最終話B『決戦! アークロイヤル』

###最終話『決戦! アークロイヤル』



 既に会場入りしているアークロイヤルにも、コスプレイベントにおける襲撃者の情報は耳に入っていた。

しかし、これを仮に事実だとして――ヴェールヌイが仕掛けたものではない為、スルーを決め込むようだが。

「――行ける範囲のイベントは確認したし、残るは――」

 アークロイヤルは一般客として参戦、決してVIPだったりはしない。だからこそ、逆に警戒されていないのだろう。

VIP扱いで来場した人物もいるのだが、初日では――大きな動きはないようだ。

 屋内イベントもあるのだが、大抵が技術発表やARゲームの新作発表がメインらしい。

アークロイヤルにとっては、ロケテストならば歓迎だが――実機がないゲームでは開発中止の可能性もあって、チェックしようにも色々と不安要素がある。

「そろそろ、実行の時間か」

 時計アプリを見ると、午後2時になろうとしている。つまり、例の作戦を実行する時間となるのだが――。

肝心のヴェールヌイからのメールがない。作戦開始直前に届くようには予定されているはずで、この段階で届かないと言うのは中止を意味しているのか?

《作戦は実行する。ただし、ジャンヌ出現が確認されてからとなる為――開始時刻は遅れる》

 ヴェールヌイからのメッセージが届いたのだが、そこには開始時刻が遅れる事が書かれていた。

どうやら、何か別の事情も絡んでいるようだが――?



