一章 13 冒険者登録

裏通りから表通りに出てギルド方面へ歩く


「それにしても君は面白い子だね。これからもっと強くなれるはずだ。楽しみだよ」


ニコニコしながら歩くレフィル

レフィルは有名人らしく街中でも注目を集めている

一緒にいる狐太郎にも視線はいくがもっぱら視線の先はレフィルだ

しかしこのおかげで狐太郎はレフィルの知り合いと言う噂が広まり、金銭を吹っ掛けようという輩や絡んでくるゴロツキはサッパリいなくなった

それを見越して堂々と目立つように歩いているなら大したもんだが


『レフィルさんはこの街に滞在してるんですか?』

「ん?そうだよ。ちょっと依頼でね。もう少しで片付くと思うんだけどなかなかね。後長くて1週間くらいかな。コタローくんは?」

『僕は昨日来たばかりで数日はいる予定です』

「用事がなければ街案内とかしてあげたかったけどちょっと今は忙しくてね」

『いえ、さすがにそこまでは。気持ちだけ受け取っておきます』

「ははは、本当君は落ち着いてるね。っと、ほら着いた。ここがギルドだよ」


促されて視線を移すと2階建てのビル並の大きさの建物があった

もちろん木造建築だが

デカいなーと見上げているとレフィルからさぁ入ろうと背中を押されて中へ入る


入ると入口正面には受付が5ヶ所もある

右端2つが新規登録用の受付らしいが、うち1つは誰も座ってなく隣へどうぞの立板が置かれている

左には複数のテーブルが置かれ奥の壁には依頼書と呼ばれる紙が掲示板に所狭しと貼られている


「あら、レフィルじゃない。今日は休みだったんじゃないの?」


一番端に座る受付のお姉さんが入ってきたレフィルを見つけ声をかけてくる

茶色い長い髪を後ろでポニーテール風に纏めていて、どちらかと言えば美人の部類にはいるであろうか、切れ長の目はクールそうに見える

これで眼鏡があれば完璧だ


「そうだったんだけどトラブルでね。この子のギルド登録をお願いしようと思ってね」

「レフィルの子?にしては大きいわね」

「ははは、リリア僕はまだ23だよ。ちょっとした事で街で知り合ったんだ」

「へぇ、レフィルがそこまで気に入るなんて珍しいわね。それじゃ、新規登録の受付へいらっしゃい」


リリアと呼ばれた女性は新規登録の受付に移動し立板を後ろに下げる

レフィルは狐太郎を連れて受付の椅子に座らせる

レフィルは後ろに立ったままだ


「じゃあそうね、文字の読み書きはできるかしら?」

『はい、一通りは』

「それじゃこの用紙に名前とか出身地などの必要事項を書いてね。わからなかったら聞いてちょうだい」


言われて用紙を手に取り書ける範囲の場所を書く

出身地は大まかな場所で良いそうなので世界樹の森と書いておいた

書き終わりリリアさんに書類を渡す


「名前はコタロー、変わった名前ね。年齢は15歳。出身地は世界樹の森?」

『はい、ダメですか?』

「あの森にある街って言えば・・」

「セレンテの村だね」


考えるリリアにレフィルが答えを出す


「ああ、そうだったわね。セレンテの村出身って事でいいのかしら?」

『えっと・・はい』

「後は・・うん、必要な所は埋まってるから大丈夫みたいね」


書類を確認し、今度はサッカーボールくらいの大きさの水晶が出てくる

水晶の下にはA4サイズくらいの木箱が置かれていて手前側(リリア側)には書類を入れられる口が上下2箇所程開いている

その木箱の上の口の方にさきほどの書類を入れる


「これに両手を添えて貰っていいかしら?」

『何ですかこれ』

「これはね、触れることによって魔力量や大まかなステータス、現在のランク、ランクアップ可能かどうか、後は依頼の達成度や過去に犯罪歴などがないかも調べられるのよ。コタローくんはこれから登録だからFランクからだけど」


