一章 3 護衛3人組

精霊の村を出て3日目


3人は近くの街まで後半日ほどの距離まで来ていた

夜までには街に到着できそうだ


『ちょっと早いけどここで休憩がてらお昼にしようか』


手頃な広場に到着し休憩と昼食を取ることにする


「はい!でも最初より全然疲れてないですよ?まだ歩けますよ」


手をブンブン振りながらメアリーが元気いっぱいにアピールする


『うん、でも無理しない方がいい。多少余裕あった方が何かあったときに動けるからね』

「そうですね。メアリー休憩にしましょう」


しばらく狐太郎を眺めていたクリスティアだが休憩するために魔法の袋から敷物を取り出す

狐太郎はクリスティアの視線に気づいていたが見て見ぬふりをした


『(うーん、まさか身体能力強化がバレたのかな・・)』


狐太郎の危惧は当たっていた

フェアリーと話していた狐太郎をクリスティアは実は見ていたのだ

見たのは偶然なのだが・・


「コタロー様、メニューくださいメニュー!!」


そんな考え事をしている狐太郎にメアリーがテーブルを設置しおえ、メニューの催促をしてきた


『っと、ごめんごめん。はい、メニュー表』

「ありがとうございます!!クリスティア様、何にしますか?」


メニュー表をもらったメアリーは、ぱたぱたとクリスティアの隣に座り一緒にメニューを眺めている

狐太郎も頭を切り替え昼食に何を食べようか考え席に着こうとした


「王女様から離れろ!!!!」


いきなり大声が聞こえたかと思うと木々の間からボロボロの鎧を着た男3人が掛けてくる


「ウェルキン!?」


クリスティアが驚きの声をあげ立ち上がる

3人は一気に掛けてきて狐太郎とクリスティア達の間に立つ


「ウェルキン無事だったのですね」

「王女様、話は後です。自分が来たからもう大丈夫です。ロイザード、クリスティア様とメアリーを安全な場所まで下がらせろ」


ロイザードと呼ばれたローブを着た魔術師っぽい1人の男がクリスティアとメアリーを無理やり下がらせる


「ちょっ、ウェルキン?ロイザード、何か勘違いしてませんか?」


クリスティアが話かけるがウェルキンは聞く耳を持たない


「さて、貴様何者だ?クリスティア様をどうするつもりだ?返答しだいでは生かしておかんぞ」

『何者って言われてもな・・』


狐太郎は返答に困り頬をポリポリ掻く

現状見てわからない程怒っているのだろう

こういう場合は何を言っても無駄な場合が多い


「しばらく様子見で観察していればクリスティア様への数々の不敬極まりない態度、他が許しても俺が許さん!!斬ってくれる」

「ウェルキン!?デュラインも黙ってないで止めてください。誤解です」


クリスティアがもう1人デュラインという男に訴えかけるがデュラインは黙したままだ

しかし視線は狐太郎を直視している、が敵視と言うより値踏みしている感じがする

メアリーはいきなりの事で頭が追いついていないようで狐太郎やウェルキン達をキョロキョロ見ている


「答えぬなら斬るまでだ!!」


両手持ちの大剣・・よりは一回り小さめの剣を構え直すと狐太郎目掛けて間合いを詰める

狐太郎は刀を出していない、取り出すか躊躇したがクリスティアの仲間なら斬るのはまずいと判断


ウェルキンからの袈裟斬りを左によけてかわすと間合いから逃れるべく後ろに下がる

そしてポシェットから痺れ薬の小瓶を取り出す


「ストップですウェルキン!!」


狐太郎が小瓶をウェルキンに向かって投げつける寸前、デュラインがウェルキンに待ったをかける

追撃をかけようとしたウェルキンも狐太郎もピタリと止まる


「剣を収めてください。その方は敵ではありません、味方かもわかりませんが」

「敵かは関係ない。クリスティア様に害をなすなら斬るまでだ」

「誤解です。逆に私達が迷惑をかけている立場なのですよウェルキン」

「しかしクリスティア様・・・」

「それにウェルキン、このまま戦闘を続けてても負けるのはあなたです」


