一章 26 蒼の閃光の力

クリスティア達の側に佇む青年は見間違えるはずもない、先の街で出会ったレフィルであった


「コタロー君久しぶりだね」


レフィルは場違いなのんびりとした口調で狐太郎に語りかける


『なんでここに?』

「なんだ知り合いかレフィル」


狐太郎の疑問を遮ったのは先ほどレッサーデーモンの火球を防いだローブの男だ

男と言うには抽象的な声質で女性でも通用しそうな感じだ

むしろ女性に近いかもしれない

いつの間に近くに来ていてウェルキン達は驚く

どうやってレッサーデーモンの包囲をくぐって来たのか


「まぁね。ゆっくり紹介してる暇はないから省くけど、コタロー君。そのローブの彼女はミレリア。味方だから安心して」

『女性!?』


レフィルの言葉に慌てて振り向く


「私を男だと思っていたのか?失礼だな」


憮然とした態度でミレリアと呼ばれた女性はフードを外す

レフィルの青い髪とは対照的に綺麗なワインレッドの髪がサラサラと風に流れる

長さは肩より少し長いくらいで、邪魔なのか後ろで無造作に束ねてある


身長も170近くはありそうで、勝ち気そうな目も相まってなんと言うか男装の麗人と言う言葉が似合いそうな女性で某劇団にいそうな感じだ

しかもローブでよく見えなかったがスタイルも出るところはしっかりでていて女性のそれだった


「ローブで隠しているミレリアが悪いよ」

「目立ちたくないのだから仕方ないであろう」


レフィルのツッコミにいくぶん口を尖らせながらミレリアは反論する


「油断大敵ですよ」


多少苛立ちまぎれのランガルスの言葉に先ほど火球を防がれたレッサーデーモン達はさらに大きな火球を放つ


「先ほどよりも魔力を多めに込めてますよ。防げますか?」


ランガルスは一転余裕の表情に変わる


「ふん、問題ないな。フレアウォール炎の壁


さっきよりも高威力の火球をミレリアは炎の壁を四方に生み出す

そこに火球が当たると同時に爆発せず壁に吸収されるように溶け消えた


「なに!?」


これには流石のランガルスも驚いたようで驚愕の表情だ


「この程度で私を倒そうとするなど笑止千万。レフィル!」


ミレリアは涼しい顔でレフィルに大丈夫だと促す


「わかりました。そちらは任せますよ。ではこちらはこちらで始めましょうか」


ランガルスに向き直り軽い口調で言うレフィル


「ほぅ、貴方々が加勢すれば私を倒せると?」


調子を取り戻したのか余裕の表情でレフィルを見据えている


「何か勘違いしているから訂正させてもらうけど、加勢?違うな。俺1人であんたを倒すと言っているんだ」

「ほう、かなりの自信がおありのようですね。ではその実力確かめさせてもらいましょうか」


ランガルスが右手を振ると側に控えていたレッサーデーモン3体が動き出した


「ボルグさん、王女様達の護衛を。精霊様も手出しは無用でお願いします」

「しかし・・・」

「わかりました。お任せします」

「こいつらは僕で十分だ。王女様達に近づく奴がいたらそっちを頼みます」

「・・・わかった」


ボルグは頷きクリスティア達の側まで下がる


「コタロー君、よく見ておくんだ。それじゃ、行くぞ!」


レフィルは一気に駆け出しレッサーデーモンとの間合いを詰める

レッサーデーモンは一体がレフィルに接近し残り二体は火球を生み出す


「甘いな」


接近したレッサーデーモンは鉤爪をレフィルに振るい襲いかかるがレフィルの動きの方が圧倒的に早い

長剣が最短距離で相手の右腕から鉤爪ごとバッサリ斬り捨て、返す刀で逆袈裟に斜めに斬り上げ上半身と下半身を分断する

次いで火球が時間差でレフィルに飛んでくる

剣を振り切った状態からの回避は間に合わず不可能だとランガルスはほくそ笑む

しかしそれもすぐに驚愕の表情に染まる

レフィルは斬り上げた状態から再び剣を火球めがけて振り下ろす


