閑話 村は今日も平常運転
時間は少し遡る
~世界樹の麓の村~
「おらー!もうすぐ昼になるぞー!スパートかけろよー」
「「「「はい!!」」」」
調理場ではまさにピーク時である
狐太郎がいなくなって食事は必要ないのだが、習慣からか変わらない生活を続けている精霊達
実際、狐太郎が出て行ってからしばらく食事は取らなかったのだが皆一様に「食べないと調子が狂う」という満場一致で食事が再開されることになった
「アグニスー。出来上がったの持っていくわよー」
「おう、悪いなシェリル、運んでもらって」
「みんな忙しいんだから仕方ないわよ。私はたまたま手が空いてたからね」
「助かるわ」
「それにしてもいい匂いしてるわね。今日は何なの?」
「よくぞ聞いてくれた、コタローが作ってくれたレシピ本から今日は中華ってのをチョイスしてみた」
続々給仕の精霊達がやってきては出来上がった料理を運んでゆく
アグニスは言いながら調理をする手は止まらない
「餃子、春巻き、生春巻き、焼売、小籠包、麻婆豆腐、酢豚、回鍋肉、青椒肉絲、八宝菜、肉まん、炒飯、エビチリ、紅焼茄子、それから・・・」
「ちょっと、どんだけ種類作ってるのよ!!」
「全然足らん。最近は大食らいが増えたからな」
「美味しいから仕方ないわね。それにみんなイキイキしてるし」
「それに付いては同感だ」
「ほんと狐太郎には感謝しなきゃね。最初アグニスが料理作るって聞いた時は気でも触れたのかとおもったけど・・」
「わはは、自分でも驚いたがやってみてしっくりきた。人間だった時は料理人だったのかもな」
「何千年前の話よ」
「わはは、さすがにもう覚えてねぇ。・・・よし、こいつで最後だ」
中華鍋をお玉でカンとひと叩きして皿に料理を盛る
「先行ってるわよ」
「おう、俺もすぐ行くわ」
じゃあね、とアグニスに挨拶してシェリルは給仕達と料理を広間へ運んでいく
広間には昼時とあってほぼ全員と言っていい精霊達が集まっていた
その中で長老とも言うべきアムエルはここ数日ずっと不機嫌だった
「お爺様、いつまで不貞腐れてるつもりですか?」
「ふん、別に不貞腐れてなんかいないわい」
「コタローの事が心配だからっていっても周りに不機嫌オーラまき散らして大人気ないですよ?」
「別に撒き散らしとりゃせんわい!普段からこうぢゃ」
「普段からそんなんじゃ身体持ちませんよ」
そんなアムエルとミルワースのやりとりはほぼ毎日続いている
すでに周りはいつもの事と我感せずだ
そんな中ターランがサッカーボール大くらいの大きな水晶を抱えて入ってきた
「姉上、出来上がったぞ」
「早かったわね、ターラン。あなたも実はコタローが心配なのかしら?」
「ば、バカを言うな!俺の力をもってすれば3日とかからずできる」
豪語するターランだが目の下に凄まじいクマができているのを知らない
寝る間も惜しんで作ったことは誰が見てもバレバレだった・・
「なんじゃそれは?」
アムエルの視線がターランの持つ水晶に引き寄せられる
周りの精霊達もわらわらとターランの周りへ集まってくる
「これはねお爺様、離れた場所の映像を映し出す水晶で・・・」
「それでコタローの様子を探ろうとでも言うのか?しかし居場所が特定できなければ映し出す事はできんぞ」
すでに試したかのように鼻で笑うアムエル
察しの通り狐太郎が出発した日に実戦済みで失敗していたのである
「ふふ、話は最後まで聞いてお爺様。ターランはある道具を通じて場所の特定できるのよ」
「なんじゃと!?」
「覚えてるかしら?ターランがコタロー達にブレスレットを渡したでしょ?」
「うむ、あれか!しかしブレスレットから発する魔力は微弱で離れすぎてると特定しずらくなると思うがの」
「渡したのはコタローだけじゃなく、王女様達にも渡して3つよ。3つあれば1つ1つが弱くても拾えるわ」
「おぉ!!でかした我が孫よ。今日ほどお前達がここにいてくれて良かったと思った事はないぞ」