 午後2時からは特設会場でコスプレイベントが行われている。様々なコスプレイヤーがコスプレを行い、会場に集まるだけ――というイベントにも見えなくもないだろうか。

エントリーしていた一部の参加者が辞退した事もあって、参加者は30人ほど――それでも、まだ多い方かもしれないが。

「先ほどの襲撃者の影響で人数が減ったのか――それとも、参加者に芸能事務所のアイドルや芸能人が混ざっていたのか?」

 舞台裏で出番を待っている島風蒼羽(しまかぜ・あおば)は、周囲のコスプレイヤーから見覚えのある人物はいないか――探りを入れていた。

しかし、出場辞退した人物に関しては何も告知がされる事はない。単にスタッフから『若干名の出場辞退がありました』程度しか知らされなかった。

それ以上に――このイベントは、あくまでも賞金がかかっているようなイベントではなく、デモンストレーション的な要素が強い。

マスコミやメディアも混ざっているが――単純に目立ちたいだけでイベントに出るようであれば、ネット炎上は回避できないだろう。

そして、仮に優勝者という概念があるとして芸能事務所のアイドルが取った場合、マッチポンプや炎上マーケティングを疑われる。

そうした事情もあってのデモンストレーションオンリーと言う方向に変えたのだろう。出場辞退の理由も『賞金がない事を告げられた』とか、そう言う物かもしれない。

「こちらのイベントが終わり次第――」

 島風がふと出番を待っている中で、また何か物音がした。物音と言うよりは、爆音と言うべきか。

ARゲームのSEは基本的にARゲーム起動時かガジェット起動時限定でしか流れない。

つまり――この会場付近でARフィールドが起動した事を意味しているだろう。



 島風のガジェット経由で流れた爆音は、この会場から500メートルは離れているであろうARフィールドから流れた音だった。

しかも、この場所は――ロケテストを行っている訳ではなく、アカシックワールドが起動していたのである。

起動した人物はヴェールヌイではない。付け加えるのであれば――アイドル投資家等の勢力でもなかった。

「奇跡と言うべきなのか――ARガジェットが、このタイミングで動くとは」

 この男性は持ち込んだARガジェットが動いた事に驚きを感じていた。チートの部類は搭載されていない事は、ガジェットが起動した段階で証明済である。

ARギガフィールドのARゲームシステムは、チートのチェックが最短化しており――わずか10秒位でチェックが終わると言う話だ。

『こちらとしてはありがたいと言うべきか。ネット上に新たな1ページを――』

 装着したARアーマーは、レーヴァテインの色違いである。しかし、ねつ造フォームや二次創作設定ではなく――劇場版であった物。

しかし、この量産型レーヴァテインは本物にあっさりと撃破されるシーンがある事も印象的で――文字通り、それを原作再現される羽目になった。

『こっちとしても悪いが、人気取りやかませ犬のような勢力に経験値をくれてやるような義理はない――』

 想像を絶する爆音で相手を吹き飛ばし、飛ばされた相手は気絶した。レーヴァテインが使用したのはパイルバンカーガジェットで、これは原作では未使用だ。

劇場版ではガトリングガジェットで一掃していた記憶もあるが、数が一人に対してガトリングは別の意味で負けフラグが立ちかねない。

『人気では――地下アイドルよりも高いのに――どうして――』

 痛みを感じる事無く、あっという間に彼は気絶する。この人物は、さりげなくだがゲーム実況ではそこそこの有名人であり、地下アイドルよりも有名と言ったのは嘘ではない。

だが、最近は大手芸能事務所所属のアイドル等が実況分野に入ったことで、人気が減り――今回の行動を決めたようである。

『ネット炎上や炎上マーケティングを展開し、人気便乗しようと言う人間は――誰でもそう言う』

 レーヴァテインは、その一言を言ったと同時にアカシックワールドをログアウトして姿を消した。どうやら、彼は次のエリアへと向かった――のかもしれない。

「ARゲームをネット炎上的な意味での流行語にする訳には――それこそ、ジャンヌ・ダルクのコンテンツハザードを拡散するきっかけにもなる」

 レーヴァテインはARアーマー解除後も、倒れている実況者の方を見ていたが――しばらくして、別のエリアへと向かう事になった。

どうやら、ジャンヌ・ダルクが現れたらしい。既にヴェールヌイと斑鳩(いかるが)も向かっているとの事だが――。



 午後2時30分――ジャンヌ・ダルクが姿を見せたのはコスプレイベントが行われた会場からは数百メートル程度しか離れていない。

このARフィールドは、サバゲタイプやFPSと言ったジャンルを扱う為に広めの場所が取られており、フィールドとして使わない場合はフリーマーケットが開けそうなスペースがある。

『まさか、君の方から来るとは――ある意味で想定外と言うべきか。それとも、炎上される前に引導を渡す気か?』

 ジャンヌの表情は、普段とは違う空気を感じさせる。まるで、ゲームを楽しんでいたような今までとは比べ物にならないほどの――怒りを放っていた。

「こっちとしても、ゲームのサービスが終了するのは避けられない事実だろうが――」

 ジャンヌの目の前にいたのは、神原颯人(かんばら・はやと)である。

一度はすれ違ったのかもしれないが――ようやく神原が思いだし、コスプレ会場の方へ向かった結果として――ここへ誘導されたようだ。

彼の方も、今まで第三者によってネット炎上された事もあって――怒りの感情は抑えられないだろう。

「ゲームマスターに近い存在がゲームに介入する事は、バランスブレイカーにも等しい行為だが――」

 神原が指を鳴らすと、次の瞬間にはミストルティンとファルコンシャドウ、更には別のWEB小説に登場人物のアバターも呼び出した。

ミストルティンとファルコンシャドウはジャンヌも見覚えがあるのだが――他は初見のようでもある。

『コピーアバターか。あるいはゴーストデータと言うべきか――』

 右手の指をパチンと鳴らし、自分の周囲に特殊な形状をした一本のSFチックな大型レーザーブレードを呼び出す。

それを握る事はなく、次に指をパチンと鳴らすと――今度は地面にサーフボードのような状態で配置された。

「その戦い方は――そう言う事か」

 神原はジャンヌがレーザーブレードの上に乗った事で、ふと昔のアニメで見たような攻撃方法を思い出す。

しかし、ジャンヌがそれを知っているのか――疑問に残る箇所は多い。



###最終話『決戦! アークロイヤル』その2



 午後2時30分、まさかのバトルが会場内のARセンターモニターにも中継されていた。

草加市ARゲームギガフィールドでは雨天時に雨が入るような場所以外にセンタモニターが設置されており、施設内のバトルを中継可能になっている。

その一方で、ギガフィールド内のバトルは外部エリアには配信されないようになっているが、これは中継施設のキャパ的な事情もあるのだろう。

「おいおい、開発スタッフが参戦していいのか?」

「これはひどい――」

「相手がジャンヌでなければ、無効試合になっている可能性も高いな」

 ギャラリーが騒ぐのも無理はないだろう。中継のバトルでは、神原颯人(かんばら・はやと)が姿を見せていたからである。

相手がジャンヌ・ダルクでなければ――果たして、問題はそこなのだろうか?