ちなみに火球(ファイアーボール)は術者が放って人や物や障害物に当たると爆発し火炎を撒き散らす

もちろん剣に当たった場合も同じだ


だが、火球は爆発しなかった

いやしたのだがお粗末なもので爆風で髪を撫でる程度だった

レフィルに真っ二つに斬られ威力が減退したのだ

やろうと思ってできるものではない

レフィルの剣速と刀身に纏わせた魔力のおかげである

残る火球も同じように真っ二つにしてしまう

そして立ち止まっている二体のレッサーデーモンへ肉薄すると刀身に再び魔力を纏わせる


アクアブラスト水流擊


レッサーデーモンは鉤爪で長剣を防ごうとするが、レフィルの長剣は紙でも斬るかのように簡単に相手の防御を突破する

レッサーデーモンは斬られた場所から消滅していき、瞬きする間もなく視界から消滅した

レフィルはもう一体のレッサーデーモンへ肉薄する


フレアジャベリン炎の槍


刀身に炎を纏わせ、レッサーデーモンへ回転を加えた強烈な突きを放つ

なんとか反応し、防御したレッサーデーモンだが防御ごと串刺しにされる

腕を破壊され胸部に大穴を開けられればさすがのレッサーデーモンも生きていられず風に流されるように消滅した


「ほぅ、どうやら今までの相手とは違うみたいですね」


ランガルスの目がスゥっと細められる


「ならば直々に私が引導を渡して差し上げましょう」

「望む所だ!」


ランガルスは右手に漆黒の長剣を生み出しレフィルに対峙する



・・・・・



「さて、それではこちらも始めようか」


レフィルの戦いを見ていたミレリアは視線を狐太郎達に移し、辺りを見回す

ウェルキン達はレフィルの強さに驚愕しながらもミレリアの言葉に我に返る

狐太郎だけはレフィルの戦いを見続けている


「は、始めるって言っても・・・」

「我々だけでは」


ウェルキンやロイザードは幾分テンションが低めである


「なんだ、先程の勢いはどうした?まぁいい。少しお前達には荷が重い相手だろうからな。私がやるから見ているといい。それと、危ないから動かない方がいいぞ」


動かない方がいいとはどういうことかはてなマークを浮かべているうちに、ミレリアは多方面に展開していた炎の壁を引っ込めると何やら詠唱を始める


「かの地に眠る幾多の炎の精霊よ、我が魔力を喰いて紅蓮の炎となし敵を喰いつくせ!ラーヴァフロー溶岩龍


ミレリアが唱え終わるとレッサーデーモン達の立っている場所が一際赤くなったと思いきや一瞬でマグマ溜まりになる

それはかなりの深さのようでレッサーデーモンを徐々に飲み込んでいく


「これは・・・」

「なんという威力・・あっ!?」


デュラインとロイザードが呆気に取られていたのも一瞬、上空に逃れたレッサーデーモンが何体かいた


「ミレリア殿!」

「問題ない」


ミレリアは余裕の表情で大丈夫と頷く

するとマグマ溜まりから二条の火柱が上がる

しかしそれは火柱ではなくマグマを身に纏ったドラゴンだった

全長10メートル程の長さのドラゴンが二匹ゆっくりと上空で旋回する

そしてドラゴンは火の粉を撒き散らしながら上空に逃れたレッサーデーモンに接近しマグマのブレスを吐く

回避しようとするレッサーデーモンも居たが尽くブレスに灼かれて落ちていく

さらに落ちた先はマグマ溜まりで逃げ場はない

次々とブレスを浴びてマグマ溜まりに落とされ消滅するレッサーデーモンをウェルキン達は唖然とした顔で眺めていた

40体以上いたレッサーデーモンが跡形もなくいなくなるのにものの数分

もはや戦闘ではなく一方的な殲滅だ


「ふむ、もの足らんな・・」


ミレリアの呟きに一同ギョッとした表情を向ける

ちなみにマグマ溜まりは殲滅し終わったと同時に冷え固まり火成岩になっている


「向こうもそろそろ終わりそうなのではないか?」


ミレリアの言葉にウェルキン達はレフィルとランガルスの戦いに視線を移した



・・・・・



