第9話 決戦、そして~時空操る魔刻針と聖刻針~1
合わさった聖と魔、そして純粋な魔の力。その莫大な理力を源に生み出された二体の巨重が、雌雄を決す刻限が迫っていた。
それぞれのコーナーポストに降り立ち、睨み合う両巨重。叢雲の合間から姿を現した
一方は、聖少女アムルが操る巨大な人狼、サイバー・ベイオウルフ。
今一方は、悪魔六芒星七人衆が操る魔の巨人、剣鎧金色夜叉♯。
リングの両端で控える両巨重は、戦闘開始の
これから半時もすれば、激戦の末にどちらか一方が地に倒れ伏す。
双方、そう理解しているが故に維持される、嵐の前の静けさであった。
そんな
両陣営とも無駄に理力を消費する術式を解除し、徒手空拳となっていた。
元々、巨体と防御術式を維持するために莫大な理力を消費し続けている。
防御障壁の削り合いとなる近接戦闘に、無駄な武装や術式は悪手。
下手な使用は返って理力の消費を速めてしまい、本末転倒な結果となる。
それ故に、両陣営とも徒手空拳という選択をし、時を待つ。
その様にして地上で静けさが維持される一方、天空の盈月は徐々に両巨重の真上へと昇り、地上に伸びる影を変化させていった。
周辺一帯も、激戦前の僅かな平穏を惜しむかの様。
山林の影は月の運行に従い徐々に姿を変化させていくが、夜鳥の鳴き声は聞こえてくることはなく。
風も鳴かず、森林を揺らすこともない。
同様に、水面に移る月影も揺られめくことはなく、冴え渡っていた。
ただ。
天空を飾る盈月のみが違った。
異形の存在を受け入れた水府の地を能動的に照らし、冴え冴えとした影の位置を変え。地上に映し出していた。
アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!
それは、両巨重の真上へと詠月が至った瞬間のことであった。
静寂を撃ち破り、異形の人狼ベイオウルフが月に向い咆哮した。
その咆哮が、束の間の平穏を撃ち破る、戦闘の開始を告げる
(勝負!)
(望むところだ!)
先にポストを蹴り、相手に襲い掛かったのはどちら側であったか?
タンッ!
タンッ!
ズガァンッ!!!!
タッ!
タッ!
ズガンッ!
グラリッ!
ヨロッ!
バッ!
バッ!
ガッ! ガッ! ググッ! グググググッ!
ガアッ!
バッ!
リングのほぼ中央の空中で、互いにクロスカウンターを炸裂させる両巨重!
互いに仰け反り、リングに落下!
着地と同時に体勢を整えタックル!
続いて両手を合わせて力量を計る力比べ!
徐々に押し込むウルフ。力のみなら上!
近付く夜叉の頭部。チャンスと噛み付き攻撃を仕掛けるウルフ!
それを嫌い、両手を引いて後方に跳ぶ夜叉!
初撃のクロスカウンターは双方とも頭部の防御障壁を削ったのみ。致命傷には至らなかった。
また、その後の攻防も様子見のみ。
それ故に、両巨重はさらに相手を知り、効率よく理力防壁を削るべく、すぐさま近接での打撃戦に移行した!
ダンッ! シュンッ!
スッ! パンッ! パンパンッ! ブンッ!
サッ! ズダンッ!
ズガァンッ!!!!
アオオオオッ! ガアアッ!
ススッ!
ピタッ!
バッ!
バッ!
逸早く体勢を整え、鋭く踏み込んでストレートを放つ夜叉!
スウェイバックでそれを躱しウルフは反転攻勢。ジャブを連続で食らわせる!
しかし、次の大振りを夜叉は体勢を低くして躱し、ローキックを放つ!
ウルフ、右脚に被弾!
打撃を貰い、前屈みになったウルフの顎目掛け、夜叉が追撃のアッパーを放つ!
だが、両腕のガードをクロスさせ、ウルフは巧みにガード!
身体が、重いアッパーの衝撃で浮き上がるも、怒りの咆哮!
鋭い牙の並ぶその顎で、噛み付き攻撃を炸裂させんとする!
それを嫌い、後方にスウェイバックする夜叉!
ウルフはそれを見て反撃を諦め、自らも短く後方に跳んで距離を取り、防御態勢を整える!
夜叉も同様に反撃を止め、それに倣う!
激しい攻防はここまでで一旦停止された。両巨重、ファイティングポーズを取ったままコーナーポストを背にし、再び睨み合う!
ここまでは、互角の勝負!
果たして、月明りの下の六角形リングに、再び僅かな静寂が訪れた。
そんな巨重たちの有り様を、天空の盈月のみが変わらずに、憐れむように照らし出していた。
◇◇◇
「エクレルールちゃん! 私たちはまだ介入しないのですか?」
「まだよ! ツイン・タニア姉さまが、まだ駄目だって!」
ウルフと夜叉の激戦が開始されると並行して、聖少女レムは、大樹の聖域との連絡を取っていた。
連絡役のエクレルールを介して、ツイン・タニアへの決戦介入の催促である。
「もう! アムルちゃんを見捨てる気なんですか? 今なら私たちの精霊機とアムルちゃんの狼さんで、金色の夜叉を挟み撃ちにできるってものです!」
「…♧マイネリーベ♢姉さまとループが今、
「はあっ⁉ あれのカテゴリーは大量破壊兵器ですよ! まさか…」
「…ええ。姉さまはアムルちゃんも、報告にあった魔術師狩りも、
「…そんなのって!」
「…双方が疲弊した段階で介入。始祖樹卵の力で荒れ果てた大地を森林に戻すと同時に、両巨重を破壊。関係者は全員拘束しなさいって指令よ。今、クラレントが
◇◇◇
その頃、地上では両巨重の激闘が再開されていた!
タッ! タタタッ! ズバッ! ズバババッ!
ヒュッ! ヒュッヒュッヒュッ! パンッ! ダッ!
パンパンパンパン!!!!
スッ! ススススッ! ズガンッ! ズガンッ!
ガッ!
スカッ! ズガンッ!
巧みな体術を駆使し、ぶつかり合う技と技との応酬!
相手の技を少しでも上回ろうと、より鋭く、より正確になっていく一撃一撃!
少しでもダメージを減らそうとする、擦れ擦れの回避と覚悟の防御!
スタミナの消耗を避けるための、理に適った一つ一つの所作!
一撃一撃が放たれ、ぶつかり合い、いなされる度に、創意工夫という名の連鎖がリングの中で加速していく!
真剣勝負の最中、好敵手を得た巨重を操る者達は、限界を越えて成長していく!
シャッ! スカッ!
タタッ! ダッ! シュッ!
タッ! ギュルン!
ズゴッ! ドドンッ!!!
グイッ! グイイイッ!
それが唐突に終わりを迎えたのは、ウルフがミドルキックを放ち、脚を引いたその後のこと!
夜叉は、その隙を見逃さずに鋭く踏み込み、ウルフの顔面目掛け右ストレートを放った!
しかし!
不用意と思われたウルフのミドルキックは、夜叉の右ストレートを誘う罠!
ウルフは上半身を後ろに傾け、右ストレートを躱した瞬間、両脚で夜叉の伸びた右腕に絡み付いた!
そのまま体重を利用し、夜叉を地面へと引き倒す!
ウルフは、そこからさらに両腕で夜叉の右腕をグイッと引き伸ばし、関節を固く極めた!
すなわち!
(魔狼式聖十字固め!)
そうアムルが名付けた絞め技、変則の腕ひしぎ十字固めへと移行したのだ!
(それだけではありません! 同時に魔の力も吸い取ります! 聖魔の術式崩し其の伍! 飢狼精吸牙!)
ガブゥッ!
その顎で夜叉の右腕に噛み付き、急速魔理力吸収を開始するウルフ!
これでは流石の夜叉も、右腕に術式を展開できない!
できたとしても、さらにウルフに吸い取られ、より莫大な魔理力をウルフに献上してしまうだけだ!
(小癪な! 不動! 頼む!)
(承知! 大地の槍よ! 隆起…いや、勃起せよ!!!)
ブンッ…パアアアアアアアアア!
ゴゴッ…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!
ジャキンッ! ジャキンッ! ジャキンッ!
空いた左腕を大地に置き、地属性の術式を使用する夜叉!
術者である不動の思惑通り、大地の一部が硬質化!
紡錘状に隆起…いや、勃起して、尖った先端部がウルフを襲った!
(これは⁉ くっ! 術式の多彩さは悪魔が上ね!)
アムルはそう分析し、ウルフ内部で貌を顰める!
極められた腕と極めた腕の隙間に、隆起した大地の槍が入り込み、ウルフの束縛を弱める!
だが、せめて腕一本は貰って行くと、ウルフは限界まで夜叉の右腕を放さぬ構えだ!
(この大地の槍ごと圧し折ります!)
(まだだ! まだやらせんよ! おおおおっ! はああああああっ!!!)
夜叉はそれでもかまわず、右腕部の小破覚悟で強引に腕を引き抜き、ウルフの拘束から脱出した!
ウルフの牙に切り裂かれ、ズタズタになる右腕。
(トア―――!!!)
ヒュンヒュン! ヒュンヒュン! ヒュンヒュン! ヒュンヒュン!
ダメージを最小限とする苦渋の決断で右腕を引き抜いた夜叉は、倒れ伏した体勢から、無傷の左腕を軸にしてブレイクダンス、ウインドミルのような回転攻撃をウルフに仕掛けた!
大木のような夜叉の両脚が、ウルフを襲う!
アオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!
これは堪らぬと咆哮し、その場から飛び退くウルフ!