デュラインに言われて悔しそうな顔をしながらも剣を収めるウェルキン

横からデュラインが進み出てきて謝罪する


「試すような真似をして申し訳ありませんでした。どうかそれをしまってくれませんか?」


一瞬迷ったがクリスティアを見るとすまなそうな顔をしているので素直に従う


『とりあえず助かりました。クリスさんの仲間なら危害を加えられないと思っていたので』


クリスという呼び方にウェルキンが怒りの表情を浮かべるもデュラインに制され口をつぐむ


「ご配慮感謝します。見る限り今までクリスティア様達を助けていただいた様子ですが」

『成行きですけどね』


と狐太郎は苦笑いする


「あのぅ・・・」


すると今まで黙っていたメアリーがおずおずと手をあげる

みんなの視線がメアリーに集中し、たじろぐ


「と、とりあえずお腹ペコペコなのでご飯食べませんか・・?」

『ぷっ・・ははっ。そうだねお昼まだだった。えーと、デュラインさん?達も良かったら一緒にいかがですか?』

「!?よろしいのですか?」

『えぇ、どうやら歩き詰めで体力も減ってるみたいですし。量は沢山あるので』

「それではありがたくご相伴にあずかりましょう。実は食料もなくなりかけてまして・・数日干し肉1枚で過ごしてた次第です・・」


物怖じしないメアリーの空気を読まない一撃が功を奏したのか張り詰めた空気は霧散する

クリスティア達はホッとした表情を浮かべてテーブルに集まってくる

通常のテーブルではいきなり倍の人数は座れないので天板をスライドさせ大きくすると、それを見たデュライン達は目を丸くする


「凄くないですかこのテーブル!!」


メアリーがどうですかと言わんばかりにドヤ顔をする


「画期的なテーブルですね」


デュラインやロイザードは素直に感心している

ウェルキンは未だ憮然な表情で立ち尽くしたままだ


「ウェルキン、いつまでそこに立ってるつもりですか?」

「ふ、ふん。敵の施しなど受けん」

「まだ言ってるんですかあなたは・・コタローさんは敵じゃありませんよ」

「素性の知れん奴なんか信用できるか!」

「私が信頼してると言っても信じられませんか?」


デュラインとウェルキンのやり取りを黙って聞いていたクリスティアが口を挟む


「クリスティア様・・」

「ウェルキンは私を信用してないんですか?」

「そんなことはありません!」

「たしかにいきなり会った人を信用しろと言っても難しいかもしれませんが・・ウェルキンが私を信用しているように私もコタローさんを信用しています。」

「わかりました・・」

「では席に着いて昼食にしましょう」


ウェルキンも若干しぶしぶだが席へ着く

長方形になったテーブルに時計回りにメアリークリスティア、ロイザード、ウェルキン、デュライン、狐太郎である

5人と狐太郎の席が微妙に離れているのは仕方ない


そしてメニュー表は何故かテーブルに4枚ある

メアリーとクリスティア、ロイザードとウェルキン、そしてデュラインが1枚ずつ手に持っている

そして狐太郎の持つメニュー表だけ下に小さな文字が書いてある


「(こんなこともあろうかと、メニュー表は複数枚用意しておいた。わはは驚いたか!?)」

『こんなことってどんなことだよ!』


メニュー表にツッコミを入れる狐太郎

アグニスのしてやったりな笑い声が頭に浮かぶ

笑い声まで書いてある辺り愉快犯だろう


ため息をついてみんなを見回すとメニュー表を見てもどんな料理かサッパリわからないウェルキン達にメアリーが自慢げに説明している

天ぷらは美味しいとか揚げ物は美味しいとかうな重は絶品だとか・・

特にワサビはやめておいた方がいいと力説していた

まったく説明になってないが・・・


ちなみに各自選んだ昼食は

クリスティアがチキン南蛮定食(風)、メアリーが揚げ物盛合せ(ご飯と味噌汁付き)、ロイザードが唐揚げ定食(風)、ウェルキンが生姜焼き定食(風)、デュラインがうな重、狐太郎が刺身定食(風)である

