第3話 乱入者~それは白炎の華~1
「…わふっ。寄ってたかって年端もいかない少女を追い回すとは…悪魔共も
聖少女アムルと、魔術師の集団である悪魔六芒星七人衆が接触する以前から、姿を隠し、魔術師たちを監視していた男の姿をした人物が呟いた。
この男、職業柄ギリギリ魔術師たちに気付かれない距離を取り、アムルと七人衆の戦いを観戦していた。
現在、マイティ・スプリングの盾によってカウンターを受けたアムルが、跳ね飛ばされて、男の上空を通り過ぎたところである。
(あの聖少女の嬢ちゃん、他に隠し玉の必殺フェイバリットを持っているとは思えん…それでも引かん心算か…覚悟を決めた侍の魂を持っているな…)
「…わふ。調度こちらにやって来て十畳だったぜ。魔術師狩りとしては、助けない訳にはいかんな!」
そう言って自身を魔術師狩りと称した男は、一般人の姿から本来の姿に戻り、腰のホルダーに収納してあったスペルカードデッキを引き抜く!
サイバー怨霊召喚用の、
「ずっと俺のターン!」
叫んだ男は、キッと聖少女と、追い掛ける上空の七人衆がいる方向を睨み付け、魔理力を開放した!
パアアアアッ!
その魔理力が流れ込み、男が持つスペカが淡く輝き始めた!
この十代後半の長身男の姿をした人物!
魔術師でありながら魔術師狩り! 魔を用いて魔を狩る者! 同族を討伐する同族殺しだった!
「俺はまず、個別結界スペカ盂蘭盆会を発動! その効果により、サイバーお盆ナス、キュウリ、ウリをデッキから呼び出す…顕現!」
パアアアアアアッ!!!
光り輝きながらデッキから飛び出す三枚のスペカ。
男の前方でスペカが光り輝き、やけにメカニカルで巨大な、お盆定番の御供え物たちが顕現した!
実物の牛、馬、ウリ坊なみに巨大だ!
「騎乗!」
タッ! ヒラリ! トスッ!
「駆け昇れ! ナス! キュウリ! ウリ!」
魔術師狩りは大地を蹴り、顕現させたサイバーお盆キュウリ(馬)へと華麗に飛び乗り、操作モンスターたちに出陣を命じた!
よっしゃあ! 男の花道! 戦じゃあ!
お盆キュウリたちは、嘶く馬のように前脚を蹴り上げ、準備は万端!
やってやるぜ!と応じるモンスターたち!
サイバーお盆ナス、サイバーお盆ウリと続き、そして天神乗りをする主人を乗せたサイバーお盆キュウリが、空中へと駆け昇っていく!
「まだだぜ! ナス、キュウリ、ウリを場に出したことで、固有結界スペカ盂蘭盆会が第二段階へと移行! 俺は使用可能になった怨霊スペカ、サイバー武装MASAKADO公を使用! 瞬着するぜ!」
瞬着!
カアアッ!
怨霊武装! MZSAKADO公!
禍々しい輝きの中、機々怪々! 威風堂々! 猛々しきサイバー大鎧が顕現!
魔術師狩りの身体を覆う!
人魂の如き…いや、本物の人魂の蒼白い炎を鎧の隙間から噴き出し、妖しく口元を歪める魔術師狩り!
怖い!
しかし、これは怨霊スペカ・フィスティバルの始まりでしかない!
「さらに俺は、怨霊スペカ、サイバー武装MITIZANE公を発動! 飛梅の鞍(風&木属性)と、火雷神の大太刀(火&雷属性)、梅香の弓矢(木属性&無属性)、三種の天神器を顕現させ、その効果を得るぜ!」
MITUZANE公天神器! 轟佩!
新たに顕現する天神の馬具と、天神の武具!
右手には、肩に刀身を置いて支える火雷神の大太刀! 背負うは梅香の弓矢! そして跨るサイバーお盆キュウリの背には、空を飛ぶ飛梅の枝が描かれた鞍が出現した!
サイバーお盆キュウリは、飛梅の鞍の効果を受け、空中を疾走する速度が上昇。お盆ナス、お盆ウリを追い抜く!
先陣を切る魔術師狩り!
「やあやあ! 我こそは魔術師狩り百炎華が怨霊武将! 武藤斬夢なり! 天に仇成す魔術師共よ! この斬夢が押して参る! 覚悟せよ!」
サイバー武装を終えた魔術師狩り、肩で風切る武藤斬夢がそう吠えた!