「ジャンヌ・ダルク? まさか、あのジャンヌか?」

「ちょっと待て、あのジャンヌだとしたら――大変な事にならないのか?」

「逃げないと不味いのでは?」

「避難警報でも出れば話は別だが――問題ないだろう。まずは、無暗に炎上させたがる君たちの方が落ち着くべきだ」

「落ち着いている場合か? ジャンヌだぞ!? あのジャンヌ・ダルク」

 落ち着けと言う男性の発言を聞き、ギャラリーも彼の正気を疑っている。

しかし、この男性が言う事も一理あるだろう。仮に退去が必要なレベルであれば、先ほどの政治勢力が乱入した時にも出るべきだ。

そこで警報が出なかったという事は、問題がなかったから警報を出さなかったのである。つまり、向こうの想定している避難するべきレベルは――。

「この施設は、地震等の災害でも耐えられるレベルのものだ。それに、周囲の案内看板を見て不思議に思わなかったのか?」

 男性の正体は、何と蒼空名城(あおそら・なぎ)だった。その姿を見て、指摘する人間もいなかったので気付かなかったというべきか?

「確かに。避難経路や非常口、その他にも複数の箇所で過剰過ぎる気配は感じたが――」

「不用意な炎上は――取り返しのつかない事態を生み出す。それだけは気を付けてほしいな」

 そして、蒼空は一言残して別の場所へと向かう。一体、何処へ向かうのかは本人にしか分からない。

おそらくは――ジャンヌのいるフィールドなのかもしれないが。



 バトル開始早々、ジャンヌ・ダルクはボードアタックで神原颯人(かんばら・はやと)の展開したコピーアバターをあっという間に消滅させる。

しかし、それに関して何の感情を持たない神原の反応に――ジャンヌは違和感を持った。

『第3者は炎上しても、どうでもいいような――』

「別に――そうとは思わない。八百長騒動等で相撲界が危機を迎えた時には――同じような事がこちらに起きないか思った」

『ならば、自分で戦ったらどうだ?』

「それは――ゲームマスター権限を使用して戦っても構わない。そう言う意味で言っているのか?」

『同受け取るかは任せよう。ただし、今の状況では他人を平気で切り捨てる――悪党に見えるがな』

「悪党か――確かに、自分のゲームを何とかして広めようと、手段を選ばずに行動したのは悪党にも等しいか」

 痛い所を突いてくるジャンヌの発言に対し、神原は完全に開き直る。

この場合は謝罪の姿勢ではないがーー自分のやっている事に関して無自覚で暴れまわるようなネット炎上勢や一部マスコミとは大きく違うだろう。

『アカシックワールドでは、有名になろうとネット炎上者やアイドル投資家が暴れまわり、それが他のプレイヤーにも飛び火する。そうした環境を私は望まない』

「それこそ、キッズ向けアニメやゲーム作品のように――もしくは、何を望む?」

 神原がジャンヌの言っている事に対して反論をしようとするが、それに対してジャンヌは何も答えない。

「こちらも一部マスコミの暴走や利益目当ての勢力、アイドル投資家等の工作には飽き飽きしていた所だ――」

 そして、神原はガジェットのあるアイコンにタッチし、コピーアバターを呼び出した。

その正体とは――ジャンヌも驚くような人物だったのである。ARメットこそはしているが、その姿はジャンヌと瓜二つ。

『何の冗談だ? 同キャラ対戦であれば互角であると言いたいのか――』

 若干の動揺はあるものの、ジャンヌは目の前の光景に対して驚きを見せないようにしている。

「果たして、本当に同キャラかな?」

 神原の表情的には――何かを狙っているはず。しかし、このタイミングでジャンヌ・ダルクのアバターを召喚したとは思えない。

召喚した直後の瞬間、コピーアバターが右手の指を鳴らす。そして――無数のビームダガーを呼び出したのである。

 明らかにジャンヌの能力を使用しているように思えるのだが、ジャンヌ本人の表情は変化しない。どういう事か?

『確かに――私のアバターをコピーしたようには見えるだろう。しかし、人間は――日々進化する!』

 ボードから降りたジャンヌは、何もない空間からARガジェットを呼び出した。その形状に驚きの声を出したのは――神原である。

「アガートラーム!? その使い手は限定されるはずでは?」

 ある意味でも計算外の事が起きた。それは、ジャンヌ・ダルクがアガートラームを使う事である。

アバターがアガートラームを使う事は不可能――下手をすれば自壊したり暴走という可能性もある為だ。

人間のプレイヤーにしか使いこなせないガジェットは、アカシックレコードに書かれている物でもアガートラームだけだろう。



 そして、アガートラームの起動と同時にジャンヌアバターは消滅し、神原も完全に打つ手なし――誰もがそう思っていた。

「神原颯人、あなたの役目は終わりました。後は――」

 その一言と共に姿を見せたのは、CG演出で出現したヴェールヌイである。本来であればヴェールヌイがCG演出で出現するのはあり得ないはずだが。

更には

、同じ演出でアークロイヤルも姿を見せた事には――さすがのジャンヌも言葉が出なかった。

「私たちが――ジャンヌと戦います!」

 アークロイヤルは既にARガジェット及びアーマーを装着済であり、ARメットも着用しているので素顔は見えない。

しかし、ジャンヌは目の前のアークロイヤルが偽者とは思っていないような素振りで、アガートラームを収納したのである。

彼女との戦いにチートキラーは不要と言う事だろうか?

