一章 10 馴染みの街

翌朝狐太郎は目覚めるとウェルキン達はすでに起きていた


「おはよう」

「おはようございます」

「ようやく起きたか」

「おはようですぞ」

「おはようございます」

「おはよーございますー」


狐太郎が一番起きるのが遅かったらしい

結構早起きは得意なのだが・・


ウェルキンは武器の手入れをしている

デュラインは若干眠そうだが・・

ロイザードは魔法の練習だそうだ

それを横目にテーブルに着くとメアリーからお茶が出される


『あーお茶が美味しい・・』

「ふふふ、コタロー様お爺さんみたいですね」

『そう?昔からお茶は好きでよく飲んでたからね』


するとメアリーがじっとこちらを見ているのに気づく

それを察した狐太郎はポシェットから残ってた料理を取り出していく


「ありがとうございますー」


歓喜の表情のメアリー

察した狐太郎も凄いが、クリスティアは食欲旺盛すぎる専属侍女に王宮で普通の食事で我慢できるのかいささか不安気味だ


『昨日ほとんど食べたから今日は残りくらいしかないけどね』


匂いに釣られてウェルキン達もテーブルに寄ってきた


「む、朝ごはんですかな」

「腹減った所だったからちょうどいい」


騒がしい2人が寄ってきた所で全員揃い朝食だ


「コタロー、本当にいいのか?」


ウェルキンが食事中のナイフを止めて狐太郎に声をかける


『ああうん、伯爵の所までは一緒にいけないから俺が持ってても仕方ないからね』

「そうか、度々すまんな」


2人が話していたのはポーションの類の話である

無論回復系の物だけではなく、麻痺効果がある物や毒効果にする物なども渡してある

昨晩渡して、用途や効果も伝え済みだ


「コタロー殿は錬金術師としてもかなりの腕をもっているのであるな。機会があれば錬金談義をしたいたものですな」

『あはは、そうだね』

「ロイザード、全部カタが付いたらにしてください。終わったらいくらでも話していいですから」

「う、うむ」


デュラインが真顔でクギを刺す

過去にちょっとロイザードに錬金術の事を聞いたら喜々として3時間拘束されたらしい事を後でこっそり教えてくれた


「とりあえず、街に着いたら情報収集だな」

「そうですね、私とロイザードで行ってきましょう」

「まて、俺は行かなくていいのか?」

「ウェルキンは目立つから却下です。クリスティア様達も危ないので。コタローさんは一緒に行動するのを控えた方がいいと思いまして。ロイザードならコタローからもらったローブもありますし」


デュラインの至極真っ当な意見に歯噛みするウェルキン


「うむ、情報収集は某とデュラインに任せるがよい」

「お前は杖とローブを見せびらかしたいだけだろう」

「む、どうしてわかったのだ?」

「そんだけ杖とローブをモノクル掛けてニヤニヤしながら見てりゃ誰でもわかるわ!」

「その言い方では某が変人みたいではないか」

「十分錬金術に関しては変人だろうがっ!」

「失礼な、ウェルキン殿だって武器マニアの変人ではないか」

「俺はコレクターだ!変人じゃねぇ」

「同じ事ですぞ」

「同じじゃねぇ」


ギャーギャー言い争いをする2人をほっておいてクリスティア達は食事が終わり一息ついている


「それで、街までは後どのくらいなのでしょう?」

「そうですね、普通に歩いて半日掛からないくらいではないでしょうか?」


クリスティアの問にデュラインが狐太郎を見ながら答える


『うん、たぶんそのくらいの距離だと思うよ。その後、街に一泊してから伯爵領へ向かうかすぐ向かうかだけど』

「一泊しましょう」

「わかりました。その分しっかり情報収集をしておきましょう」


軽いミーティングも終わりテーブル等をメアリーが片付けて出発の準備は完了だ


「それでは行きましょうか」


デュラインの掛け声に動き出すクリスティア達

未だに言い争っている2人をスルーして歩き出す

気づいたウェルキン達が急いで追いかけてくる

ロイザードはデュラインに、ウェルキンはクリスティアに窘められ小さくなっている



午前中に森を抜けた一行は、途中昼休憩を挟み歩き続けること数時間、ようやく街が見えてきた


『大きい街だね』


狐太郎がポツリと呟く


「ええ、もう伯爵領から目と鼻の先ですからかぬ。需要があるので自然と発展したのでしょう」


デュラインが説明する


「さて、街に入る前に装備を魔法袋にしまってください。できれば魔法袋も見えないように隠せれば隠してください」

「何故だ?」

「万が一、フリッグ伯爵が裏切っていた場合捕まって牢屋行きになるでしょう。その時携帯している武器は没収されると思います。そして運良く生き残れたとしてもあれだけの武器です。手元には返ってきませんよ」


