一章 33 手配書
翌朝
「それは本当ですか?」
食堂にクリスティアの声が響き渡る
「え、ええ先程王都中にお触れが出回りまして」
「見せてもらっても構いませんか?」
「ええと・・・あまり見ない方がよろしいかと・・」
「なぜですか?」
「いや、その・・・」
返答に困ったアーノルド男爵はなおも真っ直ぐな瞳で見つめるクリスティアに根負けしてしまい、手紙を渡す
受け取った手紙を読み進めるうちにクリスティアの顔色が徐々に変わる
かいつまんで訳せばこうだ
【本日中天に第一王子シャルロスと第二王女ルティーナの処刑を行う
罪状はフリッグ伯爵を毒殺した罪である】
そして文には続きがあった
【計画の主犯者第三王女クリスティア、現在王都に潜伏中にて生きて捕らえたものには純金貨100枚の褒美を出す】
「なんだこれは!!馬鹿げている」
ウェルキンは叫びながらテーブルを叩く
たしかに馬鹿げている
しかしそれがまかり通ってしまうのが権力を持った貴族、王族なのである
そしてその横暴に諫めもせず、保身や金や権力にしがみつく貴族が多いのもたしかである
そういうのはだいたい領民がとばっちりで不幸を背負い込む
まさに[馬鹿な大将、敵より怖い]である
「ウェルキン落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!!デュライン、お前は悔しくないのか」
「悔しくないわけがないでしょう」
デュラインの落ち着いた物言いに凄味を感じたウェルキンは大人しくなり、椅子に座り直す
デュラインの背後に擬音がつくなら[ゴゴゴゴゴ]と付いていたであろうくらい凄みがあった
「どうされますか?おそらくクリスティア様が出向けば処刑は中断されるとは思いますが・・」
暗い表情でアーノルド男爵は話す
「間違いなく罠でしょうね」
「街の様子はどうなのですか?」
「先程見に行った感じではザワついている感じはありましたね。もっともシャルロス様とルティーナ様の処刑で、ですが」
「国民達は大人しいですよ。クリスティア様がそんな事するわけないと、みな言っています。むしろクリスティア様の方は馴染みのない流れの冒険者達が一攫千金目当てで騒いでますね」
「そうですか・・シャルロス兄様やルティーナ姉様に会えれば・・・」
「お触れが出てからは王宮も警備が強固になってますし、流石に忍び込むのは難しいでしょう」
グリッドの返答にクリスティアは俯いてしまう
自分のせいで兄や姉が処刑されてしまう
いや、クリスティアが戻らなくてもアゼルが権力を握るにはシャルロス達は邪魔な存在で、遅かれ早かれ何かしらの理由をつけて処刑されてた可能性はあるのだが、クリスティアは責任を感じてしまう
しばらく俯いていたクリスティアたがふいに顔を上げる
「王宮へ行きます」
「--!?それは、危険ですぞ」
クリスティアの言葉にアーノルド男爵は諫めの言葉を投げかけようとすると
「了解しました」
「お供しますぞ」
「クリスティア様の身は絶対守ります!」
当然の事のようにデュライン達護衛は即答だった
アーノルド男爵は唖然とする
てっきり同じように主君の行動を諌めてくれるものと思っていたからだ
主君が間違った道を進もうとするなら諌める事も必要なのである
アーノルド男爵は助けを求めるように狐太郎を見るが
『止めても止まらないと思いますよ。むしろ王様や兄達を助ける為に来たのですから』
狐太郎は匙を投げた
アーノルド男爵は思わずため息をつきながら天を仰ぐ
「わかりました。もう止めはしますまい」
アーノルド男爵が折れる形で王宮に行く事が決定する
「ただ、絶対生きてください」
「お約束できるかわかりませんが、そのつもりです」
「我々が絶対死なせはしません」
クリスティアの言葉にウェルキンが力強く続けるとデュラインやロイザードも頷く
「そういえばクリスティア様、その処刑が行われる場所はどこなのですか?」
デュラインがふと疑問に思い尋ねる
王都には処刑場と言うのは今はない
かなり昔はあったらしいのだが、近年になりなくなったとの事だ