近代科学も真っ青な代物である

狐太郎は恐る恐る水晶に手を添える

危ない犯罪歴はないのだが、どうしてこう緊張するのだろうかドキドキする狐太郎

しばらく手を添えているとリリアさんから「はい、いいわよ」と言われたので手を離す


すると水晶の下に設置された箱の下の口から一枚の用紙とカードが出てきた


「ふふ、気になる?この用紙には登録日とさっきコタローくんが書いた名前や年齢等と、水晶が読み取った情報が載ってるのよ。見てみる?あ、でもこれはこっちで保管するものだがらちょっとだけね」


言いながら用紙を狐太郎に渡してくる

それを手に取り見てみる

後ろからレフィルが覗きこんでくる


「うわ、コタローくん凄いね。魔力量Sじゃないか。しかもまだ上がる見込みあるなんて凄いよ」


さすがに大声では話せないのか小声で驚くレフィル

しかし元から有名人で注目されてるのか皆がさりげなくチラチラ見ている


『このSの横にある上に向いてる矢印はなんですか?』

「これがね、魔力がまだ上がる可能性ありってマークなんだよ」

『そうなんですかでも僕、魔法素質ないらしくて使えないんですよね・・』


用紙をリリアに返しながら呟く


「え?」

「本当なのかい?」

『はい』

「あ、下の方に魔法適正なしって後書きがあるわ。珍しいわね」


2人はガッカリした表情になる


「まぁでも他も15歳にしての平均値を大きく上回ってるんだから他に道はいくらでもあるよ」

「そうね。こんな子初めて・・いや何百年か昔に数人いたらしいわ」

「でもここ最近ではいないはずだから素質はダントツね」

『ありがとうございます』

「あ、後これが冒険者カードね。これがあれば身分の証明にもなるしランクが上がれば宿屋や武具を買うときに多少の割引があるわ」

『便利ですね』

「万が一紛失したりしたら近くのギルドへ来れば手数料は貰うけど再発行はできるから安心してね」

『はい』

「以上で冒険者登録は終わりよ。細かい詳細はこの本に書いてあるから暇な時に目を通しておいてね」


書類を返すとカードと手の平サイズの本を渡された

受け取ったカードの表には名前と登録した街のギルドの紋章のマーク、それに現在のランクが載っている

裏には何も書いていない


「裏側は本人だけが見ることができる情報が出るわ。ステータスや今の装備とか、受けた依頼とかも見ることができるわよ」


狐太郎はへーと感心しきりだ

そして大事そうにカードをポシェットにしまう

もう1つもらった本も見てみる

本の表紙には【冒険者ガイドブック~新人冒険者の手引き~】とある


「あ、リリアさん僕にも一冊欲しいんだけど?」

「レフィルだって冒険者になった時に貰ったでしょ?」

「いやー、3日で無くしてしまってね・・」

「呆れた・・・でもダメよ。これは1人一冊なんだから」

「えー。じゃあコタローくん、読み終わったら貸してくれないかい?」

