第3話 乱入者~それは白炎の華~2
天空から降り続く、大量の梅の花びら。
その影響で、網に掛かった獲物である聖少女アムルと、乱入してきたサイバー怨霊武者を見失い、取り逃がした悪魔六芒星七人衆は、忌々し気に貌を顰める。
「…恐るべき奴だった。あいつは…あの怨霊の如き武者は、何者なのだ?」
「…恐らくは魔術師狩り…私の勘がそう告げている」
忌々し気に疑問を口にしたブラック・ホールドに対し、冷静にそう答えたのはミス・
普段は無口な彼女が、仲間との会話に参加するのは珍しいことである。
悪魔たちは、密かにそのことに驚いた。
また、肉が削げ落ちるのも構わず、身体に突き刺さった矢を引き抜くミス・
(…正直、見ているだけで痛々しいわ★ 背筋がぞくぞくする★)
とくに、七人衆でもっとも肉体的に脆弱な上、ミス・仮面同様に女性であるスペカ・デ・キングは、身体の震えを抑えられなかった。
(あんな矢が掠りでもしたら…★)
自分の身体に矢傷が残り、美しさが損なわれる。そう考えるだけで発狂しそうになる。
それに、矢傷が残ることを考えるまでもなく、自分があのように大量の矢で串刺しにされていたら、抵抗もできず即死していただろう。
ミス・仮面がいくら高い再生能力を誇るとはいえ、これ程まで痛みに耐性を持ち得るものなのか。
(私は、ミス・仮面のように不死の方を極めようとすること自体が…無理★)
スペカ・デ・キングは、そう腰が引けてしまうのであった。
「魔術師狩り…お前の勘がそう言うなら、事実なのだろうな。ふむ。対策が必要なのは解る。奴等を追いつつ作戦を検討しよう。それで良いな。ミス・仮面、バッハ・ロウマン」
一方、ブラック・ホールドは、腰が引けているスペカを気にも留めず、ミス・仮面や他の悪魔たちと話を続ける。
「うむ。アート、スペカ、貴様等の出番だ」
ブラック・ホールドに同意し、そう仲間の悪魔に告げるバッハ。
「ええ。頼ってくれて良いわよーん」
「了解よ★」
お絵描き用ペン・タブレットと、白紙のカードを取り出し、不敵に笑うアート・ランティスとスペカ・デ・キング。
汎用性の高い、ふたりの術式の使い時であった。
「追撃の足の準備は、あたしとスペカに任せなさーい。ブラック・ホールド、広域探査は任せたわよ!」
「了解だ。探査能力に優れたこの俺を欺いたあの怨霊武将! 気付けなかった落ち度は、これからの働きで償ってみせる!」
「…ブラック・ホールドよ。
「魔石…同族の敵ということか。ミス・仮面よ、助言を感謝する。我が力の一端、お見せしよう!」
身に付けたマントを翻し、そう宣言する正統派マジシャンスタイルの悪魔、ブラック・ホールド。
「あたしのアートちゃん、顕現する時よ!」
「具現化の魔力ブーストは任せて★」
程なく、アートとスペカのワンドロジョイント術式によって、巨大な三羽の怪鳥が顕現した。
アートが短時間のワンドロで描いた絵画の怪鳥を、スペカデがスペルカード実体化の要領でブーストし、顕現したのである。
「行くわよ! 乗り込んで!」
「おおおう!」
悪魔達は早速その背に乗り、聖少女アムルと怨霊武将となった斬夢の追撃へと移る。
向かう先は…
「奴等は北関東、茨城の方向に向かっているぞ」
「ふうん。そこには何があーるのかしら?」
「…水府…未だ山深い、忍びの源流となった天狗共や、天皇陵の防人である土師氏の隠れ里がある地…」
ブラック・ホールドに代り、アート・ランティスやスペカ・デ・キングの質問に答えたのはミス・仮面である。
「怨霊使いか…天狗共や土師氏の末裔は、反魂の術を得意とすると言う。あの怨霊の武将と繋がったな」
「ふん。強者を相手取ることは望む所だ。征くぞ!」
「応! その通りよ!」
そう順番に応えたのは、バッハ・ロウマン、マイティ・スプリング、マウンテン・不動だ。
「あたしの
「行きなさい★」
主たちの命令を受け、加速する三羽の怪鳥。次の戦いの場へと向け、巨大な翼をばさりと羽搏かせるのであった。
◇◇◇
その頃。
アムルの手伝いとして、凶悪犯たちのアジト襲撃を終えた聖少女たちは、大樹の楽園へと帰還していた。
調度、
「大変! 大変よ! 大変なんです!」
