一章 8 素性
光の発生源は狐太郎の倒れていた場所だ
そこに佇む1人の人物
さらに後ろに佇む影2つ
その1人、外見は狐太郎のそれなのだが雰囲気が全く違う
髪の色は燃えるような真紅の赤に変わっており、怒りを表すように逆だっている
何より周囲の温度が上がっていて、周りの温度のせいなのか、狐太郎が蜃気楼のように揺らめいて見えている
後ろに立つ1人は身長や外見の年齢は狐太郎と同等くらいで、ガッシリした体格に浅ぐろい肌、短く刈り上げた髪に幼い顔
そしてもう1人は狐太郎より少し身長は高いだろうか、綺麗なエメラルドグリーンの長髪を後ろで束ね踊り子のような格好をした女性だ
2人共狐太郎の無事に安堵しながらもここまで追い詰めた相手に怒りをあらわにしている
辺りを見渡しながら狐太郎の外見を持つ人?が口を開く
「どうやら間一髪って奴だったか?今回は意識を失って枷が外れたのが幸いしたな」
「間一髪だったのはあなたのせいじゃないアグニス」
「わはは、そうだったか?まぁ間に合ったんだからいいじゃねぇかシェリル。王女様達も無事みたいだしよ」
「というかドサクサに紛れて憑依するとかずるくない?」
「こういうのは早い者勝ちだ!」
ウェルキン達も黒装束達も何が起こったのかわからず唖然としていたが黒装束達は今の会話で王女側だと判断したようだ
「王女側の人間か。どうやってここに来たか知らんが遅かったな」
驚き固まっていたリーダー格の男が我に返り未だ自分達の優位性を主張する
たしかにアグニス達が立っている場所からクリスティア達の場所までは距離があり、クリスティア達の側には剣を持ったリーダー格の男が立っている
優位だと主張するのもわかろうと言うものだ
さらに魔法を使おうにも詠唱にも入っていない状態では間に合わない
普通の人間ならば
「こ、コタロー殿?なのか・・・」
「ん?あーあんたら王女様の護衛か。うまく合流できたんだな。話は後だ。シェリル、怪我人の治療だ。俺は黒ずくめにコタローを傷付けた報いを味合わせてやる」
「あ、ずるい。私だってコタローが傷付けられて怒ってるんだからね」
「俺は治癒系は使えん」
「もう・・・!」
プンプンと可愛く怒りながらシェリルはウェルキン達へ、アグニス?はクリスティア達に向けて行動を開始する
「だから遅いって言ってるんだ!」
アグニス?が行動を開始した直後、剣がクリスティアに振り下ろされる
瞬間クリスティア達は死を覚悟し目を瞑る
しかしそれは訪れなかった
クリスティア達が恐る恐る目を開けると目の前には土の壁がそびえ立っていた
「なっ!?」
「アスレーいいタイミングよ」
「む、無詠唱だと?」
「ばかな!聞いてないぞ」
無詠唱魔法の使い手はほぼ衰退していないのだ
ただクリスティア達だけはその使い手に覚えがあった
「せ、精霊様?」
「おう!積もる話は後だ」
アスレーは頷きシェリルはドヤ顔、アグニスはしてやったりの顔だ
精霊の助っ人にクリスティア達は安堵と感謝の涙を流す
シェリルはその間にウェルキン達の傷を癒していく
「精霊だと?まさかそいつか精霊使いだとでも言うのか」
「貴様に話してやる義理はねぇな」
「アスレー、王女様達に危害がいかないように壁で覆ってね」
「少しは加減をしろ」
「コタローに害なす奴に加減する必要ねぇだろ」
「それもそうか。王女様達、ちょっと窮屈かもしれないけど少し我慢してくれ」
言うが早いかアスレーは片足のつま先でトンと地面を叩く
すると一部が隆起しクリスティア達はドーム状の土壁に覆われる
「くっ・・・撤退だ」
「逃がすかよ!」
それを見て叶わないと判断したのか撤退を選ぶ黒装束達
しかし続いて黒装束達の退路を断つように土壁が立ちふさがる
そして退却しようとする黒装束達にアグニスは手のひらを向ける
するとゴウッという音と共に紅い竜巻が発生する
それは一瞬で黒装束達を飲み込んだ
黒装束達は断末魔の悲鳴さえもあげれぬまま骨も残らずこの世から消え去った
「アグニスやりすぎ!森が火事になったらどうするつもりよ」
「それをシェリルが燃え移らないよう風で調整してくれたんだろ?」
計算ずくだと豪快に笑うアグニスにシェリルはプイっとそっぽを向く
「アスレー終わったわ」
シェリルの合図にアスレーが再びつま先で地面をトンと叩き土の壁を解く
ウェルキン達は周囲の惨状と黒装束達がいない事に驚きつつも、我に返りクリスティア達の方へ駆け出す
「クリスティア様、お怪我は御座いませんか?」
「ええ、大丈夫。精霊様が助けてくれたから」
クリスティア達は改めて精霊達に視線を移す
「色々説明してやりたいが、時間がねぇ。今のコタローにはキャパオーバーだからな。だから説明は起きてからコタローがするだろうよ」
「わかりました。感謝します」
「おう!あんたらもコタローと仲良くしてやってくれ」
言われウェルキン達は首を縦に振る以外にない
なんせ伝説と言われている精霊が3人
