第7話 巨重! 金色夜叉VS八岐大蛇!2


 ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!


 疾風のマントを翻した夜叉が飛び立つ。目指すは眼前に威容を誇る逆十字型の魔城。その天守閣から四方に小天守が配された魔城を陥落させるべく、金色の夜叉は高速でアムルと斬夢の許へと近付いていた。


 「敵魔城! 射程内に捉えましたぞ!」


 巨重は射程内に入ったと同時に、夜叉は重金属弾を搭載した肩部円盤を開放。また、圧縮酸素弾を撃ち出す両手の指を突き出す!


 「円盤部練成重金属弾! 五連圧縮酸素砲! 同時斉射!」


 フオオオゥッ! ズガガガッ! ズガガガガガガガガガガガガガガンッ!!!


 ガシャッ! ガシャッ! ドババババババババババババババババババババババッ!!!


 「敵城塞! 暴風結界弱まる!」


 「第二射、斉射!」


 ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガガガガガガガガガンッ!!!!


 ドガッ! ドガッ! ドガッ! ドガガッ! ドガガガガガガガガガッ!!!


 パラ…パラパラパラ… 


 空中で両腕を突き出した夜叉の両肩円盤ディスコスからは重金属の散弾が。指先からは圧縮酸素弾が連続投射される!

 それ等の連続攻撃は、張り巡らされた風の防御結界を突き破り、逆十字型の魔城ネクロスに見事着弾する!

 その石垣と五重櫓の城壁を、爆炎と衝撃によって散々に削り取っていった!


 だが! 何たる事か!


 ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! 


 逆十字型をなす魔城は、石垣、城壁が削られる度に各処が脈打ち、生物が我が身の傷を治癒させる様を備え、高速再生していくではないか!


 激烈なる夜叉の連続攻撃は、完全に無効化されてしまったのだ!


 「チィィッ!」


 「至近距離まで進撃し、密着射撃によって内部術式機関を破壊せねば、拉致があかんぞ! これは!」


 「将軍さま、両腕に重剣を練成します! それで突撃を!」


 「疾風のマントの制御はお任せください!」


 「了解しました。地獄の観覧車で突撃します!」


 夜叉が伸ばしていた手足を胴体に引き寄せ、その巨体を空中で丸めて固定。頭部に密着させて固定した両腕から、急速練成された重剣のみを突き出し、縦回転を開始する!


 ギュルンッ! ギュルンッ! ギュルンッ! ギュルンッ! ギュルンッ!

 

 ギュルルルルルルゥゥゥゥゥゥン!!!


 「喰らいなさい! 秘技! 地獄の観覧車!」 


 ◇◇◇


 「ふん! 来るか! アムルちゃん! 君はそのままベイオウルフの育成に息吹の術を使い続けてくれ!」


 「⁉ は…はい!」


 「俺は…ここで切り札である伏せカードを発動! 怨霊龍サイバー・ヤマタノオロチを! 魔城ネクロスに顕現させるぜ!」


 天守閣上空でお盆キュウリに跨った斬夢が叫ぶと、逆十字型の魔城を中心とした地面に、燃え盛る多頭火龍の紋様が浮かび上がり、光り輝いた!


 ゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


 「魔城ネクロスを依代に…現れよヤマタノオロチ! その霊威と炎の吐息で、怨敵を薙ぎ払え!」


 ギュィイイイイン! ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!


 コウッ!


 ボッ! ボッ! ボッ! ボッ!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!


 コフシュウッ!


 ボオオッ! ボオオッ! ボオオッ! ボオオッ!


 ボオオッ! ボオオッ! ボオオッ! ボオオッ!


 ズボオオオオオオオオオオオオオッ!!!!


 おおお! 何たる悪夢か!


 魔城前後左右の小天守が変形し、内部から巨大な車輪の骨組みが出でて、炎を噴き出す車が組み上がっていく!

 さらには魔城の正門が開き、金色の夜叉に向き合う八つの火炎龍の鎌首が伸び、裏門からは絡み合う尻尾が生え、大地を覆ったではないか!


 だが魔城の変身はそれで終わりではなかった。開いた正面格子窓からは多数の砲門が姿を現し、背面からは四対の排気筒が天を衝くようにⅤ字型に伸びていく。


 (ふははは! 見たか魔術師共あくま! これが俺の族車! 八気筒サイバー・ヤマタノオロチ火炎魔城車ファイヤーバイクだ!)


 ギュルルルルルゥゥゥゥゥゥゥンンン!!!!


 そこに、観覧車の如く回転する夜叉が突っ込んで来た!


 「族車破壊砲弾斉射! 八火龍おろちよ! 受け止めろ!」


ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ズドドンッ! 


 ゾルルルル………ブワアアアアアアアアアアアッ!!!!


 斬夢の指示で、格子窓の族車破壊砲が轟砲を鳴り響かせる! 同時に八火龍おろちが正門から出でた鎌首を伸ばし、四方八方に拡がって夜叉を受け止めるべく顎を開く!