その、先程までうさぎさんの如く最新ゲーム機を抱きしめて、ぴょんぴょん城の内部を跳ね回っていた例外。クラレントが真っ青な貌をして♤マイネリーベ♡たちがいる休憩室に飛び込んできた。
クラレントは大樹の楽園に戻ってすぐ、本来は誕生日用にキープされていたゲーム機を、出発前の約束通り、お詫び兼御褒美として♢マイネリーベ♧から渡された。
それで喜色満面、夢現の態で跳ね回っていたのだが、今はそれが嘘であったのかように、貌が真っ青だった。
「どうしたのよクラレント。まさかゲーム機を落して壊したなんて言わないでよね?」
そう呆れた表情で、最初にクラレントに応じたのはエクレルール。広域探査や、それによる未来の把握を得意とする聖少女である。
もっとも、現在はホームにいるため術式は一切使っていない。
エクレルールの固有術式は、下手に使うと仲間のプライベートまで解ってしまう代物である。
そんな術式をホームで使うことは、要らぬトラブルの素であるのだ。
「違うのです! ゲーム機が嬉しくて、ちょっと監視装置から目を離していたら、アムルちゃんの反応の周辺に、魔石の反応が七つも現れていたのです!」
「ななっ♤ 七つも♢」
「ちょっ!」
「ええっ!」
涙目でそう報告してきたクラレント。事態の急激な変化を聞き、♡マイネリーベ♢たちはリラックスした表情は、一気に厳しいものとなる。
「たぶん魔術師連中がアムルちゃんを襲ったです。それから…」
「…それから?」
「それから、もう一つ魔石の反応が現れて、今現在、アムルちゃんと一緒に移動中。それを追い掛けて、最初に現れた七つの反応も移動中です!」
「?…仲間割れか…それとも、アムルと七人が戦って疲弊したところを、後から来た奴が漁夫の利で掻っ攫った…か?」
「エクレルールちゃん、詮索は後♡ ループちゃん、アムルちゃんの反応の進行方向手前に、空間転移の準備お願い♧ あと、呪符とブースト用の聖石も持てるだけ待っていくわよ♧」
「りょっ、了解! 空間接続開始します!」
「それとレムちゃん♢ あなたはもしもの事態に備えて、ツイン・タニア様へ御報告を♤ それと、ループちゃんと連携する補給役としてここに残り、バックアップをお願いするわ♡」
「はっ、はい。お任せください!」
「よろしい♡ ループ♢ クラレント♧ エクレルール♤ アムルちゃんを助けに再出撃します♡ 続きなさい♤」
この大樹の楽園の最高責任者、二人で一人の聖少女ツイン・タニアへの報告をレムに任せ、♢マイネリーベ♤率いる聖少女計四人は、北関東の茨城県上空へと転移を開始した。
◇◇◇
そして、茨城県の県境の上空。
(…ん…? あれ…ここは…どこ? 私…凶悪犯罪組織狩りをしていて…日本から逃げ出そうとした幹部を追って…それから…⁉ 私! 意識を失って!)
「んっ!」
あの悪魔六芒星との戦いの後、気絶してしまったアムルである。とにかく自分の置かれている状況を正しく認識しようと、閉じていた瞼を開き、映像情報を取得しようと試みる。
(ぴゃっ! おっ、お化けぇ!)
すると、眼前には恐ろしい怨霊武将の姿があった。硬直してしまう、アムルの小さな体身体。
アムルは、怨霊武将となった斬夢に抱きかかえられての移動中、恐怖のあまり意識を手放してしまい、さっきまで気絶していたのだった。
「ん? 起きたか、今は…」
そう優しく語り掛ける斬夢であったが、サイバー怨霊武装MASAKADO公モードが恐ろし過ぎる。
(………そうだ…私………)
一度は覚醒によって身体に入った力が、再び失われた。力なく項垂れるアムルの頭部。
恐怖のあまり、愛の聖少女はまたしても意識を失ったのだ。本日二度目の気絶であった。
「あっ、ありゃ? また気絶しちまった…怨霊の武装が怖いとは…可愛いもんだな、聖少女も」
そう言って微笑む怨霊武将斬夢。しかし、笑顔で歪んだ面頬は、二割増しで怖かった。
いや、マジで怖いからサイバー怨霊武装!
子供が夜中に目撃したら一生のトラウマものである。
感覚がズレているのは、魔術師狩り武藤斬夢と、それなりに対処が可能だった悪魔六芒星七人衆なのである。
流石は怨霊武将! そして流石は悪魔!
[さすおん][さすあく]と言うべき次第である!
