一章 2 初野営

「あの、ここが安全地帯?なのでしょうか?」


クリスティアが首をかしげながら疑問を口にする

気持ちはわからなくもない

パッと見ただけでは安全地帯なのかわからないのだ

直径10M程の開けた広場なのだが中心に焚き火ができるような浅い穴があるくらいで特に何もない


『うん、そうだよ。普通はただの野営場所なんだけどね。特定のアイテムを持ってると結界が張られるんだ』


狐太郎がポシェットからビー玉くらいの透明な石を取り出すと広場の中心辺りの地面にポトリと落とす

落とした玉は割れるでもなく、音もなく地面に吸い込まれていく

すると広間を中心に薄いドーム状の膜が張られていく


『これで完了。獣や魔物は入ってこれないよ。人間は結界を張った人の任意で出たり入ったりはできるけど』

「す、凄いです!!これがあればどこでも安心して寝れますね!」

『まぁでもこの森の特定の場所限定だし。うちの村で作った物だから普通の人は持ってないよ』

「そうなのですか・・」


ガックリ項垂れるメアリー

精霊が住む森限定でしか使えない結界

一般人には需要がない

元は狐太郎の為に精霊の村の人達が作ったものだったりする


もちろん結界のような物は世の中で開発されてはいない

ちなみに一般冒険者は野営は基本交代で見張り番をする

今回に限って言えばクリスティア達に番をさせるわけにはいかないので使ったわけだが


『さて、それじゃあ野営の準備をしよう。といってもあまりやることはないんだけどね』


実際問題現状の食事に関してはまだアグニスから貰った物が沢山ある

飲み物は冷えたのしか持ってきてないので焚き火で温かい飲み物を用意するくらいか

狐太郎は薪を用意して鍋に水を入れセットする

季節は春に入ったばかりで日中は暖かいが夜はまだ肌寒い

その間にクリスティア達はテーブルを取り出し準備を始めている


『さて、食事のリクエストは何かある?とりあえず一通りあるけど出すと冷めちゃうから食べたいのから出すよ』

「では私はお刺身が良いです」

「わたしはうな重が食べたいです」


メアリーはこないだのうな重で苦手意識はなくなり、逆に好物になったようだ

刺身は好きなのだがワサビが苦手で敬遠している

狐太郎はクリスティアに刺身定食(風)とメイリーにうな重を渡し適当につまめる物をだすと、自分用に天丼を取り出す


「あ、何ですかそれ?コタロー様だけ新メニューですか?ずるいです」


目ざとく天丼を見て抗議の声をあげるメアリー


「でもお米の上に乗ってるのって天ぷら?ですよね?」

『あぁそうだよ。これは天丼っていってご飯の上に天ぷらを乗せて特性のタレをかけてあるんだ』

「特性のタレ!?わたしも食べてみたいです」

『でもこの天丼、箸じゃないと多分食べにくいよ?』

「うな重あるのだから我慢しなさい」

「うぅ・・新メニューあるならそっちを食べたのに・・」


再びガックリ項垂れるメアリー

彼女はすでにうまいと確信している

と言うか精霊の村で出された食べ物はすべからく美味しいで統一されてるようだ


「他にも新メニューってあるんですか?」

『あるよ。明日のご飯の時にでも一覧表あるから見せるよ』

「絶対ですよ!!」


落ち込んでいたメアリーが勢いよく顔をあげてずずいと顔を狐太郎に近づけ念を押す

そのプレッシャーにこくこくと頷くしなかい狐太郎であった


「と、とりあえず冷めないうちにいただきましょう」


クリスティアがうまく話を終わらせると2人は我に返りいただきますと食事を開始する


食事が終わり暖かいお茶を飲んで一息ついていると

クリスティア達は寝床の準備に魔法袋から毛布を取り出している


『とりあえず簡易テントあるけどどうする?』

「いえ、大丈夫です。天気も心配なさそうですしこのまま寝ます」

「星を見ながら寝れるなんてロマンチックです!」

『時と場所によるけどね』


今日の空は雲一つない空で寝転べば満天の星空だ


『この感じだと近くの街まであと3日くらいかな』

「すいません、私たちに合わせていただいて・・・」

『そんなことないよ。急がなきゃいけない気持ちはわかるけど体調崩したりしたら元も子もないからね。それに明日からは多少楽になるかもしれない』

「え?それはどういう事ですか?」