コタローをよろしくと言っていて断れるはずもない
「そろそろ危ないわね。私は先に帰るわ」
「俺も退散する。久々に会えて良かった」
言うなりシェリルとアスレーは姿が消えていく
「さてと、んじゃ俺も退散するわ。しばらく寝たままかもしれないが特に問題はない」
「はい。ありがとうございます」
深々と頭を下げるクリスティア一同に満足そうに頷いたアグニスは地面に座り込む
そして狐太郎の身体から抜け出しそのまま消えてしまった
恐る恐ると言った感じで近づくウェルキン達をよそにクリスティア達は狐太郎へ駆け寄り状態を確認してホッとする
「傷が全部治ってます。さすが精霊様ですわ」
「我らの傷も瞬時に治してくれた。精霊と言うのはああも凄いものか・・」
ウェルキン達は初めて見る精霊の凄さに言葉がでない・・
「とりあえずここに長居するのは良くないでしょう」
「でもコタロー様が・・」
移動したいのだが、狐太郎は声を掛けても揺すっても起きない
「ちっ・・仕方がない。俺が背負っていく」
「ウェルキン?いいんですか?」
「構わん。この中で一番力があるのは俺だからな」
言うがいなや狐太郎を背中に背負って歩き出す
残された4人はしばらく顔を見合わせていたが苦笑と共に歩き出した
「素直じゃないですねウェルキンは」
「何だかんだでコタロー殿を認めたのだろう」
「無駄口を叩いてるヒマがあれば歩け!」
4人のひそひそ声が聞こえたかは定かではないがウェルキンは憮然とした表情を浮かべながら黙々と歩く
そして日も暮れる頃、野営場所に到着する
未だに寝ている狐太郎を余所にウェルキンは薪を拾いに行った
食料や薪などは狐太郎のポシェットの中だ
それにいち早く気づいたのはメアリーだった
こんなことなら保存食くらいはもらっておけば良かったと後悔しても後の祭りだ
それに気づいたデュラインは食事の為の狩りをしに出かけた
弓を持っていったので上手くいけば食事にありつけるだろう
薪を拾ってきたウェルキンは手慣れた感じで火をおこす
メアリーは魔法袋からテーブルを取り出し、次いで取り出した鍋に水を満たしお茶の準備をする
そしてお湯が沸く頃、デュラインが片手に獲物をぶら下げて戻ってきた
「おかえりなさいデュライン。どうでしたか?」
「ええ、この通りです」
左手には山菜だろうか、右手に持っていた獲物を軽く持ち上げて見せる
ウサギより二回りほど大きなラットだ
この世界ではポピュラーな動物で、小さいながらも真っ直ぐな一本角が特徴だ
そして肉はもちろん毛皮も角も需要がある
「よくラットなんか狩れましたね」
「弓がなければ無理でしたよ。罠を張る時間もなかったですし。すばしっこくて時間がかかってしまいました」
「もうお腹ペコペコです~」
相変わらず食欲旺盛なメアリーが急かす
「ではちょっと向こうで解体してきます」
と、デュラインは手早く山菜を鍋に投入し、ラットを手に野営場所からやや離れた場所へ移動していった
それを見送ってから、クリスティアは眠っている狐太郎へ視線を移す
心配そうに見つめるクリスティアにロイザードは声を掛ける
「先ほどの精霊殿の言葉を信じましょうクリスティア様」
「・・・そうですね」
「しかし精霊殿はクリスティア様を知ってるようでしたが・・・?」
「はい、それについては狐太郎さん起きてからお話します」
「なるほど、分かりました。話づらかったら話さなくても構いませんぞ」
「いえ、大丈夫です」
「あ、デュラインさんが戻ってきましたー」
黙って聞いていたメアリーがいち早くデュラインが戻ってきたのに気づく
「お待たせしました」
捌き終わったラットを鍋に投入する
そしてウェルキン達の所で座る
「さすがに今日は疲れましたね・・・」
「ああ、まさかあんなのが出てきた上に刺客の二段構えだとはな」
「武器も次の街で調達しなければなりませんが、慎重に行かなければいけませんね」
さすがの護衛3人衆も今日の騒動は疲れたらしい
しばらく誰も喋らず沈黙がつづく
ぐぅ~
「あう・・・」
それを破ったのはメアリーのお腹の音だった
「ふふ、メアリーは仕方ありませんね」
「すす、すいません」
さすがに恥ずかしかったのか顔を赤くしている
「まったく・・相変わらず空気を読まんなメアリー殿は」
「それで救われることも多いのでよしとしましょう」
「そうであるな」
いいながらデュラインはそれぞれの椀に先ほどのラットの煮込みスープをよそっていく
「味がしないですー、量が足らないですー」
「今回は我慢してくれ」
「うぅ・・」
心の涙をダバダバ流しながらもしっかり食べているメアリー
おかわりまでしてすでに3杯めだ
他のメンツは食欲がないのか美味しくないのか1杯しか食べてない
「この後の最初の見張りは俺がする。2人は先に休んでくれ」
「大丈夫ですか?疲労は私よりウェルキンの方が溜まってるでしょう」
「問題ない」
「それに武器もないのにどうやって見張りするつもりですか?」
