第9話 決戦、そして~時空操る魔刻針と聖刻針~3

 「時間を…操る?」


 訳が分からないよといった表情を浮かべ、狼幼女の正体を晒した斬夢が聞き返す。

 そもそも時間を操作する術法など、弟子になって此の方、教えられた覚えがない。斬夢がポカーンとした表情になるのも無理からぬことであった。


 「たわけめ! 普段から術式の基礎は教えておるじゃろっ! その延長で聖と魔の理力を操るイメージを結べ! あのアムルという娘は教えずとも出来ておる! ならばお主が出来ぬ筈がない! まったく弟子は手間がかかるほど可愛いものじゃが、お主はもう少ししっかりせい!」


 そう叱咤しつつも、斬夢の頭を優しく撫でる天魔である。傍目から見ても、普段から甘やかしていると解る行動だ。

 その証拠に、斬夢も嬉しそうに尻尾をパタパタ振っている。

 まあ、こうも狼幼女に可愛らしく尻尾を振られたら、天魔でなくとも優しく接したくなるだろう。 


 「了解です師匠。やってみます!」


 頭をなでなでされて気を良くしたのか、やる気になった狼幼女はそう高らかに宣言した。


 「…術式の基本は、折り(織り)、畳み、結ぶこと」


 折り(織り)とはすなわち、意識的に力の方向性をさだめること。

 畳むとはすなわち、意識的に効果範囲の指定するのこと。

 結ぶとはすなわち、意識的に折り畳んだ力を行使し、現実に反映させること。


 基本に立ち返った斬夢は、瞼を閉じて精神集中し、頭の中でイメージを結ぶ。

 まずは聖なる理力をアムルから引き寄せ、自分の魔の理力と融合させるイメージを折り(織り)込む。

 続いて融合した理力を操り、時の流れを、聖魔の力が反転させたり、加速、減速させるイメージを重ね合わせた。

 然る後、自分自身が時の流れに乗り、自在に行き来するイメージを結び合わせる。


 すると次の瞬間、イメージ世界の斬夢の眼前に、巨大な時計の針の如き光り輝く物体がパッと現れた。


 イメージ世界の斬夢は、その物体へと迷うことなく近付き、手を伸ばして掴み取る。


 パアアアアッ!


 結ばれた力が光輝き、イメージの世界と現実の世界が混ざり合い―――――




 —―――――そして斬夢が瞼を開けると、現実世界の時は止まっていた。


 ただ二人、時の座標軸たる魔刻針と聖刻針を握りしめた、斬夢とアムルを除いて。



 時の流れが止まった現実の世界の中。


 そこで活動を可能とする斬夢とアムルの掌に、イメージ世界同様に二つの針が存在していた。

 双方とも時を同じくして、斬夢体内の魔の種子と、アムルの首元の聖石から姿を現したのである。


 魔刻針と聖刻針。


 それは、過去現在未来を縫い合わせ、時空転移を可能とする神秘の針である。


 そればかりでなく、様々な奇跡を起こす力を待ち、中には持ち主である魔術師と聖少女のDNAを結び付け、二人を素材に新たな聖魔師を誕生させる効果も存在した。


 今まさに、斬夢とアムルの前で、その力がきっちりバッチリ発動していた。 


 魔の種子と聖石に生じていた、マイクロ・ブラックホール&ホワイトホールによって、事前に二人の理力は繋がっていた。

 それに二つの針の力が加わり、斬夢とアムルの意思、身体までもが一体になろうとしていた。


 獣の力を宿した魔幼女と、天使の如く愛を司る聖少女が融合し、旧き力ある存在ものたちの間に伝承されていた、時空間を操作しうる存在、聖魔師が誕生しようとしていた。


 すなわち。


 時の神にも並び立つ実力を持つ存在、聖魔少女ル・シフェルの誕生の瞬間が、ついに訪れたのである。


 (暖かい…私の身体の内部なかに…アムルちゃんが入ってくる…私の虚ろな精神こころ空洞あなが、アムルちゃんで満たされていく)


 (とても力強い鼓動が、私の鼓動と一つになって行く…斬夢さん…いえ、斬夢ちゃんが…私の精神こころ暗黒やみを塗りつぶして、光で満たしていく)


