第8話 ベイオウルフ起動!~ひとつになる聖魔の力!~2
◇◇◇
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!
「む⁉ おおおっ!」
「この咆哮! まだ来るのか?」
「くっ!」
「チィィッ!」
「…」
夜叉の頭部コックピット内部で、地獄の観覧車♯使用中につき、身体を固定して
いる
オロチだけでも厄介な相手。
それにも係わらず新たな強敵の出現となれば、
「皆、多対一の戦法に切り替えます!」
「将軍さま⁉ 了解です!」
金華の決断にブラック・ホールドがそう返答し、魔術師たちは一時的に魔力の放出を押さえる。
出力低下で夜叉は空中での回転を弱め、徐々に減速。手足を伸ばし、空中での緩やかな移動に移行した。
当然の成り行きとして、地上で疾走するオロチとは、自然と距離が開いていく。
夜叉の地獄の観覧車♯と、オロチのドリフト走行による高速移動攻撃。その対決は、こんな形で水入りとなった。
聖魔コンビVS純粋悪魔たちの対決は、双方新たな切り札を切り合う形で、新たな局面へと移行する!
「
聖魔コンビの準備が整わぬうちに、悪魔六芒星七人衆が先手を取り、新たな術式を展開する!
バサァッ!
夜叉は、高空で真紅のマントを靡かせて巨体を安定!
シュヴァアッ! フォン! フォン! フォン! フォン!
同時に両腕、両脚に四色の光の剣を発現させ、300メートルはある長大な属性剣を四方に伸ばす!
ガシャンッ! ガシャン! ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
ビュオオンッ!
続け様に両肩の
魔の七属性すべてを使い、改めてオロチへと襲い掛かった!
攻防一体型の攻撃法である地獄の観覧車♯から、極端に攻撃力上昇に魔力を振り分けた、大胆な攻撃法への切り替えである。
この悪魔六芒星七人衆を統べる金華の選択は、彼女が焦っている証左であった。
次々と新たな手札を切って来る聖魔コンビへの焦りが、金華に極端な選択を選ばせたのであった。
実際、数々の大術式を連続使用した連戦で、七人衆は疲弊していた。
それにも係わらず、聖魔コンビ側は龍脈からの補給を滞らすことなく、新たな術式を繰り出し、翻弄してくる。
一度ならず補給を断とうと、不動が龍脈を破壊したが、それすらも事前準備していた術法を使い復元してくる。
補給方面では、明らかに七人衆側が劣っていると認めざるをえない。
七人衆の最年長である金華も、
(強い…眠り続ける我が師マリアも、ここまで魔力補給を考えた術式の構築はしていなかった。まさしく彼奴等こそ、我が人生においての最強の相手だ…しかし、だからと言って!)
「聖石は目の前だ! ここで負ける訳にはいかぬ! 皆! 突撃する!」
「「「「おお!」」」」
(やってやるわよん!)
(負けません★)
ギュオオオオオオオオッ!
「距離300! 属性剣の間合いに入りました!」
「破ァッ!」
地上のオロチとの中距離まで詰めた夜叉は、まずは両腕の炎と水の術式の属性剣コンビネーションでオロチへと切り掛かる!
その属性双剣での攻撃を、背を見せたまま迎え撃つオロチ!
城の後背部八気筒から対術式攪乱の煙幕を張り巡らし、ジグザグに走行!
後方からの攻撃に備え、八本の長大な尻尾を防御障壁で強化!
拳や剣でのパリィングを真似て、龍の尾での属性剣受け流しを試みる!
「雑な攻撃を! 俺を舐めるか!」
時を同じくして魔城天守閣から、風の術式に乗って怒気を含んだ叫び声が聞こえてきた!
無論、それは斬夢の怒りの声だ!
ガギィイイイイイインン! ギィイイイイイインン!
300メートルもの後方からの攻撃など、受け流せないと思っているのか?
ふざけるな!
そんな主の怒りと共に繰り出された龍の尾によるパリィングは、見事に夜叉の属性双剣を左右に弾き飛ばした!
「くっ! 一旦引きます!」
ゴオオオッ!
体幹を崩された夜叉は、続く両脚属性剣での連撃を中断し、一時的な上空へのエスケープを余儀なくされた!
夜叉がその場に居続ければ、鎌首を背後に向けたオロチにより、連続火炎放射の洗礼を受けていたことだろう!
また、煙幕を張り巡らされたことも不利に働いた。正確な攻撃が不可能になったことは地味に痛い。
悪魔六芒星七人衆は一手余計に使って、疾風のマントで煙幕を吹き飛ばさねばならなくなった。
◇◇◇
「らしくない動きだったな?」
(悪魔共め、疲弊したか? それともそう思わせる罠か? まあ、どちらにしても、今がアムルのお嬢ちゃんを出撃させるチャンスなのは間違いない)
ドゥルルルルン! ドゥルルルルルン!
