第2話
「で、えーとなんだっけ。浮遊霊にでもなったの?」
「そんな軽い調子で言われて非常に不服ですが、まあ現状を見るに少なくとも幽霊的ななにがしかではありますね」
「そっか、残念でした」
「そっか、ではなくてですね」
魔女先輩は俺の机に座り、菓子をポリポリとつまみながら軽く返す。あんまり菓子のカスを俺の椅子にこぼさないでほしいんですが。校内は飲食禁止です。
「だって日常的に今の君みたいなの見てればそうもなるでしょー。知り合い視たのは初めてだから、さっきはちょっとびっくりしちゃったけど」
「幽霊が見えるって話、先輩の妄言じゃなかったんですか……」
「妄言だなんてひっどーい。あーあー傷ついちゃったなー、乙女のガラスハートがバッキバッキだなー。こりゃ帰りは柿ノ葉くんのおごりだなー」
「財布もないしそもそも帰れないんですが」
「なるほどたしかに」
「納得してないでなんとかしてください」
「なんとかってどうするのよ。助けてくださいって言ったって無理よ死んでるんだから」
「……たしかに」
いつも電波を飛ばし続けている魔女先輩らしからぬ正論を飛ばされ押し黙る。俺の所属するオカルト研究部、その部長である最上真白先輩ならなんとかなるだろうと話をしてみたはいいものの、そもそもその言説からして怪しいこの人に助けを求めたのが間違いだったのかもしれない。
「……今何か失礼なこと考えてたでしょ」
「いえそんなことは」
「いつもそうやってあたしのこと馬鹿にしてるの知ってるんだから。でも今はどう? 自分が馬鹿にしていたオカルト側に行って、それでもまだあたしの話を馬鹿にする?」
「……すみませんでした」
「よろしい!」
口角をめいっぱいに上げて満面の笑みを作る先輩。いつもそうしていればもっとモテると思うのだけれど、あいにく学内でみかけるのは、眉間にしわを寄せ難しそうにオカルト関係の書籍を読み漁っている姿ばかりだ。
「で」
「で?」
「いやどうすんのよこれから。あたしこれから部室行くんだけど柿の葉くんも来る?」
「ここから出られないって言ったでしょ話聞いてましたか先輩」
「えーほんとにー? 案外誰かに手を引かれたら出られたりとかしない?」
「だから誰にも触れられないんですって。幽霊なんだから当たり前でしょう」
「試さなきゃわからないでしょ、ほら」
先輩がこちらにその細い腕を伸ばしてくる。生きてる間に触れたかったその手にもう一生触れられることはないのだと思うと少し悲しくて、その悲しさを少しでも紛らわせようと俺は自然にその手に自分の腕を伸ばしてしまう。そして俺の手が、先輩の手に……。……あれ?
「なんだ、触れるじゃん」
「え、あれ、なんで」
触れてる。俺の手が、先輩の手に。
死んでから初めて触ったその手は、生きてきたとき触ったどんなものよりも暖かく感じられた。
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