一章 19 脱出計画

デュライン達は地下牢に閉じ込められる

地下牢は三方を石壁で覆われ一方は鉄格子と言うシンプルなものだ

そして鉄格子と反対側の石壁には小さいながらも格子付きの窓が付いている

天井が高く窓も高い位置にあり人の身長では届かないので、まず取り付くことは難しいだろうちなみにウェルキン達3人とクリスティアとメアリーは別々の牢屋に移された

ここの地下牢は3人以外には誰もいない

それ故容易に会話ができるのは良かったと言うべきか


「くそっ!クリスティア様と別の牢とは・・・」


壁をガンと殴りながらウェルキンは悔しそうに歯噛みする


「ウェルキン落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか!いつクリスティア様に危険が及ぶかもしれんのだぞ」

「それについてなのですが、恐らく大丈夫です。逆に危ないのは我々でしょうね」

「どういう事だ?」


ひとしきり騒いで落ち着いたのかウェルキンがデュラインに視線を送る


「考えて見てください。まずは王家の血族のクリスティア様に危害を加えればいかなる理由があろうとも罰せられます。そしてクリスティア様には十分利用価値があります、人質としても。逆に我々は一介の護衛です。言うなればその他多勢と一緒で何かあっても替えがきく存在です」

「なるほど。そしてクリスティア派の護衛の我々は邪魔だと言うことですな」

「護衛なんて他にいくらでもいますし、自分の息のかかった部下に護衛に付かせて四六時中監視させるって事もできますしね」

「くっ・・・」


ウェルキンが悔しそうに唇を噛み締める

その時地上へ続く扉から1人の白銀の鎧を着た兵士が扉を開けて入ってきた

3人はとりあえず話すのをやめて大人しくする

兵士は手に食事の乗ったトレーを持って降りてきた


「食事を持ってきた」


抑揚のない声で言うと、それを鉄格子の下にある隙間から中に押し込むように入れる

食事は硬い黒パンに野菜が入ったスープのようなものだ

3人は食べるかどうか迷っていると兵士が口を開く


「毒はない」


それを鵜呑みにできる程単純ではないのだが、デュラインは普通に手を伸ばして食事を開始する


「おい!」


ウェルキンの咎めるような声にデュラインは大丈夫ですよと答えながら食事を続ける


「ここで毒殺するなら我々を縛った後にすぐ殺してますよ。毒殺するなんて面倒くさい事せずにね」

「それはそうですな」


納得したロイザードも食事を開始するとそれを見てウェルキンも渋々食べ始める

すると兵士が出ていかない事に疑問を持ったデュラインは兵士に訪ねてみる事にした


「出ていかないので?」

「トレーを片さなくてはいかんのでな」


要は早く食えと言うことなのだろう

まぁそれなら色々聞いてみようと質問してみる


「あなたは、いや貴方たちはなぜそんなに暗い顔をしてるのですか?ほとんどの兵士がそう見えましたよ」

