最終話A『真戯武装パワードフォース』
###最終話『真戯武装パワードフォース』
6月28日、この日の天気は晴れである。雨が降らなかったのは、良かったと言うべきなのか――。
草加市ARゲームギガフィールドは午前10時の会場を前に大行列が――出来ていなかった。
これに関しては徹夜組を前日午後9時頃から一斉に帰らせたことも大きい。近場のホテルや民宿は、この日に限れば満員だったと言う。
さすがにビジネスホテルにまで、これが飛び火する事はなかったようだが。
徹夜禁止に加え、このイベントは当日券と言う概念がなかった。入場は無料と言う事も大きいだろう。
ただし、これにはイベント前売り券にグッズを付ける商法を回避し――転売対策などもあったのかもしれない。
入場者の外見は、大抵が私服なのだが――ARインナースーツを着ている人物、コスプレイヤーも存在していた。
「遂にイベント当日か――」
メイド服姿で会場に姿を見せたのは、アークロイヤルである。コスプレをしていも問題視されないのは恒例だが――今回は注目度が違う。
コスプレコンテストに関しては出場しないが、何らかのコスプレで姿を見せるとそう認識される。
「それに、ここを使う事にするとは――ヴェールヌイも何を考えているのか」
ヴェールヌイから直前に届いたメールでは、決戦の場所をギガフィールドにするという話が書かれていた。
これに関しては、どういう意図を持っていたのか不明だが――何となく理由は分かったかもしれない。
「この会場には――様々なマスコミやメディアも姿を見せている。もしかすると、これがジャンヌ包囲網になるのか――」
周囲を見ると、一般客に混ざってマスコミやメディアの記者がいるのも分かるのだが――過剰なインタビュー等は会場側が禁止しており、違反すると即座に締め出される仕組みだ。
何故、ここまでの事をするのかと言うと――海外メディアもいくつか混ざっており、ARゲームを自国に広めようと考えている可能性があったらしい。
つまり――インタビューによって、情報が拡散するのを防止する目的があるらしい。SNSでの拡散を直前辺りまで禁止していたのも、こういう理由だろうか?
ARゲームギガフィールドは7月のプレオープンを前にイベントを開くのには、何か目的があるのでは――と邪推するが、そこまでは考えていないだろう。
しかし、今回のイベント初日はある番組の放送日と被っていた。おそらく、イベント日程をここにぶつける目的で――計算していた可能性が高い。
それは、芸能事務所AとJのアイドルグループをメインにして、他はかませ犬扱いにしている長時間音楽番組――。
【土日や祝日を利用しないような気配のイベントで、ここまでの人を集めるとは――】
【おそらく、このイベント自体がそうした層を狙った物ではないのかもしれない】
【ARゲームプレイヤー向け、それとも――】
【あるいは特定コンテンツに対抗しての――】
【超有名アイドル対策か?】
【結局、主催者も便乗宣伝狙いか】
様々な憶測も流れるのだが――どれが正しいのか、どれが間違っているのかは分からない。
会議の方に関しては企業限定なので、情報が外部に出てくる事はない事もあって――特に一般客が気にする事ではなかった。
むしろ、ネット上でジャンヌ・ダルクに関する話が話題になっていた事もあり――ジャンヌがどのタイミングで出現するのかがメインかもしれない。
お昼時になると、一般客の客足はフードコートに移動する。あるいは近場のレストランなども混雑しているだろうか?