 ゴウッ!×8


 族車破壊砲弾に続き、火炎の吐息の洗礼で夜叉の到来をもてなす八火龍。回転する金色夜叉の勢いを、破壊砲弾と火炎放射での連続攻撃で殺し、その後に各部に噛み付き、地獄の観覧車を無理矢理に押し留めようというのだ!


 しかし!


 ギュルルルルルッ!!!


ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギギギィンッ!


 夜叉は、回転する身体で破壊砲の砲弾を弾き飛ばし、火炎の吐息を吹き飛ばし、それ等を物ともせずに突撃を敢行した!


 ギュルルルルルルルルルルッ!!!!!


 「キッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」×8


 激突し、重なり合う夜叉と八火龍の鎌首!


 ギランッ!


 ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル!


 正面から夜叉を受け止めようと突き出た八火龍の四つの鎌首が、回転する夜叉から突き出された重剣によって、散々に切り裂かれる!

 重剣は、闇夜の中で炎に照らされる八火龍の牙を物ともしなかった!


 「すげえな! 悪魔共! だがね!」


 魔城天守付近に位置する斬夢が嬉しそうに叫ぶ! 


 ゾル…ゾル…ゾルル…ゾルルルル………ゾルルルルルルルル!!!!


 しかし、悪夢の再来!


 魔城の正門から、再生するヒュドラの如く新たな龍の鎌首が伸び、左右から夜叉に食らい付き、回転を押し留めようと残っていた鎌首に合流していく!

 また傷付いた鎌首も、高速再生していく! 


 龍の鎌首は計十六に増え、左右両側、それぞれ八つの鎌首が夜叉に噛み付こうと蠢く!


 ギンッ! ギンッ!  ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ」!


 回転する夜叉との接触によって、なおも龍の顎が裂け、牙が弾け飛ぶ! 


 しかし、弾け飛ぼうとも、すぐさま再生して齧り付いていく八火龍の鎌首!


 ギュルギュルギュル…ギュルル…ギュル……ギュル…


 それに比例し、明らかに夜叉の回転速度は低下していった! 


 ◇◇◇


 なんたる霊威か!


 (((((((くっ、おおおおおおおおおおおおおお!!!!!)))))))


 恐るべき八気筒サイバー・ヤマタノオロチ火炎魔城車の威圧感と攻撃に、精神を圧し潰されそうになる魔術師あくまたち!

 サイバー・ヤマタノオロチもまた、怨霊将軍である斬夢、サイバー・ベイオウルフ同様に、見るものすべてに恐怖を与える効果持ちであった!

 だが、そこで精神を圧し折られないのが悪魔六芒星七人衆である!


 (この程度の霊威で! まだだ! まだぁ!)


 夜叉頭部コックピットの魔術師あくまたちは、カンダタストリングを通じて指揮を高め合い、八火龍の鎌首を突破しようとしていた!


 (アート、スペカデ!)


 (両腕、両脚の!)


 (リボルビング・カーダーを!)


 (発動しなさい!)


 (了解よん! 両腕カーダー! 水龍剣発動!)


 (任せて★ 両脚カーダー★ タービン・トルネード発動★)


 新武装、リボルビング・カーダーをこの場面で使用し、夜叉に新たな力を付与し強化する!


 ジャキン! ジャキーン!


 ギュルル…ギュルルルルルルルルルルルルル!!!! 


 八火龍の顎によって弱められた地獄の観覧車は、風の強化術式で無理矢理に回転を復活させ! 蒼く輝く水龍剣で八火龍の頭を切り飛ばす!


 (終わりだ! 魔城よ! 陥落せよ!)


 「地獄の観覧車♯!!!!」


 絡み付く八火龍の鎌首を物理的に振り払い、勢いのまま天守閣に突撃する夜叉!


 ◇◇◇


 「させるかあーっ! 突き進めよ! サイバー・ヤマタノオロチ!」


 バリバリバリバリッ! バルンッ! バルンッ! バルンッ! バルンッ!


 バリバリバリバリッ! バルンッ! バルンッ! バルンッ! バルンッ!


 しかし、ヤマタノオロチを宿す火炎魔城もまた、夜叉に負けずと動き出していた!


 そう。


 斬夢の言葉通りに動き出したのである!


 ッバルルルルルルルルルルンンンッ!!!!


 魔城後背部にマウントされた八気筒が唸りを上げ、小天守が変形した車輪が右に切られた!


 そのまま進み出す火炎魔城車!


 ドガガガガガガガガがガガガガッ! バァアアアアンンンッ!!!!


 その結果!  


 夜叉の強化型地獄の観覧車♯は、右側に逸れて走り出した魔城の左側壁面部に激突!


 盛大に魔城の左側壁面部と、天守閣の鯱の片方を削り取って破壊するも、そのスロープに沿ってバウンド! 後方に弾き飛ばされていった!


 ッバルルルゥ…、パィイイイイイイイイイイイイイイイゥゥゥンンンン!!!!


 一方、八気筒サイバー・ヤマタノオロチ火炎魔城車は、八火龍の鎌首を再生させながら、その四つの火炎に包まれた車輪で、軽快に水府の地を走り出した!