「げんきんなお爺様ね。ターラン準備はいい?」
「大丈夫なのだが、昼飯を先に食べないか?」
「その通りだ!飯は温かいうちに食うもんだ」
「何やらいつも以上に騒がしいけどどうしたのかしら?」
料理を手に登場したアグニスとシェリルは料理をテーブルに置き野次馬達のいる方へと歩いていく
「ミルワース、なんの騒ぎだ?」
「あらアグニス、丁度ターランに頼んでいた水晶が出来上がったのよ」
「ああ、あれか。しかしよく短期間で完成させたな」
「ターランの顔をみれば一目瞭然でしょ」
アグニスはそんなターランの顔をチラリと見たが、見た瞬間「は?」と呟き2度見する
「おいおい、なんだありゃ?一瞬別人かと思ったぞ」
「職人気質なのはいいけれど、コタローの事になって余計集中しちゃったみたいね」
「介護食って奴でもつくるか」
「アグニス、精霊が介護食って笑えないわよ」
そんな話を2人でしているシェリーやアスレー達も昼食を食べに来て野次馬の人だかりに驚くも寄っていく
丁度ターランが水晶に魔力を込めている最中だ
しばらくすると水晶に映像が映り始める
「おぉ!!映ったぞ」
「本当だ!」
「あ、コタローいるよー」
「王女様達も一緒だ」
「やはり可愛いな」
「一緒にいる男達は誰だ?」
「おぬしら、わしが見えんではないか!!」
などと一斉に騒ぎ始める野次馬達
シェリーも狐太郎を見て嬉しそうに笑顔になる
それをシェリルは温かい目で見ていた
「(最近元気ないと思ってたけど・・大丈夫みたいね)」
映像を見てるうち、どうやら男達は王女の護衛っぽい事がわかる
ちなみに音声は出ない
そこは改良しなければと後でターランが密かに思っていた
「あ、なんだあの熊!?」
画面を見ると狐太郎達が熊に襲われている場面だった
「おかしいわね、あんな魔物この森にいたかしら?」
「ここ数百年は見たことないな」
「怪しいわね」
そんな会話をアグニスとシェリルがしていると野次馬達がワーとかキャーなど歓声や悲鳴をあげる
そこだ!危ない!など完全に観戦状態だ
ちなみに狐太郎がテュランベアールに吹き飛ばされた瞬間は広間が一気に殺気立ち、外の木々に留まっていた鳥や小動物が逃げ出すと言う事態にもなったが、無事にテュランベアールを倒したのを見ると一様に歓声があがる
「お前らそろそろその辺にしとけ、料理が冷めるから食いながらでも見れるだろ。ターラン、魔力を込めとけばしばらくは映るんだろ?」
「うむ」
「ならお前もまずは食事にしろ。見ていてハラハラする」
「ああ、すまない」
そう言うとターランは水晶を広間の真ん中辺りに設置し食事に移行する、ひと盛り上がりした野次馬もとりあえずは満足したのか席に戻り食事を開始する
すると水晶の近くに座っていた精霊が「あっ!」と声を出す
黒装束達が現れた瞬間だ
「ほう、あの弓を背負った男、なかなか気配を読むのがうまいではないか」
アムエルがひとりごちる
「お爺様、呑気に解説してる場合じゃないと思いますが・・それよりも危険っぽくないですか?コタロー達はボロボロですし」
「察するにさっきの熊はこやつらが召喚したと見るのが妥当か。しかし王女達も敵は強大そうだのぅ」
「しかも相手は10人か。こりゃピンチだな」
「何を呑気に言ってるのよ。コタローが危ないのよ?」
「わかってるが、今の俺たちにはどうしようもない。あの場所は森の端の方だろう。具現化も難しいし助けたくても行けん」
「見てるだけってのがもどかしいわ」
そんな話をしているうちに、護衛達も満身創痍でなんとか戦っていたが次々倒れていく
みなが固唾をのんで見守る中、ついに狐太郎も倒れる
一瞬相手を吹き飛ばした時は歓声が上がりかけたが、その後の傷を見て悲鳴があがる
シェリーは見ていられなくなり出ていってしまった
そして狐太郎が意識を失い倒れる瞬間、狐太郎がネックレスを握り締めてたのにアグニス、シェリル、アスレーは気づく
他の精霊達はそれどころではないらしく、狐太郎が倒れてオロオロしている