たしかにそれはある、とウェルキン達は武器を魔法袋に仕舞い込み魔法袋も目立たないよう服の内側に装着する

ロイザードは些かしょんぼりしながら杖をしまう


「魔法袋に関しては恐らく大丈夫だと思いますが・・・」

「用心するに越したことはない、か・・・・」

「そういう事です。では行きましょうか」


全員が武器を魔法袋に仕舞い込んだのを確認したデュラインは街へ歩き出す


「とりあえず私とロイザードはギルドと酒場などを回って来ます。みなさんは宿屋で待機していて下さい」

「宿と言ってもこれだけの規模の街なら複数あるが?」

「・・・そうですね。ならキツツキ亭と言う宿にしましょう。街に入って右に一本裏通りに入った所にあるので」

『詳しいね。以前来たことがあるの?』

「ええ、かなり昔ですがウェルキンと一緒に来たことがあります」


当のウェルキンは覚えていないと首を振る


「以前と同じように3部屋借りておいて下さい」

『わかりました』


そう言うとロイザードを伴い人混みの中に消えていった


『それじゃ俺たちも宿に移動しようか』

「そうだな。クリスティア様行きましょう」


宿はすぐに見つかった

前に泊まった宿と同じくらいか少し大きい感じか

違う所と言えば酒場を兼業してない所だろうか

食堂はあるが宿泊客のみのようだ


「いらっしゃい、泊まりかい?」

『ええ、とりあえず一泊で後から2人来るので6人で3部屋お願いしたいんだけど』

「ああ空いてるよ。晩飯と朝食はどうする?食べるなら小金貨1枚と大銀貨3枚だね」


狐太郎は言われた金額を渡す


「はい、丁度だね。これが部屋の鍵だよ。部屋は2階の階段上がって手前から3部屋だ」


ありがとうと鍵を受け取り部屋へ向かう

今回はクリスティア達を真ん中の部屋にして左右を狐太郎達が固めるようにした

そしてとりあえずは狐太郎の部屋へ集まる


「パッと見た感じ街は普通だったように見えるな」

『でもなんかピリピリした感じがしたよ』

「わかるのか?」

『フェアリー達が騒いでたんだ』

「警戒した方が良さそうだな・・」

「何事も無いのが一番いいんですが・・」

「まぁここで話してても仕方ない。デュライン達が帰ってくるのを待つか」

『そうだね。所でフリッグ伯爵ってどんな人なの?』


狐太郎がそれとなく話を振ってみる


「そうですね、最近は会っていませんでしたが真面目で義理堅い人ですね。そして領民からも慕われていると聞きます」

「仕事一筋だな。逆に謀は嫌いで根が真面目だ」

「メアリーはどうですか?」


クリスティアとウェルキンがそれぞれの意見を言う

メアリーは黙っていたのだがクリスティアに話を振られて渋々話す


「領主様は素晴らしい方だと思います。わたしにも気を使ってくれますし・・」

「何かあったのか?」

「この場は我らしかいない。話してみろ」


歯切れの悪いメアリー


「ダムル様・・あの方は苦手です。人を値踏みするような粘つく視線とか・・人を見下したような態度も苦手です」


聞かれれば不敬罪になりかねない発言だが、咎める者はおらず同意する2人


「たしかに偉そうな態度だったな」

「あぁ、それはわかります。正直私も苦手でした。絡み付くような視線がなんとも・・」

『そのダムル様ってのは?』

「フリッグ伯爵の兄だ。権力にやたら執着する人でな。以前はフリッグ伯爵ではなくダムル様が領地を継いでいたんだ」

『何か原因が?』

「領地の民から信用が得られなかったんだ」

『それは・・』

「重税に次ぐ重税。自分は贅沢三昧、上には遜り、下にはやりたい放題」


なんともダメ貴族代表のような人である


「んで爆発した民が一斉蜂起、鎮圧させる所か自分だけさっさと逃げ出そうとして兵士達にも呆れられ、捕まった」

『よく生きてたね』

「フリッグ伯爵の温情だろうな。民は納得しなかったがフリッグ伯爵の説得でなんとか収まったんだ。んでダムル様は別邸に半ば幽閉状態になっている。現在のフリッグ領はフリッグ伯爵の良政で持ち直しつつあるらしい」