『え?いいですけどすぐは無理ですよ』

「ああ、またいつか再会できた時でいいんだ」

「再会できるかもわからないでしょ・・でもコタローくんならすぐランクアップできそうだから有名にはなりそうね」

「そしたらギルドに頼めば大まかな場所くらいは教えてくれるからね」

『そうなんですか?』


便利な反面面倒だなーと内心呟く

まぁ有名にならなければいいだけの話だと1人納得する


「あはは、コタローくん顔に面倒だって出てるよ」


指摘され顔を赤くして俯く狐太郎

何故かリリアが歓喜の表情をしている


「あーコタローくん可愛いわねー。コタローくんがうちのギルドにいればいいのになー。あ、ねぇうちで働かない?」

「おいおい、今冒険者登録したばかりだろう」

「それもそうよね。それじゃ今日はどうする?さっそく何か依頼受けてみる?」


色々説明してあげるわよと奥にある掲示板を指さしながら聞くリリアに狐太郎は逡巡するも首を振る


『いえ、今日はやめときます。帰ってこの本を読みます』

「あら、偉いわね。無くした誰かさんとは大違いね」

「はは、手厳しいね。でも無事登録終わったみたいで良かった。僕はそろそろ行くよ」

「そういえば休みだったわね」

「また近いうちにギルドに顔出すよ。コタローくんも頑張ってね。知り合えて良かったよ」

『こちらこそ助けてもらって、ギルドまで案内してもらってありがとうございました』

「相変わらず礼儀正しいねー。でも僕にはそこまで畏まらなくてもいいよ」


じゃあねと手を振りギルドを出ていくレフィル


「さて、それじゃコタローくんも頑張ってね」

『はい。あ、リリアさん』

「ん?何かな?」

『街の地図ってあります?』

「あるわよ、ちょっと待っててね」


後ろの棚から一枚の用紙を取り出し狐太郎に差し出す


「これがこの街全体の地図よ。これはあげるわ」

『いいんですか?』

「いいのよ。無料で配ってる物だし。基本街のギルドに行けば街の地図は無料で手に入るから覚えておいてね」

『ありがとうございます、助かりました』

「いいのよー」


言うリリアはニコニコ顔だ


『それじゃ失礼します』


後ろから気をつけて帰るのよーと声が聞こえるので再度振り返り頭を下げる


この後リリアは数日ご機嫌で業務をこなし周りからあのリリアが・・と訝しく思われるのはここだけの話である


地図を頼りに無事に宿に到着


「お帰りコタロー、昼は食べるのかい?」

『はい、いただきます』

「それじゃあと鐘が3つ鳴ったら降りといで」

『ありがとうございます』


狐太郎は部屋に戻りさっそく冒険者ガイドブックを開いてみる

1ページ目は冒険者登録おめでとうから始まり、やれ心構えだとか自分にあった依頼の選び方等なので端折る事にする


とりあえず冒険者ランクはF~SS(時によってはアルファベットの後ろにプラスやマイナスが付く場合がある)まであるらしい(昔はSSSまであったらしい)

