一章 42 ウェルキンvsレヴァナ②
渾身の斬撃を見舞ったウェルキンだが、やはり立っているのがやっとのようで上下に分断したレヴァナが死んで動かないのを確認するとドサリと地面に仰向けに倒れ込んだ
「はぁはぁ・・くそっ。力が入らん」
震える左手で魔法袋からポーションを取り出と蓋を開けて一気に飲み干した
しかし傷は塞がったものの流れた血は取り戻せない
噂ではそういったポーションもあるのだとか
しばらく仰向けでいたウェルキンだが、ふと周りに漂う霧が濃くなってるのに訝しむ
「あら、そんな所で寝転んで大丈夫?介抱してさしあげましょうか?」
唐突に聞こえた声にウェルキンは驚き、力が入らない体にムチを入れ必死に飛び起きる
「な、まさか・・」
思わずレヴァナが倒れている場所へ視線を移すとそこには何もなかった
そう、倒れていたレヴァナの死体さえも
「あら、そんな急に起き上がって大丈夫なのかしら?もう少し寝ていた方がいいんじゃなくて?」
ウェルキンが声に振り返るとそこには五体満足、怪我一つしてないレヴァナがこちらに歩み寄ってきていた
「うふふ、そんなに驚いた顔してどうしたのかしら。まるで自分が殺した相手が実は死んでなくて驚いているような顔じゃない」
「な、何故だ・・」
ウェルキンはなおも驚愕の表情で歩み寄るレヴァナを見つめている
「わからないって顔してるわね?いいわ教えてあげる。私の力は氷。貴方の魔剣は火。氷と火がぶつかりあってできた水蒸気が辺りに霧となって漂ってるのよ。ただの霧じゃないわ。私の魔力を含んだ霧よ。
レヴァナはウェルキンの側まで歩み寄り、尚も口を開く
「
「ふざけるな!!」
レヴァナの言葉にウェルキンは刀身を赤くさせ、踏み込んだ
いきなりの攻撃にレヴァナは慌てた様子で間合いから逃れようとする
それを見逃すウェルキンではなくさらに深く踏み込み袈裟斬りに
「ちっ」
しかしウェルキンは小さく舌打ちする
「うふふ、そう焦らないで。せっかちな男は嫌われるわよ」
今しがた斬られたレヴァナだったものは霧状になって消えていき、少し離れた場所に現れるレヴァナ
「それに言ったでしょ?私接近戦は苦手なの」
ウェルキンは苦々しい顔でレヴァナを睨む
どうやら先程の奇襲で警戒したのか、近づいては来ないようだ
「迂闊に近づくとまた斬られかねないわね。だから遠距離からいかせてもらうわ
レヴァナが魔術を唱えると周りに[闇氷の槍]が浮かび上がる
「いきなさい!」
レヴァナの言葉に周囲に浮かんでいた[闇氷の槍]はウェルキンに向かい一直線に襲いかかった
「--!?くっ・・守れ!
咄嗟に生み出したウェルキンの[業火の盾]はなんとか間に合い[闇氷の槍]が次々に当たり蒸発するように消えていく
そしてその度にウェルキンの周りに漂う霧は濃くなっていく
「まだそんな魔力が残っているのね。それともさっき飲んだポーションのおかげかしら?だとするとかなり高価なポーションね。今は作り手があまりいないはずだけど」
言いながら再び[闇氷の槍]を生み出す
「うふふ、いつまで耐えられるかしら?あまり時間がかかりすぎると貴方の主が倒されちゃうわよ?」
レヴァナの言葉に慌ててクリスティアの方へ振り向いたウェルキンは致命的な隙を生んだ
「--ぐぁっ!!」
気づいた時には魔術を使おうにも、回避行動に移るにも遅すぎて身をひねるも[闇氷の槍]を数本食らって吹っ飛ぶ
「うふふ。油断大敵、ね」
先程ウェルキンへの意趣返しのつもりなのか同じ言葉を返すレヴァナ
一方致命傷はかろうじで免れたが再びかなりの傷に血を流し顔色が悪くなっているウェルキンは怒りの形相で立ち上がろうとしている
すでに霧が深くなってきていて、ウェルキンのいる場所からではレヴァナの位置はかろうじで影が見える程度になっていた
「あら、まだ立てるのね」
ウェルキンは怒っていた
それは相手の言葉に踊らされた事もあろうが、何よりクリスティアへ視線を移した時に見た光景だった
「(何が直属の護衛だ。俺は何も守れていない)」
さっき見た光景、それはデュラインやロイザードがローブの男に圧倒されている場面だった
「(何度クリスティア様を危険に晒せば気が済むんだ俺は、デュラインもロイザードも必死なのに簡単に諦めてたまるか)」
ゆっくり立ち上がったウェルキンは魔法袋から最後のポーションを取り出す
「頑張るわね。いいわ、待っててあげる」