 (私の中で…人が手にしてはいけない力が生まれてくる…過去も未来も変えてしまえる…ああ…とても哀しい…自己欺瞞の力)


 (それは… 失った人々を取り戻し…望まぬ未来を回避する力…でも……ああ…それは、悪戯に平行世界を量産してしまう力…)


 (過去に戻り…人狼にされたチームの仲間たちを救うことは可能…でも…それは分岐した世界でのこと…分岐前の…死んでしまった私の仲間ゆめたちは…助からない)


 (過去に戻り…助けた双葉ちゃんと共に…未来へと歩んでいくことはできる…でも分岐前の世界での双葉あいちゃんは…救えない)


 ((こんな哀しい力…何のために使えば良いの…できることと言えば、目の前の悪魔たちを倒すことくらい))


 ((ああ…答えのないまま…私は私でなくなり…まったく新しい私が誕生していく))


 二つの針の力によって時空は捻じ曲がり、離れていた斬夢とアムルの空間座標は、何時の間にか同一座標に存在していた。


 その同一の空間座標…それすなわちウルフの体内…で、二人の精神と身体は重なり合い、融合を果たしていた。


 奇跡としか言いようのない静止した時の中で、魔幼女と聖少女の姿は消え去り、齢にして14歳程の容姿をした翼を持つ少女が、代わりにその座標に現れた。


 まるで神にでも祈るように、その両手を合わせて。


 とても悲しそうな表情をして。


 (ああ…時空の神々よ…どうか…この掌の中にある今の幸せだけは…どうか…どうか護らせてください)


 そう翼持つ聖魔少女が祈りを終えると、止まっていた時間は動き出した。同時に、降誕の燐光が周辺に溢れ出る。 

 

 その光はくっきりと、聖魔少女が降誕し終えた姿を映し出した。


 その背にあるのは、悪魔の羽と天使の羽を。

 白髪とピンッと立った獣耳を。

 申し訳程度に黒のメッシュが入った前髪から覗いた、真紅の双眸を。

 双眸内部の瞳に、0と∞の紋様を。

 整った鼻筋と桜色の唇、緩やかなスロープを成す輪郭をが。

 首元の魔の種子と聖石が並ぶデザインの首飾りを。

 剥き出しの両肩とムスクテールグラブに包まれた両腕をが。

 僅かな膨らみと腹部を覆う、左右で白と黒に色分けされたロングドレスをが。

 腰のガンベルトと二挺針撃銃ニードルガン入りホルスターを。

 臀部から伸びる狼尻尾を。

 大きくスリットの入ったスカート部分から覗く、しなやか且つ柔らかい脚を。

 両太腿に巻かれたベルトの収納スペースに収められた、多数の魔刻針と聖刻針を。

 白と黒のサイハイブーツを。


 聖魔少女の降誕を祝福するように、陰影を付けて、ベイオウルフの心臓部内に映し出した。


 「どうやら降誕したようじゃのう、ル・シフェル」


 「ル・シフェル?」

 

 メッセージを贈ってきた妙見に、その名の意味を訪ねる聖魔少女。


 「ル・フェとは妖精のこと。ル・フェルとは聖少女のことじゃ。そしてお主、ル・シフェルは、聖と魔の力を持つ者のことじゃよ」


 それが、ル・シフェルの質問に対して、妙見が答えた内容であった。


 ◇◇◇


 「うううっ?」


 「何が起こった! 何の光だ?」


 「ぐおおっ?」


 「くっ!」


 「⁉ 居ない? あの巨体が何時の間に?」


 (何事なのよーん?)


 (えええ? 勝ったのよね? 私たち★?★?★?)


 魔皇樹で捕らえていたウルフの姿が突然消え去った理由が理解できず、魔術師あくまたちは動揺の声を上げた。

 まったく訳が分からなかった。

 まるで、映画の1シーンを構成するフィルムが抜き取られたか、動画の一部だけが消去されたかのよう。

 七人衆全員の記憶に、ウルフが如何にして脱出したか。その過程が丸々存在しないのだ。


 さらに驚くべきことに、脱出したウルフらしき存在が、全ての傷を癒し、夜叉の背後に立っているではないか。

 それも、ウルフらしきと表現した通り、背後に立っている巨重は、破壊された頭部もいつの間にか再生していて様子が違っていた。さらに、銀色に変色した体毛で覆われた身体も、一回り巨大化しているのだ。


 (何が起きた? 我々は高度な幻術を仕掛けられ、聖少女の術中に嵌っていたのか?)