「関係ない事だ」

「そうですがもしや何か裏があるのではと思いましてね。・・・例えば人質とか」

「どういう事だデュライン?」


デュラインが呟き終えるとウェルキンやロイザードは驚く

見れば兵士もデュラインを見て驚愕の表情をしている

デュラインはウェルキンの質問には答えずに兵士をじっと見つめる


「話してくれませんか?力になれるかわかりませんが・・」

「デュライン・・・あんたがデュラインか。するとそっちの2人はウェルキンとロイザード?」

「我々を知ってるのか?」

「ああ、少し。といってもかなり昔に王女様と一緒にここに来た時に見たくらいだけどな。王女様直属の護衛と言えばそこそこは有名だ」

「なるほど。で、どうでしょう」


兵士はしばらくデュラインを見て沈黙していたがやがてポツリと呟く


「フリッグ様を人質に取られてるんだ・・」

「なっ!?」

「なんですと!!」


デュラインは黙示たままで兵士を見つめる


「正確にはフリッグ様と家族だ」

「なぜそんな事を・・・」

「ダムル様に人望がない」


ロイザードの疑問に答えたのはデュラインだ

そのデュラインの呟きに兵士は頷く


「みな今のフリッグ様の統治に満足してフリッグ様に心酔している者達ばかりだ。それでなくても昔のダムル様が領主の時を知ってる奴らは従いたくない」

「それで人質に取られ無理やり働かされていると」

「ああ、ダムル様の私兵は数が少ない。せいぜい30人いるかいないかだ。それもほとんど金で雇われた奴らばかりだ」

「なるほど。その人数ではこの領地は治めきれませんからね。それで無理やり従わせてるわけですか」

「そうだ」

「それであなた方とダムル様の私兵の見分け方とかはあるのですか?」

「ある」


デュラインの問に兵士は頷く


「我々はフリッグ様が用意してくださっていた白銀の甲冑を着ている。そしてダムル様の私兵は紫と赤を基調とした甲冑だ」

「なるほど。あの時ダムル様の近くにいたのがそうですね」

「しかしその私兵とやらもそこらのゴロツキくらいの腕しかないのだろう。私兵はほっておけばいい。問題は黒騎士だ」


ウェルキンの発言にデュラインも、兵士も頷く


「あいつらは話さない。一切口をきかない。そしてダムル様の命だけに動く忠実な駒だ」

「それが何体いるかわかりますか?」

「一度フリッグ様を拘束する時にいた数は10体だった」

「なら最低でも10体相手にしなきゃいけないわけか・・」

「いや、多分もっと少なくていいはずだ」

「どういうことですか?」


「たまたまダムル様が誰かと話してるのを聞いたんだが魔力をそうとう消耗するらしく、魔力が全快の時じゃないと多人数は難しいらしい。さらに召喚されている間は常時魔力を喰らい続けるらしい。それに召喚した際に減った魔力は通常と違い簡単には回復しないと言っていた」