もはや、この濃霧の状態と遠距離からの攻撃で負けはないと踏んでいるのか余裕の表情のレヴァナ
その態度に怒りは増すものの内心安堵するウェルキン
一気に最後のポーションを飲み干した
「--!?これは・・・」
違和感があったのか飲んだポーションの瓶を一瞬見るウェルキン
「準備は終わったのかしら?」
そんな些細な変化も遠く、余裕の態度をとっているレヴァナは気づかない
「あの野郎・・」
小さく毒づき、口元を歪めるウェルキン
心なしか顔色が良くなっている
「ああ、これが最後の攻撃だ。貴様を倒してクリスティア様の援護に行かせてもらう」
「あら、それは楽しみね。でもそううまく行けばいいけれど」
クスクスと余裕の態度のレヴァナに気にせずに、ウェルキンは魔剣に意識を集中する
「
魔術を発したウェルキンを中心に巨大な炎が渦巻き、瞬間爆風が吹き荒れ天に届かんとばかりに火柱が上がる
「--なっ!?くっ・・」
レヴァナは爆風で咄嗟に目を瞑る
爆風は数秒荒れ狂った後唐突にピタリと止み、ゆっくり目を開けたレヴァナの視界は様変わりしていた
辺りに漂っていた霧は先程の火柱と爆風で全て消え去っていた
しかしレヴァナはそれよりも驚愕のものを目にし、震える声で呟いた
「ば、バカな・・・・・火精霊の--い、イフリート・・?」
ウェルキンの前に圧倒的存在感で仁王立ちする存在、イフリートにレヴァナは金縛りにあったように動けずにいた
~~~~~~~~~
「それは本当かコタロー!?」
地下練兵場にウェルキンの馬鹿でかい声が響き渡る
先程まで地面に仰向けでぜぇぜぇ言っていたのが嘘のように立ち上がり、狐太郎へ駆け寄っている
『うん、魔剣で精霊を呼び出す事ができるんだ。正しくは魔剣が媒体、精霊を呼び出す鍵になっているっていった方が正しいかな』
「なに?それは俺の魔剣でも可能なのか?」
狐太郎の言葉を聞いていたマキシムが話に割り込む
『うん、マキシムの場合は砂だから多分大地、土の精霊だと思う』
「しかし俺は呼び出し方も知らないぞ」
『呼び出すには特別な事は必要ないんだ。ただ体内の魔力を全部、いや120%必要になる。使うと2~3日は魔力切れの状態が続くから、あまり頻繁には使えないけど』
「なるほど、ここぞと言う時の一発勝負に使えと言うことか」
「で、どうすればいいんだ?」
『簡単だよ。魔剣に意識を集中するんだ。魔力の全てを魔剣に集める感じで。そして魔術を紡ぐ「
ウェルキンとマキシムは狐太郎の言葉の通りに、魔剣に魔力を集めるように集中する
「なるほど、コツは掴めた。しかしこいつは使いどころが難しいな」
魔剣を持って数年経っているマキシムは慣れたもので、すぐにコツをつかんだようだった
『マキシムはわかっちゃったか。そう、慣れないと集中に時間がかかりすぎるってのが問題なんだ。その間に敵が待っていてくれればいいけど』
「1対1じゃ使いづらいかもしれんな」
ふと、未だ魔剣に集中しているウェルキンに目をやり2人はギョッとする
なぜならすでにウェルキンは発動直前まで魔力を溜めていたからだ
『あ、ウェルキン待っ--』
「バカやめろ!」
2人の制止の言葉も集中して耳に入っていなかったウェルキンは言葉を紡いだ
「
直後に爆風と火柱が舞い上がり、もちろん地下練兵場は半壊した
そして当のウェルキンは寝込む事になった
~~~~~~~~
レヴァナの視線の先にはウェルキンが召喚したイフリートが佇む
身の丈3mはあろうかと言う巨体に筋肉がガッシリ着いた体に纏う炎が辺りの空気を食らいつくさんばかりに燃え上がっている
髪は短く逆立ち、色は燃えるような赤である
その火の精霊イフリートがキョロキョロ周りを見渡し、ウェルキンを見つけると「ほぅ」と呟き目を細める
「ふむ、今度は気絶せずにわしを呼び出せたみたいだなウェルキンよ」
「ああ、かなりギリギリだけどな」
「良かろう、これからわしはウェルキンを主として忠誠を誓おう」
「ナール、よろしく頼む」
ウェルキンは倒れずにいる理由、それは狐太郎から貰い先程飲んだポーションにある
先程のポーションは飲んだ瞬間体内の魔力量が増えると言う効果もあり、120%の魔力を消費する[精霊召喚]も魔力切れを起こさずに起きていられるのだ
2人の会話の間、レヴァナは何もしなかったわけではない
「
今までウェルキンに放っていた[闇氷の槍]の倍以上の量の槍がウェルキン達を取り巻くように出現した
