第13話A『プロジェクト・クロスオーバー』

###第13話『決戦前夜』



 ARパルクールのロケテ中継、そこに映し出されていた人物――それはヴェールヌイだったのである。

彼女のアクションは、別の意味でも周囲のギャラリーには衝撃的だった。アカシックワールドでのプレイスタイルの違いもあるのかもしれないが。

使用しているのは普段の外見と変わらないような賢者のローブではなく――白銀のARアーマーである。俗にフルアーマーともネット上では言われている形態でもあった。

ARパルクールでは危険防止の為、ARガジェットのフルアーマーが必須になっている。ロケテスト段階ではフルアーマーが任意だったが、あまりにも危険なプレイが目立った為にフルアーマーを義務化したようだ。

しかし、ヴェールヌイはフルアーマーでも素早い動きを披露し――ギャラリーを沸かせている。

 彼女はプロゲーマーと言う訳ではないのだが、そこそこのスキルは持っていた。ネット上ではリアルチートとも名指しされる事も稀にある。

それ程の実力者でありながらも、ヴェールヌイはネット炎上等には無関心に近い状態の時期があった。

しかし、アカシックワールドやジャンヌ・ダルクの存在――それ以外にも様々な要因が彼女をアカシックワールドに引き寄せたのである。 

「あれだけの実力者を今までノーマークだったとは――」

「アカシックワールドでは注目されていないような存在だったが、別の意味でも成長株か?」

「あれが――ARゲーマーだと言うのか? あのスキルであればプロゲーマーに近いぞ」

「なんちゃってゲーマーや実況者の様な夢小説作者が集まるような傾向もなく、彼女なら――」

「これが、ARゲーマーの進化系なのか?」

 モニターで彼女のプレイを見ていたギャラリーからは、様ザな声が聞こえる。

それもつぶやきサイトの様な改変自在の発言ではなく、生の声として――。これが、もしもVRゲーム時代にもあれば――。

「これって――どういう事なの?」

 若干動揺していたのはアークロイヤルだった。まさか、アカシックワールドに興味が移ってしまったのか?

他の有名プレイヤーもアカシックワールドオンリーではなく、別のARゲームを兼任しているのだが――アークロイヤルはアカシックワールドオンリーである。

『ヴェールヌイ――私から、居場所を奪うつもりなのか?』

 ちなみに、入り口で遭遇したジャンヌ・ダルクとは途中で別の場所へ向かったらしく――共に行動している訳ではない。

しかし、別のモニターでヴェールヌイのプレイを見ていることには変わりないだろう。本心で、この発言をする訳はなく――心の中で思っているだけであるが。



 ヴェールヌイのプレイ後、様々なARゲームサイトで彼女のプレイが取り上げられることになった。彼女としては、こうなる事は想定外だったが――。

「これでも、思わぬ雑音を拾ってしまう可能性が高い――どうすれば」

 通常のスタイルに戻ったヴェールヌイは、斑鳩(いかるが)発案の作戦でARパルクールのロケテストで試しプレイをする事になった。

その結果は――ある意味で予想以上の物である。ARゲームのニュースサイトでは――。

『隠れたプロゲーマーの卵か?』

『実力は本物! 次世代ARゲーマーの出現』

『まさに救世主! その名はヴェールヌイ』

 色々な見出しが作られる位に、彼女の事を特集していたと言っても過言ではない。

しかし、中には炎上狙いの見出しも存在したり、更には――。

【芸能事務所Aの消滅危機! ARゲームに新プロゲーマー現る】

【芸能事務所Jの戦略見直しも――】

【歌い手の一人が夢小説投稿者を裁判沙汰に追い込む一方で、ARゲームは――】

【実況者も夢小説作者に賠償金請求へ。夢小説規制法案を国会で成立させるようにと言う共同声明も? ARゲームでは――】

【フジョシ根絶へ国会が動く!? 芸能事務所Jが各種規制法案成立へ買収工作も?】

 明らかな炎上狙い見出しも飛び交う展開である。これには、サイトを見ていたヴェールヌイもある事件を連想するような――と思っていた。

ちなみに歌い手の一人が自分を題材にしたフジョシ向け夢小説の投稿者に対し、プライバシー侵害を訴えたのは事実だが――こういうネタにされるとは、思ってもみないだろう。

実際、こういう動きを被害妄想等を煽るようにしてネット炎上させようとしているのは――芸能事務所A及びJに投資をしているアイドル投資家だろう。

ここにきて、アイドルファンとアイドル投資家が共同戦線で歌い手や実況者等をピンポイントで潰そうと言う動きを見せているのかもしれない。

「これが、ジャンヌの言うコンテンツハザードの――真相と言うのか」

 特定コンテンツを潰す為、別のコンテンツにおける話題を都合よく切り貼りしていき、最終的には唯一神コンテンツを生み出すと言う――現代版賢者の石と言えるビジネススタイル。