 「ふはははっ! どうかね俺の自慢の族車は? 火炎車は飾りではないのだよ! 飾りではな!」

 

 再生を始めた鯱の側で、魔城の後方に飛んでいった夜叉に向かい、斬夢はそう言い放つ!


 ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ!


 その眼下に見える破壊された城壁内部でも、サイバー・ベイオウルフが鼓動を高め、斬夢に同意したかのようであった!


 「進路変更! Uターンの後、敵飛翔体に族車破壊砲弾にて追撃を加える! 準備砲撃!」


 ギュルルッ! ブイィィィィィィイイイイイインンンン!!!!


 弧を描いてUターンし、ヤマタノオロチ魔城火炎車はそこで停車。慣性のままに遠方に飛んでいった夜叉に主砲の狙いを定める!


 「斉射!」


ズドドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 地上と空中の違いはあるとはいえ、オロチ同様にUターンしてきた夜叉。執拗な砲弾を躱しつつオロチへと迫る!

 今度こそ地獄の観覧車♯で勝負を決めようと、一歩も引かぬ覚悟での再突撃であった!


 ◇◇◇


 「さて…」


 (夢の聖少女の力で、無意識の世界から愛の聖少女へと干渉するとしようかの)


 斬夢操るオロチと、悪魔たちが操る夜叉が激戦を繰り広げていた頃。天魔たる幼女、香々背妙見はレムを己のコントロール下に置いていた。

 レムの身体の時を止め、そのショックで一時的に意識を失った隙を付き、身体のコントロールを奪ったのだ。

 今やレムは、天魔の深紅の翼に覆われるように囚われ、妙見の指示通り行動する人形と化していた。


 「ふふ…常世の国のような暗闇ぞうおに捕らわれ、哀の聖少女となった娘よ。我が熱き恒星に触れ、本来の精神を取り戻すが良い」


 (お前が自分自身の聖なる力と、我が弟子斬夢の魔なる力、二つを操る様を見せてもらうぞ)


 なんと姿を現した天魔は、レムの無意識を統べる術を利用してアムルに干渉し、一時的に復讐心を忘れさせ、その潜在能力を引き出そうとしていた。


 「やっと伝説の聖魔師を生み出すチャンスに遭遇したのだ。逃さんぞ…この好機!」


 (ふふふっ、夢の聖少女よ。お主にもいずれ、我が弟子たちの如く、魔の者の番となってもらうぞ………ひいては全人類の宿敵たるアレを時の狭間からひき引きずり出すために…働いてもらう…)


 「ふふ…そのためにまずは…異性への恋を知ってもらわねばならん…故に我が、異性に対する恋焦がれる熱き思いを…お主等に与えてやろう! ほれ! お望みの他者に対する優しさじゃぞ!」


 レムを抱き寄せ、その薄い胸に自分の薄い胸を押し当てた妙見は、自らの熱き鼓動を聖少女に伝播させ、無意識の術式経由で、アムルへも伝播させようとするのだった。


 「…あっ! ああ…ああああっ!!!!」


 妙見の熱い鼓動をその身に受けたレムは高まり、吐息を漏らして、ビクリッ、ビクリッと身体を痙攣させた。

 そして、身体の芯を失って、妙見にその身体をだらしなく預けた。


 「やれやれ。まったく聖少女は異性への愛情が制御されていて面倒くさい」


 (あれでは、激情を術の強化に活かせんのじゃよ。異性個人に愛情を向けず、種全体にのみ愛情を示すというのは、ある意味、生物としては進歩かもしれんが…一人の術師としては失格じゃな。まったく面白みがないのじゃ)


 目的を果たした妙見はそんな愚痴を言って、抱き寄せたレムの髪を優しく撫でるのだった。


 ◇◇◇


 ドクンッ!


 サイバー・ベイオウルフへと息吹の力を注ぎ込んでいたアムルが、一際高く胸の鼓動を高鳴らせたのは、魔城の再生する城壁の内側から、斬夢の姿を再び見上げた瞬間のことであった。


 (え⁉ ええええ! 身体が…身体が熱い???)


 「…ん…」


 年端もいかない少女らしからぬ喘ぎ声を上げ、頬を上気させるアムルであった。


 (なんだろう…こんな気持ちになったのは…本当に久しぶり。何か、誰かのためにしてあげたい。そんな優しい気持ちが沸き上がって来る)


 アムルは上空にいる斬夢を見上げながら、好いた相手であった双葉が生きていた頃のことを思い出し始めた。 


 (そういえば、双葉ちゃんが生きていた頃は、いつもこんな感じだったかな…クラスのみんなと幸せを分け合って、ずっと仲良く生きていけるって…正直…もうこんな感情を抱くことはないと思ってた………でも今は、昔のように誰かに愛情を分け合っていたいと思える…どうしてだろう?)


 無論、香々背妙見の仕業である。


 「あの…斬夢さん!」


 「ん? 何だいアムルのお嬢ちゃん」


 「私…戦います! このベイオウルフで、魔術師あくまたちと戦わせてください!」


 (今は、何故かあなたのために、力を使いたい気分なの!)

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