『なるほど、なら信用はできそうだね』

「ああ、何かやってくるならダムル様の方だが幽閉状態では何もできないだろうよ」

「どうやらそう簡単には事は行かなそうですよ」


ドアを開けて入ってきたデュラインは開口一番話し出す


「どういう事だ?」

「フリッグ伯爵領でダムル様を外で見かけたといくつか報告が上がっています」

「なに?幽閉されてるんじゃないのか?」

「わかりません。しかし警戒はした方が良いでしょう」

「他は情報がないですね。情報封鎖されてるみたいですよ」

「面倒な・・」

『そうなるとフリッグ伯爵が心配だね』

「街には私達の手配書とかは出回ってませんでしたね」

「そこまで愚かではないと言うことか・・」

『でもどうする?フリッグ伯爵じゃなくダムルって人だったら捕まりに行くようなものじゃない?』

「たしかに。しかし情報封鎖のせいで領地の情報は入ってきません。街に居ても有益な情報は得られなさそうです」


デュラインはクリスティアを見る

最終判断はクリスティアが決めるのだ

それが困難でも茨の道でも着いていく

ウェルキン達の気持ちは変わらない


「フリッグ伯爵様の所へ行きましょう。ここまで来て引き返す時間もありませんし、他に良案があれば別ですが・・」

「恐らく私達が街に来た事も知られてる可能性もありますしね」

「わかりました。我らどこまでもお供しますぞ」


決意新たにウェルキン達は頷く


「さて、とりあえずは食事にしましょうか?そろそろ晩御飯ができてる筈です」

「詳しいな」

「この宿にも昔お世話になりましたからね。いわば常連って奴ですよ。一階の食事処も宿泊客にしか使われてないので余計なトラブルも避けれますしね」

『流石ですね』


行きましょうとデュラインに促され、一階に降りる一行


「おや、デュラ坊晩御飯かい?」


降りると女将が声を掛けてくる

それにしてもデュラ坊って・・もっと違う略し方があると思うが


「そのデュラ坊って辞めてください。もう成人してますから。食事は準備できでますか?」

「もう成人したのかい?でもまぁあたしから見りゃいつまでたってもデュラ坊はデュラ坊さね。料理はすぐに出せるよ」

「それではお願いします」


あいよと活きのいい返事をして後ろに下がる女将を尻目に6人テーブルに着く一行


「なんだデュライン、知ってる店か?」

「ええまぁ、生まれがこの地方なのでね」

「なるほど。勝手知ったる?か」

「と言っても幼少の頃でしたから」

「だからデュラ坊か。ぷくく・・」


見ればウェルキンやメアリーは笑いを堪えて小さく震えている

クリスティアはさすがに声に出して笑っていないが満面の笑顔だ

これは後後までからかわれそうだと内心ため息をつくデュライン


「おまたせ!」


女将が料理を運んできた

デュラインが懇意にしてるだけあって豪勢だ


「それとデュラ坊、湯浴みもできるから準備ができたなら声をかえておくれ」

「ありがとうございます」


言うなりさっさと女将が下がる

他の客にも料理を出さなきゃ行けないのでゆっくりしてる暇はないのだろう


「それではいただしましょう」

「「「いただきます」」」



食事を終え、湯浴みも済ませ再び場所は狐太郎の部屋

すでに溜まり場的な感じになっている


『とりあえず俺はここまでだね。明日からしばらくお別れになるね』

「そうだな。と言っても無事に事が進めばだけどな」

『うまく行く事を願ってるよ』

「本当に今まで助けて頂いてありがとうございます」

『いや、何度も言うけど気にしないでください。自分では大したことしたとは思ってませんから』

「しかし・・・」

『それに今生の別れってわけでもないんだから堅苦しいのはやめにしましょうよ』

「・・そうですね」

『うまく事が運んだらまた宴会やりましょう。うちの村で』

「な、なんだと!?」

「某も行っていいのか?」

「ほんとですかー?」


ウェルキン、ロイザードさらにメアリーまで狐太郎にずずいっと詰め寄っている

デュライン呆れクリスティアだけは落ち着いている

クリスティアは嬉しそうだが


『ああ、うん。多分大丈夫だと思う』

「おとぎ話でしか知らない伝説の精霊達の村にいけるとは・・」

「必ず生きて帰らなくては」

『大袈裟だなぁ』

「狐太郎殿、大袈裟ではないのですぞ。文献にもここ数十年精霊を召喚できる召喚士は衰退し、さらに数百年は精霊の村を発見した者はいないのですから」

「一節では人間に愛想を尽かしたとも言われているからな」


狐太郎はうーんと首をひねり悩む


『(そんな奴らじゃないと思うけど帰ったら聞いてみよう)』

「私は精霊様に会えるのが楽しみです」

「クリスティア様、その辺の話をちょっと詳しく・・」

「ふふ、いいですよ。どこから話しましょうか・・・」


みなクリスティアの話に耳を傾けている

些かはしゃぎっぷりの様な気がしなくもないが、明日からそんな暇はないのだ

今日くらいはいいのではないかと思える


夜も遅いので寝ようと部屋を出かかるが、今いる部屋が自分の部屋だと気づき苦笑する

楽しく談笑するクリスティア達の邪魔をしないようにソーっと部屋を出た



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