一章 5 素直じゃない?

しばらくしてウェルキン達が買い物から帰ってきた


買った物は回復系のポーションなどで他は全部クリスティアやメアリーの物でウェルキン達は本当に付き添いだけだったらしい

途中ロイザードが購入しようとしたものもあったようなのだが、ウェルキンに「奴の金なんかで物が買えるか」だそうだ

狐太郎からのお金だとバレたらしい

バラしたのはメアリーらしいのだが・・


戻ってきてからは全員で食事だ

晩御飯は店主が任せとけと豪語するだけあってそれなりに美味しかった

ただ基本焼くと煮るしかなかったのだけど

マッドボアの肉も初めて食べたのだがこれも美味しかった

脂身が少なくて食べやすく、クセもなくパクパク食べれた

メアリーなんかは「コタロー様の料理の方が美味しいです~。うな重が食べたいです~」と嘆きながらもマッドボアのステーキを2キロは食べていたはずだ


クリスティア所望の湯浴みは大きな桶を借りてできた

桶に水を張り(水はメアリーの水魔術で張った)狐太郎がポシェットから赤色の火の魔石を取り出し水に沈めると数分で温かくなる

ちなみに魔石は格子で覆われている

簡単に言えば格子状の小さい牢屋に魔石が入っている感じだ

格子は火傷防止だそうだ

そしてその格子の天井部分にダイヤルが付いていて温度調節ができると言う

これにはみんなが目を丸くしていて、ロイザードなんかは「譲ってくれ」と言われどれだけ凄いか熱弁しだした

そんなに凄いのだろうか・・


本当はお湯を出す生活魔術もあるらしいのだが、王宮では不要だったのでロイザードは覚えてないそうだ

そしてクリスティア達とウェルキン達もサッパリした所で情報収集の結果と今後の話だ


「とりあえずこの街ではさほど有益な情報は得られませんでしたね。王都に関する情報は特に・・ラグアニアの首都からもフリッグ伯爵の領地からも離れているので仕方ありませんが。ちなみに我々にお尋ね者や賞金首等はかかってませんでした」

「フリッグ伯爵領の情報も特になかったな」


ギルドにも有益な情報はなかったようだ

賞金首等に関しては現在クーデターの主導を握っているクリスティアの兄らがもしかしたら捕えるために賞金をかける可能性もあったのだが杞憂だったらしい

もっとも王都に近い街などではわからないが


「なるほど。ではこの街に長くいる必要はなさそうですね。明日の朝にでも出発しましょう」


クリスティアの言葉にみんながうなずく


「他には何かありますか?なければこのまま解散で構いませんか?」


クリスティアが周りを見回すが特に何かあると言う人はいない


「ではこれで終にしましょう。明日からも大変だと思いますがよろしくお願いします」


クリスティアの言葉で男性陣は各部屋に戻る

ウェルキン達は一応交代で見張りに付くようだ

狐太郎が言われないのは遠慮されてるのか信用されてないのか


狐太郎が部屋に戻りベッドに腰掛け考え事をしていると部屋の扉をノックする音が聞こえ、狐太郎が促すと入ってきたのはウェルキンだった


「夜分に悪いな」


相変わらず狐太郎と話す時は不機嫌そうな表情だが、目は真剣だった


『いえ、まだ眠るつもりはありませんでしたから』

「そうか。少し時間もらっていいか?」

『ええ』


狐太郎が椅子をすすめるがウェルキンは立ったままで構わないそうだ


「昼間は色々邪魔があって話せなかったが今なら邪魔は入らんからな。さて、改めて問うがお前は何者だ。クリスティア様に近づく目的はなんだ。金か?地位か?名誉か?」


矢継ぎ早に質問をする

昼間はデュラインやクリスティアがいるからあまり強く聞けなかったのだろう


『うーん、別にどれでもないんですよね。クリスさ・・クリスティア様を助けたのはほんと偶然だし。最初は丁度盗賊達に襲われている所に出くわして、見捨てたら寝覚めが悪いって事で助けただけですよ』


クリスティア達が聞いたらショックを受けそうな言葉だが、最初はほんとにそう思った

ウェルキンに変に取り繕っても逆に怪しまれると思い正直に話しているに過ぎない

これがデュラインやロイザードだったらもう少し言い方を変えたりオブラートに包んだ言い方をすると思うのだが

ウェルキンはその言葉にしばらく狐太郎を見つめていたが嘘はないと悟ったのか小さく舌打ちをする


「ふん、嘘は言ってないようだな、では次だ。あの高価なローブや杖はどうした?お前は見た感じ魔術を使うようには見えん」

『前にもいった通り俺が住んでる村で作ったものですよ。後は今までのてんせ・・冒険で得たマジックアイテムです。使えない俺が持ってるよりも誰かに使ってもらった方が道具も喜ぶでしょう』