『まだはっきりわからないけどね』


クリスティアの疑問に曖昧に答える狐太郎

ある程度確信はあるが確定ではないので答えられない


『それで街に着いたらなんだけど、一泊して情報収集もしようと思ってるんだけど』

「それで構いません。コタロー様にお任せします」

『了解』

「メアリーもそれで構いませんね?」

「・・・・・・・・・・」

「メアリー?」

『寝てるね』


メアリーの方を見ると座ったまま寝ていた

途中まで起きていたらしいが今日の慣れない事で疲れが溜まってたのかもしれない


「まったく・・仕方ありませんね」


苦笑しながらクリスティアはメアリーを横に寝かせ毛布をかけてやる


『王女より先に寝ちゃってまずくない?』

「公の場ならまずいですが、こんな状況ですしね。それにメアリーは大事な友達ですので」


クリスティアにとってメアリーは幼少の頃からの付き合いで気心が知れた友達だという

無論王宮などでは公私混同はダメなのだが、2人の時は友達関係に戻るそうだ

もっともメアリーは王宮でもまれに普通に口をきいてしまい侍女頭などからよく怒られていたという


『そっか。にしてもメアリーさんて侍女っぽくないよね?ドジすぎると言うか・・うっかりすぎると言うか』

「ふふ・・王宮を出るまで侍女見習いだったんですよ。今もですけど」


ほとんどの王宮の人が敵か味方かわからない中メアリーだけ常に側にいてくれた数少ない信じれる味方だったらしい


「無事に事が終わったら見習いではなく侍女に昇進させてあげたいですね」


眠るメアリーの髪を撫でながら優しく呟くクリスティア


『それじゃ何がなんでもうまくいかせないとな』

「はい。今後も迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いいたします」

『こちらこそよろしくね』

「はわっ!!わ、ワサビはダメです~・・」


何事かとメアリーを見ると寝言のようだ

両手を前に出して手をブンブン振っている

いったいどんな夢を見てるのか気になる所だが・・

そんなメアリーの寝言に2人は顔を見合わせ笑う


「それじゃ私もそろそろ寝ますね」

『うん』

「コタロー様はどうされるのですか?」

『俺はもう少し起きてるよ。結界もあるから安心して寝ていいよ』

「はい、ではおやすみなさい」

『おやすみ』


クリスティアもメアリーの隣に横になる

しばらくするとすぐに寝息が聞こえてきた

やはり疲れが溜まっているのだろう


火を絶やさぬよう焚き火に多めに薪を入れる

そして焚き火を背にしてやおら何もない場所に話し掛ける


「君たちかな?今日王女様達に身体能力強化をかけてくれたのは」


そこには何もない

しかしよく目を凝らすと小さな羽のはえた妖精が狐太郎の周りを飛び回ってるのが見える

フェアリーだろう


この森は魔力が通常よりも濃いが精霊が見えるほど濃くはない

世界樹の麓の村は世界樹のお陰で魔力が濃い

なので村では精霊達が具現化できるのだ

ちなみにどうして狐太郎の周りで見えるのかと言うと、狐太郎自身から漏れ出す魔力があるからだ

通常魔力を持つ人間からは魔力が漏れたりはしない

狐太郎の場合は器に収まりきらなくて漏れてると言った方がいいだろうか

それくらい強大な魔力を抱えてるのに魔術は素質がないのか使えない

世の中ままならないものである


そのフェアリー達が狐太郎の言葉を肯定するように周りを飛び回る

狐太郎が手を伸ばすとフェアリー達が手に留まる

他のフェアリー達も肩に留まったりしている


『そうか、ありがとう。お陰で今日は助かったよ』


お礼を言うとフェアリー達は嬉しそうに飛び回る


『え?森を出るまで助けてくれるの?ありがとう。でも無理しないでね』


フェアリー達はしばらく狐太郎の周りを楽しそうに飛び回っていたがそのうち離れて見えなくなってしまう

が、狐太郎には見えているので手を振ってありがとうと感謝していた


『それじゃ俺もそろそろ寝よう』


狐太郎も毛布を取り出し横になる

そしてやはりしばらくしてすぐ寝息が聞こえてくる



空は降り出しそうな程、星が瞬いていた


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