第6話 剣鎧金色夜叉、大地に立つ!2
「我が
金色夜叉両肘の
水龍は多頭の怪物ヒュドラの如く姿を変え、多方向から火雷龍へと迫る!
ジュオッ! ジュオオオオオオオオオオオオン!!!!
グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
空中で激突する、双頭の火雷龍とヒュドラの水刃! 水の刃は激しい焔に晒され蒸発していくも、確実に火雷龍の胴体を削る!
水蒸気の中から現れた双頭の火雷龍は明らかにその身体の焔の勢いを減じていた!
だが!
「射よ!」
タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! タンッ!
タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! タンッ!
斬夢の号令一下、怨霊武者たちが火雷の矢を放ち、双頭の火雷龍へと合流したそれ等が、胴体のダメージを相殺…いや、さらに激しく燃え上がらせ、パワーアップさせた!
「⁉ チィッ!」
「ホールド! 怨霊共はこの不動に任せろ! 奴等の補給線を潰す! 我が土属性の術式で、この一帯全ての龍脈を寸断してくれる! それまで持たせろ!」
「了解だ! 双水龍の奥義、まだまだこれからよ!」
「ぬううううううううううん…陰陽炉のアートよ! スペカデよ! 力を貸せ!
(了解よ!)
(やっちゃって!)
カンダタストリングを通じ、素早く不動の意思がアートとスペカデに伝達された!
「激震十字削岩衝おおおおおお!!!」
ズドムッ!!!
ビシィッ! ピシシッ! ピキッ! ピキピキピキピキピキピキッ!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
剣鎧金色夜叉が四股を踏むが如く高々と左脚を振り上げ、足元へと振り下ろした!
術式が宿った左脚を踏みしめると、地割れが奔り、衝撃波によって一旦中心部が沈み込み、然る後、円状に大地が盛り上がっていく! この威力は、この地を震源地として地震が発生させ! 周辺の地形に壊滅的な被害を与えていった!
斬夢が怨霊操作の方陣の中心としていた廃工場は無残に倒壊し、地割れに飲み込まれていった。水源は流れ込んだ土砂によって穢され、この地の巒頭、理気は一気に乱された!
さらに、地震は龍脈もズタズタにし、怨霊たちに絶えず流れ込んでいた霊力の流れの一部を遮断した!
「これがっ! 剣鎧金色夜叉の陰陽炉で増幅された我が術式の威力かぁ! 何と凄まじい力よ! ぐはははははは!!!!」
「よくやった! 不動! アート! スペカデ! これならばぁっ!」
敵の弱体化に成功したと知ったブラック・ホールドは歓喜し、我が身に絡み付いたカンダタストリングを通じ、仲間たちと金色夜叉の各部に、新たな技のイメージを伝える!
「双水龍よ! 夜叉の全身を包み込め!
ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ! バァアアアアアアアアアアアアンンン!
全身に双水龍を螺旋状に巻きつけ、助走をつけて天空高く跳び上がる巨重! 宵闇に浮かぶ月に向かうかのような勢いで、火雷龍の遥か頭上まで到達する!
そこから一転! 下降しながら身体を回転させつつ、ドロップキックの体勢を取る! この瞬間、双水龍は
「
ギュオオオオオオオオオオオィィイイイイイイイイイイイイインンン!!!!
ジュッシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!
ズガンッ! ズズゥゥゥンッッッ!
二重螺旋双龍脚は、胴体をくねらせ、どうにか攻撃を躱そうとする火雷龍に見事着弾! 金色夜叉は、そのまま火雷龍の胴体を突き抜けて大地に着地した!
一撃で完膚なきまでに粉砕された火雷龍は、その衝撃で自身を形成していた火雷の矢を飛び散らせ、燻っていた残り火も、水瀑結界が発する霧によって、無理矢理に鎮火されられた!
「見たか怨霊の武者共よ! これが我等悪魔の実力だ! もはや貴様等に勝ち目は無い! 疾く早く彼岸の彼方に去るが良い!」
水瀑結界によって撒き散らされた水気が、霧となって大地を覆っていた。その内側からすっくと立ち上がり、金色の夜叉はその鋭い双眸から、威圧的な視線を天空へと送った。
その鋭い視線は、さしもの怨霊の武者たちも竦み上がるほどの迫力であった!
◇◇◇
「おおおおおっ!」
ギュアアアアアアアアア――――ンンン!!!