嘘はいっていないが本当も言っていない


「なるほど、冒険者か。しかしそんな高価な物をホイホイ他人にやったりするな。怪しまれる」

『伯爵領に送る時に足でまといにならないよう装備を与えただけですよ。でも今後は自重します』


狐太郎の素直な物言いに呆気にとられるもすぐに顔を引き締める


「とりあえず敵ではない事はわかったが、俺はまだ信用していない。あとクリスティア様に気安く話しかけるな。本来ならお前みたいな平民は間近で接する事すらできないのだ」

『わかりました。ではこれからはウェルキンさん達を通してクリスティア様に進言しようと思います』


少しは言い返してくるかと思ったらこれまた素直に承諾する狐太郎に内心驚くウェルキン


「ウェルキンでいい、呼びすてで構わん。・・ふん、つまらん奴だ。用はそれだけだ。邪魔したな」


言い終わるやいなやすぐに部屋を出ていくウェルキン

しかし扉を閉める前にその手が止まる


「俺はお前より劣ってるとは思わん」


捨てゼリフ?を言い扉を乱暴に閉めていった

おそらく初対面で狐太郎に斬りかかった際にデュラインに止められた件だろう


『負けず嫌いか』


誰もいない扉に向かって静かに突っ込む狐太郎に誰も返事はしない


『まぁいいか。多少は誤解も解けた?かな・・寝よう』


少しは前進したはずだと思いながら狐太郎はベッドに潜り込む

久し振りのベッドだ、村のベッドのようにふかふかではないが、野宿よりははるかにましだ

狐太郎はベッド感触を楽しみながら、疲れていたのかすぐ眠りに落ちた




翌朝


狐太郎はベッドから起き上がり伸びをする

久しぶりにベッドで寝たおかげかぐっすり寝れたようだ


準備が終わり部屋を出ると廊下にはデュラインが見張りで立っていた


『おはようございますデュラインさん』

「おはようございますコタロー殿、早起きですね」


いささか眠そうな声で返事がきた


『まさか寝てないんですか?』

「いや、わたしは朝は弱いものでして・・ウェルキンやロイザードは強いんですが」


なるほど、たしかに彼らは朝は強そうだ

色々な意味で


『みんなはまだ起きてないんですか?』

「ウェルキンはランニングに行きました。ロイザードやクリスティア様達はそろそろ起きてくる頃でしょう」


と言うので先に顔を洗いに井戸へ行く

部屋に戻る途中でクリスティア達とすれ違う


「おはようございますコタロー様」

「おあよーごじゃいまふ・・」

『はは、おはようございます2人共』


クリスティアはしっかり起きてるようたメアリーは寝ぼけ眼のアクビをしながらの挨拶だ

案の定クリスティアにはしたないと注意される

それでいいのか侍女見習い、メアリー

狐太郎は笑いながら返事をして部屋へ戻る


しばらくすると朝食ができたようなので食堂へ向かう

食堂には宿泊客や朝食を食べにきた客でそこそこ賑わっている

特に朝は冒険者が多い

これからギルドで依頼を受けに行くのだろう

見回すとクリスティア達も席に着いていた

メアリーが手を振っている

同じテーブルに全員いるようで狐太郎も同じテーブルに座る

席に着くと店主が朝食を持ってきた


「よお、あんたのお陰で昨日は売り上げは上々だった。だから朝食もサービスさせてもらうぜ」


狐太郎の前に置かれた朝食は山盛りだ

見ると他のみんなの朝食も山盛りだ

クリスティアは食べきれない分はメアリーにあげるらしい


「それと弁当は出来上がってるから出る時に声を掛けてくれ」

『ありがとう』

「へっ、礼を言いたいのはこっちだぜ」


言いながら店主は下がっていった

朝食も美味しかった

普通なら朝から重たい肉系は避けたい所だが、この世界では普通なのだろう

特に冒険者は体力が資本なのでガッツリ食べるのだろう

美味しい食事で気分もあがってきた、メアリー以外は

メアリーは「食べ過ぎました~」と言いながらクリスティアに支えられている

部屋で少し休めば大丈夫らしいが

どっちが侍女かわからない

流石に口に出すと怒られるので言わないが

メアリーが回復するまで部屋で休憩し、出発する


「ほら、弁当だ。頑張ってこいよ」


ドンとカウンターに置かれた弁当を礼をいいポシェットに入れ宿を出る


「さて、それでは出発しましょうか」


デュラインの言葉に一同頷き街を出る

次の街まで約2日、その街から半日ほどでフリッグ伯爵領だ



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