「そういえば載っていませんね、アーノルド男爵はご存知ですか?」
クリスティアも知らないようでアーノルド男爵に尋ねる
「おそらく、兵士達の練兵場でしょうね」
王都には大規模な兵士の訓練の為に王都の一部に面した土地を兵士の訓練場として所有している
数千あるいは数万規模に匹敵する合同訓練も可能なほどの広さを誇り、野外訓練や野営の訓練もできると有名である
外側は高い外壁で覆われており中は伺いしれないようになっている
しかし四方には巨大な門扉が構えていて、そこから軍を即時動かすことも可能なのだ
「あそこですか。無難な場所ですが罠の可能性は格段にあがりましたね」
「そこで我々を仕留めるつもりか」
ウェルキンの怒りの言葉を吐く
「逆にチャンスでもあるかもしれませんね」
「デュライン、どういう事ですかな?」
視線なデュラインに集まる
「簡単な話ですよ。もしそこで我々を一網打尽にするつもりなら戦力の出し惜しみはしないはずです。万が一仕留め損なって逃げられたりでもしたら大事ですから」
「なるほど。総力戦ってわけか」
「おそらく今までよりも厳しい戦いになると思います」
「望む所だ!!」
ウェルキンの力強い返事に狐太郎らも頷く
「それでだ、メアリー」
ふいにウェルキンはメアリーに視線を移す
「メアリーは連れていけない。この屋敷で待機していてくれ」
「・・わかりました」
「ごめんなさいメアリー」
「いえ、私は侍女ですから。普通に足でまといになってしまいますので。みなさん無理しないでくださいね」
「それは相手の出方次第だが・・」
「帰ってくるのがあまりに遅いとみんなの分の食事はわたしが食べちゃいますから」
「それは困りますね」
メアリーの言葉にクリスティア達は笑い合う
緊張で張り詰めた場面をメアリーが和ませる
メアリーなりの気遣いなのだろう
「それではいつ出発しますか?」
「準備ができ次第にでも」
「わかりました。しかし街中は一攫千金の褒美当ての冒険者がうろついているでしょう。なので馬車を用意しましょう」
貴族の家紋が入る馬車は基本的に一介の冒険者は手を出せない
不敬罪になるからだ
中にはそんなものは関係ないと手を出してくる荒くれ者もいるが、大概ギルドから罰を受ける
「しかし冒険者が大人しくしてるかは難しい所ですね」
「王族からの依頼で純金貨100枚だからな。多少無礼を働いた所で王族からの依頼だと押し切られる可能性もある」
『普通に考えたら大金だと思うけど、もしクリスティア様を本当に捉えたとして国は払うのかな?』
「払う資金はあるだろう。実際払うかはわからんがな。昨今は国王様の良政で国庫は潤っている」
「だが、相手も我々が簡単に捕まるわけがないと思っているはずだ。少なくとも策は必要だ」
「やはりおびき寄せる罠の可能性が高いか」
デュライン達の言葉にアーノルド男爵もわかっているのか大きく頷く
「一応カモフラージュとして馬車を3台用意致しましょう。バラけて乗るのも考えたのですが、一緒に行動した方がいいと思います」
「わたしもそう思います」
馬車は同じ馬車を用意し御者も、全員ローブにフードを被せてわからなくする
少しの時間差で3台を出し別方向から王宮へ向かわせるようにするというものだ
「それで行きましょう」
「ではしばらくお待ちください。馬車の準備ができ次第呼びに参ります」
言うとアーノルド男爵は部屋から出ていく
それを視線で見送ったクリスティアはゆっくり一同を見回すと改めて向き直る
「ウェルキン、貴方達のお陰で私はがんばれました。王都を出る時から支えてくれて感謝しています。いつも無理難題やわがままに付き合ってくれてありがとうございます」
「我々はクリスティア様の直属なのですから当然です。どこまでもお供します」
クリスティアの言葉にウェルキンは言葉を返しながら目頭が熱くなり、その言葉にデュラインとロイザードも頷く
「メアリー、メアリーがいなかったら私はここまで来れなかったと思います。傍で支えてくれて感謝しています」
「私もクリスティア様の専属侍女ですから当然です。あ、でもまだ見習いですけど」