イベント会場が100%の状態でオープンした訳ではないので、こうなるのは予測済みの上で――タブレット等でダウンロード可能な電子書籍タイプのガイドマップでも色々と書かれている。
「夏休みに入るような時期でないだけ、運がいいと言うべきか――入場者の年齢層をみるべきか」
いつものアロハシャツな外見のレーヴァテインは――周囲の人間が何を見ているのか把握しているような気配だ。
これが土日であれば――と考えがちだが、西暦2020年で考えれば28日は日曜日で、この比ではない混雑も予想される。平日なのが運が良いのか、それとも――。
「とにかく、この日程を狙ったのにも理由はあるだろう。後は――?」
周囲から唐突な爆音が――と思われたが、これはARガジェットから聞こえたSE(サウンドエフェクト)である。
ARバイザーやARゲーム系のガジェットを起動していない場合では聞こえないので、一般客が振り向く訳がない。
その音量が尋常ではないと言うよりも――ARガジェットをジャケットの裏に隠していると言うのに、音漏れしたかのように聞こえるのだ。
これでは、思わずサングラスを外してしまう彼の行動もうなづけるだろう。
「これだけの事をやると言う事は――こっちが向こうの罠にかかったという事か」
レーヴァテインがARガジェットをジャケット裏から取り出し、戦闘態勢に入ろうとアカシックワールドを起動しようとした。
そして、彼は右腕のガントレットにARガジェットを接続しようとしたのだが――。
『レーヴァテイン、君には悪いが――少し退場していてもらおうか』
予想通りと言うべきか、彼の30メートル先にはジャンヌ・ダルクの姿があった。
その装備も以前から姿を見せていた重装甲の方であり、間違いなく本物である。どうやら、ヴェールヌイの作戦は上手くいったらしい。
「退場は――さすがに、こっちとしても――お断りだ!」
そして、レーヴァテインはガジェットを改めて接続し――パワードフォースのレーヴァテインへと変身したのである。
それを見てジャンヌは、若干の困惑を見せた。それは、想定していたレーヴァテインと違った事による物だろうか?
『こちらとしては、ここで誘い出した人物――それを探し当てたい所だが』
ジャンヌ・ダルクは指をパチンと鳴らし、何もない所から複数の長さ1メートル近くもするビームエッジを展開した。
『それよりも――ネット上で言われている正体で正しいのか? そちらが気になる所ではある』
これに関しては、レーヴァテインもARガジェットで武器アイコンをタッチし、長さ3メートルに近いであろう大型の剣を呼び出す。
その重量は不明だが、剣が突き刺さって地面が揺れるような演出はなく、単純にレーヴァテインの右手に握られた――と言うべき物だ。
演出が乏しいのではなく、ある意味でも『仕様』と言うべきなのかもしれない。おそらくは、技術の限界と言った方が早いのか?
『所詮、それが人間の生み出した武器の限界だろう。私が呼び出した武器の方が――』
その決着は、一瞬と言うよりは1ラウンドで決着が付いたのである。
周囲が想定外と思う様な――ジャンヌ・ダルクの圧勝劇だった。
###最終話『真戯武装パワードフォース』その2
午後1時、ジャンヌ・ダルク出現の話題は瞬く間に拡散し――その驚きの声は、別の意味でも想像を絶する物だったと言う。
レーヴァテインの敗北自体は、レアケースではない。しかし、その相手が――ジャンヌだった事の方が大きいだろうか。
ジャンヌが持っている能力の正体がチートではないという事実――それは予想外なことだが、拡散していなかったのである。
その原因は不明だが、おそらくは――ご都合主義と言う演出で炎上させ、芸能事務所がタイミングよく新アイドルを売り込み、大金を得る――そう言った勝利フラグを呼び込む為だろう。
しかし、ジャンヌの能力に関しては既に草加市ARゲームギガフィールドのスタッフには伝わっており、それに関する項目も電子カタログに明記されている。
つまり――芸能事務所が考えているような勝利フラグはやってこない。
芸能事務所は、他の勢力から非難の応酬とネット炎上で破産する――該当のプロデューサーは詐欺で逮捕される――そう言った結末を考えているネット住民もいるだろう。
しかし、一部のネット炎上者やまとめサイト、そういった特定勢力をリアルウォーへと誘導する闇商人と同類――そう判断しているジャンヌ・ダルクはそう望まなくなっていた。
同刻、草加市ARゲームギガフィールドの内部施設3階――いくつかのブロックでは未だに工事が行われている。
このエリアに関しては関係者以外立ち入り禁止の関係もあり、一般客が混ざる事はない。
『今回の件、事態は深刻な方向へと向かうかもしれない――』
コンビニ位の広さを持つギガフィールドの代表者室にいたのは、神原颯人(かんばら・はやと)である。
代表者室と言っても、複数のサーバーが置かれていたり――普通の社長室とは異質な光景なのは間違いない。
実際――窓は工事中と言う理由でシャッターが閉まっており、外部に様子が見える事はなかった。
『全ては君たちが今までやってきた事――それに対する反撃だ。これ以上――賢者の石を使わせる物か』
しかし、発言は神原ではなく――彼の目の前で代表者席に座っている男性の発言である。
彼は特殊なARメットを被っており、素顔が一切見えない。それが何者なのか――質問出来る余裕はないだろう。
このような人物を神原は別のWEB小説でも見覚えがあったのだが――。
『賢者の石自体は――ネット上でも否定的な意見は多いでしょう。石を発動させる対価は終了したコンテンツや人が離れたコンテンツ――それらのユーザーを媒介にしているような物』
目の前の人物の声に――神原は違和感を持ち始める。最初に声を発した際のトーンと違った事もあるのだが――ボイスチェンジャーの故障か?