「なっ--!?」
その[闇氷の槍]の数にウェルキンは驚き、ナールと呼ばれた
「ほぅ、魔族か。手合わせするのは久しぶりだな」
「気付いてたくせに、ずいぶんと余裕な態度じゃないのよ、精霊の分際で」
ナールの言葉にレヴァナは怒りの声を滲ませる
「ふん、逆に問おう。何故にそんなに焦っている?」
「--!?焦ってなんか・・いきなさい!」
冷静なナールの問にはっきりと怒りを浮かべたレヴァナは[闇氷の槍]をナールめがけて解き放つ
「うおっ!?」
「焦るなウェルキンよ。これしき、造作もないわ」
ナールはそう言うと両手を左右に伸ばす
「
ナールを中心に凄まじい火力の炎が渦巻き、襲い来る[闇氷の槍]をことごとく喰らい尽くす
水蒸気すら発する前に炎に飲まれ、霧は発生しない
ウェルキンは唖然とした表情でその光景を見つめている
汗1つかいていないのは、火耐性があるからかはたまたナールを召喚した恩恵なのか
そしてもう1人ウェルキンと似たような表情をしていた
「くっ・・」
どう見ても余裕で防がれたとしか見えない光景にレヴァナはうめき声をあげる
「
再びレヴァナが魔術を唱えると今度は波のように氷が地面を這いウェルキン達へ襲いかかる
「うふふ、タダの氷じゃないわよ。凍らせた相手の魔力も同時に奪うの」
得意げに笑うレヴァナの言葉に、ウェルキンは舌打ちする
「ナール!!」
「だから主よ、慌てるでない」
逆にまったく慌てた様子もないナールは今度は迫り来る[闇氷の波]の方向へ片手をかざす
「
ナールが言葉を発すると地面が一瞬赤くなり、次第にその赤が広がっていく
そしてその広がりが止まり、地面の赤が濃くなり盛り上がる
瞬間、周囲を爆発と轟音が辺りを蹂躙した
「----!?」
ウェルキンは咄嗟に腕で顔をカバーする
しばらく爆発と轟音は続き、収まり視界が開けると目を開けたウェルキンは小さくうめき声をあげる
「す、凄まじいな・・」
辺りの地面は抉れ、時には赤いマグマ溜りも出来ている場所もある
周りを見ると周囲にいた悪魔達、レッサーデーモンやグレーターデーモンはいなくなっていた
「邪魔だったのでな」
まるで道端の小石を蹴飛ばしてどかすかのような物言いに、そしてその威力に若干引きながらもウェルキンは油断せずにレヴァナの気配を探る
「ふむ、まぁこんなもんだろう」
ナールは何事も動じないような声で呟く
ある一点を見つめながら
「--!?あれを食らってまだ生きてやがるのか・・」
ウェルキンの視界に捉えた動く人影、それはレヴァナだ
満身創痍の様子で、髪は乱れ服はボロボロ
肩で息をする姿は先程までの余裕の表情は一切なく、乱れた髪の間から覗く真紅の目だけが憎悪によってギラギラと光っていた
しかし見た目以上にダメージはないのかもしれない
何故なら
「まさか、その精霊がここまでやるとは思わなかったわ・・硬化してなければ危なかった」
レヴァナは全身を硬化させ、ナールの[大噴火]を凌ぎ切ったようだった
「精霊風情と侮ったな。その自意識過剰さは魔族ゆえか、せめて苦しませずに葬ってやろう。むっ?」
呟いたナールの横を立ち上がっあウェルキンが魔剣ファラムを携えゆっくり通り過ぎる
「ウェルキン!」
レヴァナへ向かうウェルキンをナールは驚引き止める
「助けてもらって感謝するが、こいつは俺の手で始末を付けたい」
「ふっ、好きにするがいい。主の覚悟、わしが見届けてやろう」
ウェルキンの言葉に小さく笑みを浮かべたナールはその場でウェルキンとレヴァナの行く末を見守るように佇む
「ふふふ、貴方1人で私を倒すつもり?」
「ああ、これで終わりにする」
言うが否や、ウェルキンはレヴァナに向かって走り出す
そして魔剣ファラムを大上段に構えると一気に振り下ろした
「
「
レヴァナの[闇硬化]した腕とウェルキンの[火炎斬]がぶつかり合う
眩い光と轟音が轟き2人が一瞬拮抗するようにぶつかり合う
そして着地したウェルキンと目が合ったレヴァナはしばらくウェルキンを見つめていたがふいに口を笑みの形にすると
「人間のくせにやるじゃない」
「貴様に褒められても嬉しくはない」
「ふふ、最後までつれないのね・・」
その言葉を最後にレヴァナはゆっくり崩れ落ちる
そしてサラサラと溶けるように虚空に消えていった
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