「無事に終わったら見習いから卒業させないといけませんね」
クリスティアの言葉に「やったー」と喜びを現すメアリー
「そしてフリッグ伯爵にも・・今はこの場にいませんが、フリッグ様の力添えがなければ王都にすら入れなかったかもしれません。改めて御礼を」
クリスティアはグリッドに向けて感謝の言葉を述べる
「とんでもないです。主の命を救ってくれた恩は一生忘れません。フリッグ様も仰ってましたが一生かけて恩を返すと言ってました。私も同じ気持ちです」
グリッドの言葉にクリスティアは「ありがとうございます」と礼を言う
「そして、精霊の森から今までずっと助けて頂いたコタロー様、コタロー様がいなければ私達はあそこで間違いなく命果てていたと思います」
『クリスティア様達を最初に見つけたのはシェリーです。お礼はシェリーに言ってあげてください。あいつきっと喜ぶから』
狐太郎の言葉にクリスティアはわかりましたと笑顔で答える
「そして私も諦めかけていたお父様とフリッグ伯爵の病気も・・」
『そのお礼はまだだよ。国王様が完治したらって事で』
「はい、後ほど必ず」
笑顔のクリスティアにウェルキンは悔しそうに狐太郎を見つめるがさすがに口は挟まない
しばらくして準備ができたとアーノルド男爵自らが呼びにきてクリスティア達は馬車のある場所へ向かう
馬車のある場所も男爵家の敷地内なので、見られる心配もない
「やはり敷地の外には冒険者達が待ち伏せしていますね。道を塞いだり妨害はないと思いますが一応気をつけてください」
「アーノルド男爵ありがとうございます」
「お気を付けて」
見送りに出てきたアーノルド男爵に礼を言う
「では行くか。デュライン準備はいいか?」
「問題ないです」
見合わせて頷くとウェルキン達は馬車の一つに乗り込んだ
・・・・・
アーノルド男爵家の門がゆっくり開く
「出てくるぞ」
門の前にいる冒険者が呟く
「道を塞げ」
通せまいと冒険者達が門に群がろうとするが、馬車が発進する方が早く、冒険者達の横を馬車がすり抜ける
「くそっ、追うぞ」
何人かの冒険者は馬車を追うように駆けていく
「まて!もう一台出てきたぞ」
他の冒険者も行動を開始しようとすると、男爵家からまた馬車が出てくる
そして同じように冒険者達に包囲される前に走り出す
「どっちが本物なんだ?」
「わからん、御者もフードで顔がわからん。だが追うしかない。行くぞ」
再び馬車を追うように冒険者が減っていく
「怪しいな」
残ってる冒険者の1人が呟く
「何がだ?」
「見ろ、門はまだ開いたままだ。それにさっきの二台は豪華すぎる。あれじゃ乗ってますって言ってるようなものじゃないか」
残った冒険者達がそんな話をしばらくしているとゆっくりともう一台馬車が出てきた
「さっきの二台に比べて貧相な馬車だ。おそらくこいつに・・」
言葉が終わらぬ間に馬車が発進し、冒険者達の横を通り過ぎていくが、その時御者が被っているフードが風で少し捲れた
「御者を見たか?あれは第三王女の近衛騎士、ウェルキンだ。あれに間違いない」
「行くぞ、お前ら!」
「「「おー!」」」
残った冒険者達は先程の馬車を追いかけていき、男爵家の周りには冒険者達は行かなくなった
しばらくすると人影が現れる
ローブを着てフードを目深に被っているので顔は伺いしれないが、門にたどり着くなり周りを見回す
「誰もいないな。大丈夫です」
その言葉に後ろから同じ格好をした3人が出てきた
「ウェルキン達がうまくやってくれたようですね」
フードを目深に被ったクリスティアは言う
「まさかあ奴があんな作戦を思いつくとは・・」
もう1人ローブを着た人物、ロイザードは答える
『お陰で冒険者達はこぞってあっちに行ったみたいだね』
狐太郎は言う
「これなら走った方が近い。馬車が通れない裏道を使えば馬車より早く着きそうだ」
同じくローブを着たグリッドが答える
「では行きましょう」
クリスティアの言葉に頷き、ローブ姿の4人は走り出した
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