そして王女達に近づく黒装束がやおら刃を振り上げる瞬間目を背ける精霊達の中で一部で殺気が膨れ上がり広間から消失する
「ふぉふぉふぉ、まだまだ若いのう」
アムエルだけはどっしりと座り春巻きを齧りながら水晶を見つめている
水晶からは眩い光が溢れている
「あれ?料理長がいない」
「シェリルとアスレーもだ」
「何だかんだでみんなコタローが大好きなのね」
水晶から目を背けていた精霊達は何が起こったのかわからずに、狐太郎達がどうなったか心配で水晶に目を移す
「あ、あれシェリルとアスレーじゃないか」
「コタローが起き上がってるけど雰囲気違くない?」
「あらら、アグニスったら憑いたのね」
仕方ない子ねとクスクスミルワースは笑う
「なに!?」
「ずるい!」
「私だって憑きたいのにー」
「って言うかなんであいつらあっちに行けたんだ?」
一転通常運転に戻る野次馬達
「あ奴らはコタローが倒れる瞬間ネックレスを掴んでた事に目ざとく気づいてたんじゃろう」
「でもそれだけだと・・」
今の狐太郎の実力では3人同時召喚は無理である
もちろん憑依させる事は論外である
「そこはほれこの場合は僥倖とでも言おうか、掴んだまま意識を失ったからのぅ。枷が外れたんじゃろう」
「枷が外れた状態だったら内にある魔力量は随一だしね。3人所が10人でも問題ないはずよ」
アムエルの言葉を引き継ぎミルワースが解説する
「でもまだコタローは意識を失ってるんだろう?俺たちは行けないぞ」
「ふふ、アグニスにしてやられたのよ。憑依したから身体は起きた状態になっちゃったしネックレスは掴んでないでしょう」
「あいつ確信犯か!!」
「さすが料理長エグいっす・・」
確信犯的な行動のアグニスに批判が殺到する
「シェリルとアスレーはアグニスと同時期くらいだったから移動できたのね」
「何だかんだて2人とも目ざといからのぅ」
言いながら酢豚をパクつくアムエル
水晶の中ではアグニス達が猛威を振るっていた
「あいつら手加減って物を知らないのか」
「森が火事になったらどうするつもりだ」
「いや、多分抑えてるんじゃないかしら、いくらシェリルが防壁張ってもアグニスの方が上だと思うわ」
「まぁ気持ちはわからんでもないがのぅ。わしだってそっちに行ってれば手加減はせん!!」
「お爺様、あまり怒ると血圧上がりますよ」
「精霊に血圧があるか!!」
酢豚にフォークを突き立て怒りの表情をするアムエルにミルワースが的はずれななだめ方をする
そうこうしてる間にシェリルとアスレーが戻てきて、次いでアグニスが帰ってきた
「あー、少しはスッキリした!」
「アグニスばかりずるいわ」
「だから言ってるだろ、早い者勝ちだって」
「次はみてなさいよー」
悔しさにリベンジを誓うシェリル
アスレーは狐太郎に会えただけで満足なのか、普通に席に着いて食事を始める
「コタローは大丈夫なのか?」
「一応ギリギリで帰ってきたからな。早ければ数時間で目が覚めるだろうよ」
アグニスも席に着き食事を始める
みなも水晶を見ながら食事をしていたが、次第に水晶に映っていた映像が乱れていき何も映らなくなる
「魔力切れだ、要改良の余地ありだな」
「急いで作ったにしては上出来だったな」
「次の物も完成形は頭に浮かんでいる」
「あなたは食べ終わったらとりあえず寝なさい。目の下に物凄いクマができてるわよ」
「な、なに?」
慌てて顔を触るターランだが流石に触っただけではわからない
その慌てっぷりに周囲から笑いが起こる
そんな中1人落ち着いて食事をしていたアムエルは何やら思案顔だ
「どうしたんですか、お爺様?」
「うむ、何やらきな臭いと思ってのぅ。面倒な事にならないと良いが・・・」
アムエルの感は外れたことがない
小さく呟いたアムエルの言葉に気づいたのはミルワースだけだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます