一章 7 黒い暗殺者
ウェルキンはリーダー含む3人とにらみ合っている
「たった3人でいいのか?」
「安い挑発なんかには乗らん。手負いの側付き護衛なんぞ3人で十分だろう」
「その言葉後悔させてやる」
言うなりウェルキンから仕掛けると黒装束の一人がウェルキンに予備動作なしで突きを繰り出してきた
舌打ちしながら咄嗟に首を捻り最小限の動作でかわすと片手剣を相手の首目掛けて振るうが黒装束の男はしゃがみ込んでかわす
そのまま下からすくい上げるような斬撃を放つ黒装束に真っ向斬り下ろした片手剣がぶつかり火花を散らす
「雑魚かと思ったら動けるじゃねえか。黒いの!」
「・・・」
しばらく鍔迫り合いをしていると視界の端にもう1人の黒装束が接近してくるのがみえた
ウェルキンは鍔迫り合い状態から力を抜き相手に押されるまま仰向けに倒れ込み、巴投げの容量で下から右足を蹴りあげた
蹴られた黒装束はウェルキンの頭上を一回転しながら通り過ぎる
その間立ち上がり接近してきた黒装束と切り結ぶ
リーダー格の男は動かない
「その余裕面を今すぐ消してやる!」
リーダー格をチラ見し憎々しげに吐き捨てると切り結んでいる黒装束に大上段からの袈裟斬りに斬りつける
黒装束は一瞬で防御体制を整えると剣を上に構える
それが黒装束の人生の終わりを決定付けた
「うおおおおおおお!!」
渾身の一撃を込めて振り下ろすウェルキンの斬撃は剣を構えた黒装束事真っ二つに切り裂いた
血飛沫をあげながら倒れる黒装束
そして振り下ろした剣を中心に衝撃波が発生し近づこうとしていたもう1人の黒装束も近づけない
受け止めないで範囲外に回避すれば結末は違ったものになっていたかもしれない
ゆらりと立ち上がるウェルキンに黒装束の男はたじろぐが、後ろから放たれるリーダー格のプレッシャーに押され決死覚悟で特攻する
ウェルキンは黒装束の必殺の一撃を受け流すと片手剣を両手で握りフルスイングするように横に薙ぐ
両手の力で横に薙がれた片手剣は耐えきれず途中で折れてしまうが黒装束の胴を2/3ほど薙いでいるので結果は変わらない
ドスっ
「ぐはっ・・」
ウェルキンが不意に口から血を吐く
黒装束の男はすでにこと切れている
目線を下に移すと黒装束の胸辺りから剣が生えている
それがウェルキンの脇腹に刺さっている
「な、んだと・・」
ズルりと剣が抜かれると黒装束とウェルキンは支えを失い倒れる
「油断大敵ですねー」
血塗られた剣を右手に提げリーダー格の男は笑う
「くそったれが・・」
まさか味方を盾に隠れ蓑にするとは・・
それを見上げる事しかできないウェルキンはそう呟くので精一杯だった
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狐太郎は5人に囲まれていた
それぞれ襲いかかる斬撃を狐太郎は流れるような体さばきでかわしていく
通常5対1にもなれば全員が一斉にかかる事はない
が、黒装束達は連携が取れていて、誰の動きも阻害せず狐太郎に息付く暇さえ与えずに絶え間なく攻撃を続けている
狐太郎はそれをかわし、あるいは刀で受け流しながら戦っている
かれこれ5分近くはこの攻防が続いている
黒装束達は4人でかかり、ローテーションで入れ替わり立ち代わり狐太郎を攻め続けている
『くそっ!このままじゃ埒があかない』
焦る狐太郎を余所に黒装束達は顔色1つ変えずに攻め立ててくる
疲労は相手の方が少ない上に1人は範囲外から牽制してくる
いずれ疲れから致命的な隙ができるのは時間の問題だった
狐太郎が地面の落ち葉に足を滑らせる
『うわっ・・・』
流れるような動きが止まる
黒装束達は好機と見て一斉に襲いかかる
『っ・・!弐ノ太刀、旋風刃』
狐太郎が旋回すると衝撃波のようなものが発生し黒装束達が血飛沫をあげながら吹き飛ばされる
衝撃波が収まると狐太郎に襲いかかって来ていた黒装束4人は地面に伏していた
1人はゆっくりながら立ち上がるが至る所に切り傷や裂傷がある
起き上がってこない黒装束達はおそらく即死だろう
『くっ・・・』
しかし狐太郎も無傷では済まずその場に膝を付き刀も落とす
反撃が一瞬遅れ、かわしきれずに黒装束達の剣が狐太郎に届いていたのだ
肩と左腕に酷い傷、意識が飛びそうだがここで意識を失うと待ってるのは死だ
必死に意識をつなぎとめようとするも次第に瞼が重くなる
テュランベアールとの連戦もあり疲労は限界だ
近づいてくる黒装束の男2人
刀を探し掴もうとするも視界がぼやけてわからない
右手で何かを掴もうとするが掴めたのかさえどうかわからず意識は闇に落ちた
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デュラインはクリスティア達をかばいながら戦っている
ウェルキンと狐太郎に向かわなかった2人がこっちに向かってきていた
側にはロイザードが控えているのでそこまでは心配していないがウェルキンや狐太郎が心配だ
特に狐太郎は4人総掛かりの攻撃をかわし続けている
反撃に移れる隙はなさそうだ
これは何としても援護に向かわなければならない
しかし近距離武器が短刀だけではいかんともし難い
ロイザードの効果的な魔法のおかげで致命的な攻撃は受けてないがこのまま膠着状態はまずい
ちなみにクリスティア達は杖を持ってはいるものの、改めて近くで浴びる殺気に震えて縮こまっている
ロイザードをどちらかの援護に回すとクリスティア達に被害が行く
せめて万全の態勢であれば・・・
まさか相手がここで仕掛けてくるとは思わなかった
こんな場所でテュランベアールが出てきた時点で怪しむべきだった
悔やんでも悔やみきれない
デュラインはウェルキンのように剣一本で上り詰めたわけではない
どちらかと言えば剣は苦手な部類だ
弓の方が適正はあるだろう
だが護衛ならば苦手などと言ってられない
どちらか片方だけなら護衛には選ばれなかっただろう
剣と弓、そして頭を使うことでデュラインはクリスティアの護衛に付けた
接近戦闘では無類の強さを誇るウェルキンがいるからこそ遊撃ポジションでデュラインは本領発揮する
逆に言えば真っ向勝負や小細工なしの対決には弱い
ウェルキンが敵を引きつけてデュラインが隙を突き、ロイザードが遠距離攻撃&補助、バランスは良かった
言いかえれば可もなく不可もなくだ
特化した人間がいないだけだ
それに数で押されれば関係なくなる
しかも相手は手練だ
デュラインは2人がかりの攻撃を短刀だけでいなす
そのうちの1人がデュライン取るに足らずと判断したのかクリスティア達へ駆け出す
「くっ!しまった」
援護に向かおうにも相手に邪魔をされて動けない
そして焦るデュラインは相手の攻撃を次第にかわせなくなり足に攻撃を受け膝をつく
深い傷ではないが力が入らない
ウェルキンを見ると地に伏している
側に2人倒れているから倒したのだろうがリーダー格の男は無傷で立っている
次いで狐太郎の方に視線を移すと狐太郎も倒れている
周りには3人倒れた黒装束、立ってる1人は無傷で1人は重症だ
そして自分も満足に動けない
一気に絶望的な感情が押し寄せてくる
「ロイザード!クリスティア様達を連れて逃げてください」
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クリスティア達はウェルキン達が戦うさまを、そして倒れていくさまをずっと見ていた
黒装束達が現れてから、特にリーダー格の男の凄まじい殺気に身体が震えて動かない
「クリスティア様、お逃げください」
「ろ、ロイザードはどうするのですか?」
「私はクリスティア様達が逃げる時間を稼ぎます」
「・・そんな」
「私もクリスティア様の護衛の1人ですから」
言いながらロイザードは杖を構える
魔力はほぼ空だ
だが盾くらい、時間を稼ぐくらいはできる
ロイザードは今は魔法使いとしてクリスティアの護衛に付いているが元来錬金術師で研究ばかりしている男だった
それが友人のデュラインに連れ出され何故かクリスティアの護衛に付くことになった
魔法に関しては素質はあったが、研究の方が好きだった
「こんな事になるならもっと魔法の練習をすればよかった」
そう独りごちる間に黒装束達が近づいてくる
ウェルキンも狐太郎も倒れているが死んではいない
殺す優先順位がクリスティアが先なだけでクリスティアを始末し終えたら殺されるだろう
ならば逃がす以外にない
3人では逃げきれない
誰かが囮にならなければ、誰が囮に?
決まっている、自分だ
間合いに入る黒装束にロイザードは杖を叩きつける
素人でもわかる弱い一撃
黒装束は難なくかわすと邪魔だと言わんばかりに袈裟斬りに切りつける
その一撃は杖ごとロイザードを斬った
小さなうめき声をあげ血飛沫と共に倒れるロイザード
杖のお陰で威力が半減し致命傷にはなってないがさすがに動けない
今や黒装束達とクリスティア達を塞ぐ障害は何もない
「貴様らはまだ殺さん。王女を殺してから寂しくないように順番にあの世に送ってやる」
クリスティア達は恐怖で足が竦み立ってられない
リーダー格の男が近づいてくる
「あんたに恨みはないがこれも仕事だ」
クリスティアは立ち上がれないまでも目に強い力をたたえて相手を睨む
「こんな時でもそんな目ができるなんて空恐ろしいな、まぁでもこれで終わりだけどな」
リーダー格の男が剣を振り上げる
クリスティア達は抱き合ってギュッと目を瞑る
男が剣を振り下ろす瞬間
後ろから目も眩む程の光が立ち上る
黒装束達はとっさの光に目をやられる
無事だったのは後ろ向きだったリーダー格の男と目を瞑っていたクリスティア達だけだ
リーダー格の男も何があったのかわからず光があった方を振り返る
光が収まりクリスティア達も恐る恐る目を開ける
「あ・・・」
誰かが小さくつぶやいた
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