それを細かく気にしても時間の無駄と考え、そこに突っ込む事はやめる。
『全ての意見を集約するのは、まず不可能だとしても――否定的な意見を述べる人間を賢者の石発動の媒介にするのは――非人道的過ぎるだろう?』
『それに、我々としては――理想形のコンテンツ市場を生み出す為に、今回のアカシックワールドを試金石とした。その意味、分かるな?』
今度の声は、中年っぽい声だ。最初に聞いた声は何処かで聞き覚えがあるが、次の声は――何処かで聞いた覚えもない。
『アカシックワールドを終了させないと――というユーザーの意見も分かる。しかし、これは最初から決まっていた事なのだ』
『延命を繰り返し、人気が下降したような連載漫画等の事例もあるのは分かるだろう? アーケードリバースは、今後展開する作品のテストケース――それは企画段階から決めていた』
更に違う声がする。若者だろうか?
この辺りは何かを急ぎ過ぎて、失敗をしてしまいそうなフラグさえ感じる。ノイズも入っていないので、別室で話しているのか不明だが――。
『草加市も一時期はふるさと納税等で様々な案を出したが、失敗した事例もある。我々には失敗が許される事はないのだよ』
『貴方も分かるでしょう? 二次創作で自分の都合だけで話を作り替え、それが原因で炎上――作品自体を打ち切ったという事例さえある事を』
最後の声だけ女性だが、それ以外は男性の声――彼は何者なのか? 本当に、自分の会社の関係者なのか。
まるで、目の前の人物はアバターであり、声を変えて複数人格を演出しているようでもある。
それぞれの声で演じ分けをしている様な事ではなく、おそらくはARバイザーごしに別の場所で神原を見ている――と考えるのが正解か?
「しかし、コンテンツがメーカーだけの物でもないでしょう? それが原因で炎上した案件も――」
遂に神原は話題を切り出す。さすがにヴェールヌイの件を直接聞く訳にもいかないので、まずは――。
『あれは意思疎通が出来ていなかった結果だ。それに、特定のまとめサイトが都合よく脚本を作り、炎上させたにすぎない』
また別の声がする。入り込んだ可能性もあるが、それでは――数十人対一人であり、こちらが圧倒的に不利に感じるだろう。
一体、これはどのようなトリックを使っているのか?
「コンテンツは――確かに守られるべき聖域はあるでしょう。しかし、わずかな炎上要素を持つような二次創作を否定し――」
『二次創作その物を否定するわけではない。一次創作至上主義やそれを無尽蔵に出版し、二次創作を禁止するような売り方をする――そう言ったメーカーは芸能事務所Aと同類だ』
今度はARバイザーの目が青く光った。その上での発言である。もしかすると――これを神原は狙っていたのか?
