憚りなく毒づく
「ほぅ、まだそれだけ動けるのか。これはまだ楽しめそうだな」
追撃はせずに静止した回し蹴りの体勢から戻りながら感心したように呟くグゼル
「しかしそのままでは俺には勝てんぞ!」
再び地面を抉りながら突進するグゼル
「(そんなことはわかってんだよ・・)」
~~~~~~~~~
「マキシム、騎士団長になった褒美としてこれをやろう。受け取るが良い」
「はっ、ありがとうございます」
フリッグ伯爵から受け取ったのは両手剣かと思うほどの刀身の長さと幅を持つ片手剣だった
「これは--!?」
「うむ、気づいたか。魔剣と言われるものだそうだ。団長格になったからにはそれくらい持たないと格好がつかんだろう」
はっはっは!と笑いながら言うフリッグ伯爵にマキシムは手に持った巨大な片手剣を見る
それは初めて持つにしては手に馴染む感触だった
・・フリッグ領地下訓練場・・
ブンッ、ブンッ、ブンッ・・・
地下訓練場にマキシムの魔剣を振るう風切り音が響き渡る
周りにはすでに誰もいなく、マキシム1人だった
すると訓練場の入口がゆっくり開く
「隊長、まだやってるんですか?もう晩飯の時間ですぜ」
地下訓練場に入ってきたグリッドは呆れた様子で声を掛ける
「もうそんな時間か。悪いが先に食っていて構わんぞ」
「まだ続けるつもりですかい?」
マキシムの言葉にグリッドは心底呆れた声をあげる
「もう少しで何かが掴めそうなのだ」
言いながらマキシムは再び
それを見たグリッドは小さくため息をつく
「わかりました。先に食ってます。早く戻ってこないと部下達が全部食っちまいますよ」
すでに集中してるのか、自分の世界に入ったマキシムにグリッドの言葉は届いてないようだった
「ほんとうちの隊長は鍛錬バカだわ・・」
地下訓練場を出ながらグリッドは呟くが、幸い誰にも聞かれることはなかった
そしてその日のマキシムの晩御飯は部下達に食い尽くされてしまい、腹が減ったマキシムはこっそり酒場に向かうのはまた別の話である(多分)
・・フリッグ領外れの森・・
「ボルグ!大丈夫か」
森の中にマキシムの大声が響き渡る
現在は領民からの被害報告があった魔物討伐の最中である
相手はオーク
ただのオークならば隊長のマキシムが出動する必要はなく、部下だけでも十分討伐可能な相手である
通常のオークの討伐ランクはC、2体以上グループでいる場合はランクは上がるが、単体なら初心から脱した中級に差し掛かる冒険者なら討伐可能な相手である
最初はマキシムもフリッグ伯爵からの依頼ではあったが、ボルグすら出す必要はないと思っていた程だった
しかし蓋を開けてみればオークの変異種、ハイオークよりも強い相手だった
見たことない変種
恐らく魔族の瘴気に長時間充てられたと思われる風貌は、体長はハイオークより1回りはでかい
2メートル以上はあり、肌は紫で頭からは角が生えている
そんな報告が入ったのは部下が数人負傷した後だった
ならばとボルグを遣わしたが、そのボルグからの報告でマキシム自身が出張る事になる
そのボルグが必死に部下を守りながら耐えていた
「はい、なんとか・・・」
満身創痍に近い状態なのだろう
マキシムが到着した途端に倒れるように膝を付いた
「おい、医療班!」
マキシムの言葉が終わらぬまに一緒に来ていた医療部隊がボルグを担ぎあげる
「隊長・・」
「大丈夫だ。ここは俺に任せて休め」
マキシムの力強い言葉にボルグは大人しく医療班に担がれて下がった
「さて、うちの部下共をやってくれた落とし前はつけさせて貰わないとな。新しい剣も試したい事だしな」
~~~~~~~~
「負けられねぇ」
部下の為領主の為そして、今はそれを救ってくれた恩人の為にマキシムは奮い立つ
「
突如砂嵐がグゼルを中心に辺りを支配する
さらに砂嵐の中に巨大な岩が飛び交い荒れ狂う
「(よし!まだ大丈夫だ)」
折れた魔剣でも魔術が発動した事に一安心する
「目くらましのつもりか、我には効かんぞ」
[砂岩嵐]のゴーゴーと吹き荒れる嵐の中からグゼルの声が聞こえる
中では視界が悪くて見えないが岩がぶつかり砕ける音もしているがグゼルには大して効いてはいないだろう
徐々にだが気配がゆっくりこちらに近づいてきてるのを感じる
「んなことはわかってんだよ」
そんなグゼルの言葉にマキシムは小さく舌打ちしながら呟くと、魔法袋から再びポーションを取り出し一気に煽り
「頼むぜ。
力強く言葉を発した
「--むっ・・」
突然強大な気配が現れたのと同時に地面が揺れるのを感じ取りグゼルは立ち止まる
直後大地を揺るがす振動が辺りに響き渡り、次いで爆風が吹き荒れた
振動が収まると[砂岩嵐]も綺麗さっぱり収まっているが辺りの様子は惨憺たるものだった
「--!?まさか・・」
グゼルが驚愕の表情で呟いた先には身の丈3メートル前後の大男、巨人が立っていた
服は白を基調としたゆったりした服を身にまとっている
が、肩から先は筋肉がむき出しだ
髪は緩くウェーブがかかった黒髪で肩より少し長めで無造作に伸ばされている感じがする