双方、またも距離を置いての睨み合いへと移行した!
◇◇◇
「始祖樹卵…何ぞ?」
レムたち聖少女の通信を傍受し、盗み聞きをしていた幼女が、スマホを取り出して内通者から得た情報一覧を開いた。
「始祖樹卵…始祖樹卵っと…ぬっ!」
顔色を変える妙見。始祖樹卵の項目にタッチし、詳細情報を呼び出した結果、以下のことが解ったのだ。
曰く。
始祖樹卵とは、聖域である大樹の楽園に自生する始祖樹の種のことである。
大量の聖理力を与えると問題なく発芽するが、それをせずに無理矢理に発芽させると、聖魔に係わらず周辺の理力を急速に吸収しようとする性質がある。
対魔術師用の兵器へと転用すれば、一時的に大規模な術式を使用不能にできる。
その後、始祖樹卵は理力吸収から一転、周辺に木属性の力を放出しながら急成長を開始する。
周辺部の草木が影響されて、短時間に始祖樹を中心とした深い森が誕生する。
巻き込まれた対象は術式を喪失し、維持は困難となる。
魔理力を利用した兵器類に特効。
「…まあ、聖魔師となったあの二人なら…」
(…いや、万が一という事もあり得るかのう…)
「…保険は大事じゃな。
天魔幼女はスマホの電源を切り、薄い胸元からカードを取り出した。詠唱を丸っと省く、弟子とお揃いのスペルカードであった。
◇◇◇
「押してッ! 参る!」
アムルは珍しく叫び、攻撃再会を告げる!
アオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!
ダッ! ヒュバッ!
三度目の激闘は、ウルフの跳躍からの回し蹴りで再開された!
やっと通ったダメージを、夜叉に再生されないうちに勝負に出たのだ!
ブオンッ! ガッ!
クルッ! ブオンッ! ガガッ!
クルンッ! ビュオン! ガンッ!
ヒュン!
シュルルルル!
ギリギリギリギリッ!
ズズズッ!
ドズンッ!
ブンッ!
バアアアアアアアアアンンンン!!!!
ギュロン!!!
ドスンッ!
フワリッ!
ギリリリリ…ギリリリリリリッ!!!!
バギッ…バギンッ!
ウルフ空中での四連撃!
夜叉は素早く繰り出された回し蹴りを、
しかし!
予想外の四撃目までは防げぬ!
すなわち!
聖魔の術式崩し其の陸! 其の質!
両脚に絡み付く二股に別れ伸びたる尻尾!
それは夜叉の歩行術式を破壊に掛かる!
ウルフ!
その状態で飛翔術式使用!
足を取られひっくり返った夜叉!
強かにドズンッと背中を地面に打ち付ける!
その状態から飛翔するウルフ!
そのまま尻尾で強引に夜叉を空中に持ち上げ!
四本の龍尾ロープに向って投擲!
投げ捨てられた夜叉!
龍尾のロープに激突すると一回転!
ロープに絡み付くように捕らわれる!
さらに!
ウルフの追い討ちが発動!
それは聖魔の術式崩し其の捌! 龍尾回帰!
ヤマタノオロチの尾が変化していた龍尾ロープが!
ウルフに操作され強く夜叉を締め付け始めた!
夜叉全身の防御障壁が!
目に見えて弱体化し始めた!
残っていた左腕も砕け始める!
「まだまだです! 聖魔の術式崩し其の玖! 其の拾! 魔狼聖爪衝!」
ギランッ!
シャッ! シャッ!
ズバッ! ズバッ!
ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!
ウルフが次に狙ったのは!
まだ無傷の肩の
哀れ!
被弾した円盤は大破し!
被弾部から躯体冷却用剤が噴き出る!
夜叉は円盤を喪失し、全ての攻撃用術式発射装置を失った!
夜叉の目元に飛び散った冷却剤が!
涙を流すように滴り落ちる!
「まだまだまだまだっ! 目です! 耳です! 鼻です!」
アオオオオオオオオオオオンンンン!!!!
シャッ! ズガガガガンンンッ!
それでもまだ、アムルの追撃は終わらない!
お子様用の諸作品なら、決して言ってはいかないような叫び声をアムルは上げ!
目です、耳です、鼻ですと連続攻撃!
頭部装甲を削り取り、ついにウルフは夜叉頭部コックピットへと攻撃!
聖魔の術式崩し其の拾壱! 拾弐! 拾参! 聖魔狼・鬼面崩しである!
執拗に、伸びた両手の爪が頭部仮面を襲う!
勝負を決する決定打の一つ手前!
止めの攻撃の前に、外部センサーをすべて破壊し!
さらにコックピット内部に衝撃を伝え!
パイロットたる
ウルフの連続攻撃は、結果的にその思惑の通りとなり!
仮面は砕け、第一頭部装甲板までが露出!
夜叉の素顔と頭部コックピットが顕となった!
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