最終話C『勝者はアークロイヤル! 新たなゲームへレッツ・プレイ!』

###最終話『勝者はアークロイヤル! 新たなゲームへレッツ・プレイ!』



 ラウンド3に突入し、アークロイヤルとジャンヌ・ダルクにとって――ある意味でも大きなポイントが訪れた。

『最高のゲーム? アークロイヤル、お前と戦えればそれでいい!』

 ジャンヌは目の前にアークロイヤルがいて、この瞬間のバトルが出来る事に対し――普段は見せないような喜びの表情を感じている。

それに対してアークロイヤルは、ジャンヌとは全く別の事を思っていた。目の前のジャンヌとの戦いも、おそらくは通過点なのだろう。

その先に見えるもの――アークロイヤルには、それが見えていたのである。今の現実で満足せず――。

「確かに有名なプロゲーマーと戦っている瞬間――それは価値があるかもしれないけど、その対決も――永遠に続くわけじゃない!」

 アークロイヤルの目は本気だ。ARバイザーの事もあって、ジャンヌには表情が見える訳ではないのだが――。

ジャンヌが意図的にバトルを引き延ばしているようにも感じられる攻撃を続けているのに対し――違和感を持ち始めていた。

 攻撃パターンが単調過ぎても、逆に周囲を白けさせるのは当然であり――下手に八百長やマッチポンプでもあれば、運営がバトルを止めるだろう。

それを踏まえると、ジャンヌの攻撃は単調と言う訳ではない。おそらく、攻撃力を意図的に下げている可能性はあるかもしれないが。

『アークロイヤル、君の言う事にも一理ある。プロゲーマー同士の対決とはいえ、この時間を永遠に続けば――と思う事はあるだろう』

「なら、どうして!? 今回の様な騒動を起こしてまで――」

『そうでもしなければ、君はこのフィールドに来なかっただろう。別のVRゲームで遭遇出来なくなった以上は――』

「発想が狂っている。あなたは、そこまでして何を得たいの?」

 アークロイヤルはジャンヌが自分との対決をする為だけに、今回の騒動を起こした事に関して――激しく嫌悪する。

『得たいのは、この一瞬だ。過去にVRゲームでリアルチートとも言われていたウォースパイトー―今は、アークロイヤルだったか。君を倒す事で――』

「チート能力や炎上マーケティング――闇の力を使ってまで得たいのは――」

『その通りだ! 君も気づいていただろう――コンテンツハザードは、君を誘い出す為だけの理由に過ぎない』

「ジャンヌ・ダルク――私は、あなたを倒す事でネット上の炎上マーケティングに依存する勢力を――全て否定する!」

 ジャンヌの一言を聞き、アークロイヤルも我慢の限界であると気付いた。

アークロイヤルがガンブレードから放つビームも、あっさりとジャンヌははじき返す。これでは、向こうが加減をしているとは言っても勝ち目がない。

ラウンド2は何とか勝てたが――それでも、実力差は明らかだろう。向こうが加減をしているのであれば、尚更だ。



 ラウンド3も残り1分を切った辺りで、大きな動きがあった。アークロイヤルがガンブレードのリミッターを解除したのである。

『リミッター解除――クリティカルアクションか』

 ジャンヌはアークロイヤルが賭けに出た事に気付く。そして、シールドビットを展開して防御しようとするのだが――。

「ジャンヌ・ダルク――これで、勝負よ!」

 ガンブレードのオプションパーツをパージし、ブレードの刃は蒼く光を放っている。これが、アークロイヤルの本気だろうか?

