8.三日の成果


 死体が発見された公園から学校へ戻ると昇降口で百合が出迎え、美術室へと案内された。

 まだ外は明るいがそろそろ文化部活動終了時刻になるということで、百合が鍵を管理している美術室しかもう開いていないらしい。

 中へ入ると綾子が忙しなくタブレットを叩いており、待ってましたと話をすぐに切り出した。



「……もう怒ってません?」

「さっきは悪かった。原因はお前じゃない」

「そうですか~……では早速話を始めますね」



 まずは影浦の様子を見て、あーよかったと綾子は安堵する。



「先程警察無線に応援要請が入りまして、死体の様子からして『模倣者コピーキャット』の犯行だと思うんですよ。せっかくこんな近くで行動を起こしてくれたので、今の内に皆さんと共有したいことがありまして……」



 いつものように綾子はタブレットを皆に見せたが、その画面には珍しく死体の写真が並べられていた。

 ここにいる五人の誰一人として顔色を変えず、話は続く。



「僕、最初皆さんに『手ならしに犯人捕まえましょー』って言ったじゃないですか。それで結局捕まえた犯人は犯人違いで、皆さんのお手を煩わせたことを反省してまして……。この三日間、僕の方で色々調べていたんです」



 表示された三枚の写真はどれも同じような死体が映っており、全て肋骨が体から突き出して心臓にナイフとフォークが突き刺さっている。

 一枚目は見覚えのない女子高生だが、あとの二枚は全員の記憶に新しかった。

 校門前に飾られていた男性と、心臓窃盗犯のあの女性だ。



「新しい順に遡ると……まずはこの女性ですね。彼女は月城さんに接近したせい、もしくは心臓を盗んだせいで『模倣者』の怒りを買って殺されたと僕等は判断しました」



 その言葉に影浦は頷き、月城は静かに目を細めた。



「そして次は、僕が皆さんを見つけるきっかけとなったこの男性……。月城さん、見覚えありませんか?」

「え? あたし?」

「えぇ」



 再び自分の名前を呼ばれて月城は眉をひそめた。

 この男性も自分のせいで殺されたのかと考えると頭が痛かったが、今はそれを悲しんでいる場合ではない。犯人捜しの役に立たなければ、と写真を凝視する。

 男性の顔は苦痛で歪み、血と涙にまみれている。

 元の顔や笑った顔はどんな風だろう……と想像力を働かせていると、細めていた彼女の目は突然見開かれた。

 それはこの男性を特定出来た証だ。



「……え、嘘でしょ? 嘘だよね? 綾子君……」



 否定してくれと顔を上げたが、綾子は淡々と続ける。



「さっき美術部でモデルを担当しながら色々雑談をさせてもらったんですが、やはり女性って噂が早いですね。吹奏楽部の方では身元が割れているようです。この男性、吹奏楽部に年に数回だけ来てくれる、楽器屋さん……なんですっけ?」



 吹奏楽部である月城に今一度確認すると、彼女は小さく頷いた。

 身元が判明してしまったその写真を見ることを拒むように、彼女は視線をそらしながら口を開く。



「楽器のメンテナンスとか、専門の道具を販売してるお店の人で……あたしの楽器も、ついこないだ……見てくれて……。あたし、あの日以来部活に行ってなくて……今日も顔出しただけだったから……」



 だから知らなかった。

 それに誰だって部活中に暗い話はしたがらないだろう。

 こんな形で知人の死を知るとは思わず、月城は震えが止まるようにと体に力を込めていた。

 いくら自分の体質をわかっていても、それが不可抗力なものだとしても、責任を感じずにいはいられない。それが当たり前だ。

 そんな彼女を見て、百合はそっと月城の肩に手を置いていた。



「つまり、この男性も月城さんと接触してからすぐに殺されたというわけです。まるで見世物のように、しかもわざわざこの学校の前に」

「『模倣者』は月城を狙ってる、ってことか?」

「狙っているというより、近付く者を排除しているのかと思われます」



 影浦の問いに綾子はすぐ切り返した。

 だがそうなると最初の被害者である女子高生の説明がどうやってもつかない。

 その女子高生は昨年殺されていて、その時の月城はまだ中学三年だ。



「……この女子高生の学校は?」

「駅を二つ上ってスクールバスで四十分の場所にある女子高でした」



 その学校名に見覚えがないのは共学校ではないからか、と影浦は納得する。

 受験時に県内の高校はあらかた名前を見ていたはずだ。

 きっと百合か月城なら知っている可能性も……と二人に視線を向けた。



「この学校の見学会に行ったことは?」

「ううん……私立校だし、お金がかかるから見にも行ってないよ……」



 ならこの女子高生はどうして殺された?

 「模倣者」は月城の周りをうろついているんじゃないのか?

 そんな疑問を残したまま、綾子は次の話題に移った。



「さて話は戻るのですが。この男性も三人目の女性も月城さんと接触があった直後、殺されたということはいいですね?」



 影浦と百合は頷いたが、不死原は退屈そうに美術室の隅の椅子に座っていた。



「では、ついさっきまで影浦君達のいた公園で新たな死体が出ました。断頭されているのが気になりますが、ほぼ『模倣者』の犯行として僕は考えています」

「俺もそう思ったが、別人の犯行かもしれないだろ? 首を切り落とすのは『模倣者』の犯行と一致しない」

「それがですね、この殺された警察官について調べるとそうも言っていられないんですよ……」



 タブレットに表示されていた写真が消されると、代わりに警察手帳の画像が出て来た。

 その顔写真は、あの死体と同じ顔をしている。



「この警察官がですね、実は……」


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