「うっ・・それを言うなら貴様だって似たようなもんだろうデュライン」
「そういう事なら某が見張りに就こう」
「大丈夫ですか?見たところロイザードも疲れてるように見えますが」
「魔法という攻撃手段があるだけ貴殿らよりましであろう」
「しかし・・・」
そんな言い争いをしていると、眠っていた狐太郎が目を覚ました
『ん・・ここは?』
狐太郎の声に一同が振り向く
ウェルキン達はしばし固まる
まだあの精霊が憑依してるんじゃないかと迂闊に口を開けない
そんな中クリスティアが動き出した
「ここは野営場所ですよ。気分はどうですか?」
クリスティアがお茶の入ったコップを狐太郎に渡しながら聞く
『ありがとうございます。少し頭がボーっとしますね』
お茶を飲み干し一息付く
『あれからどうなったんですか?みんな無事だということは撃退できたのでしょうか?』
「狐太郎殿は何も覚えてないのですか?」
『??何人か撃退したのは覚えてますがその後意識が無くなりましたから・・・』
「そうですか・・何から話せばいいですかね」
・
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・
・
・
『そうですか・・』
話を大方聞いた狐太郎はため息を付く
まさかアグニス達が召喚されたとは思ってなかった
しかも自分に身を落としてた(憑依)なんて
どうりでウェルキン達の様子が少しおかしかったわけだ
狐太郎は意を決したようにみんなを見回す
『ちょっとこれから話すことはなるべく他言しないでほしいんだけど・・』
「それはクリスティア様にも関わってくることなのか?」
『んー、そこまでじゃないけど少しでもリスクは減らした方がいいと思う』
「・・・わかった。他言しないよう誓う」
そして狐太郎はクリスティア達と出会ってからの事を説明していった
・
・
・
「まさかほんとにそんな村があるとは・・・」
「しかしクリスティア様達の装備品を見るに頷けますね。狐太郎殿自身もそうですが」
「国の上層部が知ればこぞってこの森へ押し寄せて来るだろうな・・」
「しかも他国に知り渡ればそれこそ戦争が起きかねん」
「改めて他言しないよう誓おう」
「しかし精霊達の住む村か。機会があれば一度は是非行ってみたい場所だな」
「クリスティア様達が羨ましいですな」
「狐太郎さんは私達の救世主です」
「メアリー殿は主に食の方でであろう」
「王宮に戻った時に我慢できるかが問題ですね」
「ちょっ・・そんなことはありません~」
何故か狐太郎を抜きに盛り上がる一同
「改めてこれまでクリスティア様達を守ってくれたことには感謝する」
そしてウェルキンがいきなり狐太郎へ向き直り頭を下げた
これには一同ビックリしている
デュライン等は「あのウェルキンが・・・」なんて固まっている
それ以上に驚いてるのが狐太郎だ
まさか自分に良い感情なんか持っているはずがなく、当たりもキツいウェルキンがなんの冗談か狐太郎に頭を下げている
「何を固まっている!!」
『あ、いえまさか謝罪されるなんて思ってなかったもので・・』
「ふん、クリスティア様を今まで守ってくれた事は事実だろうからな」
頭を上げたウェルキンは恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった
「デュラインよ、これは貴重だぞ。王宮に帰ったら皆に知らせねば」
「そうですね。あの頑固なウェルキンが人に、一般人に謝罪するなんて明日は空から槍でも降るんじゃないでしょうか」
「お前ら・・・俺だって頭くらい下げる。それがクリスティア様の為なら尚更だ」
漫才みたいな事を始める3人
良くも悪くもクリスティア第一主義は変わらないらしい
それでも多少は変化があったのか狐太郎に対して多少は丸くなったのかもしれない
そんな3人のやりとりを見ていた狐太郎はクリスティア達を助けて良かったと実感していた
この先が困難な道でも何物にも代えがたい物であること言う事を感じ取っていた
「さて、そろそろ某は見張りに付くので皆はゆっくり休んでくれ」
『あ、ちょっと待って下さい。見張りは必要ありません』
「どういう事であるか、コタロー殿」
『これを使います』
狐太郎はポシェットからビー玉くらいの透明な玉を取り出し地面に落とす
野営場所を中心に結界が張られていく
「これは・・結界か。しかもなんて強力な・・・」
『これで見張りの心配はいりません。みなさんも疲れているようですしぐっすり眠りましょう』
「相変わらず規格外ですね。ですが助かりました」
「そうだな、全員が休めるというのは大きい」
「ここからなら後半日も歩かないうちに街へ着く。後少しだ」
「それで提案なんだが・・」
「なんですかウェルキン?」
「コタローとは次の街で別れた方が良い」
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