この発言者は二次創作と言う単語を聞いた途端、それをあっさりと否定した。それこそタダ乗り便乗勢力等と変わらないとも切り捨てる。
『ヴェールヌイも似たような事を言ったよ。一次創作至上主義のような存在は、コンテンツ市場にとっては炎上マーケティングに利用されると』
彼は迂闊な発言をした。他のメンバーも言及を避けていたような発言を――彼は発言してしまったのである。
これこそ――ネット炎上に利用されかねない、と。
「やっぱり、ヴェールヌイだったのか」
神原は驚くような表情をしなかった。何を今更――と言う様な表情でARメットを被った人物を見る。
『この事は他言無用に頼む。一連の炎上発言をした人物は、我々の総意ではない。もしかすると――まとめサイトの送り込んだスパイとも否定できないだろう』
眼の色が赤に変わったので、別のプログラムが作動したのだろう。一番最初の男性と同じ声がした事に関し――神原は一安心をしていた。
「神原――今回の計画につきあってくれた事には礼を言う。しかし、アカシックワールドの終了を撤回する事だけは出来ない――そう考えてほしい」
ARメットをオフにして、バイザーを解除――その後に見せた素顔は、神原とは年齢が同じの可能性があるのに三十代にも見えなくもなかった。
その男性の名前は分からない。しかし、ARバイザーのネームが神原の角度からはわずかに見えていたのである。
「鹿沼――まさか!?」
神原はWEB小説でみたようなネームを見たのかもしれないが、ここは黙っている事にした。
本名をハンドルネームにするような人物は――ARゲームでは滅多にいない事に由来する。
同刻、施設内のARゲームフィールド、そこでは新作のアクションゲームが公開されていた。
見た目は近未来系のARアーマーを装着すると言うのに、行われるのはFPSではなく――。
「これがリズムゲームだと言うのか? 冗談だろ――」
ジャンヌに敗戦し、そこから別エリアへと何とか退却したレーヴァテインが見た物は、イベント限定のロケテストが行われていたARゲームである。
しかも、そのジャンルは太鼓型やDJテーブル、タッチパネル等でプレイする事が多いリズムゲーム――俗に言う音ゲーだった。
スタイリッシュ系を思わせるアクションも導入されており、これで本当に大丈夫なのか――と思う演出なども用意されている。
「しかも、これでロケテスト仕様とはいえ――200円か」
プレイ料金も破格の設定とも言える200円だ。ロケテストでも300円や400円もザラと言うARゲームなのに、200円は破格すぎる。
それに――ロケテストで並んでいる行列も、数人程度ではなく――100人位は並んでいた。もっと行列があるのかもしれないが。
「しばらくは、ロケテストの様子を見ているのも手だが――」
レーヴァテインは、このままロケテの様子を見ているのもいいかもしれないと思ったが、重要なのは別の作戦だ。
しかし、肝心の人物からはメールが来ない。一体、何が起きたのか――?
###最終話『真戯武装パワードフォース』その3
レーヴァテインとジャンヌ・ダルクが交戦していた事実を、ネットで拡散されるまで気付かなかったヴェールヌイ――彼女は想定外とも言えるイレギュラーが出現した事を驚いた。
彼女がタブレット端末で見ていた動画――それこそが、イレギュラーの出現していたバトルその物である。ジャンヌとの対戦相手は――。
「便乗プレイヤーがジャンヌに挑む事を想定するには――ジャンヌの存在があまりにも大きすぎたか」
ジャンヌの相手は、ミストルティンを名乗る便乗勢力だった。数秒の描写をされる事もなく、あっさりと倒されたが――。
それ以外にも今までヴェールヌイが見てきたプレイヤーネームの便乗者が、次々と倒される――こちらも1秒未満で倒されていくかませ犬以下の存在として。
「再生怪人があっさりと特撮でも倒される光景――それをリアルで見せられているようだ」
ヴェールヌイと同じ動画を別のタイミングで見ていたのは、レーヴァテインだった。
動画を発見し、確認したのはジャンヌに敗北して別のエリアへ移動している際であり――ロケテストを発見したタイミングとは異なる。
午後1時30分、代表者室を出て別のイベントエリアへ向かおうとしてた神原颯人(かんばら・はやと)は、ある人物と遭遇する。
しかし、女性であることは分かったのだが――誰なのか思い出せずに通り過ぎた。神原が忘れていた訳ではないと思うが、この場合は彼も焦りがあった可能性が高い。
「彼が――神原颯人か」
ある女性は、普段の私服と言うよりは――何かのコスプレに近いと言ったような服装で何処かへと向かっていた。
彼女はふと神原の方を見るのだが、神原が反応するような様子は全くない。彼女は何か思う部分もあるのだが、それを彼へ向かって口に出そうとはしなかった。
「今は――上手く気付かれずに会場入りできればいいが」
その先には、例のコスプレイベントの参加者スペースがあり、おそらくはそこでイベントのルールを説明するのだろう。
「――誰かが見ていたような気配もするが、気のせいか」
神原は彼女の正体に全く気付く事無く、ロケテストエリアへと向かう事にした。
他社のARゲームで参考に出来る箇所があれば、参考に出来るだろうと。
「便乗プレイヤーが多いのは、宿命と言うべきか。そして、同名プレイヤーにも悩む所――」
彼女は何かを知っているかのような考えで動いていた。外見が黒髪で短めだがツインテール――明らかに誰かとそっくりである。
その外見を見て神原も分からなかった以上――普段の彼女は見慣れていないと言う事なのか?