額にはサークレットのような輪っかが付けられており、眉は太く目はつり目で強面だ
子供が見たら逃げ出しそうな風貌である
「待ちくたびれたぞマキシム。よもや5年以上も待たせるとは」
発した言葉は怒りなのか呆れなのかわからない
「仕方が無いだろう。他に比べて扱いが難しいんだ」
「まぁいい。まだ言いたいことは沢山あるが・・」
言いながら巨人はグゼルに視線を移し向き直る
「この戦いが終わってからにしようではないか」
ニヤリと口角を釣り上げる巨人
その時マキシムは瞬時に悟った
こいつも脳筋の
「ふふふ、ふははははは!まさか大地の精霊タイタンを召喚するとは。面白い!」
グゼルはまるで好敵手に出会ったかのように嬉々とした表情を浮かべている
こちらも
「パワー型の魔族か。今のマキシムには荷が重いだろう。ここは我に任せるが良い」
巨人は改めてグゼルに向き直り戦闘体勢を取る
「すまん、ダン」
体は回復したが精神力は限界に近かったのか、マキシムは力なくペタンと地面に座り込む
それを視線でチラリと見たダンと呼ばれた巨人は久しぶりに名を呼ばれたのが嬉しかったのか表情に笑みを作る
「承知!」
そうして
体格的にはグゼルよりダンの方が1回りは大きいが、それを感じさせない戦いをグゼルはしている
だが、押しているのはダンの方だった
グゼルの両腕から繰り出される拳は暴風を伴い、相手の動きを阻害する
対してダンは踏み込む度に--足が大地を踏みしめる度に大地が揺れ、相手のバランスを崩す
それはダンを中心に10メートルない範囲での振動だが、接近戦を得意とするグゼルには相性が悪すぎた
なんせお互い同じモーションで攻撃を繰り出そうとしても、拳を振るうより足を踏ん張る方が当たり前だが先になる
なのでグゼルの攻撃はどうしても踏ん張りが利かずにバランス感覚を失い力が半減してしまう
それで攻撃ができなくなるグゼルではないのだが、威力を阻害する物がもう1つ
「
ダンが魔術を唱えるとグゼルの地面が生き物のように隆起する
時間にして1秒にも満たない時間だが、グゼルの動きを阻害するのには十分だった
「むぅ・・」
攻撃の手が止まらなかったのはさすがだが、バランスを崩されたグゼルの拳はダンの顔の横を通り過ぎる
同時にダンからのカウンター気味の裏拳がグゼルのこめかみにヒットし吹っ飛ぶグゼル
しかしダメージなんかないとばかりに即時起き上がり、地面を抉りながらダンに駆け出す
「打たれ強い・・これではキリがない」
再三攻撃を当てても即座に立ち上がるグゼルにダンは半ば呆れ気味に言う
「我としても長引かせるのは本意ではない」
他の様子をチラリと確認しながらダンは意を決したように表情を引き締める
「マキシム、剣を寄越せ」
視線は向けずに手だけをマキシムへ向ける
「構わないがこれは・・・」
「我に掛かればまだ再生可能な範囲だ」
「--本当か?」
ならば迷う必要はないとマキシムはダンに魔剣サブルムを渡す
「損耗が酷いな。ここまでしてくれた礼は高くつくぞ魔族」
若干怒りを滲ませながら受け取った剣を逆手に持つと腕を振り上げる
「
そして手にした剣を地面に突き刺し魔術を唱えた
突如先程とはケタ違いの振動がダンを中心に起こる
それは常人では立ってられない程の振動だった
さすがのグゼルも走るのは難しいのか立ち止まった
直後に一際揺れが大きくなり、グゼルの足元の地面が大きく割れる
それはさながら地獄の入口のように中は闇が広がり伺いしれない
グゼルはその地割れの穴に落ちかけるが、既で片手が縁を掴む事に成功する
しかし凄まじい揺れのせいで支えるのが精一杯の様子だった
「
まるでグゼルがそうするのがわかっていた、とばかりにダンは追加の魔術を発動させる
するとグゼルが掴んでいた縁がヒビ割れたかと思うと崩れる
その部分だけ
「--!?」
グゼルは中に投げ出される
慌てて手近な壁を掴むも端からボロボロと崩れ落下は止まらなかった
そしてグゼルの姿が視認では難しくなった頃、ダンは地面に刺さった
「これで終わりだ。大地が棺とはやりすぎたかもしれんがな」
ダンの言葉に呆気に取られていたマキシムは我に返った
「お、終わったのか?」
「うむ、少々時間が掛かったがな」
マキシムは圧倒的過ぎてグウの音も出なかった
「さて、我ができるのはここまでだ」
「あ、ああ。助かったダン」
「礼には及ばん。しかしその様では動きづらかろう。我に残った魔力をこの剣に託し、お主に返そう」
ダンはそう言うとサブルムを握りしめ、魔力を込め始めた
淡い光が剣を包む
すると欠けていた剣先が徐々に再生するように延び、以前の長さに戻った
「うむ、これでよかろう」
魔力を込め終わったダンはそのままマキシムに剣を返す
「ではな」
手短な挨拶を済ませた
「せっかち過ぎるだろ。脳筋は全員こうなのか・・・」
マキシムはダンが居た辺りをしばらく見つめていたが、ふいに強大な気配を察知し振り返る
「--あれは!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます