一章 4 街に到着

昼食休憩が終わり街に向けて行動を開始する一行


ウェルキンを先頭にデュライン、クリスティア、メアリー、狐太郎、ロイザードと続く

まぁ先頭以外はほぼ固まっているのだが

そんな中ロイザードが異様にテンションが高い


「メアリー、そのローブと杖を見せていただけないだろうか」

「いいですよ」


と杖と羽織っていたローブをロイザードに渡すとロイザードは懐からモノクル風なメガネを取り出す


「ふむ、ローブの素材がイマイチわからないがこれは素晴らしいな。魔法に対する耐性が・・全属性だと!?」

「さらに詠唱する速度補正、詠唱中の簡易保護結界・・フードを被れば若干の隠匿効果・・」


保護結界と言うのは詠唱中に攻撃を受けても大丈夫な結界の事である

簡易なので強力な攻撃は防ぎきれないが・・

そんなロイザードが驚きの声をあげるがまだ続く

今度は杖を鑑識する


「ふむ、水魔法特化の杖か。そういえばメアリーは水が得意だったな・・魔法効果が1.7倍!?まれにダブルだと!?」


ちなみに(ダブル)と言うの魔法発動後に同じ魔法がもう一度発動すると言う特殊効果である


「メアリー!!これを某に・・」

「売りませんよ!!」


言うがいなや、ロイザードから杖とローブをひったくるメアリー


「ならどこで手に入れたのだ?」

「コタロー様から頂きました」


メアリーの言葉に勢い良く首を狐太郎に向けるロイザード

その行動に引き気味な狐太郎


『自分の村にあったものですから・・』

「そうか・・」


村がないものと思い込んでいるロイザード達はそれ以上は追求せず口を噤む

クリスティアやメアリーは事実を知っているが流石に口には出さない


「コタロー殿の村は特殊な村だったのだな」

『まぁ特殊と言ったら特殊かな・・』


なにせ住人全員が精霊なのだ、これを特殊と言わずして何を特殊と言えばいいのか


「ふむ、まさかクリスティア様のローブと杖も?」

『えぇ、属性は違いますがほぼ同じですよ』

「なんと!?羨ましい・・む?」


心底羨ましそうにするロイザードが何かに気づいたように目を見張る

ちなみに鑑識用モノクルは掛けたまま


「メアリーとクリスティア様はあんな魔法の袋を持っていたか?」

「これですか?これもコタローさんから頂きました」

「なに?み、見せてくれ」


まったく悪びれもなく言うメアリーにロイザードが食いつくとメアリーから魔法の袋を受け取る


「ぬ?これも所持者以外開けることができないものか!!しかしコタロー殿のとは少し違うな。」

『クリスさん達に渡したのは登録制の魔法の袋です。血を一滴垂らすと所有者登録できます。また任意で登録者変更可能です』


ロイザードは驚きすぎて声も出ない

デュラインやウェルキンも驚いた顔をしているがウェルキンがしかめっ面なのは狐太郎がクリスティアをクリスと呼んだからだろう


「コタロー殿は何者なのだ・・?」

『普通の一市民ですよ』

「普通の市民はこんな高価な物はもっていないと思うが・・っと無用な詮索だったな。今はクリスティア様の味方、それだけで十分だ」


ロイザードは言いながらメアリーに魔法の袋を返す


「ふん、余計な話は終わったならさっさと歩くぞ。夜までに街に着かなければならんからな」


相変わらず不機嫌な声でウェルキンは言うとさっさと歩き出す

残りの5人も無駄な反論はせずウェルキンに続いて歩き出す


幸い魔物の襲撃もなく街には比較的楽に日が暮れる前に到着した

2回ほど休憩を挟んだが概ね順調だ


街はさほど大きくない。

森に面しているからだろうか、用事がなければ好き好んで森には入らないだろうし、名所もないのでそれほど大きくならなかったのだろう

しかし森に面してるだけあり、狩りの依頼はあるのか冒険者は少なからずいるようで腰に武器を携帯してるものも多い


「さて、まずはふた手に別れましょうか。宿の手配もしなきゃいけませんからね。わたしとウェルキンはギルドや酒場で情報収集してきます。クリスティア様とメアリー、ロイザードとコタローさんは宿の手配でお願いします。ロイザード、宿が決まったら連絡お願いします。しばらくはギルドか酒場にいると思いますので」

「了解した」


それではとデュラインはウェルキンを伴い人ごみに入っていった


「さて、それでは我らは宿を探すとするか。そういえば某達は路銀はないのだ。クリスティア様とはぐれた時に荷物を無くしてしまったからな」

『ではロイザードさんとクリスさん達にいくらか路銀を渡しておきましょう。今回みたく別行動取る事もあると思いますし』

「すまないコタロー殿。一気に倍の負担になってしまって・・」

『いえ、あまり増えすぎても困りますが護衛はもう少し欲しかったので助かりました』

「そうか、では少しの間だがよろしく頼む」


狐太郎はポシェットからお金が入った袋を取り出すとクリスティアとロイザードへ手渡し宿を決めるべく歩き出す

安すぎず高すぎず手頃な宿はなかなかなかったが、しばらく歩き程よい感じの宿を見つけた

一階が食堂兼酒場なのだろうか、人の出入りがそこそこある

ロイザードが先頭で中に入る

一瞬来客に視線が集まるがすぐに散る

街に入ってからクリスティアとメアリーはフードを被っている

カウンターに向かうと店主だろうか恰幅の良い男が声をかけてきた


「いらっしゃい。飯か?泊まりか?」

『一泊泊まりで3部屋ほどお願いしたいんだけど』

「おう、丁度3部屋空いてるわ。小金貨1枚だな」


狐太郎はポシェットから小金貨1枚を取り出し

店主に渡す


「たしかに。んじゃこれが鍵だ。ちなみに晩飯と朝飯どうする?両方頼むなら大銀貨1枚だが」

『う~ん、お願いしてもいいかな』


いいながら大銀貨1枚も追加で渡す


「わかったぜ。少なくとも晩飯は後1~2時間程でできるからそれ以降で降りてきてくれ」

『わかった。ありがとう。あ、そういうば途中で狩りしたんだけど、持ち込みで調理できる?』

「ものによるな。食材はなんだ?」

『これなんだけど』


ポシェットからマッドボアの肉を1/3程取り出すとカウンターの上に置く


「これはマッドボアか?まさか兄ちゃん達が狩ったのか?」

『成り行きでね』

「食材持ち込みなら半額で構わねぇ。しかし晩飯と朝飯に出しても余裕で余るぞ」


店主は中銀貨1枚を狐太郎に返す


『それじゃ、弁当頼んでもいいかな?それでも余ったらお店でサービスで出して構わないから』

「いいのか?マッドボアの肉なんて滅多に食えないから助かるが」

『いいよ。そのかわり美味しい料理期待してるから』

「おう!そっちは任せとけ」


ドンと胸を叩く店主に挨拶して2階へ上がる

途中でロイザードが小声で話しかけてくる


「マッドボアなんてよく狩れましたな」

『あぁうん。たまたま運が良かっただけだよ』

「そうか・・」


クリスティア達は実際見ていたのだが何も言わない


2階は全部寝室のようで1番奥から3部屋が狐太郎達のようだ


『真ん中がクリスさん達でいいかな?手前がロイザードさん達で俺が1番奥でいい?』

「うむ、それで構わないであろう。それでは自分はウェルキン達を連れてくる」


そう言ってロイザードは下へ降りていった

そして3人はひとまず狐太郎の部屋へ入る


『とりあえず、荷物・・って言ってもないか。何か必要な物あれば買ってくるけど?』

「そうですね。メアリーは何かありますか?」

「わたしですか?う~ん・・あ!着替えはほしいかも・・・」

「そうですね。あと、この宿では湯浴みはできるのでしょうか」

『うーん、着替えか・・・さすがに1人じゃ買えないから着いてきてもらわないと・・・湯浴みは後で聞いてみよう。』


そんな話をしていると扉がノックされウェルキン達が入ってきた


『早かったね』

「うむ、丁度宿を出た所で会ったのだ」


どうやらこの宿は酒場兼宿屋だったようだ


「クリスティア様、買い物なら我らが一緒に行きますぞ」

「どうしましょうか・・」


チラリとクリスティアは狐太郎に視線を送る


『あぁうん、ならお願いしようかな』

「ロイザード、ウェルキンと一緒にクリスティア様に付いて行ってください」

「了解した、それではウェルキン、クリスティア様行きましょう」

『あと2時間弱で晩御飯らしいからそれまでにね』

「わかりましたー」


何故かメアリーが返事をして買い物組は階段を降りていった


「コタロー殿、ロイザードから聞きましたがお金の融通申し訳ありません」


部屋の扉が閉まるとデュラインが頭を下げてきた


『いえ、困った時はお互い様ですから』

「感謝します。正直な話ウェルキンはわかりませんが私はあなたがクリスティア様と居てくれて良かったと思っています」

『買い被り過ぎです』

「いえ、もし我らが無事クリスティア様と合流を果たせても、クリスティア様達を守りながら進むのは困難だったでしょう」


改めて頭を下げるデュラインに狐太郎は居心地が悪くなる


『本当に気にしないでください。大した事じゃありませんから』


手を振りながら狐太郎が返事をする


「クリスティア様と無事王宮に戻った暁には相応の礼をします」


それがどれだけ困難かわかっているデュラインの発言に狐太郎は断る事をやめた


『わかりました』

「それと1つ。わたし達は平気なんですがどうやらウェルキンはコタローさんがクリスティア様を敬称略で呼ぶのは許せないようで・・コタローさんの性格からして、自分から呼んだとは思えないのでクリスティア様からだとは思いますが・・・」

『あぁうん。視線が凄いから気づいていたけど、これからはみんなと同じように呼ぶようにするよ』

「重ね重ね申し訳ありません。頼る身でこんなことまで」

『いえ、自分はずっと森暮らしなのでそういう政治事などに疎いので、なにかまずい所があれば言ってください』

「わかりました。とりあえずはそれくらいですね。もっとも気にしてるのはウェルキンだけでしたが。彼は他の王族よりもクリスティア様を信奉しているので仕方のない事かもしれませんが」


デュラインは苦笑する


『それでクリスさん・・クリスティア様の事になると周りが見えなくなるんですね』

「はい。わたし達も注意はしてるんですけどね」


困ったものですとデュラインはため息をつく

すると1階からいい匂いが漂ってくる


『あ、そろそろ食事ができる頃かな?ちょっと確認してきますね。デュラインさんは休んでいてください』

「そうですね。ではお願いします」

『じゃあちょっと行ってきますね』


狐太郎はパタパタと1階へ駆けていく

それを見送った後扉を閉める


「さて、フリッグ伯爵は味方になってくれるだろうか」


言いながら窓辺に行くと一羽の鳩が留まっていた

足には手紙が結わえてある

それを解き、手紙を一通り読んだ後改めて手紙をしたため鳩の足に結わえ鳩を飛ばす


「どうやら前途多難な感じがヒシヒシしますね」


その呟きは誰にも聞かれることはなかった





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