これが続いていくようではコンテンツ市場が無法地帯となるだろう。何としても――コンテンツ市場を戻さないといけない。

「これをパワードフォースのシナリオを再現した物――と言って信じる人間は少ないだろうが」

 ロケテ会場から出ようとしたヴェールヌイの前に姿を見せたのは、私服姿の神原颯人(かんばら・はやと)だった。

彼もロケテストに関心があったらしく、お忍びで向かったのだが――想定外の人物に会えたと彼は考えている。

「神原颯人――何故、ここに? それに、パワードフォースとコンテンツハザードと関係があると――」

「一連の事件は新作映画の撮影――と言う風にネットでは拡散し、更にはパワードフォースのコスプレイヤーを物語世界からの使者と煽るまとめサイトもある位だ」

「どこまで――信じれば?」

「こうした発言を芸能事務所に指示を受けた発言と考えるのも――君の自由だ。しかし、我々には共通のターゲットがいるはずだが」

 神原の発言をヴェールヌイがあっさりと鵜呑みにする訳はない。それは、神原も承知の上だ。

しかし、彼には時間と言う物がなかった。今回のお忍びロケテも別の目的が存在し――。

「こちらとしても時間がないのだ。アカシックワールドのサービス終了は迫っている。メーカーとしては『打ち切り』と考えているようだ」

 神原のこの発言を聞き、ヴェールヌイは今までにないような表情で動揺した。一体、何がメーカーで起きたと言うのか?



###第13話『決戦前夜』その2



 ヴェールヌイが神原颯人(かんばら・はやと)から聞いた一言、それは衝撃度合いとして想像を絶する物だった。

最初は動揺程度の物だったが――次第に表情は深刻化していく。

「こちらとしても時間がないのだ。アカシックワールドのサービス終了は迫っている。メーカーとしては『打ち切り』と考えているようだ」

 アカシックワールド自体、正式サービスに移行したというニュースは出ていない。公式サイトでもβテストと明記されている。

どのタイミングで正式サービスに移行したのか――ヴェールヌイには分からなかった。それ以外にも――アカシックワールドで使用されていた技術は謎が多い。

「それを私に話して、何を考えている? 仮に運営の人間であれば、メーカーの極秘情報を流すのは――」

 ヴェールヌイは、ようやく彼の話した内容に関して――気付き始めた。

サービス終了すればARゲームの場合、家庭用ゲーム機に移植されるケースがないので――プレイする機会は失われる。

ロケテストだけで開発中止と言うタイトルがない訳ではないのだが、アカシックワールドはネット上でも話題に――。

「そのメーカーに関しても、既に発表済みだ。それに――特定のまとめサイトが盛り上がっているかのようにマッチポンプを行った事も、問題視されているようだ」

「マッチポンプ? どういう事だ――」

「そのままの意味だ。首謀者はアイドル投資家や夢小説勢力だろう。既に該当する人物は摘発済だが――」 

「それが第3者に――」

 ヴェールヌイは、ふと思う。既に公式サイトで発表されているというのであれば、ARガジェットにもショートメッセージ等で配信されている。

つまり、この情報はジャンヌ・ダルクの耳にも入っているという事を意味していた。



 6月5日、ARパルクールのロケテストは最終日だったのだが――それ以上にネット上でアーケードリバースが話題となっていた。

その理由は単純明快――ジャンヌ・ダルクが動いた事を意味している。そして、彼女は本格的に作戦を実行しようと動き出す。

案の定というよりも、予想通りと言うべきなのか――センターモニターでジャンヌの動画が公開されていた。

しかも、このジャンヌは正真正銘の本物である。しかも、ARメットを被っていないので正体バレバレだと言うのに。

『アカシックワールドがサービス終了をすると公式から発表があった。何故だと思う?』

『意図的に盛り上がっているように自作自演とも取れる宣伝を行った結果――運営側が終了を宣言したのだ』

 ジャンヌの口調は変わらない。センターモニターで流れる動画を見て、衝撃を受ける者もいれば――ようやく終了するのか、という人物もいる。

アカシックワールドに関してはネット上でも様々な部分で叩かれる要素もあったのに加え、そこにジャンヌ・ダルク事件が起こった。

どう考えても、超有名アイドルの宣伝で利用される事は目に見えていたのかもしれない。

『その状況を生み出した人間は――単独犯ではない。かなりの数だ』

『様々な部分で革新を生み出したSNSだが、光もあれば闇も存在する。その闇とも言える欲望が――』

『一連のネット炎上を生み出した。それは誰もが目撃した事だろう。様々な部分で警告されて来たことでもある』

『私は、ネット炎上やマッチポンプを引き起こす存在を排除する。それに関しては既に、こちらも警告をしてきた――』

 ジャンヌの発言は、どれを取っても刺さるような物ばかりだ。

ネット炎上は自分には無縁だと思う人物でも、まとめサイトを鵜呑みにしたりネット炎上を引き起こすようなつぶやきを拡散していれば同罪――そうジャンヌは考えている。

『だからこそ、本格的にネット炎上を利用して利益を稼ごうと言う勢力を――本格的に潰す事を考えた』

『君たちは、今までSNSを使って発言してきた事が――時に人を傷つけ、更には追い詰めていく――その事を自覚するべきだったのだ』

『幸い、この世界はデスゲームやリアルウォーのような世界ではない。だからこそ、君たちは――世界の真実を知るべきだろう』

 ジャンヌは特に動く事はない。立て看板だったり、等身大人形を身代わりにしていたり、フルCGで出来ている訳でもない。

ARアーマーはCGだが――そこへ突っ込む人物はいないだろう。

『VRゲームにおける、あるプレイヤーを炎上させた案件。それはネットイナゴやまとめサイト勢力、更には――』

 ジャンヌの動画はここでノイズが入り、途中で途切れた。一体、彼女はないを訴えようとしていたのか?