「なんだと?あれだけのレッサーデーモンを一瞬で!?」

「余所見していていいのか?」


驚愕の面持ちでレッサーデーモン達のいた場所を見つめていたが、レフィルの言葉に我に返る


「くっ」


レフィルの長剣がすくい上げるようにランガルスに迫る

それを仰け反りながらなんとかかわしたランガルスはそのまま間合いを開けるべく後退する

見ればランガルスの漆黒の長剣は半分位の長さになっている


「まさか人間ごときがここまでやるとは思わなかったぞ!」


憎々しげに呟き右手に持った折れた長剣を上下に振る

すると長剣が折れる前の長さに戻る


「口調に余裕がなくなってるぞ」


レフィルの言葉にランガルスは歯軋りをする


「ほざくな!舐めるなよ人間が」


ランガルスは先程よりも長剣に瘴気を送り込み長剣をさらに禍々しいものに強化する


「少しでもこいつに斬られれば終わりだ」


言いながら一気にレフィルに向かっていく


「厄介だな・・・」


レフィルはどっしりと待ち構えている

そこへ一直線に突っ込むランガルス

間合いに入るや否や漆黒の長剣を首目掛けて振り下ろす

ランガルスの速さが上がっている


「うぉっ!?」


レフィルは間一髪しゃがみこみランガルスの一撃をかわす

ランガルスも読んでたのか、しゃがみこんだレフィルの顔面に下から蹴りを放つ

伸び上がるようにバク転しかわすレフィルにランガルスは舌打ちする

さらに間合いを詰めようとランガルスが踏み込む

と同時にレフィルも突っ込んできた

これにはランガルスも一瞬驚く


レフィルは勢いに乗せて渾身の突きをランガルスの顔目掛けて放つ

それをランガルスは首を傾け皮一枚でなんとかかわすが長剣が頬を掠り血が滲む

ランガルスが右手の漆黒の長剣を胴目掛けて横薙ぎに振るう

それをレフィルは左半身に沿うように長剣を立てて防ぎにかかる

ギィンと金属がぶつかり合う音がして2人は膠着し、しばし睨み合う


「やるではないか。身体能力を上げたわたしの動きに付いてこれるとは」

「努力の賜物だよ」


言うが否やレフィルは立てた長剣をはね上げる様にランガルスの剣を弾く

その振り上げた勢いで首筋に長剣を振り下ろす

ランガルスは無理をせずにバックステップで間合いを空けると着地した足で溜めを作りレフィルに突っ込む

勢いを利用した苛烈な突きをレフィルは長剣で弾き軌道をずらし、お返しとばかりにランガルスに突きを繰り出す

それを先程と同じように首を傾けてかわすランガルス

次いでレフィルは流れるように攻め立てる

突きの体勢から体を竜巻のように旋回させその勢いで長剣を横に薙ぐ

下がるにも間に合わないと見たランガルスはさらに前に踏み込んだそして漆黒の長剣をレフィルの長剣が来る方に地面に突き立てる

先程のレフィルとランガルスの鏡写しのような感じになる

違いは地面に剣を突き立てた事くらいだろうか

しかしそれが勝敗を左右する


長剣同士がぶつかり合う金属音が聴こえすぐにパキィンと言う音が続いた


レフィルとランガルスは動かない

しかし表情は片方は驚愕の顔


「ば、ばかな・・・我渾身の力を込めた剣を・・・」

「悪いな、この剣は特別製だ」


相手の顔を見据え言葉を続ける


「さらに言わせてもらえば地面に剣を突き立てると衝撃の逃げ場がなくなり、剣に直に負荷がかかる。俺はそれを手首の動きで衝撃を吸収させたんだ」


わかりやすく言えば強風が吹いた時に大木だと折れるものが、柳などの木だと風に逆らわずに力を逃がす、といった感じだろうか

柳に風、である


「な、るほど・・・・見事だ・・人・間・・・」


胴を真っ二つに薙がれたランガルスは、呟くと同時にサラサラと風化するように溶け消えていく

それが魔族ランガルスの最後だった


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