第9話 決戦、そして~時空操る魔刻針と聖刻針~2

 ◇◇◇

 

 ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガガガガガガガガンンンッ!!!!

 

 「くっ!」


 夜叉♯の頭部が連続で被弾し、コックピット内部は激しい揺れに襲われていた。

 もし、カンダタストリングが蜘蛛の糸の逸話同様に彼等を支えていなかったら、マイティたち七人衆は意識を刈り取られて戦闘不能に陥っていただろう。

 だが、危機的状況下にあっても、メインパイロットとなっているマイティ含め七人衆の瞳には、諦めの色は見えなかった。


 彼等は信じているのだ!


 七人衆随一の近接戦闘センスを誇るマイティと、彼を信じた自分たちの判断を!


 (すまん! 耐えてくれ! まだ逆転はできる! あの聖少女アムルなら、止めは必ず突撃を選んでくる!)


 マイティは、アムルと矛を交えた経験から、彼女本来の戦闘スタイルが近接型と看破していた。


 緒戦での多人数の敵を恐れぬ突進。

 そして、怨霊軍団との戦闘を経ての、現在進行形の戦い方。

 

 それらの経験から、マイティの直感は確信へと変わっていた。


 (天狗の羽団扇を使って中距離を維持する風の術式スタイル。それは所詮、後付けの付け焼刃。ならば最後に頼みとする手段は、本来の近接格闘スタイル)


 仲間たちの期待を一身に背負ったマイティは、そんな自分の直感を信じ、反撃のチャンスを待ち続けていた。

 また、マイティの想いはカンダタストリングを通じて全員に伝わっていた。

 それ故に、こんな最悪の状況下にあっても、七人衆全体が高い指揮を維持できていたのである。



 ◇◇◇


 (これで! 終わらせます!)


 敵武装はすべて潰し、両手足を破壊し、動きも封じた。

 さらにセンサー系が集まった頭部にも大ダメージを与えた。

 最早、七人衆はコックピット外の状況を把握するのも困難なはずだ。

 アムルは残る防御障壁を貫く必殺の一撃を放つべく、意識を集中し聖魔の理力を編み上げていった。


 「魔狼ベイオウルフ回転聖覇弾スパイラルブリッドで決着をつけます!」


 ダダッ! ダンッ!

 パシッ!

 バァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!

 ビィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンン!!!!


 これから披露する技のイメージを固め、相応しい名称を与えたアムル!

 ウルフにくるりと踵を返させ!

 夜叉の居る反対方向へと助走をつけて大跳躍させる!

 この時!

 八本ある龍のロープ最上段に両手首に引っかけて、リング外へ飛翔!

 ロープを弓の弦の如くに!

 引き延ばせるだけ引き延ばす!

 そして限界までロープを引き延ばし一旦静止!


 ギリギリ…ギリギリギリギリギリッ!!!!


 その様は!

 まるで引き絞られた弓弦に番えられた一本の矢弾!

 ここでウルフがロープを引き延ばす力を弱めれば!

 その巨重はドロップキックの体勢のまま跳ね返り!

 狙い違わず倒れ伏した夜叉に向う事だろう!


 肉弾特攻!

 肉弾による特別攻撃の準備完了!

  

 自らを弾丸とする回転ドロップキックの肉弾特別攻撃!

 その上で発射時に身体を螺旋回転させ!

 着弾率を上昇させる念の入れよう!

 ライフリングされた銃から発射される弾丸の原理まで応用した!

 真に必殺と呼んで遜色ない完成度の技!


 常識的に考えるなら無論!

 リングで龍のロープに絡み付かれ!

 残骸の如く倒れ込んだままの夜叉に!

 回避は到底不可能!


 パァアアア…ブゥウウウウウウウウウウウウンンンン!!!!


 アムル!

 最後の念の入れ様!

 さらにウルフ全身を!

 強力な防御障壁が包み込む!

 

 果たして!


 ダァアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!! 


 引き延ばされたロープが勢いよく復元を開始し、体勢ドロップキックを維持したまま発射される巨重!

 発射と同時に回転が加えられた巨重は、ブレることなく一直線に夜叉へと向かって飛ぶ! 


 「超必殺! 魔狼回転聖覇弾!!!!」


 ついに、聖魔コンビと悪魔六芒星七人衆戦、決着の瞬間がやって来た!