しかし、ジャンヌは先ほどまでの動揺を何とか抑えており、ニアミスでクリティカルが直撃する事は――ないと。

『この私を誰だと思っている? 私は、不正破壊者(チートブレイカー)だ!』

 タイミング良くジャンヌは指を鳴らし、シールドビットでアークロイヤルの斬撃を受け止める。

格闘ゲームでは、ある意味でもクリティカルガードに該当するようなタイミングでガードしており、これは防がれた――ギャラリーはそう思っていた。



 シールドに亀裂が入ると同時に、瞬時でCG演出のように展開されたビットは消滅した。

ジャンヌのシールドビットは確かに展開されていたが、それを上回る威力をアークロイヤルの一撃が――と言う訳でもない。

『ぬかったか――』

 右腕でアークロイヤルのブレードを受け止めるが、物理ダメージは全くない。それでも、これに関してはジャンヌの戦略ミスだった。

クリティカルアクションの攻撃力を細工する事は出来ない――それはガイドラインにも明記されている。

彼女がミスをしたのは、加減した際にクリティカルアクションも考慮しなかった事だろう。

「勝てた――?」

 アークロイヤルも、この勝利には実感が沸かない。確かにアークロイヤルのクリティカルアクションはジャンヌに命中はした。

しかし、今の消滅演出は――普通にガードを無効化してダメージを与えたものではない。

『ジャンヌ・ダルク――島風蒼羽(しまかぜ・あおば)と言うべきか』

 周囲のスピーカーから聞こえてきた声は、何とヴェールヌイの声だった。一体、彼女は何を公表しようと言うのか?