竦み上がる怨霊の武者たちとは対照的に、天空で魔のギターを掻き鳴らし、歓喜の叫びを発したのは、風属性の魔術師バッハ・ロウマンであった。
自身が見事に囮の役割を果たせたことと、信じた戦友が剣鎧金色夜叉の術式を成功させたこと。そして、火雷龍退治という空前絶後の大業を成したことに対し、歓びの演奏と叫びを上げた。
「見たかあの威容を! 魔術師狩りの怨霊武将よ! もはや貴様に勝ち目は無い! 大人しく降伏するがよい!」
斬夢へと向き直り、早速降伏勧告を開始するバッハ。
バッハの魔力は、これまでの度重なる風の術式使用により消耗し、限界間近だった。正直、ここで斬夢が降伏してくれなければ、無様に撤退しなければならない状況である。
プライド高いバッハは、できればそんな格好の悪い
「ふっ! ふはははははははっ!」
「…何が可笑しい!」
「片腹痛いわ! 戦略目標を達成した訳でもなく、あんなデカブツを生み出した程度でもう勝利した心算か! 俺に捕まえた聖少女を奪われ、無様にこの水府の地まで追いかけてきたことを、もう忘れたか!」
吠える斬夢。
「ぬううっ!」
プライドを傷付つけられて、唸るバッハ。
「風と音楽の悪魔よ。先程の演奏は見事であったが、戦の流れを俯瞰する見識は持たぬか…よかろう。魔術師狩りの切り札、三つばかり披露して、貴様の見識の甘さを指摘してくれよう!」
「⁉ 馬鹿なっ!」
(あの剣鎧金色夜叉の術式に匹敵する切り札を、三つも持っていると言うのか? それとも、ハッタリなのか?)
剣鎧金色夜叉の威容を恐れもせず、余裕しゃくしゃくの表情の斬夢に気圧されるバッハであった。
真実か? ハッタリか?
斬夢の正確な情報を持たぬ今のバッハでは、判断することは不可能であった。
だが、である。
バッハの勘は常識を超越し、斬夢の言葉が真実であると直感的に感じ取っていた。
「チィッ! マイティ、聞こえるか! 引くぞ!」
(囮の役目は果たした! ここはマイティを連れて一旦引き、体勢を整える!)
時として勝利のためには、プライドを捨て逃げ出さねばならない時もある。そう操る魔風にメッセージを乗せ、自身も風に乗って斬夢の前から去っていくバッハ。戦略的撤退である。
(ふん、引き際を弁えるか…)
「風の悪魔よ、良い判断だ」
そう言ったのみで、斬夢はバッハを追わなかった。また、配下の怨霊に追わせもしなかった。
ただ、眼下の剣鎧金色夜叉の威容を見詰め、不敵に笑ってカードデッキから三枚の切り札を引き抜くのだった。
◇◇◇
「マイティ、聞こえるか! 引くぞ!」
「うっ?」
アムルの持つ天狗の羽団扇によって、再三の打ち込みを躱されたマイティ・スプリングの耳元に、バッハの魔風が送ってきたメッセージが届いた。
(どういう事だ? 一騎打ちを邪魔するなど、バッハ・ロウマンらしくもない!)
戦友の意味不明の行動に、訝しみ貌を歪めるマイティ。しかし、続いて届いたメッセージを聞き、撤退の体勢へと素早く移行した。
「聞けマイティ! 奴は! 魔術師狩りは危険だ! 奴は剣鎧金色夜叉の術式に匹敵する術式を複数隠し持っている! 今は一旦引いて体勢を立て直そう! チャンスを待て!」
「⁉ くっ! 承知!」
(…え?)
「…逃げる…」
身を翻した魔術剣士を双眸で追い、そう呟くアムル。なぜマイティが逃げ出したのか理解ができなかっのだ。
アムルは、剣鎧金色夜叉の許へ向かい去っていく悪魔のコンビを追撃することも忘れ、その後姿を見送る。
「…おのれ卑怯な! 待ちなさい! せめて私を狙う真の目的くらいは話してから逃げなさい! 所詮は幼女誘拐犯ですか! 少しは高潔なところのある剣士だと感じていましたが! 見損ないましたよ!」
散々に気を持たせて置いて、肝心なところで逃げ出すとは。
マイティを見損なうアムルであった。
◇◇◇
(精々逃げろ逃げろ…所詮お前らはここで終わり。それまで無様に逃げ続けるが良い)
余裕の斬夢がほくそ笑む。
「ふふ…まだ俺のターンは続くぜ! 俺は! 三枚の切り札の内二枚をNEXTカウンターに設置して伏せ! 最後の一枚、サイバーフィールド術式、怨霊築城ネクロスを発動する!」
バッハが去った後、サイバーお盆キュウリに跨る斬夢は、高々と怨霊築城ネクロスのスペルカードを掲げ、悪魔たちが破壊した龍脈の再構築を開始した。
煌々と輝くスペルカード!
敵の補給路を断つ戦法は兵法の基本である。
それを知る斬夢は、戦闘開始前から悪魔たちが怨霊武者たちの勢いを削ぐべく、龍脈の破壊に走るのを想定していた。その対抗策として用意していたスペルカードこそ、この怨霊築城ネクロスであった。
「我が忠勇たる怨霊武者たちよ! 水府の大地に憑依し、恩讐の魔城を顕現せしめよ!」
何と狡猾な!