不敵に笑う斬夢は、八気筒よりさらなる煙幕を放出させ、夜叉の視界を殺して視認性を低下させた。
そして。
「魔城ネクロス天守閣開け! お嬢ちゃん! 出番だぜ!」
サイバー・ベイオウルフと一体となったアムルに、出撃を要請するのであった!
「了解しました! サイバー・ベイオウルフinアムル! 出撃します!」
アォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!
アムルの決意に反応し、雄叫びを上げる巨大な人狼!
ピキィィィィ――――――ンンン!
ガシャッ! カラカラカラカラッ!
ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!
程なく、魔城の天守閣から真下の城壁へと縦線が入り、五重塔が上から順次、左右に移動し開いていった。
顕となる引き裂かれた魔胎盤と、その中心部に仁王立ちしているベイオウルフ。
ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
その上空で、突如として暴風が吹き荒れ、煙幕が薄まった! 無論、夜叉が疾風のマントで気流を一時的に操った結果だ!
ボッ!
そんな薄まった煙幕を突き破って、ベイオウルフの眼前に夜叉が姿を現した!
両腕の属性剣を頼りに、上方から唐竹割りで新たな敵を切り倒すために!
再び300メートル上空から、属性双剣が振るわれる!
ダンッ!
だが、そんな夜叉の攻撃を大人しく受けてやるほど、ベイオウルフinアムルは愚鈍ではなかった!
受けて立つと跳躍し、自ら夜叉との間合いを詰める!
(ウィンド・ブロッキング…クロス&ブルーム!)
ガッギィィィ――――――ンンン! パァアアアア―――ンンン!
さらに、風の防御障壁を張り巡らした両腕を交差させ、属性双剣をブロッキング!
続いて腕力に物を言わせ、両腕を力任せに左右へと開き、属性双剣を弾き飛ばした!
しかし、夜叉も負けてはいない!
空中で体勢を入れ替え、両脚の金と地の属性剣を持って連撃を放ってきた!
さらには、両腕の属性双剣での四連撃を狙う!
(同じ攻撃を繰り返してくる! 魔理力を攻撃に振り分け過ぎて、立て直しができていない! 焦っているのね…ならば!)
フワリ! シュタタタタタタッ!
なんと!
ベイオウルフは繰り出された夜叉両脚の属性双剣を移動手段として利用!
属性双剣を足裏に巡らせた防御障壁で受け止め、勢いに逆らわずフワリと飛び乗り、駆け出した!
そのまま駆け上る様は、まるで伝説に語られる八艘飛びの義経や、どこぞの忍者じゃないニンジャの如く、軽やかな挙動だった!
(ベイオウルフのスペックなら! やってみせる! 聖魔の術式崩し其の壱、ハウリング・ブラスト!)
アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………
アムルの意思を受け、ベイオウルフは肺と腹部に限界まで息を吸い込み、声帯が張り裂けんばかりに吐き出し始めた。
その咆哮は徐々に可聴域を越えて、衝撃波へと変化していった!
そんな最中、夜叉はベイオウルフ接近を阻止しようと、両腕の属性双剣による連撃を試みる!
ガッキィィィ―――――――ンンン!
両腕の障壁でそれを阻止したベイオウルフは、さらに夜叉に接近!
自らの声帯から発生させた衝撃波を、夜叉本体の右腕へと集中させる!
ビリビリビリッ! パッキィィィ―――ンンン!!!!
キラキラキラキラ…
凄まじい衝撃波が、夜叉右腕の属性剣と防御障壁を貫き、リボルビング・カーダーの一つを破壊した!
黄金のカーダーの破片が周囲に飛び散り、キラキラと輝く!
その隙を、ベイオウルフを操作するアムルは逃さない!
(次! 聖魔の術式崩し其の弐! その参!
向かい合う夜叉のカーダーが砕かれた右腕側。すなわちベイオウルフの左腕側の防御障壁が、
アムルはその丸楯をフリスビーの如く投擲し、夜叉両足のカーダーを破壊する心算なのだ。
どこぞのアメリカンなキャップか!
(聖と魔が合わさった術式と技能の冴え! とくと見なさい!)
丸楯を右腕で掴んで投擲するウルフ!
ガッ! シュパァァァ―――――ンンン!!!!
スカッ! スカッ!
パッキィィィ―――――ンンン!!!!
パッキィィィ―――――ンンン!!!!
ウルフの連続攻撃に対応しきれない夜叉! 悪足掻きで繰り出した左腕の属性剣が空を切る!
一方、空を切り裂いた具現化丸楯は、連続して夜叉の両脚首に着弾! 二つのカーダーを破壊せしめた!
今や空中を舞う夜叉は、戦闘用術式の大半を封じられ、頼むべき術式での攻撃法は、左腕の水の属性剣のみとなっていた!
(聖魔の術式崩し其の四、
さらなる追撃!
風の術式による高速飛行に移行したベイオウルフは、今度は左腕に丸楯を具現化!
最後のカーダーを破壊すべく右腕で投擲する!
ガッ! シュパァァァ―――――ンンン!!!!
◇◇◇
パッ! キィィィ――――ンンン!!!!
バッ! ヴオン!!!!