『待っていた、アークロイヤル。いや――ウォースパイトと言うべきか』

 そして、ジャンヌもボイスチェンジャーシステムを解除し、それと同時に目の色と髪の色も変化した。

そレを見て驚くのは神原である。ジャンヌの正体は、あの時に遭遇したコスプレイヤーだった。

「やっぱり。リアルでは遭遇した事はなかったけど、何となくは分かっていた」 

 アークロイヤルはジャンヌの正体に途中から気付き始めたが、確実な証拠がない以上は明言出来なかったのである。

最終的に証拠となったのは、ニュースで目撃したコスプレイヤーが島風蒼羽(しまかぜ・あおば)と似ていたことだ。

「リアルでは遭遇していなかったけど、VRゲーム以外でも会っていたのよ。実は――」

 島風の方は、もはや正体を隠し通す事も出来なくなったので、ARアーマーを解除しようとも考えたが――。

「なるほど。そして、自分と別のゲームでもう一度戦いたい――と」

 アークロイヤルの一言が、ジャンヌの闘志に火を付けたのである。

VRの時は共闘だった事が多い二人が、アカシックワールドでは敵同士として激突――それが、今始まろうとしていた。




###最終話『決戦! アークロイヤル』その3



 今、始まろうとしていたのは――アークロイヤルとジャンヌ・ダルクの一騎打ちだった。

それは、コンテンツハザードやヴェールヌイの作戦もかすむような――ある意味でも純粋なバトルなのかもしれない。

『このバトルには、ネット炎上要素になりそうな物は必要ない――』

 ジャンヌ・ダルクは再びARバイザーを展開し、改めてアークロイヤルに挑戦状をたたきつける形に。

「それもそうかもね。VRゲーム時代の悲劇再びは、こちらとしても願い下げ――」

 アークロイヤルの方もARガジェットを展開し、臨戦態勢に入る。

彼女のメイン武装はガンブレードだが――その形状も以前に使用していた物と異なっていた。

『さぁ、始めようか。これが、最後のビッグバトルとなるだろう』

 ジャンヌは右手指をパチンと鳴らし、右腕にアガートラームを装着する。

どうやら、向こうも本気でアークロイヤルにぶつかるつもりでいるらしい。

 一方で――アークロイヤルはバトル前に何かを考えていた。本来であれば――何の為にARゲームをプレイしようとしたのか?