斬夢は、配下の怨霊武者たちを憑依させることで、周辺一帯の大地を操作可能な対象とし、破壊された龍脈を再生させる心算なのだ! そればかりではなく、より怨霊を強化するモニュメントを、この地に顕現させる気だ!
おぉ…おおお……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお………
ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!
命令に従い、次々と荒れ果てた大地へと向かい急降下し、地底へと消えていく怨霊武者たち!
…ゴゴ…ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
怨霊武者たちが憑依し蠢くことで、水府の地に再び地鳴りが響き渡り、大気が震えた!
塵芥が擦れ合い静電気が発生し、周辺に稲妻が発生する!
そして大地は先程とは別の形で盛り上がり、さらに高々と聳えるように盛られていく!
ついには岩石を含む大量の土砂が外殻を造り上げ、巨大な城の形を成していく!
天地鳴動する様とは、正にこの事であった!
「
一夜どころか数分で城を完成させて、斬夢は自慢げに声を張り上げた。そうして斬夢は、俺の切り札たる術式は、まだ二つほど残っていると、不敵に笑うのであった。
◇◇◇
ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウ!!!
金色夜叉の各部から、体内の熱を引き受けた冷却水が一気に放出された。火雷龍から受けた熱気と、度重なる術式の使用により、一旦停止して排熱を余儀なくされたのだ。
一見、無敵の魔術巨人と思われる巨重も、各機能維持のため、定期的にこういった処置が必要であった。大気を取り込み放出する空冷だけでは、廃熱に限界があるのだ。
そんな一時停止を余儀なくされた状況下、再び怨霊たちによって龍脈が再建されていることを知り、魔術師たちは戦慄していた。
「くっ…あの魔術師狩りの武将、どれだけ手札を隠し持っているのだ!」
「金華さま、彼奴の強さは異常ですぞ!」
完成した一夜城を眺める金色夜叉の頭部コクピットで、そう斬夢の異常さを語る不動とブラック・ホールド。
「確かにその通りです。バッハとマイティと合流し、我等もパワーアップしなければなりません。あの者、そうしなければ勝てぬ相手と見ました」
「では?」
「バッハとマイティを呼び戻しなさい。全勢力を持って奴を倒し、聖少女を捕まえるのです!」
「了解です。発行信号術、撃ち上げます!」
ブシュ! パァァアアアンッ! カァッ!
◇◇◇
「うっ! あの緑色の信号弾は…合流せねば奴には勝てぬ…ということか…」
「バッハ!」
「…了解だマイティ。おそらく夜叉の頭部がコックピットだ。急ぐぞ!」
「おおっ!」
信号弾の意味を理解し、剣鎧金色夜叉の頭部コックピットへと急ぐ、風と金属の悪魔であった。
◇◇◇
(…魔術師たち…合流する気ね…私も斬夢さんと一旦合流しましょう…)
その頃、魔術師たちのターゲットであるアムルも、斬夢と合流することを考えていた。やはり、斬夢の側が一番安全だろうとの判断だ。
(…それにしても…なんて強大な力を持っているの…天狗の如意宝珠…そして悪魔の種子…斬夢さんは二つの力を完全に使いこなしているのね…)
アムルは、不意に背中に冷たいものを感じて、ブルッと身体を震えさせた。
(…彼が…あの悪魔たちのように…私たち聖少女の聖石を欲しないことを祈るばかりだわ…もし、彼が三つの力を手に入れたなら…私では想像もつかない…)
とはいえ、恐怖に駆られて仲間を裏切ることなど、あってはならないことだ。それは、性根が腐っている者の行動と知るアムルである。
会って間もないとはいえ、一度は助けられ、共に敵に立ち向かうと誓い合った相手だ。
自分から裏切るなど、よほどの事情がない限りあってはならないのである。
(…今は目の前の敵…あの悪魔六芒星七人衆を退けることに集中しなければ…)
斬夢の力に慄きながらも、まずは眼前の相手を相手取ることに集中する、まだ未熟な聖少女であった。
◇◇◇
(フッ…ここいらで、アムルのお嬢ちゃんに格好良いところを見せんとな。何時迄もしょっぱい勝負を続ける訳にもいかん)
「さあて…ここからは獣の力を解放し、巨重の相手をするぜ…さらに俺のターンだ!」
後方から合流しようと近付いて来るアムルの気配を感じつつ、斬夢は新たなスペルカードを引き抜いた。
すでに開放した怨霊築城ネクロス、二枚の伏せカードに続く、新たな悪魔のカード。
それは、獣の紋章たる666が描かれたカードであった。
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