兵士の言葉にデュラインは考えを巡らせる


「それが本当なら勝機はありそうですね」

「本当か?」

「まだ不安要素が多すぎて何とも言えませんが」

「頼む、フリッグ様を助けてくれ!このままでは・・」

「え?」

「どういう事だ!?」


兵士の言葉にデュライン達は驚きを隠せない


「詳しく話してくれませんか?」

「フリッグ様はダムル様に捕まってすぐに何かの液体を無理やり飲まされた。それから数日でフリッグ様は立ち上がれなくなり寝たきりになってしまった」

「なに!?」

「・・・症状は?」


デュラインは何か思うところがあるのか兵士に質問する


「微熱と身体の倦怠感それに手足が痺れ、徐々に感覚がなくなってくると言っていた」

「ミラグアム病・・・・」

「!!!?」


ポツリと呟いたデュラインに兵士が反応する

ウェルキンとロイザードは驚いている


「知っているのか?頼む。フリッグ様を助けてくれ」


懇願する兵士にデュラインはゆっくり首を振る


「現国王の症状と同じです・・・」

「!?そんな・・・」


兵士はガックリと膝を付いた

今病床にある国王と同じでそれが治ってないとなると現段階では完治は不可能だと言うことだ


「しかし、症状が同じだけで違う病気だとも考えられます」

「そうか、そうだな・・・」


しばらく跪いて俯いていた兵士がゆっくり立ち上がる

デュラインは頭をフル回転させる

ダムルから飲まされた飲み物でミラグアム病になったのな国王も誰かに飲まされた可能性が高い

もしくは料理に盛られたか

クリスティアの兄アゼルと大臣と一緒にいたと言われる男が怪しい

思案するが今は情報が足りない

一度頭の隅に追いやり顔を上げる


「それでなんですが、クリスティア様がいる場所はわかりますか?」

「おそらくここから逆に位置する離れの地下牢だと思う。フリッグ様もそこにいる」


兵士の答えにウェルキンは多少やる気を取り戻したようだ


「それならすぐにここを脱出してクリスティア様を助けに行くぞ」

「落ち着いて下さいウェルキン。ちなみに牢の鍵はあなたが持っているんですか?」


兵士は申し訳なさそうに首を振る


「鍵はダムル様の私兵が持っている。地下牢の看守が持ってるはずだ」

「あいつか・・・」


ウェルキンは縛られ看守室を通った時の看守からのニヤついた笑みを思い出す


「おい、いつまで下にいるつもりだ!」


すると看守室から1人の男が降りてくる

紫と赤を基調とした鎧、ダムルの私兵だ

しかしその甲冑は手入れがなされてないのか色がくすんで見える


「随分長い飯時間だったがよもや脱出の相談でもしてたわけじゃないだろうなー!あ?」


まるでそこらのゴロツキのような言葉遣いにウェルキン達は鼻白む


「まさか、久々の食事だったので味わって食べてただけですよ」

「ケッ。いちいちムカつく野郎だなてめぇは」


デュラインの飄々とした物言いに途端に不機嫌そうな顔をするが、一転ニヤリと笑う


「そんな余裕も今だけだぜ。さっきダムル様からの書状が届いてな。喜べよ、お前ら3人の公開処刑が決まったぞ」


私兵は届いた書状をヒラヒラさせている

兵士もウェルキン達もいきなりの事に驚きを隠せない

ゴロツキ私兵はそれを見て満足したのか話を続ける


「日にちはなんと3日後だ!!」

「その公開処刑は我々3人だけなんですか?」


笑い声をあげていた私兵がデュラインの言葉に反応する


「なんだてめぇ。なんで平気な顔をしてやがる。もっと絶望的な顔をしろ。命乞いをしろ!お前らもだ」


私兵はわめき散らすがデュライン達は落ち着いたものだ

兵士だけが絶望的な顔をしているが私兵は気づかない


「それで再度聞きますが、処刑は我々だけなんですか?」

「ああ?決まってるだろ。あぁ、あの王女様と侍女がいたか。残念ながら処刑はお前らだけだ。ひゃっはっは」


高笑いを上げる私兵をよそにウェルキン達はホッとしていた

少なくともクリスティアとメアリーは生かされる


「まぁ事が済めば王女はダムル様の妾くらいにはなるだろうが、侍女はお前らの処刑が終われば好きにしろって言われてるからなー。くっくっく」


下卑た笑いを浮かべる私兵に怒りの表情を向けるが私兵の笑いは止まらない


「脱走を企て用としても無駄だぜ。お前らの武器はもうない。おまけにこいつら兵士の武器も緊急以外は帯剣できねぇからな。まぁ素手で逃げれる自信があるなら構わねぇがな」


私兵はひとしきり笑った後は看守室へ戻って行った

兵士も絶望的な表情を浮かべながら一緒に戻ったので地下牢に残るは3人のみだ



「あのゴロツキ風情め!!」


ウェルキンは壁を蹴りあげる


「落ち着きましょうウェルキン」

「デュラインはなんでそんな冷静なんだっ!?」

「何か思いついたのですかな?」

「まぁ今できる事をやろうと思います」


デュラインが魔法袋から小さな笛を取り出すと口に咥え吹く


「鳥笛か」


鳥笛とは人間には聞き取れない程の高い音を出す笛で特定の鳥などを呼び寄せたりするときに使われる

しばらくすると地下牢の窓に鷲のような鳥が止まっているのが見える

通常の鷲より二周り程小さい体躯である

デュラインは素早く手紙をしたためると鷲を呼び寄せ右足に付いてる小さな筒に手紙を仕舞う


「頼みますフェオ、これをコタロー殿の所へ」


フェオと呼んだ鷲の喉をひとなでするとフェオは勢いよく飛び立ち窓から出て行った



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