 ◇◇◇


 ついに、聖魔コンビと悪魔六芒星七人衆戦、決着の瞬間がやって来た…かに思われた!

 しかし!


 (! この張り詰めた空気は! プレッシャーは!!!!)


 「みんな今だ! 俺に力を!」


 「「「「「「応!」」」」」」


 夜叉の各種センサー喪失の結果、外部情報を断たれたままのマイティたちであったが、肌で感じる戦場の直観力と、自身の聖魔理力の変化を感じ取る感覚は健在!

 それは魔狼の接近を的確に捉えていた!


 「「「「「「今こそ力を一つに!」」」」」」


 仲間たちの魔理力を使用し、マイティが自身の固有術式を、夜叉の胸元に開放した!


 すなわち!


 「バネ紋章の方陣よ! 迫り来る敵を弾き飛ばせぇ!」

 

 屈辱…であった。


 ウルフが姿を現して後、短時間矛を交え、悪魔六芒星七人衆は悟った。


 勝てぬ。このままでは勝てぬ…と。


 七人衆は、水府上空での戦闘開始当初。


 魔術師狩りの斬夢さえ押さえ込めれば、聖少女アムルと聖石を再び手に入れることは、容易なことと考えていた。


 しかし。


 蓋を開けてみれば、聖魔コンビ側に地の利があったとはいえ、度々七対ニの戦力差を引っ繰り返され、追い詰められたのは自分達の方であった。


 大魔術を駆使し、戦力で上回ったのも束の間、それ以上の大術式を連発されて、盤面をそっくり引っ繰り返されてしまう。


 その果てにだ。


 魔術師狩りの斬夢は、未熟なはずの聖少女アムルに魔狼を託し、自分はセコンドの如く火炎魔城に籠り、巨重対巨重用のリングへとオロチを変化させてしまった。

 オロチとウルフ。

 巨大魔獣二体の共同戦線なら、夜叉を完封することも容易であるはずなのに!


 舐めプされた!


 我等、七人衆を格下と見て、彼奴め、舐めプをしやがった!


 魔術師あくまへの転生の後、初めて侮られ舐めプされた!


 腸が煮えくり返る屈辱だ!


 おのれ!



 おのれえええっ!!!!



 その傲慢!


 決して許しては置かぬ!!!! 


 必ずやその隙に付け込み、纏めて斃してくれようぞ!


 七人衆は、舐めプされたことと、それによって自分たちに勝機が生じたことに怒り狂い、一周巡ったその果てに、冷静になっていた。


 それ故に七人衆は待ち続けた。


 カンダタストリングを通じて知恵を出し合い、マイティの策が最善と判断し、それに賭けた。


 すなわち。


 敢えて夜叉が半壊するまで負けて見せて後の、超反撃スーパーカウンター


 マイティの固有術式によるカウンターに続く、七人衆の属性術全てを合体させた超必殺技フェイバリット


 無論、その超必殺技を仕掛けウルフを叩きつける場所は、オロチが変化したコーナーポストだ。


 オロチとウルフ、巨大魔獣を纏めて叩きのめし、勝利する。


 それが可能となる瞬間を。



 ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!

 パアッ!

 ⁉

 ドオンッ!

 ビョォオオオオオオオオオ―――――ンンンンッ!

 バァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!

 

 バネ紋章の術法が、魔狼回転聖覇弾着弾の瞬間に!

 一瞬だけ早く展開が成功した!

 このタイミングでのスーパーカウンターだ!

 もはやウルフは必殺技を止めることはできぬ!

 七人衆の一か八かの賭けは成功した!

 哀れ!

 驚愕の表情となったウルフは遥か天空へと跳ね飛ばされた!


 「次だ!」


 「パワーをバッハに!」


 「征くぞ! 両腕手脚部切断! 疾風のマントよ! 夜叉を飛翔させよ!」 

 

 ◇◇◇


 (ああ!)


 アムルが状況を正しく理解したのは、ウルフがバネ紋章の術式で天高く打ち上げられた後のことであった。


 (やられた! でも過ぎたことを後悔しても意味がない! 全力…逃走!)


 マイティ始め七人衆の策は見事だった。称賛に価するだろう。しかし、今は後悔したり、敵のスーパーカウンター成功を、見事と褒めている場合ではない。

 戦闘は続行中。

 まだ勝利を諦める状況ではない。

 それ故に、アムルは自分のできる最善策を実行した。

 先の戦闘で捕まった時とは逆の戦法の選択。

 跳ね飛ばされた力を逆利用し、遠方にエスケープする。


 マイティとの生身での戦闘では、弾き飛ばされた場面で下手に減速したために追い付かれ、窮地に追い込まれた。

 ならば今回はバネ紋章の力に逆らわず、ウルフをさらに加速、上昇させエスケープすべき。

 そうアムルは考え、実行した。

 遥か上空で旋回し、態勢を整えてから、ゆっくりとリングに戻れば良いのだ。


 ギュンッ!


 身体を真直ぐに伸ばし、上空に向って風の法術で加速するウルフ!


 ギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュンッ!


 ⁉


 だが夜叉は、そんなウルフ以上に加速し上昇!

 絶句するアムルを尻目にウルフを追い抜き、上を取る!

 その両手両足には!

 いつの間にか本来の両腕両脚の代りに、触手の如き蔦を伸ばした魔皇樹が生えていた!


 ◇◇◇


 「次だ! 不動! ブラック・ホールド! 魔皇樹を頼む!」


 「了解だ! 我が土の力よ!」


 「我が水の力よ!」


 「「魔皇樹を急速成長させよ!!!!」」


 ググッ…グググググググッ!!!!

 ザワザワザワザワザワザワザワッ!!!!!


 龍のロープに絡み付かれていた両手両足をパージ!

 無理矢理ロープの拘束から脱出!

 加速する夜叉のコックピットで魔術師あくまたちは次の策を発動した!

 あらかじめ夜叉体内に発芽させていた魔皇樹を成長させ!

 失った両腕両脚の代用とするばかりか!

 ウルフに打撃を与えた後!

 絡み付かせて捕らえ!

 拘束具とするのである!

 魔皇樹の根が! 茎が! 葉が! 蔓が!

 七人衆が増幅した魔力を糧に!

 急速成長し!

 質量を増して、新たな夜叉の両腕両脚に成長していく!


 「おおおおっ!!!!」


 ヒュンッ! ヒュンッ!  

 バシィッ! パァンッ!

 バシィィイイン!!!!

 バシィィイイン!!!!

 バシィィイイン!!!!

 バシィィイイン!!!!

 バシィィイイン!!!!

 バシィィイイン!!!!

 


 太くおぞましい蔓の鞭がうねり、しなって、空中を飛ぶウルフを襲った!

 何度も!

 何度も!

 何度も!

 何度も!

 何度も!

 その度にウルフは空中で弾き飛ばされる!


 さらに!


 シュルルルルルッ!

 シュルルルルルッ!

 ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!

 ドンッ!

 ガシィッ!

 グググググググッ!


 ウルフの体勢が崩れた処に、夜叉の両腕両脚から伸びた蔓が絡み付き拘束!

 夜叉本体もウルフの後背部へと密着した!


 「魔皇樹よ! 喰らえ! 聖魔の理力を!」


 ザワザワッ! ザワザワザワザワザワッ!!!!


 コントロールニードルで操作される魔皇樹は!

 カンダタストリングを通じて送られてきた命令通りに!

 ウルフの聖魔の理力を吸収!

 弱体化するウルフの防御障壁と半比例し!

 さらなる急成長を遂げ!

 大輪の魔の華を所々に開花させた!


 「止めだ! 急速下降! 目標! 魔城型コーナーポスト!」

 

 「今一度! パワーをバッハに!」


 「おおおおおおおおおおお! 風よ! 我等に勝利を運べ!!!!」


 「決着の時だ!」 


 「受け止めよ! 我等の怒り!」


 「そして思い知るが良い! 我等悪魔の恐怖を!!!!」


 「地獄の!」


 「献花台!!!!」


 ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!


 シュルシュルシュルシュルシュルルッ!


 ゴウッ!!!!


 ドッ!


 ガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!


 数千年を過ごした大樹の如く急成長した魔皇樹の拘束を、ウルフが振り解くことはもはや不可能であった!

 夜叉はウルフの頭部を突き出す態勢で急降下を続け!

 小賢しくも地獄の必殺技を受け止めようと!