 現状を理解するために、七人衆は無理矢理なつじつま合わせを考える。戦場で正確な状況把握ができなければ、待つのは敗北と死だと知るが故に。


 (いや。違う、手ごたえはあった)


 しかし、七人衆は全員が幻術はあり得ないと、カンダタストリングを通じて否定し合う。確かな手ごたえはあったのだ。死線をさまよった末の中必殺技、地獄の献花台の成功は嘘偽りではない。


 (ならば、何が? なにがあったと言うのだ?)


 ⁉


 魔術師あくまたちの脳細胞が、ある可能性に辿り着き、智彗の火花を散らした。それが絶望に到る閃きだとしても、無視することはできなかった。

 彼等が叡智の深淵到達を目指す、叡智の獲得を至上命題とする魔術師であるが故に。


 (いや…あれは…まさか…まさか…あれは…あれだけは………ありえないはずだ…)


 (…時空間を操り、時の止まった世界で、術者だけが行動するなど…理論的に不可能なはず…いや。だが、もしもそれが可能であるとするなら………聖と魔の理力を統合した者…)


 (ああ………そうだ…今我々が激戦の末に倒したの存在こそ………聖と魔の理力を…統合した存在ではないか…)


 「だが、だからと言ってぇ!」 

  

 ここで今さら芋は引けぬ。引けば敗北が確定するだけ。ならば死中に活を求める以外、手段はない。現時点での夜叉操縦者であるマイティは、復活した銀色のベイオウルフに圧倒的な力の差を感じながらも、臆する事なく振り向き、向き合った!


 「参る!」


 真正面から再生ベイオウルフに組み付こうと、飛び掛かる夜叉!

 魔皇樹で造り上げた新たな両腕で、組み付きを敢行する!


 「うおおおおっ!」


 だが、再生ベイオウルフは不動。夜叉に組み付かれても、一切の対策を講じることはなかった。ベイオウルフは抵抗することなく逆さ羽交い絞めの体勢に持ち込まれる。

 そこで夜叉は続け様に、後方に反り返る勢いを持ってウルフを持ち上げ、背中から叩きつけるべく大技を放った!


 ダブルアームスープレックス!


 その瞬間!


 カチッ! ピタリ! カチッ!


 不思議なことがリング上で起こった!


 ベイオウルフと夜叉の体勢がまったくの逆に入れ替わり、ダブルアームスープレックスを仕掛けていたはずの夜叉が、ベイオウルフによってダブルアームスープレックスを仕掛けられているではないか!


 「なっ⁉」


 ズダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


 両腕を固められて受け身も取れず、背中からリング中央に叩きつけられる夜叉であった!


 「くっ! やはり…」


 「こいつ、時を操る!」


 「ぐむう…どうすれば勝てるというのだっ!」


 リングに叩きつけられて仰向けとなった夜叉の内部で、サブパイロットの面々も驚愕の色を隠せないでいた。

 これほど圧倒的なスキル。

 予想はしていたとはいえ、直に目撃すれば、心も折れる。

 如何やれば攻略できるのだと、絶望したくなるのも当然であった。


 「いいえ…まだです! 感じなさい奴の理力量を! 明らかに前に比べ減退しています。時を操るのに、大量の理力を消費しています!」


 だが、動揺する面々の中、ただ一人金華だけは冷静にベイオウルフを観察していた!


 ⁉


 「いっ、言われてみればっ!」


 「たっ、確かに!」


 「さすがは将軍さま!」


 「そっ、そうか! 長期戦に持ち込みさえすれば…」


 「ガードを固め、敵の理力が疲弊するのを待てば、まだ勝機は!」


 「そうです! まだ勝負は終わっていない! 諦めない限り、まだ勝算はあるのです!」


 ウルフに圧倒的なスキルを見せ付けられても、なお折れぬ精神力を示す金華であった。この不利な状況下、部下たちに己の底力を見せつける金属性の将魔であった! 