VRゲームでネット炎上をした為に別のゲームを探していた――も一理ある。新しいゲームをプレイしたかった――それもあるだろう。

しかし、本当にプレイしようと思った理由は――他にもあったはずだ。それを微妙に思い出せないでいる。



 バトルが始まったタイミングで、ヴェールヌイは別の場所にいた。コスプレ会場とは50メートル離れた別の――施設である。

ジャンヌに関してはアークロイヤルに任せ、自分は作戦の最終段階を行おうとしていた。しかし、予定とは作戦内容も大きく異なってしまってる。

それもそのはずで――原因を作ったのはジャンヌ自身。彼女がアガートラームを使用した事で、このエリアに入り込んでいたチートツールを無効化していたのである。

 これがなければ、自分がチートツールを無効化した上でアイドル投資家やネット炎上勢力、夢小説勢等のARゲームを炎上させようと言う勢力の真実を告発するはずだった。

それさえも行う事が無意味にしてしまったのが、アークロイヤルのアガートラームとも言えるだろう。

「まさか、アカシックレコードにあったアガートラームにそれ程の力が――」

 チートキラーという側面は別のWEB小説等にも書かれており、その部分は何度か目撃していた。

しかし、その規模は――ヴェールヌイの予想以上だったのが計算外だったのである。

あの時にスタッフへアガートラームを伏せた状態でレベル300と言う例えを出したのだが――。

「WEB小説等で触れられている以上、分かる人間には分かるもの――こちらが迂闊だったと言うべきか」

 あの時にアガートラームの事を伏せなければよかったのか? しかし、全貌が明らかでない物に関して分かったかのように語るのは――ネット炎上的にも危険すぎる。

やはり、全貌が分かる段階までスタッフに何も言わない方がよかったのか? それでは――サービス終了まで間に合わないし、会場確保も難しかった。

会場提供に関して、条件を出されたのがジャンヌに関する情報交換――それを踏まえれば、やむを得ない選択だったのかもしれない。

「だが、こちらもタダでは終わらせない。このゲームを愛してくれなくても――このゲームが存在したことの証明として!」

 タブレット端末を持つ手は震えている。そして、ヴェールヌイは心の中で叫ぶ。

最終的にタブレット端末を操作して起動したプログラム、それは――。



 バトルは既にラウンド2が終了している。ラウンド1は圧倒的なスペックでジャンヌが勝利、ラウンド2は――かろうじてアークロイヤルが勝利した。

アークもジャンヌもお互いに目立ったダメージはない。ARアーマーが安全装置として動いている証拠だが、考えようによっては――この技術が軍事分野に転用されてもおかしくはないだろう。

『VRゲーム時代のお前は、ここまで弱体化している訳ではないだろう? あの時と同じ力を――!』

 ジャンヌの表情は、まさに狂人――そう例えられるような表情をしている。しかし、それを演じ切れていない気配は――気のせいか?

そして、ラウンド3のコール直後からシールドビットやビームライフルと言った武装で攻撃を仕掛けるが、それが命中する様子がない。

「私は――あの時とは違う! VRゲーム時代の――ウォースパイトとしての自分は既に終わっているのよ!」

 アークロイヤルの動きはVRゲーム時代とは大きく異なるだろうが――実は、変化している。

しかし、ジャンヌはそこに気付く事がない。彼女がVRゲーム時代の能力――リアルチートとも言われていた時代をそのまま重ねていたのだ。

これは別の意味でも誤算と言えるだろう。ジャンヌがアークロイヤルの動画を検索する際に関連ワードでVRゲームの作品名も入れていた事が――裏目に出た。

 放たれた無数のシールドビットが弾き飛ばされ、それらがCG演出で消滅していく光景は、シュウのギャラリーを驚かせるほど。

今までのジャンヌ無双が嘘のように――アークロイヤルが追い上げているのだ。ジャンヌ技術レベルは300以上とも言及された中で、彼女が見せた実力は――レベルでは測れないだろう。

『しかし、どれだけの努力を重ねようとも――お前があの時に輝いていた時代を超える事は出来ない!』

 シールドビットが全て無効化され、次に呼び出したのは毎度恒例のビームダガーである。しかも、その数は50を超えるだろう。

それでもアークロイヤルは引き下がらない。VRゲーム時代とは違う――ガンブレードで全て弾き飛ばそうと言うのである。

「どんなジャンルのプレイヤーでも、敗北を経験しない事はないわ! 私は――VRゲームでのネット炎上を経て、様々な事を学び――」

 アークロイヤルが全てを喋り終える前に、ジャンヌはビームダガーをアークロイヤルに向けて飛ばしてきた。

しかし、アークロイヤルの何かに恐れているジャンヌは――本来の力を発揮できない。これが、プレッシャーとでもいうのか?

「そこで――VRゲーム時代には全く理解できなかった事を覚えた。それが――」

 アークロイヤル自身は棒立ちに近いような待機なのだが――それでもビームダガーが命中する事はない。

弾き飛ばすまでもなく、ビームダガーはアークロイヤルに命中しなかった物から消滅していく。一体、ジャンヌに何が起こったのか?

「ゲームは1人だけでは成立しない事。ソロプレイと言う意味ではなく、プレイヤー、メーカー、クリエイターの関係が存在する――」

 ビームダガーの最後の1本はアークロイヤルの顔面に直撃コースだったが、それは――ガンブレードの一振りで消滅させた。

その一振りは、アークロイヤル渾身の一撃とも言えるだろう――。

「それぞれの関係があってこそ、最高のゲームを生み出せる条件が完成する――そうは思わなかったの? ジャンヌ・ダルク――」

 ある意味でもアークロイヤルは本気だった。ゲームを生み出したとしても、遊ぶプレイヤーがいなければ成立はしない。

プレイヤーだけがいたとしても、遊ぶゲームがなければ――つまり、そう言う事だった。

アークロイヤルは純粋にゲームがプレイしたかった――だからこそ、VRゲームで起こした失敗をARゲームでは繰り返したくないのである。



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