一章 14 初仕事?

午後も冒険者ガイドブックを読み、気分転換に街を散歩する

今度は絡んできたり、買い物の時に金額を吹っ掛けてくる人はいなかった


翌日


ギルドの依頼を受けてみようと朝からギルドへ向かう

女将には昼食用の弁当も作ってもらったし準備は万端だ

ギルドの扉を潜るとガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきた

一瞬開いた扉の音に視線がこちらへ集まるが、興味を失ったようで視線を元に戻す

人が多いがみんな依頼を受けに来てるのだろうか

結構な人数がいる

掲示板の前で依頼書と睨めっこする者、テーブルに座り狩りの段取りを話している者

とりあえず依頼を見に行こうとすると後ろから声をかけられた


「あら、コタローくん早いわね。おはよう」

『おはようございますリリアさん』


ペコリとお辞儀をする狐太郎にリリアはニコニコ笑顔だ

リリアが入ってきた事で視線を送る冒険者多数

どうやら冒険者の間では人気があるらしい

そんな好奇の視線を完全スルーし狐太郎に話しかける


「今日から依頼を受けるのかしら」

『はい、できるうちに少しでも経験を積もうと思いまして』

「殊勝な心掛けねー。偉いわー」


感動したリリアが狐太郎をギュッと抱きしめる

抱きしめられた狐太郎に羨望と嫉妬の視線を向ける冒険者達

等の狐太郎は抱きしめられ息ができなくてジタバタもがいていた

気づいたリリアが慌てて解放する


「ごめんね、大丈夫?」

『・・はい、大丈夫です』


慌てて酸素を取り込み深呼吸をする


『リリアさんは今出勤ですか?』

「そうよ、ちょっと待っててね」


言うなりリリアは受付の奥に行き、数分後に戻ってきた


「それじゃ依頼書見に行きましょ」


ガシッと手を握られ引っ張られる狐太郎

掲示板の近くに来てみてわかったのだがE、FランクとD~上のランクで掲示板が分かれているようだ

新人冒険者に配慮してわかり易くしたのだろう


「あっちはDランクから上の討伐系や探索系、護衛等の依頼ばかりだからコタローくんはしばらくこっちの掲示板ね」


EF用の掲示板を見ると薬草の採取やどこそこの場所まで荷物を運んでくれ(街中限定)だとか、なくした物を探して欲しいだとか、屋根の修理だとか雑用系が多い


「そうね~、最初は採取系がいいかしら。薬草の知識も覚えられるし。これなんか比較的簡単なんじゃないかしら」


ペリッと一枚の依頼書を剥がし狐太郎に渡す

依頼書を見ると[カズラン草20束]と書いてある

報酬大銀貨2枚、依頼者は雑貨屋店主シアニーとなっていた


「カズラン草は知ってるかしら?」

『はい、葉っぱが丸くて上に小さな白い花が咲いてるんですよね。薬草作りに調合で使いますから』

「え?コタローくん調合できるの?」

『少しですけど・・』

「偉いわー、これはかなり将来有望ねー」


再び抱きついて来そうな雰囲気だったので少し距離を置く狐太郎

それには気付かず話を続けるリリア


「それじゃどんな場所に生えてる場所はわかるわね?」

『えーと・・・わかりません』

「え?調合できるなら自分で採取とかしてたんじゃないの?」

『あ、えと・・自分が住んでた場所では常に倉庫に常備してあったので・・・』

「なるほどね。精霊の森ならカズラン草は簡単に見つかるだろうしたくさん生えてるからね」


納得してくれた

内心ホッとする狐太郎


「場所は街から出てすぐの場所に生えてるから危険はないのだけれど、採取の仕方はわかる?」

『えーと、根っこから掘り起こしていいんですよね?葉っぱは不眠症に、花は煮出して飲むと美容に、根っこは調合でポーション類になるんですよね』

「え?」

『え?』


リリアは慌てて周りを見回すが今の会話を聞かれた様子はない


「ちょっとコタローくんこっちにいらっしゃい」


いつになく真剣な表情のリリアにギルドの奥へ連れていかれる

何か間違った事言っただろうか

狐太郎の脳裏にさきほどのやりとりが浮かぶが結論は出なかった

場所はギルド奥の客間?みたいな場所だ

6畳くらいの部屋にローテーブルを挟んで3人用のソファーが2つある


「座って」


狐太郎を手前のソファーに座らせると自分は奥側のソファーに座ると幾分小声で話し出す


「さっきの、本当なの?」

『え・・と、間違ってましたか?』

「はぁ・・やっぱりわからないか。いい?さっきコタローくんが言ったのは間違いじゃないの。でも半分」

『半分?』

「根っこは調合でポーション類の材料になる。これは正解」

『え?』

「葉っぱは不眠症?だっけ、そして花は美容にいいなんて聞いたことないもの」

『そうなんですか?うちの村では当然でしたけど・・』

「それで効果は出たのかしら?」

『はい、個人差はあると思いますが・・』


個人差と言ったのは使った相手が精霊と自分だからである

何故かはわからないが精霊にも効果はあり評判は良かったのだ


「それは通常の機材で作れるものなのかしら?」

『んー、多分大丈夫だとは思いますが魔力を凄い使うんですよね。村で作った時は普通の魔力しか持たない人間には難しいって言われました』

「それでコタローくんがどれだけ規格外の魔力を持ってるかわかったわ・・・」


リリアは狐太郎が幼い頃から常時魔力を使う事に終始してたので今の膨大な魔力量が身についたと思ったらしい

当たらずとも遠からずと言った所である