「ヴェールヌイ、これはどういう事なの?」

 アークロイヤルも先ほどの演出を含め、違和感を持つ箇所は多い。加減の事も含めて――である。

それら全てを彼女が種明かしするとは――到底思えないが。

『君はある人物によって利用されていた。それが全ての始まりと言ってもいい。その人物とは、神原颯人(かんばら・はやと)と誘導させるべきだったのだろう』

『神原が? しかし、彼は確かに――』

 ヴェールヌイの話に何か違和感を持ち、ジャンヌは神原が言っていた事を説明する。

『悪党か――確かに、自分のゲームを何とかして広めようと、手段を選ばずに行動したのは悪党にも等しいか』

 ジャンヌは、ふとある事を思いつき――神原の音声を流す。ここの部分は中継でも流れたのだが――中継動画からの物ではない様子。

『そう言う事ですか。確かに――彼も利用されていたと言う事です。全ては、まとめサイトを含めた勢力に』

 ラスボスの正体を知っても、ジャンヌの表情が変わる事はない。ある程度は想定されていた事もあって。

それに――彼女にはもう一つ別の目的もあった。そして、ジャンヌはARバイザーのシステムをカットする。

「既にヴェールヌイが言った通り――自分はジャンヌ・ダルクではない。ジャンヌと言うキャラを演じしていたにすぎないと言えるだろう」

 島風は、自分はここまでだと考えた。今まで炎上させてきた事も含めて、全て謝罪するのが――幕の降ろし方と判断した。

しかし、その先を止めたのは――何と、アークロイヤルである。

「まだ、ラウンドは残っている! サレンダーするなんて、私は認めない!」

 アークロイヤルも疲労がたまっており、先ほどのヴェールヌイが話をしている間は息を整えるのがやっとというレベルだった。

何とか体力も戻ってきたので、次のラウンドで――アークロイヤルは考えている。

『バトルの方は無効試合だ。それ以上、戦う必要性は――』

 ヴェールヌイの話を遮るように――その人物は姿を見せた。

センターモニターに表示された人物、それはレーヴァテインである。何故、ここに気付いたのか。

『ジャンヌ・ダルク――今のバトル見せてもらった。これを無効試合にするには――もったいないと思わないか?』

 レーヴァテインの話を聞き、周囲のギャラリーが沸き上がっていた。今のを無効試合にするにはもったいない、と。

マッチポンプでもなければ、チートガジェットも確認されていないバトルを無効にするのは――越権行為では? そう考えているのだろう。

『ギャラリーも、ここまで盛り上がっている以上――止める権限は、自分にもないし――ヴェールヌイにもない。思う存分、バトルを盛り上げてくれ』

 それだけを言い残し、システムをヴェールヌイに返還する。まさか――センターモニターで、ああいう事をしてくるとは。

『分かりました。このバトルは――運営側でもチート等は検出されていない以上、レーヴァテインの言う通りです。最後まで、続けてください』

 ヴェールヌイも会場の反応を見て、これを止めた方が炎上するだろう――そう考えた。

そして、ラウンド4のコールが始まろうとしている。全ては――これで決着――。




###最終話『勝者はアークロイヤル! 新たなゲームへレッツ・プレイ!』その2



 ラウンド4、全ては――ここで決まるだろう。ジャンヌ・ダルクはシールドビットを展開する一方で、アークロイヤルは先ほどのガンブレードを使用するようだ。

他の武装も無制限で使えるが、バトルで使用出来るのは3つまで。近接、射撃、特殊の3種類から組み合わせは自由だが――近接オンリーの様なメタは使用不能である。

ジャンヌも明らかに特殊オンリーと言う属性メタではないが――ビームダガーとシールドビットは、どちらかと言うと射撃と言うよりは特殊カテゴリーだろう。

アークロイヤルのガンブレードは近接と思われがちだが、明らかに特殊と言う可能性も――そう言った駆け引きが二人の間では行われている。

《ラウンド4――セットレディ》

 二人はお互いの武器を構え――目の前の相手を見つめあう。

そして、この戦いに全てを賭ける――と。

「これで決着なのか?」

「分からない。アークロイヤルが勝てば勝利だが――ジャンヌには逆転のチャンスもある」

「つまり――?」

「このバトルの行方は、まだ決まっていないと言うべきだな」

 モニターでバトルを見ているギャラリーも、勝利者予想を容易にできなかった。中には、非合法にギャンブルをしている勢力もいそうだが――。

そう言った連中にはガーディアンが駆けつけるのは言うまでもない。



 その一方で、バトルを見届けていたのはー―ヴェールヌイだけではなかった。

レーヴァテインも会場の設置モニターで視聴し、斑鳩(いかるが)も別の場所で視聴していたのである。

「賽は投げられた――後は、お前次第だろう。アークロイヤル」

 レーヴァテインは悔しいが、今はアークロイヤルに任せるしかないと思った。

一連のネット炎上事件は――ジャンヌ・ダルクを英雄として祭り上げている勢力が全てを操っていると考えている。

しかし、今まで摘発された物や逮捕された人物は揃って違う――と思う部分があった。一体、何が欠けていると言うのか?

全ての条件を満たすフィールドは、草加市ARゲームギガフィールド以外に選択肢がなかったのかもしれない。

その理由は、ARシステムの一部が独自規格となっており、中継システムを含めて独立化していることだ。フィールドへ直接行かなければ、この臨場感を味わえない。

最初から――それを狙いとしてギガフィールドを設計し、ある作戦を実行する為に生み出したと言ってもいい場所でもあった。

「そう言えば、ヴェールヌイが仕掛けようとしていた作戦って――」

 斑鳩はヴェールヌイに連絡を取ろうとするが、回線が圏外になっている。まさか――ジャミングなのか?

しかし、ジャミングであればモニターに速報が出るはずなので――機械の故障と言う可能性も否定できない。

『その作戦ですが、直前でレーヴァテインに止められてしまいました』

 ヴェールヌイの声が聞こえたのは、斑鳩が耳にしていたARガジェットと直結したインカムである。

どうやら、圏外なのはARガジェット以外のスマートフォンやタブレット端末だけらしい。

「レーヴァテインに止められたって?」

 斑鳩はヴェールヌイの声に対し、小声で質問をする。周囲のギャラリーに配慮して――なのかもしれない。

『状況が状況ですので、簡単に説明します。レーヴァテインが作戦の中止を提案し、それに同意しただけです』

「確かにレーヴァテインがモニターで周囲のギャラリーが見えていたかのような発言はしていたけど、それと関係が?」

『実は、彼から別の情報を得ました。それも――アークロイヤルに関するもう一つの秘密です』

「まさか? 実は、彼女が黒幕だったとか?」

『それは違います。アークロイヤルは偽名、ウォースパイトもVRゲーム時のハンドルネームで本名ではありません』

「ARゲームプレイヤーが本名で登録する必要がない――それはガイドラインにも書かれているわ」

 話の途中でアークロイヤルとジャンヌ・ダルクのバトルが始まった。それでも話を中断することなく、斑鳩は話を続ける。

『本名で登録が必要なケースは、プレイヤーがプロゲーマーである場合や芸能人である事――芸能人の場合は、超有名アイドルであれば登録拒否は確定ですが』

「えっ? アークロイヤルはプロゲーマーなの?」

『自分もレーヴァテインに聞いただけです。プロゲーマーを目指している趣旨の発言は――あったようですが』

 まさかの展開だった。もしも、これが本当だとすると――アークロイヤルは既にプロゲーマーのライセンスを持っている事になる。

しかし、ARゲームのプロゲーマーになるには――相当なスキルが必要になるだろう。

『仮ライセンスを既に何処かのタイミングで取っていたとしたら――』

 ヴェールヌイの予想は何処まで当たるのか――予測が全て当たって欲しくない気持ちもあるが、今は彼女を信じるしかないだろう。

アークロイヤルの――揺るぎない意思に。


 