ここで怨霊武装を果たしたことにより、固有結界スペカ盂蘭盆会が第三段階に到達!
その効果により、多数の怨霊脇侍が武藤斬夢の後方に出現!
その軍列に加わっていく!
(お”お”…お”お”お”お”…魔術師…討つべし…我等が神州を穢す諸々の悪鬼共…諸共に滅ぶべし…お”お”お”お”お”お”…)
(…お”お”…滅ぶべし…お”お”お”……お”お”お”お”お”お”…)
(…討つべし…お”お”お”お”お”お”…)
(…滅ぶべし…お”お”お”お”お”お”…)
(…滅べ…滅べ…お”お”お”お”お”お”…)
こうして怨霊武将として恥かしくない軍勢を設えた武藤斬夢は、サイバーお盆キュウリ、ナス、ウリ、多数の怨霊脇侍を従えて、天へと駆け昇っていく!
目指すは怨敵、魔術師集団が待つ上空!
だが!
怨霊武将武藤がまず第一とする目的は、満身創痍の聖少女救出である!
◇◇◇
(…この劣勢を覆すには…もう…あれしかない)
敵の魔術師たちに追い詰められ、そう覚悟を決めるアムル。
キャスト・オフによって、何とかスプリング・レイピアの束縛から逃れたアムルであったが、上半身の聖少女フォームは失われ、半裸状態。
対する悪魔六芒星七人衆には、新たに地上で行動していたミス・
(…1対7…)
絶体絶命のこの危機に対し、アムルは絢爛無双の上位術式を持って、全力の戦いを挑む心算であった。
(…2倍迅雷無双…いえ…3倍の術式を使わなければ…勝てない…こいつらを殺しきるまで…もってね…私の身体…)
死の覚悟と、地獄に落ちる覚悟は、凶悪犯狩りを始めた頃に済ませた。
食い物にされる少女たちを助けるための凶悪犯狩りと言えど、やったことは人殺し。
アムルが地獄の閻魔に許される訳もない。
自分も無残な最期を迎えることになる。だが、それは仕方のないことだと、アムルは割り切っていた。
仲間の聖少女として向かい入れようとしてくれたマイネリーベたち。しかし、彼女たち先輩聖少女には悪いが、凶悪犯共を狩り尽くせる力が得られるなら、それ以外は別にどうでも良かったのが本音。
たまたま聖少女として覚醒し、その力を手にできた。しかし、別に聖少女になりたかった訳ではない。
(…ゴメンね…何時か悠久の彼方で出会えたら…その時間軸で謝るよ…)
僅かな期間だけとはいえ、凶悪犯狩りの望みは果たした。
もはや修羅の道を貫くのみ。
今ここで斃れたとしても悔いはないのだ。
そして…
(…倒しきれなくても…奥歯に仕込んだ爆裂呪符を発動させれば…この場の連中は道連れにできる…もう…何の憂いもない……最後の戦いに望もう…)
「…迅雷無…」
…お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”…
(⁉)
ぞくっ! ぞくぞくっ! ぞくぞくぞくぅっ!!!
アムルが迅雷無双の術式を唱え、最後の戦いに臨もうとしたその時。奈落の底から響くような、怨嗟の声が聞こえた気がして、アムルの背筋が震えた。
背筋に、これまでの人生で感じたこともない未知の悪寒が襲い掛かり、根源的な恐怖を感じさせたのだ!
(…なっ…何…?)
「…ぴゃっ!」
(…きゃっ…きゃああああああああああああああああ!!!!)
アムルは、地上から迫りくるそれを知覚し、自分の覚悟も一瞬忘れ、短く年相応の、少女らしい驚きの叫び声を上げてしまった。
それも仕方あるまい。
妖怪の百鬼夜行も裸足で逃げ出しそうな怨霊の軍勢が迫って来たのである。恐怖で少女の素の部分が表面に出てきても、何も可笑しくはない。
悪人と戦い死ぬ覚悟は済んでいた。
だが、地獄ならともかく、現世で幽霊の類と戯れる覚悟など、できているはずもない。
(怖い…でっ、でも…目が離せない!)