 ◇◇◇


 後へと反り返った身体を、ゆっくりと直立姿勢へと戻していくベイオウルフ。銀色に変色した全身の体毛もゆっくりとはね上がった。

 一方、強かに背中からリングに叩きつけられた夜叉は、腕を使って身体を横回転させ、腹這いの体勢になってから四肢を使って後方に向い跳躍。リング中央で直立するベイオウルフから距離を取って、ガード体勢を取った。

 同時に闇のカーテンという防御術式を全身に張り巡らし、堅牢な城塞の如くそびえ立つ。

 

 「ガードを固めた。あの一撃を受けながら動揺もせず、こちらのウィークポイントを看破した、か?」


 (魔術師、恐るべしと言ったところね…的確にこちらの弱点を見抜いて来る。一つの技を受けただけで、時間操作に莫大な理力が使われると解析し、最良の選択肢を選んで、食らい付いて来る…ならば)


 「長引けば不利。時の奥義を二つを一つにして、一気に勝負をつけましょう」


 ル・シフェルは、ベイオウルフ体内でそう分析、宣言し、腰の両ホルスターから聖刻針と魔刻針を装填されたニードルガンを引き抜いた。

 転移座標となる刻針をリング周辺へと撃ち込み、必殺の連続転移攻撃の下準備とするのだ。


 「刻針セッティング!」


 ル・シフェルは宣言通り、一発撃つごとに針撃銃をクルクルとガンスピンさせ、四方、六方、八方へと刻針を撃ち放っていく。

 刻針はル・シフェルの思惑通り、空間を跳び越え、ベイオウルフの内部からリング周辺へと撃ち込まれ、時を操れる者以外には認識不能の座標針となり、そこに留まった。

 時の奥義の準備はこれで完了した。 


 「見せましょう。時の奥義。あなたたち魔術師あくまは、アムルが操っていたベイオウルフを倒したことで、クロノ・トリガーき金を引いてしまった。もう後戻りはできません」


 死刑宣告に等しい宣言と共に、ル・シフェルの瞳の奥に見える0と∞の紋様が光輝いた。


 その瞬間、ウルフの巨大な肉体は、リング中央から忽然と姿を消した。


 ◇◇◇


 「⁉ う? 消えた?」


 (転移か!)


 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 「ぐああっ! くっ! 後か!」


 不動が動揺し叫んだ。夜叉は後方からの不意打ちで、背中に強烈なドロップキックを受け、リング中央へと吹き飛ばされたのだ。闇のカーテンでの防御障壁を後方にも張り巡らしていなかったなら、背骨に深刻なダメージを受け、夜叉は一撃で行動不能に陥っていたかもしれない。

 サブパイロットの一人、マウンテン不動が動揺するのも致し方なかった。


 「ちぃぃっ!」


 ウルフに向き直ろうと、攻撃を受けた後ろに振り向く夜叉…しかし!


 「いない? どこに…」


 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 「ぐっ! また後か。何時の間に?」


 「おのれ! また時を操ったのか?」


 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 「くっ、また…これは違うぞ。時が止まった気配はない!」


 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 「これは、空間転移による連続攻撃だ!」 


 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 「くっ、闇のカーテンにパワーを!」 


 魔術師たちがそう分析する間にも、ベイオウルフの連続空間転移ドロップキックは続いた。重い攻撃を連続被弾し、ガリガリと削られていく闇のカーテン。

 その防御障壁の維持に大量の魔理力を持っていかれ、急速に疲弊していく夜叉と魔術師あくまたち。



 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン! ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!

 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン! ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!

 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン! ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 「耐えて! 耐えるのです!」


 それでも、そう仲間たちを𠮟咤激励する金華。今は耐えて反撃のチャンスを待つしか手段がなかった。

 例えば、相手を弾き返すバネ紋章の術法などを周辺に複数同時展開すれば攻撃は防げるだろう。

 しかし、魔理力の消費が大きくなり、先に夜叉側が息切れすることになる。それでは本末転倒なのである。

 やはり、ここは耐えて、耐えきってベイオウルフの消耗を待つ以外に、策のない魔術師あくまたちであった。


 

 ◇◇◇


 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 別方向に転移したベイオウルフが、横合いから容赦なくドロップキックを決める。躱す術のない夜叉が、さらに疲弊を加速させる。


 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 「これが時の奥義が一つ、クロノ・破壊弾バスターです!」


 移動時間をゼロにする時の奥義、クロノ・破壊弾バスターを連続で放つウルフの内部で、ル・シフェルが、魔術師あくまたちを煽るように呟く。


 ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 (そろそろね) 


 「そしてもう一つの奥義、クロノ・脳天杭打ドライバーちを喰らいなさい!」


 十分に夜叉を疲弊させたと感じたル・シフェルは、ここで宣言通り、第二の奥義を繰り出す態勢へと移行する。


 バァアアアアアアアアアアアアン! ドンッ! ガシィッ! シュンッ!