 開始1分はアークロイヤルもジャンヌ・ダルクの策に翻弄された。突発的な攻撃で今までのジャンヌでは考えられない物である。

しかし、この行動パターンにアークロイヤルは覚えがあった。思い出すのに若干の時間はかかったが――。

『アークロイヤル――ここまでの手段を取らせるとは』

 今までの焦りとは、更に違ったような動揺――ジャンヌは、それを感じている。

この行動パターンはジャンヌ・ダルクを演じる前に何回か使っていた物であり――気付かない内に封印していた物だ。

「VRゲーム時代のパターン? まさか――本当に?」

 これはアークロイヤルにVR時代のパフォーマンスを――と言う挑発なのか? それとも、本当にネタ切れなのか?

どちらにしても――今のジャンヌにならば、勝てる可能性は高いだろう。


 

###最終話『勝者はアークロイヤル! 新たなゲームへレッツ・プレイ!』その3



 アークロイヤルは、もう思い出せない――あるいは完全に捨ててしまったと思っていた、アレを再び目撃する事になった。

それは、かつてVRゲームで共闘した事のある島風蒼羽(しまかぜ・あおば)とのプレイだったのである。

「VRゲーム時代のパターン? まさか――本当に?」

 頭の中では思い出せなくても――何故か、身体は反応している。

おそらく、これならば――勝ち目はあるかもしれない。仮にジャンヌ・ダルクの行動パターンであれば、それもいくつかは研究済みである。

『これがある意味でも最後の一撃だ――お前がVRゲームを捨てたというのであれば、打ち破って見せろ!』

 ジャンヌ・ダルクは完全にネタ切れと言う気配を感じさせるような、捨て身の策――そう周囲は思うだろう。

使用する武器は、別に召喚した訳ではなく――ビームダガーを二本手に取った。おそらく、二刀流と言うべきか?