「将軍さま! 御免!」
そう短く叫んだマイティが、金華から夜叉の制御を奪い、見事な剣捌きと右手で掴んだ疾風のマント制御で、断空撃を受け流した!
マイティはそうする事で、ベイオウルフの反撃によって一方的に押され始めた悪い流れを断ち切ったのである!
「将軍さま…当然の制御の変更、申し訳ございません」
「…いえ、良くやってくれました。あのままでは最後のカーダーも失っていました」
突然の制御強奪には少なからず動揺したが、結果が伴う部下の判断を高く評価し、金華はそれを明確に伝えた。
実際、あまりにも攻撃に特化した術式を夜叉強化に使い過ぎて、金華はその術に振り回されてしまっていた。
実際の格闘技に限らず、アクションゲームなどでも稀にある事態だ。
肝心な場面で大振りをしてしまい、敵から手痛い反撃を受けてしまう。
そんな隙につけ込まれての、先程の失態であった。
「マイティ、どうやら夜叉操作の適正は、私よりあなたの方が高いようですね。そう言えば、私は聖少女と一対一で戦える場を、あなたに与えると約束していました。その約束を、今果たしましょう。あれを操っているのは、どうやら聖少女のようです」
「おお…感謝致します!」
「私はアート、スペカデに倣い魔理力の増幅に勤めます。皆、マイティへの剛力を頼みます」
「ははっ! お任せください!」
「無論です!」
「承知!」
◇◇◇
「動きが変わった…あの構え、魔術剣士ね」
(やはり斬夢さんが言う通り、魔術師は適応能力が高い厄介な相手だ。あのままでは不利と見て、操縦者を変更してきた)
「上手くこちらの土俵で戦わないと…負けるのは私か」
アムルは、丸楯の具現化を早々に取りやめ、それ以上、夜叉に接近することを悪手と判断し、その場に一旦停止した。
(乗って来るかな? あの魔術剣士は、ウルフの動きを見て私が操縦していると気付いたはず)
続いてアムルは、ウルフに右拳を突き出させると、親指だけを突き出し、地上を指し示した。
空中戦をやめて、地上での術式肉弾戦で決着を付けようとの提案である。
つまりは。
リベンジマッチ、受けてくれるよね? チャンピオン!
そんな露骨な挑発であった。
◇◇◇
「ふん…みんな、構わんか?」
「ぐはははっ…任せる!」
「お前が代理として将軍さまに選ばれたのだ! 勝ってみせろ! 我等に栄光を!」
「悪魔コンビとして、少々の無茶には付き合ってやる!」
「許可します」
「すまん! 降下する!」
良い笑顔の魔術剣士、マイティ・スプリングであった。
スゥゥゥ………
緩やかに降下を開始する夜叉。
スゥゥゥ………
ウルフもそれに続くのであった。
◇◇◇
「…地上戦か。ならば!」
(俺が相応しいリングを用意してやるぜ!)
降下してくる二体の巨重を天守閣近くから眺め、オロチに新たな指令を下す決意を固めた斬夢。
魔城の炎をバックに、デッキから次のカードを引き抜く!
「俺のターン! サイバー龍脈回帰を発動! オロチに宿った怨霊たちよ! 今一度大地に宿り、新たな戦場を顕現せしめよ!」
ゴゴゴゴゴ…ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
ズズンッ! ズズンッ! ズズンッ! ズズンッ! ズズンッ!
怨霊の集合体であるオロチは主からの指令を受けて、尻尾を大地に突き立て、そこから一部の怨霊たちを、地面へと憑依させていった。
オロチを起点に放射状に散った怨霊たちは、六角形型に分散すると、オロチを挑戦者が陣取る青コーナーとなるように地面を隆起させ、大地のリングを作りだしていった。
さらに、六角形のリング端に巨大石柱が五つ立ち並び、オロチ城と合わせて合計六柱のコーナーポストが立ち並ぶ。
ズザザッ…ズザザザザザザザッ!!!!
そのコーナーポストを囲むように、オロチから八つの鎌首と尻尾が伸びていった。一つのポストに絡み付くと、次のポストに絡み付くといった形でそれは進行し、とうとう最後には鎌首と尻尾の先が出会い、食い付いてリングを囲むロープの代りとなった。
ここに魔性の存在が雌雄を決す、完璧な大地のリングが完成されたのだった。
(アムルのお嬢ちゃん、俺は再生した魔胎盤に入り、ベイオウルフに送る魔力の増幅に勤めるぜ!)
「後は頼むぜ! 勝てよ!」
そう言い残し、魔城の内部へと消えていく斬夢であった!
…スゥ………タンッ!
…スゥ………タンッ!
斬夢が魔城の内部に消えて程なく、リング端のコーナーポストへと二体の巨重が降り立った。
一度、アムルを捕虜とした経験のあるマイティ操る夜叉がチャンピオン側赤コーナー。
そして、挑戦者側青コーナーであるオロチ城へはウルフが降り立つ。
ここに、二大陣営が雌雄を決す舞台は整ったのだった。
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