4.密談の場
綾子と合流した三人は彼に導かれるまま、学校を出てある場所へ向かっていた。
住宅地をどんどん歩き進めるが、綾子は行き先を口にしない。
着いてからのお楽しみ、らしい。
(楽しいことなんてあるかよ……この集まりで)
最後尾を歩く影浦はため息を吐いたが、月城があることに気付いて声を上げた。
「そういえば綾子君、不死原先輩はいいの?」
「あぁ、先パイはさっき連絡が来たので現地集合になりました」
余程寝過ごしたのだろうか? と、月城と百合は顔を見合わせる。
学校から出てしばらく歩くが、まだ目的地には着かないようだ。
駅とは反対の方向に進んでいる為人気はどんどん少なくなっていく。
夏休みの昼下がりといえど、子供の遊ぶ姿はなかなか見られなかった。
「なぁ、いい加減どこに行くか言えよ……綾子。大した用じゃねぇなら俺は帰るぞ」
「まぁまぁ大丈夫ですよ。影浦君にもちゃんと喜んでもらえる場所ですから」
「腹減った」
「喫茶店ですから食事出来ますよ」
(喫茶店?)
余程帰したくないのか、目的地はあっさり明かされた。
しかし周りは相変わらず住宅地ばかりで繁華街はむしろ反対方面だ。
(つーか喫茶店に何があるんだよ……)
暑さと空腹にストレスがたまる一方の影浦だが、女子二人は何食わぬ顔をして綾子についていっている。元気にお喋りもしているくらいだ。
恐らくこの差は、綾子に対する気持ちの問題なんだろうなと影浦は何度目かわからないため息を吐いた。
「あ、不死原先パーイ」
「遅ぇ!」
「いやぁ~僕の補習が延びてしまって……スミマセン」
綾子がすぐに気付いて不死原に声をかけたが、彼の後ろには「Little Bird」という小さな看板を掲げた喫茶店があった。
どうやらそこが綾子の言っていた店らしい。
「では入りましょう」
綾子に促され、五人揃って入店する。
店内は薄暗く、緩やかなジャズが微かに流れていて客は窓際の席に座っている老人一人と、奥に女子高生が一人だけだった。
老人は読書を、女子高生はスイーツを食べながら勉強をしている。
冷房が効いた店内に、思わず感動してしまった。
「いらっしゃいませ」
「五人ですー」
「お好きな席へ、ご自由にどうぞ」
カウンターで作業をしていた女性スタッフはそう言うと水の用意を始めた。
名札はないが他に店員を見かけないので彼女が唯一の店員か、もしくは店長なのだろう。
長い髪を結い、あまり愛想がいいとは言えないその様子から、静かでクールな女性だという印象を受けた。
角のテーブル席に腰を落ち着けると、綾子が我先にとメニューを開く。
「じゃ、皆さんどうします?」
「……飯食いに来ただけなのか?」
「いえ、ここが目的地ですよ」
「それってどういうこと?」
「詳しくは飲み物が来てからゆっくりお話ししますね~。あ~お腹空いた」
昼食を既にとった女性陣は飲み物を、他男性陣は飲み物と食べ物を注文した。
メニューのラインナップからも純喫茶なのだと判断出来たが、今はそんなことはどうでもいい。
どうしてこんな普通の店に、この五人が集められたのかがわからない。
「不死原さん、その髪……どうなさったんですか?」
「あ?」
「いえ、雨でも降ったわけでもないのに……。店内は冷房が効いてますから、風邪を引いたら大変ですよ」
「……暑いからシャワー浴びて来ただけだ。んな細けぇこと気にすんな」
百合が指摘した不死原の長い髪は水分を含んでおり、シャワーを浴びて来たにしては毛先からまだ水が滴っている。
不死原は彼女の言葉に全く耳を貸さなかったが、どうしても気になったのか。
百合はポーチからヘアゴムを出して勝手に彼の髪を結び始めた。
絶対に不死原の怒声が聞こえるぞ……と綾子も月城も身構えたが、彼は何も気にせず文句も言わずに水を飲んでいる。
多分、どうでもいいのだろう。
「お待たせしました。アイスコーヒーとアイスティー、アイスカフェラテが二つとクリームソーダです」
そうこうしていると飲み物はすぐに運ばれてきた。
お客の少なさからかもしれないが、これでようやく綾子から本題を聞き出せる。
「ほら、飲み物来たぞ。早く話せ」
「影浦君はせっかちですね~。まぁいいでしょう、話を始めますね」
綾子はメロンソーダに浮かぶバニラアイスをストローでつつきながら話し始めた。
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