ただランクが全てではなく分かり易く言うと目安のようなものようだ

同じランクでもピンキリで、例えばAランクに成り立ての冒険者ともうすぐSランクに上がれる冒険者では実績も経験も違う

そして必ずしも実力が伴うわけではないと言うこと

物事には相性もあり低いランクの者が例えばAランクの誰に勝ったからAランクに昇格したりAランクの依頼は楽勝というわけでない

後は冒険者になってから犯罪的な事を犯すとペナルティもあり、最悪賞金首を賭けられる事もあるという

そして魔物討伐の依頼はDランクからでEランクとFランクは採取系や街の便利屋的な仕事が多いそうだ

そしてランクアップはギルドで任意で行われる

アップ出来るのは必ずアップしなければいけないわけではないが、ランクが上がると宿が安く泊まれたり特典がつくので普通はすぐランクアップするのが大半のようだ

ちなみにDランクでも上位の魔物の討伐依頼は受けれる

今までの功績や討伐リストなどを見てギルド職員が認めればだが

ギルド職員は目が肥えている人が多いのでなるべくギルド職員とは仲良くなっておく事をお薦めすると書いてある


さらに冒険者は主に戦闘に特化したギルドだが研究者のような集まりのギルドもある

こちらは主に頭を使ったもので簡単に言えば新たな商品の発明など日常を豊かにするものから薬剤関係の開発などの戦闘を補助するアイテムの製作などだ


大まかにわかり易く読むとこんな感じだった

後は裏にこの大陸がマッピングされていて主要都市なとが載っている

小さい村等は載ってないから自分で記載してしまおう

とりあえず世界樹の森にマークを付ける

冒険者ガイドブックを閉じうーんと背伸びをする


その時丁度鐘が3つ鳴った

いい具合にお昼になり食事にしようと階段を下りていく

さすがに昼間は食事処として宿泊客以外にも開放しているらしく、それなりに客はいる

宿泊客用のスペースはあらかじめ確保されているので混雑していても宿泊客ならば普通に座れるのだ


狐太郎は1人なのでテーブルではなくカウンター席に座ることした

さっそく座ると女将がすぐに食事を出してくれた


「今日はどこかに行ってたのかい?」

『はい、ギルドに冒険者登録に行ってきました』

「その若さでかい?偉いわねー。でも無茶はするんじゃないよ」

『はい、気をつけます』

「いい返事だ。こいつはサービスだよ」


とテーブルにステーキがドンと置かれる


『いいんですか?』

「ああ、構いやしないよ。仕入れすぎちまって余っていた所だからね」

『ありがとうございます、いただきます』

「若いうちはたくさん食べなきゃね。パンのおかわりはあるからいっとくれ」


すると他のテーブル客から贔屓だ!とブーイングが上がる

俺達にもくれと声があがる


「中年がそんなに食べて太ったらどうするのさ、走る依頼でも受けてダイエットしてきな」


と一蹴していた

ひでぇと悲壮感にくれる中年?(20代に見える)をよそに周りから笑い声が上がる

どうやら常連客らしく毎度こういったやりとりをしているらしい

どうやら彼らも冒険者のようだ

その仲間の1人がコップ片手にこちらに来る


「ボウズ、冒険者登録したんだって?」

『あ、はい。狐太郎といいます』


ボウズと言う呼び方に嫌な思い出しかないので名を名乗る事にする


「ああすまんな。俺はディーノってんだ。Cランクだ」

『よろしくお願いします』

「礼儀正しいな。まぁでも正解だ。アドバイスしようと思ったんだが必要なかったみたいだな」


狐太郎が首を傾げているとディーノは言葉を続ける


「冒険者になる奴ってのはどいつも有名になっていい暮らしがしたい奴が多くてな。どうも態度が上から目線らしくてよ。最初は採取などの雑用依頼ばかりだろ?そんな上から目線で接してる奴らが多いもんだから苦情が来てるんだ。だがコタローは問題なさそうだな」

『そうなんですか』

「ああ、早く成り上がりたい奴やドラゴンを討伐がしたいって戦闘バカが多くて、E、Fランクの依頼は駆け足でやってく奴が多い。依頼主と仲良くなるってのも大事だってのに」

『わかります。仲良くなれれば次の依頼も受けやすくなりますし、いい情報も教えてもらえるかもしれませんしね』

「わかってるじゃねえか。最近のE、Fランクの依頼を出してくる依頼主は名指しでこいつは態度が悪いからそれ以外でとか載せてくる。無論ギルドにも知るところとなるしギルドからの心象も悪くなるからな」

『気をつけます』

「まぁコタローならいらん心配なさそうだな」

「へぇ・・あんたたまにはいい事言うじゃないか。こいつはサービスだよ」


話を聞いていたのか女将が現れて狐太郎とディーノの前に飲み物とサンドイッチを置く


「駆け出しの頃に偉そうな態度で依頼者から総スカンを食った男は言葉に重みがあるね」

「ちょっ!?女将それは内緒にしてくれよ」

「そんなあんたに優しく諭したのは誰だったかね?」

「あれは諭したって言うんじゃなくて説教と暴力ってんだ女将」

「あんたまた優しく諭されたいようだね?」

「勘弁してくれよー。あれから心入れ替えただろ」

「ふん、まだまだ甘ちゃんには変わりないさね。コタローもこういう風になっちゃおしまいだよ」


ディーノを指さしながら言う女将にディーノはひでぇと嘘泣きを始め周囲からはドッと笑いが巻起こる

狐太郎も楽しそうに笑う


楽しい昼食の時間はあっという間に過ぎていった



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