ウェルキン達は湯気を上げている食事に目を丸くしている


「なぜ温かいのだ?」

「それはコタロー様の魔法の袋の能力の1つみたいです」

「なんだと!?そんな能力聞いたことない、どういう能力だ?」


ロイザードがずいっと狐太郎に詰め寄る


『え、えと袋の中の時間が経過しないんです』

「なに?」


ロイザード達3人は驚きに固まる


「それがあれば軍の長距離移動でも腐らせずに安定した食事を提供できる。是非売ってくれ!!」

『あ、でもこれは俺にしか使えないんです。他人には開けることすらできません』


狐太郎がポシェットをロイザードに渡すとひったくるように受け取り開けようとするがどんなに力を入れようとも、うんともすんとも言わない


「な、なんだこれは!?どういう仕組みだ」

『自分にもよくわかりません』


ロイザードからポシェットを返してもらいながら答える


「うーむ、これが作れれば時代は変わるのだが・・しかしそういうのがあると言うことは作れるという事だ。楽しみが1つ増えたわ!」


ニンマリとロイザードは笑う


「すいません、ロイザードはスイッチが入ると止まらないんです。普段は優秀な魔法使いなんですが錬金術師でもあるので」


すまなそうにデュラインが謝る


「早く食べたいんですけど・・」


空腹でお腹を抑える仕草をしながらメアリーがこちらへ訴えかける


「うむ・・すまないメアリー」

『それじゃ冷めないうちに食べようか』

「「『いただきます』」」


3人もつられるように手を合わせる


ちなみに今回メアリーは箸を使っている

まだぎこちないが様になってきているように見える

実はメアリーは箸を特訓中であるらしい

丼物は箸だと狐太郎が言ったら猛特訓を始めたそうだ(クリスティア談)

旨いご飯への執着は凄まじい

そのクリスティアは実は箸はほぼ使えるようになっていたりするのはメアリーには内緒らしい


「な、なんだこれは!?」


いきなり声を上げたウェルキンを見るとフォークを握ったまま固まっている

ロイザードやデュラインも声には出さなかったが同じように固まっている


「う、うまい!!しかも今まで食ったことないうまさだ!!」

「どこで作られている料理なんだ。見たこともない」

『自分の故郷の料理です』

「なに?どこにある」

『もうありません・・』

「それはどういう・・・・いや、すまなかった・・」

『いえ、気にしなくていいですよ』

「でも本当に美味しいですよね~」


気まずい雰囲気を救ったのは相変わらず空気を読まないメアリーだった

今回は助けられた事に内心感謝する


『まだまだあるから沢山食べていいよ』

「なに?まだあるのか?」

『ええ、数日分は』

「ロイザードさん食べ過ぎです~!わたしの分が無くなります」

「ならメアリーも食べれば良いではないか」

「ダメです。太りたくないですし、考えて食べないとすぐなくなっちゃいます」

「それはこまるな・・・太るのは別にして、干し肉生活はもう懲り懲りだ」


そう言うとロイザードはゆっくり噛み締めながら食べ始める



ひと通りみんな食べ終わりお茶を飲みながら休憩していると


「クリスティア様はこれからどうされるおつもりなんですか?」

「無論自分たちも着いていきますぞ」


デュラインとウェルキンの言葉にロイザードも力強く頷く


「フリッグ伯爵の所へ行こうと思ってます」

「それは・・・」

「言いたいことはわかります・・・ですが、私には選択肢も時間もありません。可能性がわずかしかなくてもそれに賭けたいと思います」

「分かりました。我ら3人どこまでもお供します」

「ウェルキン・・・デュライン、ロイザード・・ありがとう・・・」

「で、貴様はどうするのだ」


話が大筋纏まった所でウェルキンが狐太郎に問いかける

未だ喧嘩腰なのはまだ認められないからだろうか


『少なくても伯爵領までは一緒に行こうと思ってます』

「感謝します、コタロー様」

「ふん、せいぜい足手まといにならんように気をつける事だな」


クリスティアの感謝の言葉に続きウェルキンの俺はまだ信用したわけじゃない感ありありの言葉に苦笑い気味の狐太郎


この先大丈夫だろうかといささか心配になる狐太郎をよそに他のメンツは終始和やかな雰囲気だった





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