「ちなみにだけど、まだ誰にも言ってないのよね?」

『えと・・はい・・・』

「とりあえずは秘密にしておきなさい」

『わ、わかりました』


真面目な顔で言われて動揺しながらも頷く狐太郎


「それでなんだけど、もしかして他の薬草のも何かあるのかしら」

『んーちょっとわからないですね。あるかもしれませんが村では当然だった事ですから』

「それもそうよね。ちょっと待ってね」


立ち上がり後ろの本棚から一冊の本を持ってくる

それをテーブルに置くので見てみると

【薬草大図鑑】と書いてある

それをパラパラめくり一般的に楽に採取できる薬草をリリアが指で示しては狐太郎が答える


数問答えた所でリリアはソファーの背もたれにもたれ掛かり、小さなため息をつく


「全部半分正解で半分は違うわね」


違うと言うのは間違ってると言う事ではなく、まだ今は発見されてないと言う意味で


「本当ならすごいわね。昔の人は薬草1つで1つの効果って常識に縛られてたのかもしれないわね。普通に考えたら根っこと葉っぱ、花や茎で効果が違っても不思議じゃないものね。でも残念なのは再現できる人がほぼいないって事かしら」


もちろん薬草丸々一本使わなければいけないものもあるが、例外も存在する

今回はまさにそれが当てはまったわけだが

そして現状では狐太郎よりも魔力総量が多い人はいる事はいるのだが、そういう貴重な人材はみなほとんど国のお抱え魔術師である

ようするにこういう末端の採取や調合などはやらない

必然的にそういうのをやるのが下のランクの人達である

知識や経験を得るのにももってこいなので上の人達も下の仕事を奪うような事はしない

とりあえず暗黙のルールみたいなもんである


そういう事で現状は狐太郎以外できる人がいないという事になる


『採取してきたら調合してみましょうか?』

「え?大丈夫なの?」

『別に秘密ってわけじゃないですし構わないですよ』

「そう?それじゃ調合はギルドの施設の一室を使うといいわ。一通り機材も揃ってるし」

『ありがとうございます』

「それじゃまずは依頼受けちゃいましょうか」

『はい』


2人は立ち上がり部屋を出る

そして先程のカズラン草の依頼書と他の薬草採取の依頼書も持ってきた


「これも近くにあるから一緒に採取しちゃいましょ」


数枚の依頼書を受け取りとりあえず一番上の依頼書を見ると依頼書にはシロツヤ草とある

狐太郎はさきほどシロツヤ草からできるものを話している場面でリリアの食いつきが凄くソレを物欲しそうにしてるのを見ていた

そうシロツヤ草の花は調合するとシャンプーのようなものになるのだ

髪はサラサラである

そして花の良い匂いも付く

女性が飛びつかないわけがない


ちなみにこの世界のシャンプー的なものはない

だいたいが稲や麦の茎の粉末などまぶしたり植物の皮を湯で浸した液で洗い、櫛で髪の毛を梳かして垢をとったり、臭い消しのためにお香を髪に付けたり油でツヤを出しているくらいである


無論それで髪の状態は今のように劇的に良くなるわけではない

それが狐太郎が作り出したシャンプーは汚れ(垢)も取れ髪にハリ艶コシを与えサラサラに

そして良い香りもする

実はシェリーやシェリルも愛用していたりする


ようするにどの世界でも女性は美の追求に余念がないのである

ちなみにリリアが持ってきた数枚の依頼書は全部美容に該当する薬草だったのだが、そこは何も言わないでおくのが正解だろう

受け取った依頼書を受付に持っていき受領印を押してもらう


「期限は全然平気だから慌てなくてもいいわね」

『はい、それじゃあ行ってきます』

「気をつけていってくるのよー」


笑顔のリリアに見送られギルドを出て街の入口へ向かう

カズラン草の群生地は街から出てすぐの場所らしい

街の門兵に冒険者カードを見せて通してもらい見送られながら街を出て数分、その場所はすぐに見つかった

群生地とはよくいったもので数種類の薬草がたくさん生えている

目的の薬草は見た感じ全部ありそうな気がする


『これ、依頼しなくてもいいんじゃ・・』


ぶっちゃけ一般人でも採取できる場所にあるのだが新人冒険者が薬草を覚える登竜門的な行事になってるようで今でも普通に依頼は出されているらしい


とりあえず狐太郎はポシェットから採取セットを取り出し、依頼されている薬草を採取に取り掛かる

ちなみに薬草類は採取すると次が生えるまでにさ時間がかかる(葉だけや花だけでも)ので、必要以上は採取しないのがルールである(冒険者ガイドブックより)


ある程度採取した所でとりあえず休憩にする

ちょうど太陽が中天辺りに来ているのでお昼あたりだろうか

近くにある切り株に腰掛け、女将からもらった弁当と飲み物を取り出す

中身は肉やレタスとハムがタップリのサンドイッチだ

味はシンプルながら焼き加減が絶妙で肉の旨味がしっかり残っていてパンに肉汁が染み込んでいてうまい


ふとクリスティア達と野営したのを思い出す

あれからどうなっただろうか

まだ1日しか経ってないが心配な狐太郎である

無事にフリッグ領にたどり着けただろうか、協力はしてもらえただろうか

そんなことばかり頭に浮かぶ

狐太郎は大丈夫と頭を振り、残ったサンドイッチをお茶で流し込むと残った採取作業に没頭する







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