一章 1 狩り

精霊の麓から出発して数時間、すでに最初の休憩に入っていた

やはり王宮暮らしの2人にはちょっとキツいようだ

出てからすぐに2人に手頃な枝で杖をこしらえたので多少はましになってるであろうが、体力のなさはいかんともしがたい

靴も用意した厚手のブーツを履いていて格好だけは1人前なのだが


「すいません・・・」

『気にしなくていいよ。この森はあまり人が入らないせいか普通の森よりも歩きにくいからね。体調崩しても何だから』


言いながら水筒を渡すと2人は喉がカラカラと言わんばかりにゴクゴク飲みだす


『とりあえず夜までには野営できる安全地帯があるからそこまではがんばろう』

「「はい・・」」


10分程の休憩を挟んでまた歩き出す

1時間程歩いては休憩

なかなか進まない

なんとか昼に差し掛かる頃には野営の場所から残り半分くらいの場所まで来ていた


『ここでお昼にしようか』

「・・・はい」


水筒を受け取りどっと座り込む2人


『近くで薪を拾ってくるからゆっくりしてて。大丈夫だと思うけど魔物とか出たら大声で呼んで』


言いながら近場へ薪を集めに行く

村からも持ってきてはいるのだが、村ではあまり必要性がないためそれほどない

なので、現地調達できるものはするようにする

しかしあまり離れすぎても何かあった時すぐに助けに行けないのでなるべく近くで集める

幸いあまり人が入らない森なので薪は豊富ですぐに集まった

今後の事も考えて取れる時に多めに取ることにする


戻ると休んで多少は顔色が良くなったのだろう、クリスティア達は昼食の準備をしていた

と言っても食器やテーブルを準備するだけなのだが

もちろん食器類は全部木製だ、鍋などはさすがに鉄鍋である

食器はともかくテーブルなどは森での食事にしてはかなり異様な光景に映るだろう

しかし2人は森の中での食事など初めてなのでおかしいのかわからない

食器やテーブルも精霊達に作ってもらったもので、軽くて丈夫な上にテーブルの高さ調節機能付きで折りたたみコンパクトになると言う優れものである

今回は椅子は面倒なので地面に座る感じでテーブルも高さを下げてある

そこに狐太郎はポシェットからアグニス達からもらった料理を取り出し並べていく

焼き立て、揚げたてのは出来上がりそのままに湯気をあげている


「凄い・・本当に時間が経過してないんですね」

「今さっき出来上がったばかりみたいです」


2人は驚きながらも視線は料理に釘付けである

歩き通しでお腹も減ってるだろう2人に長時間のお預けは酷だろうと、頂くことにする


『いただきます』

「「いただきます!!」」


2人はナイフとフォークで、狐太郎は箸で食事を開始する

もの凄い勢いでがっついていく2人

そこに乙女の欠片も見当たらない

空腹は何よりのスパイスとは言うが、本当に美味しそうに食べる2人

アグニスが料理人冥利に尽きると言ったのも納得である


『食べながらでいいから聴いて欲しいんだけど』

「!?これはあげませんよ・・・?」


メアリーが自分の皿にゲットした揚げ物を引き寄せ隠す仕草をする


「あー、うん。それは大丈夫なんだけど。2人は武器とか魔法は使えたりする?」

「ほとんど使えません。私は武器はまったくで、治癒魔法がほんの少しと夜読書とかしてたので簡単な光魔法なら」

「わたしは水魔法が少しです」


クリスティアが治癒と光でメアリーが水か


『なるほど。それじゃ武器よりロッド系のがいいかな2人とも』


いいながら狐太郎はポシェットから2本の杖を取り出す

先端に魔石が取り付けてあり一本は透明な魔石

もう一本は透明だが青色がかっている

透明な方をクリスティアに、青色の方をメアリーに渡す


『一応増幅効果付きの杖だから多少は使えると思う。道中なにがあるかわからないからプレゼントね』


すでに狐太郎の常識は非常識なのを散々味わってる2人は多少の杖でないことはうすうす気づいている


「いいのでしょうか?いただいても・・」

「綺麗です・・・」

『精霊達は杖必要ないし、俺は魔法使えないからね。倉庫に眠らせておくよりは2人に使ってもらったほうが杖も喜ぶと思ってね』

「ありがとうございます、大切に使わせてもらいます」


そう言って2人は杖を自分専用の魔法の袋に大切に仕舞いこみ、食事を再開する


食事が終わり休憩を挟んで再び歩き出す一行

持ち歩く杖は先ほどもらったロッドに変えてある

何があっても大丈夫なようにだ