 

 下半身で攻撃するドロップキックではなく、上半身でのタックルに切り替えたベイオウルフ。連続攻撃を受け体勢を立て直せない夜叉の隙を付いて組み付き、巨体を抱えたまま、リング上空へと転移した。


 そしてリング上空で体を入れ替え、クロノ・脳天杭打ドライバーちの体勢へと持ち込む。


 「あのリング中央が、あなたの時の終着点! 風よ!」


 ゴォオオオオオオオオオオ!!!!


 風を操り、リング中央へと夜叉を叩きつけるべく、急速落下を開始するベイオウルフ!


 ◇◇◇


 「うおおおおっ! まだっ! まだだっ!」


 それでも、マイティは諦めなかった。まだバネ紋章の術法を使えば、リングへの頭部からの着弾は防ぐことができる。

 ベイオウルフも連続転移で理力消費は激しいはず。

 最後の力を振り絞って力尽くで拘束を解き、もう一度、地獄の献花台を成功させることができれば、勝利は不可能ではない。


 「バネ紋章の術法! 頭部展開!」


 夜叉に残る魔理力の多くを使い、バネ紋章の術法を使用するマイティ。 


 「無駄ですよ。時間交差クロノス・結合ドッキング!」


 しかし、そんなマイティの行動を予想していたル・シフェルは、夜叉の反撃を封じる一手を実行する。


 無慈悲である。


 シュンッ! ドッゴォオオオオオオオオオオンンン!


 ⁉


 落下を続けるベイオウルフと夜叉の横合いに、突如、もう一体のベイオウルフが現れ、クロノ・破壊弾バスターを夜叉に炸裂させた!

 それは、、時間を遡ってきたウルフであった!


 「なあっ!」


 マイティが驚愕の光景を目の当たりにして叫んだ。

 だが、もう遅い!

 時間を逆行してきたもう一体のベイオウルフの攻撃によって、クロノ・脳天杭打ドライバーちの地面に向う軌道は変わり、夜叉の身体は背中からコーナーポストに激突する軌道に乗ってしまった!


 「おおおおおおおおおおっ!!!!」


 流石に夜叉を操るマイティを始めとした魔術師あくまたちも、これには完全に対処不可能!


 ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!!


 哀れ。


 夜叉は防御障壁を弱められたまま、背中側からコーナーポストに高速で激突。その衝撃は身体全体へと伝わっていった。

 、夜叉の身体を脳天杭打ちに固めていたベイオウルフが手を離し、何処かへと消え去ると、夜叉の全身の装甲には亀裂が走り、四肢はだらしなく力を失う。

 そのまま、重力に引かれて地面へと倒れ込んでいく。

 カラカラと音をさせて落下する、砕けたコーナーポストの破片と共に。


 カラカラ…ドッ…シャァアアアアアアアアアアンンンン!!!!


 10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…0!   


 「アォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!」


 10カウントが過ぎ去り、倒れ伏した夜叉がもはや動けぬと確信し、残ったベイオウルフはズンッっと右拳を天空へと突き上げ、勝利の雄叫びを上げた。


 勝敗は決したのだ。


 水府サイバー・ヤマタノオロチ特設リング決戦


  聖少女アムル&魔幼女斬夢(聖魔少女ル・シフェル)チーム

 〇サイバー・ベイオウルフ(時間交差の結合による時の破壊弾&時の脳天杭打ち)

     VS

  悪魔六芒星七人衆チーム

 ●魔の金属性起動甲冑 剣鎧金色夜叉act2


 この世紀の一戦は、聖魔少女ル・シフェルへと融合した、アムル&斬夢の完勝で勝負がついた。  


 カンカンカンカンカンカンカン…


 そして、ベイオウルフの雄叫びが響き渡る中。リング上空では何時の間にか戦鐘ゴングを持った天魔が、気を利かせて決着の音色を奏でていた。

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