手に取ったビームダガーは、それと同時にビーム刃の部分が伸び始め――50センチ程の長さになっていた。

 島風自体のクラスは――アサシンだった可能性もあるが、それを即座に思い出せる状況ではないだろう。

しかし、向こうもネタ切れである可能性は――否定できない。それがフェイクであったとしても――アークロイヤルが行動を変えることはないだろう。

「私は――更なる未来へ、ARゲームが見せる新たな世界へ向かう! その為にも――」

 アークロイヤルの方もガンブレードを展開し、ブレードの一部分がパージする。おそらくは――クリティカルで向かってくるのだろうか。

そのブレードは1メートル位にまで伸び、刃のブルーも若干薄い透明要素が含まれている物から、更に濃いブルーへと色が変化していった。

『これが――』

「これで――」

 お互いに踏み出し、50メートル程は間合いを広げていた展開から――数メートルにまで間合いは狭くなっていく。

ジャンヌの動きは素早いのだが、目視を出来ないほどの速度ではない。アークロイヤルの方もバーニアユニットを使っているようだが――。

『私の全力――』

 ジャンヌは刃の長くなったビームダガーを振り下ろすのだが、それはアークロイヤルがあっさりと切り払う。しかし、一本が切り払われても――。

「決着にするわ! ジャンヌ――いいえ、島風蒼羽!」

 アークロイヤルがビームダガーの切り払いに使用したのは、パージしたと思われたガンブレードのパーツである。

実際には刀における鞘にも該当するものだが、それをアークロイヤルはショートソードとして利用したのだ。これでビームダガーの片方を切りはらい、間合いを詰めていく。

『先ほどの――クリティカルで来るのではなかったのか!?』

 ジャンヌの方もビームダガーを弾き飛ばされ、完全に打つ手を失っている。しかし、それでも彼女には負けられない理由があった。

ネット炎上勢力や様々な炎上要素を持つネット住民やまとめサイト、そう言った存在を根絶させなければ――という目的が。

「ガンブレードは通常武装よ――クリティカルでも使うけど、こういう利用法もあると言う事――」

 ガンブレードでジャンヌの重装甲アーマーに傷を付け、それが彼女にとっても致命傷となった。

まさか――戦法の変更が完全に裏目に出てしまうとは。そして、ステータスを意識せずに戦った結果が――今回の敗北にもつながった。



 バトルは3-1でアークロイヤルの勝利。見事に、彼女はジャンヌ・ダルクに勝利したのである。

しかし、彼女にとって勝利と言う実感はわかない。このバトルも重要なバトルと言う訳ではなく、対戦相手が変わっただけの大戦に過ぎないという事だろう。

「こうなるとは予想外だった」

「遂にネット炎上の元凶は倒されたのか?」

「ジャンヌは英雄として祭り上げられていただけに過ぎない。一部の二次創作改変作品が原作よりもカルト的な支持を受けるのと――同じ原理だろう」

「それでネットが祭りになっていたという事か。しかし、ジャンヌが倒された事でブームが終わってくれればいいが――」

「今回の件で、色々とネット炎上や炎上マーケティングの恐ろしさを知る事になった。これが、本当にデスゲームのような物に発展すれば――」

 周囲のギャラリーは熱狂しているのと同時に、様々な思いをバトルの結果を見て抱いていた。

更なる炎上マーケティングや風評被害を懸念したりする人間もいれば、ジャンヌ・ダルクに無言の同情するような人間もいる。その辺りは人それぞれだろう。

『遂にこの私も――これで最期と言う事か』

 ジャンヌの重装甲アーマーがCG演出で消滅していく。お互いにログアウトはしていないはずなのだが――どういう事なのか?

「ジャンヌ・ダルク! あなたは本当に何者なの?」

 アークロイヤルは消滅していくジャンヌを見て、咄嗟に叫ぶ。正体は既に分かっているのだが、それでも――分からない部分はあるだろう。

『それを君が言うのか? 自分は――』

「島風――コスプレイヤーの島風でしょう?」

『それもある。しかし、自分は――色々とやり過ぎてしまった。ネット上でもリアルでも――』

「それは――」

『普通に謝罪しただけで、全てを終わらせるという手段もあるだろう。しかし、それだけではなく――別の方法を望む声もある』

「別の方法って、まさか――」

 そして、ジャンヌはアークロイヤルの目の前から消滅する。ログアウトと言う意味でも――。

しかし、アークロイヤルはログアウトできない。システムの故障なのか?

「ジャンヌ・ダルク―ー」

 アークロイヤルは、気が付くと泣いていた。せっかく、あの島風に会えたと言うのに――また離ればなれとなってしまうのか?

そして、彼女が別の方法で――と言った事も気になる。何とかして止めないと――そう思った。



 午後3時30分、失意のまま――アークロイヤルは別のARゲームのロケテストを見学していた。

レーヴァテインが別のタイミングで見学をしていた、リズムアクションゲームの試作型なのだが――彼が来た時のような混雑はない。

ロケテストが中止になった訳でなく、整理券配布型に変更した事による物のようだ。それでも、まだ未体験のユーザーが整理券を求めているように見える。

 彼女の両手は震えていた。ロケテストを見て気を紛らわせようとしても、ジャンヌが消滅したあの場面を思い出してしまう。

自分が――島風のARゲームに対するモチベーションを折ってしまった――そう判断されてもおかしくないような結果とも言える。

一般的な初心者狩りや悪意を持ったプレイヤー狩りのケースとは違うので、アークロイヤルを集中的に責めてネット炎上に追い込むのも――悪目立ち仕様と言う勢力のやることだが。