食事をして休んだおかげか2人は元気に歩き出す

やはり美味しいごはんと言うのは精神的に余裕をもたらすようだ

表情に疲労の色はない

これならしばらく休憩は大丈夫かな


なんて思っていると、前方の開けた場所に猪っぽいのが荒ぶっているのが見える

マッドボアだ

大きさはそれほどではない

獲物を探しているのだろうか、王女達もいるので回避できればしたかったのだが風上なのに加えバッチリ目が合ってしまった

これはやるしかないかも

幸い一匹だけのようだし、仕留めるか

食料確保も大事だしな


『ちょっと止まって。この先にマッドボアがいる』

「え?」

『ゆっくりあそこの岩場まで下がって上に登って。あの高さなら大丈夫だと思います』

「コタロー様はどうするんですか?」

『引きつけ役が必要でしょうし、狩ります』

「だ、大丈夫ですか!?」

『まぁあれくらいなら大丈夫です。一匹しかいないみたいなんで』

「気をつけてくださいね」


王女達はゆっくり岩場の方へ動き出す

あまり一気に動くと刺激しかねない為に慎重に動く

その間狐太郎は2人とは逆方向に動き出す

こっちに注意を惹きつける為に袋から日本刀を取り出す

狐太郎を危険と判断したのかこちらへ向き直り歯をカチカチ鳴らしグルルルルと唸り声をあげ突撃のタメを作り出す


王女達が岩場に登ったのを確認して日本刀を鞘から抜くのとマッドボアが攻撃開始したのは同時だった


マッドボアの対処法としてはとしては二本の角を使った突撃だけなので突進の直線上には基本立たないようにして対処する

突撃に巻き込まれれば最悪は死だ

掠めるだけでも大ダメージ必死なのだ

毎年何人も新人冒険者が餌食になっているらしい

獲物は槍もしくは遠距離攻撃が望ましい


日本刀なので少しハンデになる

地面の落ち葉をまき散らしながら突っ込んでくるマッドボアに狐太郎は間合いに入る手前で横にかわす

今の狐太郎の技量では初見で斬るのは難しいと判断しタイミングを測るために余裕を持って避ける


マッドボアは突進しだすとしばらく止まらない

狐太郎から10M程離れた場所で止まりこちらに向き直る

再びタメを作り突撃を開始する


しかしマッドボアのスピードもタイミングもさっきので掴んだ

今度は大きな木を背にして立つ

慌てず日本刀を構える

そして間合いギリギリで横へかわすと後ろの大木へ突っ込むマッドボア

ドーンという凄まじい音と共に木々が揺れる

そして大木に角が刺さってもがいている

それを見て狐太郎は日本刀をマッドボアの首目掛けて振り下ろす


ザシュっという音とともに一刀両断されもがいていたマッドボアは地に倒れる

日本刀の血を払い鞘に収めて袋にしまうと腰に付けている短刀を取り出す

皮剥ぎや血抜きと内蔵等を取り出すためだ

ちなみにマッドボアは左右の角の長さが違う

討伐部位証明は右の長い方の角だ

左の角も売れるためこれもきちんと根本から折りポシェットにしまう


前の知識があるので迷うことなく手早くばらすと残った頭や内蔵は穴を掘って埋める

こうしないと血の匂いですぐに獣が集まってくるのだ


そんな作業をしていると岩場から降りたクリスティア達が近づいてくる


「大丈夫ですか?」

『ああうん、問題ないよ。それより早くここを離れよう。埋めても多少は匂いが残るからしばらくすると獣が集まってくる』

「わ、わかりました」

「あ、コタロー様腕から血が出てます!!」


言われて見ると左腕から血が垂れていた

突進をよけた時にかすったのか・・・


『ほんとだ、でも大した傷じゃないから』

「ダメです!!少しの傷でもそこから悪化する場合もあるんですから」


クリスティアに強く言われ言い返せずにいると、水筒を取り出し傷口を水で洗い流した後治癒魔法を唱えた


「ヒール!っと、これで大丈夫です」

『ありがとう』


完治した腕を見て礼をいう

綺麗に傷口はなくなっていた

治癒魔法も人によっては下手な人もいる

未熟な人が使ったりする場合は治癒しきれなかったり傷口の跡が残ったりする

狐太郎の腕を見る限り怪我する前と変わらないように見える

そういう意味ではクリスティアはレベルの高い治癒術師なのかもしれない


『んじゃ、出発しよう。もう少しで安全地帯に着くから』

「「はい!」」




日も暮れる頃、クリスティア達は若干疲れながらも安全地帯に無事到着した


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