と、そんな怨霊武者の進行方向前方に、聖少女ループによる転移フラフープが突如として現れた。
フラフープから抜け出し、次々と現世に姿を現す♡マイネリーベ♤たち。
「む?」
(この複数の反応、聖少女か? このお嬢ちゃんを回収に来たか)
「お…」
怨霊軍団の先陣を切る怨霊武将斬夢が、友好的に聖少女たちに手を振ろうとした時のことであった。
「きゃっ♢ きゃああああああっ♤」
「ひいっ!」
「⁉ !!!!!!!(恐怖体験過ぎて声も出ない)」
「…(無言で気絶)」
(これは…ドラゴンのシャウトみたいな恐怖の術♢ ⁉ 声が出せない♧ みんな、何とか抵抗してぇ♤)←抵抗したけど声が出せない
(おっ、お化け…本物のお化け…あは…あははは)←抵抗できなかった
(何あれ! 何あれ! 怖い! 撤退! 撤退しないと!)←何とか抵抗
(…)←直撃 気絶+膀胱が緩んでお漏らし
意気揚々と躍り出てきた♧マイネリーベ♤たち聖少女であったが、対恐怖効果のアイテムなどの対抗手段は、まったく用意していなかった。
そのため、怨霊武装MASAKADO公の
その結果。
エクレルールは気絶。
ループは抵抗しきれず硬直。
クラレントは全身の力が抜けてしまい、色々とお漏らしをし、下半身を濡らしてしまった。聖少女の下着は、ある程度の水分吸収効果があるのだが、容量を超過してしまった。
勇ましく登場して早々、聖少女チームは行動不能な状況に追いやられてしまった。
(これは…私一人ならともかく、戦闘不能者の仲間を抱えたままじゃ何もできないわ♧ 一旦引きます♢)
唯一人、何とか恐怖効果に抵抗し、声が一時的に出せなくなるだけで済んだ♢マイネリーベ♤であったが、もう有益な行動が取れる状況ではなかった。
(ごめんね、アムル)
♡マイネリーベ♤は、気絶したエクレルールを抱きかかえ、お漏らし中のクラレントと硬直したループを連れて、フラフープの位相空間へと逃げ込んだ。
聖少女たちが全員入ると、空中から消失するフラフープ。
「あ…あれ…」
相手が消え、振ろうとした腕のしまい処がない怨霊武将斬夢。片手を上げたそのまま、転移フラフープのあった空域を通り過ぎていく。
「…わふっ、ちょっとショック」
そう言って、サイバー怨霊武装MASAKADO公の中身、魔術師狩りの武藤斬夢はしょぼーん(´・ω・`)とした。
…いや、聖少女たちと友好的に接したかったら、サイバー怨霊武装を解除しろよ。聖少女たちにその姿は刺激が強すぎるぞ…
斬夢と聖少女チームのファーストコンタクトは、そんなつっこみが天から聞こえてきそうな、喜劇的状況で終わりを告げた。
聖少女チームの♡マイネリーベ♤たちにしてみれば、笑い事ではなかったが。
「…行くか」
仕方なく、そのままホーム、対魔術師用トラップを仕掛けてある水府の地へと、怨霊の軍勢を引き連れていく斬夢であった。
その主の様子を見て、斬夢に続く怨霊脇侍たちが、存在しない肩を竦めて貌を見合わせていた。
◇◇◇
かくして、聖少女たちはホームである大樹の楽園のお城へと戻って来た。
「うっ…ぐすっ…ああ~ん!」
「…」
お漏らしたクラレントは、城に到着してすぐその奥に泣きながら直行した。目的地は御不浄を清めるための、トイレが併設された浴場である。
身体が硬直していたループであったが、意識は確かであったため、何とか転移フラフープの制御には成功していた。
しかし、仲間を無事に連れ帰った後、無言でその場にへたり込んでしまった。
身体の硬直からは脱したが、恐怖体験が原因で、いまだ両手の震えは止まらない。
そして、気絶したエクレルールは、♡マイネリーベ♤に抱きかかえられ、いまだ意識を失ったままだ。
(え…ええええっ!)
そんなチームの有り様を見て、目を丸くしていたお留守番兼補給役のレム。やっと絞り出すように質問を始める。
「マッ、マイネリーベ姉さま、ループちゃん、何があったのです? エクレルールは無事ですか? クラレントは泣いていたし…アッアムルちゃんは…?」
「…お化け♢…」
「え?」
「…相対する者に、強い恐怖を与える相手と遭遇したの♤ 私以外は抵抗できず、初見でこの様です♧ 戦線を維持できないと見切りを付け、撤退したのですよ♢」
ごくりっ。
聖少女チームを、手合わせすら許さず追い返す相手。思わずレムは、喉を鳴らして唾を飲み込むのであった。
「♢レム、ツイン・タニア様に状況報告をお願い♤ ♧次は私のみ、あの怨霊の武者と対峙します♡ ♡バックアップと、アムルちゃんの居場所の特定をお願いします♢」
「はっ、はい! お任せください。夢の領域からアムルちゃんの居場所を特定してみます!」
「♡頼むわ♢ ♤でも、無理しないでね♢」
「はい!」
♢マイネリーベ♤との短いミーティングを終え、アムルの居場所特定の準備を開始するレムであった。
彼女は夢の領域…アストラルサイドから世界に干渉できる、特殊能力持ちの強力な聖少女である。
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