 元に戻ったオロチの龍首龍尾を薙ぎ払い!

 そのまま斬夢が鎮座する魔城が変化したコーナーポストへと!

 ウルフ頭部を叩きつけた!


 抵抗虚しく砕け散る!

 ウルフの頭部と魔城コーナーポスト!

 そして舞い散るウルフの肉片と!

 魔城の残骸と共に!

 大輪の華を咲かせた魔皇樹の花弁が!

 周辺を舞い!

 飾るのであった!

 

 ついに魔術師あくまたちの執念は実を結び!

 魔の壇上の献花台に!

 勝利という名の大輪の華が置かれたのだった!



 ◇◇◇


 (ああ…負けたか。構わんさ、どこで終わっても良い人生だった…いや。人狼に変化させられた時点で、人間としての俺は終わっていた)


 「アムルの嬢ちゃん、君は良く戦った。君にベットした俺も、潔く共に逝く」


 魔城内部で巨重同士の戦闘推移を見守っていた斬夢はそう発言し、静かに最後を待った。

 魔の超必殺技、地獄の献花台着弾までの時間は後僅か。

 その瞬間までは成り行きをしっかりと脳裏に収めようと、迫る巨重二体を見続ける斬夢であった。


 そして着弾の瞬間。


 (こぉーの馬鹿弟子がぁ! 何潔く死のうとしておるのじゃ! 少しは足掻かんか! このヘタレ! それでも大和男子やまとおのこかや!)


 斬夢は自身のサイバーボディが砕け散る中、何処からか師匠の声が聞こえた気がした。


 ◇◇◇


 「だって! 身体は女の子だもん! 弱音を吐いたって、生きるのを諦めたって良いじゃない!」


 「阿呆が! 今や男女同権の時代じゃ! ケモ耳幼女だって敵を目の前にして弱音を吐くことは許されんのじゃ!」


 「酷い! 何でそんなこと言うの? 俺の姿をこんな…ケモ耳幼女にして置いてっ! 虐待師匠!」


 ウルフと夜叉が対決したリングから、そこそこ離れた岩陰に隠れるように、二人の幼女が言い争いをしていた。

 一人は、紅の翼を背に持つ幼女天魔、香々背妙見。

 もう一人は、幼女の姿に狼耳、狼尻尾を持つ幼女。

 武藤斬夢のオーバー・サイバーボディの中身であった。


 じつは斬夢、ベル・セルクスの魔の種子を取り込み転生した当時、ケモ耳幼女と化していたのである。


 そんな幼女を天魔は、保険として魔城に設置していた位相空間ホールを使用し、時間停止と併用して救い出してきたのであった。


 「そんな事よりも馬鹿弟子よ! 戦友アムルを助けに行かなくてもよいのか? あの娘、まだ戦う意思を捨てておらぬぞ」


 あの娘を助けに行かなくてよいのかと、幼女姿に戻った斬夢に詰め寄る天魔。


 リングに目を向けると、確かに頭部を失ったウルフの身体が、魔皇樹の拘束を解こうとしていた。このまま放っておけば、聖魔の理力をすい尽くされ、アムルは再び七人衆に捕らわれてしまうだろう。


 「馬鹿弟子、貴様はその身は幼女と化しても、魂魄は大和男子であろうが? 自分だけすごすごと逃げ出す心算かえ?」


 「ふぅーんだ! 逃げ出す訳ないだろうもん!」


 「これ! 喋り方を男らしくするか幼女らしくするか統一せんか! 混ざっとるぞ!」


 「えっと、えっと…この斬夢が逃げる訳があるか! 俺は男だ!」


 狼の耳をピンッと立て、尻尾を逆立てて男らしく叫ぶ斬夢。しかし、次の瞬間には耳も尻尾もふにゃっと下がって、しゅんと俯いてしまう。


 「でも、生身じゃ対抗手段がないかも…」


 涙目になって言う斬夢。オーバー・サイバーボディとスペルカードを失った今、生身で夜叉と戦うなど、流石に自殺行為である。


 「まったく、手間のかかる弟子だのう。斬夢よ、聖魔の力を操り、時間を操作するイメージを拡大させよ。それが勝利の鍵じゃ!」


 そう言って幼女の姿をした天魔は、幼い貌でにやりと笑って見せた。 

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