しかし、あの人物は最初からARバイザーを装着しておらず、素顔も晒している状態だったはず――それが見えていないと言うのは、ネット上の批判目的や超有名アイドルの宣伝に利用されるCM位だ。
つまり――この彼女こそが、ジャンヌ・ダルクの正体なのである。
彼女の名前は島風蒼羽(しまかぜ・あおば)、本来の職業はコスプレイヤーだ。その彼女が、何故にジャンヌと名乗る事になったのか?
「早く来て――アークロイヤル」
島風は思う。アークが早く会場入りし、自分と――。
しかし、今はコスプレイベントの方が優先である。コンテストではない為、エントリーしたコスプレイヤーが全員参加と言う形式を取っていた。
ニュースサイトでも島風は注目されていたが、それ以上に様々な有名コスプレイヤーの姿もある。
その一方で、今回のイベントを利用してアイドルデビュー等を狙おうと言う志の低い人物も――少なからずいた。
10分後、突如としてコスプレ会場に乱入者が現れたというニュースが拡散した。刃物を持った危険人物の類であれば――サミットその物が中止になる。
その為、サミットの方で非常事態が発令されていない以上は、フェイクニュースやまとめサイト摘発を狙ったブラフと考える人物も――少なからずいた。
そう考えている人物の中には、神原やガーディアン勢力もブラフ説を信じ、スルーを決め込んでいる。
しかし、このニュースを本気で考えて会場へ向かっていたのは――ヴェールヌイだった。
彼女はこのニュースをチェックし、信用できるソースだと思ったからこそ――現場へ向かうのが早かったのである。
「会場に潜り込んでいた勢力が、こちら側とは想定外だったが――?」
コスプレ会場で演説を行っているのは、俗に日本の政治を変えようと言う勢力である。
野党支持者ではないのだが、ニワカで語っている訳ではなく――彼の語る政治情勢は一部で本物が混じっていた。
だからこそ、彼の行っている事は性質が悪い冗談で済むような問題ではない。まさしく、リアルウォー待ったなしである。
『悪いけど、このイベントで政治関係の発言は禁止されている。それ以上のイベント妨害をするのであれば――こちらも容赦はしない!』
ARメットを装着し、姿を現した人物――それは蒼風凛(あおかぜ・りん)だった。
彼女のメインガジェットは大型ユニットなので、ノーマルスーツにARギアを装着した仕様のガジェットを使う光景はレアとも言えるかもしれない。
『コンテンツなど――有名アイドルよりも税金を取れない期待薄の――』
この勢力は、堂々と負けフラグな発言をしたことで――ジャンヌ顔負けの速攻で退場する事となった。
痛みすら生ぬるいと思わせるような、その決め手はヴァルキューレのアームによるワンパンチである。
本来であればヴァルキューレはこの場所におけるARエリアでは使用できないはずなのだが――アームに関しては、間違いなくARゲームのCGで作られた本物だった。
「蒼風凛、今のアームはヴァルキューレに見えたが――」
政治勢力の人物がガーディアンに摘発された頃を見て、蒼風に駆け寄ったのはヴェールヌイである。
まさか、本当にヴェールヌイが会場に来ているとは――蒼風の方が驚きの表情を見せていた。
「このコスプレ会場で見覚えのある顔を見たから、それを邪魔する人物を一掃しただけだよ――私は」
そう言い残すと、蒼風はメットを脱ぐ事無く別の場所へと向かった。一体、何のために――とヴェールヌイが思った所で、放送が入る。
『周囲に危険物がないことを確認したので、午後2時からコスプレイベントを開催いたします――』
どうやら、イベントは通常開催されるようだ。他にも妨害されたイベントもいくつかあったようだが、手際のよい対応もあって中止にはならずに済んでいる。
政治勢力の目的は何処にあるのかが不明だが、ネット炎上が目的の可能性が高い。しかし、この光景には何か覚えが――。
「このサミット自体が、パワードフォースの劇場版再現――は、考え過ぎか」
ヴェールヌイもふと思う部分はあったのだが、ここまでやって映画版の撮影だった――と言う可能性も低い。
実際の事を言うと、現在のパワードフォースに出演している俳優が姿を見せた途端に大パニックも否定できないからだ。
果たして、このままイベントは無事に終了できるのか――。
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