アムルは、とくに先陣を切って迫る、蒼白い炎を噴き上げる武将姿の怨霊から目が離せなくなっていた。
「くっ⁉ 何だ⁉」
「おおおっ⁉」
「ちょっ★⁉★⁉★⁉」
「くううっ!」
「何とおっ!」
「ひっ、何なのよーん!」
じつは、これはMASAKADO公の怨霊武装の
アムルも、七人衆も、互いに相手を意識し過ぎていたため、第三勢力である怨霊軍団の接近には気付かなかった。
そのため、怨霊軍団を率いる斬夢は、MASAKADO公の恐怖効果を存分に発動でき、理想的な形で七人衆を、一人を除き硬直させることができたのだ。
キリキリキリ…
キリキリキリ…
キリキリキリ…
キリキリキリキリ…
その七人衆の隙を付いて、怨霊脇侍たちが棒立ちの魔術師たちに対し、弓矢を射る体勢に入る!
どれもこれもが一撃必殺の威力である!
「…ぼっ、防御よ!」
「おおっ!」
遅ればせながら、一瞬の硬直から回復した七人衆、アート・ランティスが叫び、その叫びを聞いた残り五人が回復。防御の術式を使用しようと身構えた。
だが遅い!
タンッ!
タンッ! タンッ! タンッ!
タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! タンッ!
ビュンッ!
ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!
ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!
次々に七人衆に放たれる、風を切る矢弾!
スッ!
しかし、一人硬直を逃れていたミス・
シュルシュルシュル!
パシッ!
パシッ! パシッ! パシッ!
パシッ! パシッ! パシッ!
ズドッ!
ズドッ! ズドッ!
ズドッ! ズドッ! ズドッ! ズドッ! ズドッ!
多数の矢を包帯で止めるも、捌き切れず身体に多数の矢を受けるミス・
だが、身体を海老反りにするのみで、斃れることなく仮面の下で凄絶な笑みを浮かべた。仮面に隠されたその口元から、牙が覗く。
「ミス・
「バッハ! ブラック! スペカ! アート! 複合防御だ!」
「おお!」
マウンテンが音頭を取り、バッハの風の術式、ブラックの強化念動波、スペカの白紙カードにワンドロ絵をアートが書き込み実現する合体術式で、複合防御術式を完成させる!
パアアアアアアアアアアアアッ!
複合術式の固い防御で、弓矢の第二派を凌ぐ七人衆たち!
「はあああっ!」
だが、そこに斬夢の、気焔を吐きながらの大太刀の一撃が追加された。
炎と雷を迸らせ、振われる火雷神の大太刀!
ゴオオオオオオオオオオッ! ピシャアアアアアア――――ンンン!!!
「おおおおおおおおっ!」
「凄いんじゃなーい!」
「驚いている場合か!」
炎と雷の混ざり合った重い一撃が炸裂し、七人衆は複合防御の制御で精一杯となる!
とはいえ、それは斬夢の計画通りだ!
「…えええ? ちょっ! きゃああああああああっ!」
(怖い! 怖い怖い怖い!!!)
恐ろしい怨霊武将の腕の中に納まり、目尻に涙を溜め、悲鳴を上げるアムル!
七人衆をスルーし、高速でアムルの側まで急接近した斬夢は、未だ硬直したままのアムル(半裸)を、駆け抜け様に掻っ攫った!
そして、そのまま方向転換して関東北部方向へと駆け去っていく。
「⁉ くうっ、追うぞ!」
「逃がさん! バッハよ、今一度ハリケーンスクイーズ・トランスポーターだ!」
自分が認めた好敵手との勝負に乱入され、激昂したマイティ・スプリングが叫ぶ!
このまま水入りで勝負を延期させてなるものか!
しかし!
戦場から遠ざかっていく怨霊武将斬夢が、アムルを鞍の上へと移し、得物を火雷神の大太刀から背負っていた梅香の弓に持ち替えていた。
キリキリキリ………バンッ!
そして、左手に持っていた飛梅の枝を弓に番え、さらに上空へと放った。
パアアアアアアアアアアアッッッ!
輝きながら上空へと登っていく飛梅の枝。
すると何と言うことだろう。
輝きが大量の梅の花びらへと変わり、天空から舞い散ってアムルを抱いた怨霊武将斬夢と、付き従う脇侍の姿を隠し、喪失させてしまった。
しばらくの後、戦場に残ったのは、儚く舞い散る梅の花びら。
そして、梅の香りのみ。
その光景に、しばし呆然とする七人衆。
「くっ!」
「何たる手練れ!」
「吾奴、何処に潜んでいたのか」
「綺麗だけど★ 綺麗ではあるけど★」
「逃げられた…か…」
「…悔しい! あーたしたち、してやられちゃったわよう!」
魔術師集団、悪魔六芒星七人衆は、こうして一時的に、怨霊武将斬夢と聖少女アムルを見失った。
「…くくっ」
だが、身体に多数の矢を受けて重症であるはずのミス・
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