「こんな所にいたのですか――ミカ」

 背後から姿を見せたのは、ヴェールヌイである。いつもの賢者のローブを思わせる格好に加えて――今回は何人かのメンバーと一緒だ。

しかし、彼女は確かに言ったのである。アークロイヤルにとっての隠しておきたい事実を。

「まさか、そんな名前だったとは――驚きね」

 ヴェールヌイの発言を受けて、少しだけ驚きのリアクションを見せたのは斑鳩(いかるが)である。

彼女も別の場所でジャンヌ戦を見ており、途中でヴェールヌイの指示を受けて移動したのだが――。

「プロゲーマーは本名というか登録時の偽名禁止――というルールはあったけど、そう言う名前だったとは」

 斑鳩の後に発言したのは蒼風凛(あおかぜ・りん)である。彼女も有名ではないがプロゲーマーの為、本名でエントリーしているが――さすがに苗字は偽名だろう。

イベント会場の一件が終わってからは様々な場所でイベントを満喫し、ヴェールヌイに『サプライズがある』と言う趣旨のメールを受け取り、この場所に来た。

「自分は俳優としての本名を出せば、会場がトラブルになる――分かるだろ? こういう事情は」

 更に駆けつけたのは、何とレーヴァテインである。ヴェールヌイとは色々とあったが、それも俳優ならではの役者としての演技だった。

どうやら、ご都合主義だったのは――。

「みなさん――どういう事ですか!?」

 アークロイヤルは唐突にばらされる事になった自分の本当の名前、ミカに対して――軽く怒っていた。

そのおかげではあるが、先ほどまでのシリアスムードはなくなり――何時ものアークロイヤルに戻ったと言ってもいい。

「すごかったわ――ミカ」

 ヴェールヌイの軽い発言も、全くのフォローにはなっていなかった。



 その5分後、アークロイヤルの前に姿を見せたのは――有名アイドルゲームのコスプレをした島風だった。

アイドルと言う割に地味なグレーメインな服、ジーパンにARガジェットを収納しているリュック――どう考えても島風が私服にしているとは思ない物である。

「今まで黙っていたけど――本当にゴメン! 守秘義務っていうのがあって、今まで言えなかったの」

 島風の一言を聞き、アークロイヤルも驚きを隠せなかった。

ジャンヌ・ダルクの時とはテンションも全く違うので、周囲が驚くのは無理もないが――それ以上に驚いたのはアークロイヤルだろう。

「守秘義務って――まさか?」

 アークロイヤルは察した。該当するような人物と言えば、指折り数える程度だろう。

「全ては、風評被害勢力や悪質な二次創作でもうけようと言う勢力を一掃しようと言う作戦だったのよ――ヴェールヌイの」

 種明かしを聞いて茫然としたのは、アークロイヤルである。

守秘義務と言う事で神原颯人(かんばら・はやと)辺りが黒幕と思っていたが――まさかのヴェールヌイだったのには周囲も驚くだろう。

「こちらの作戦を中止にしたのは、実はと言うと――途中でジャンヌさんが接触してきたのが原因なのですよ」

 ヴェールヌイも今までのクールな表情からは考えられないようなかわいい表情で、島風の発言に対し反応をした。

これには周囲もシュールな光景と受け流したいが――。

 その種明かしとは、レーヴァテインとジャンヌ・ダルクは最終的な目的が同じだったことが全ての始まりだった。

チートプレイヤーやコンテンツ流通を妨害しようとする勢力の正体、それを探った際に芸能事務所が途中からノータッチになった事には違和感を持つ。

ヴェールヌイも、その辺りは様々な部分を踏まえてフェイクニュースの類とも考えたが――テレビのワイドショー等で取り扱わなくなった事が意味するのは、視聴率競争とは別に――。

「向こうが何をしようとしていたのかは別として、自分はARゲームもVRゲームと同様に炎上する事だけは避けたかったし――」

 島風の真相語りは続く。そして、ジャンヌがヴェールヌイと接触したのはコスプレイベントの妨害の際に姿を見たことがきっかけだった。

そして――ジャンヌから真相を聞き、自分の作戦を行う必要性を若干失う事になり、ヴェールヌイの判断で作戦は中止となる。

「ネット住民が遊び半分でネットを炎上させる行為に対しては、本気で考えなければいけなかったのよ。人が傷つき、そこから気力を失い――」

 島風が避けたかったのは、そうしたネット炎上で自分が追い込まれ、自ら命を――。

「そう言ったのはフィクションだけで、もうたくさんなのよ。だから――ヴェールヌイへ真実を話した」

 その結果が、あの最終決戦となった。アークロイヤルは納得しているのだが――それでもミカという本名をばらしていい理由にはならない。

「でも、ネット炎上はまだ続くだろうし――アカシックワールドはもうすぐ終わる。だからこそ、なのよ」

 そして、島風はリュックからARゲーム用のタブレットを取り出し、あるサイトのページを見せる。

「これからのフィールドは、ここになるだろうから」

 そのARゲームは、目の前でロケテストを行っている――リズムアクションゲームだ。

つまり、プロゲーマーとなるであろうアークロイヤルの次のステージは、ここと言う事になる。

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