「なるほど――それが君の考えか」

 神原は草加駅のセンターモニターで動画を見ていた。彼は、ジャンヌの行動に関して何かあると考えていたのだが――。

結局、彼女はネット炎上勢力を利用して目立とうと言うネット動画投稿者に過ぎなかったのか?



 その一方で、この動画に関して疑問に思う人物もいる。その一人は意外な事にレーヴァテインだった。

「ジャンヌは何かを急ぎ過ぎている可能性が高い。だからこそ、あの動画を流した。そして――行動は別のエリアで起こす気だろう」

 レーヴァテインはロケテスト会場の松原団地にいたのだが、今から駅へ向かって草加へ向かって――間に合うのか?

それに加えて、VRゲームでのあるプレイヤーを炎上させた事件を取り上げたのも気になっている。

VRとARではシステムが違う部分もあり、お門違いとネット上で叩かれる――そのはずだ。

「こちらの懸念が当たらなければ、いいが――」

 駅へ向かおうとするレーヴァテインを妨害する勢力は、当然いるだろうが――そうした勢力は、あっさりと片づけられていた。

それこそ、ジャンヌの『計画通り』と言う説も非常に高い。彼女は、何を潰そうと焦っていたのか?

あるいは――焦っているような場面や最後の部分がノイズで途切れたのも演出だったのか? 全ては、草加市で決着する。



###第13話『決戦』



 6月5日午後1時、遂に――彼女が動きだした。言うまでもなく、ジャンヌ・ダルクの事である。

『日本終了のきっかけを生み出したのは、ネット炎上を遊び感覚で行うお前達だ! だからこそ――お前達を許す訳にはいかない――』

 重装備のアーマーにビームブレード、その装備は以前に姿を見せた時とは変わらない。

違う個所があるとすれば、背中にシールドビットと思われる武器を収納したバックパックを装備している事か。

彼女が戦っている相手はアイドル投資家を名乗るプレイヤーだ。しかし、彼女の前には赤子の手をひねるような――つまり、相手にならない。

指を鳴らすような動作をする事もなく、彼女は右手に持ったビームブレードで次々と襲ってくるアイドル投資家を切り捨てていく。

 切り捨てると言っても、致命傷ではない。あくまでもアカシックワールドはARゲームであり、デスゲームの類とも違う。

彼女はゲームのルールに従う形でアイドル投資家を次々と撃破しているのだ。

『怨むならば、様々な発言を軽い気持ちで改変して拡散し――ネット炎上させた自分の浅はかさを後悔する事だ』

 次の瞬間、十人程の襲撃者に対し、背中のシールドビットを一斉に展開――瞬時にして沈黙させた。

彼らはネット炎上のまとめサイトで有名な管理人であり、ネット炎上でアフィリエイト収入を得ていたブラックリスト登録者とも言える。

ヴェールヌイが過去に撃破した管理人は有名所ではある物の、それは氷山の一角に過ぎなかった。だからこそ――まだ一連の戦いは終わっていなかったかもしれない。

『ネット炎上が日本終了を知らせる存在になるとは、誰も予想していないだろう』

 彼女の感情としては、怒りや恨みの類にも見えるかもしれないが――そうした感情は表には一切出していなかった。

そうした感情でゲームをプレイしたとしても単純に白けるだけと過去に学んでいたからである。その過去とは、ARゲームであり――。

『アークロイヤル、早く――ここへ』

 彼女がアークロイヤルの事を思うと、何故か表情が変化する。

まるで、過去にも会った事があるような――過去に止まった時間が動きだしたような感覚――。



 同時刻、ジャンヌのバトルを会議室で見ていたのは神原颯人(かんばら・はやと)を含めたメーカースタッフである。

会議室では新作ゲームのプレゼンを行う予定だったが、神原が入って来た所で会議を中断、彼の指示で中継を――と言う流れになっていた。

「アカシックワールドのサービス終了――それは決まっていたことだ」

「元々、あのゲームは一部システムのテストケースとして用意した物に過ぎない」

「アニメで言う所の1クール――そこまで打ち切りにならなければ、充分な結果を得られたと言える」

「我々としてはユーザーからの意見を得る事が出来た。それだけでも収穫があったと言ってもいい」

「一部のまとめサイト勢力に目を付けられ、超有名アイドルの宣伝材料にされたのは――遺憾だが」

「そこは草加市も反省をしており、条例を変える方向で調整している」

「向こうもARゲームで聖地巡礼を――と宣伝している以上、悪い方向に変えることはないだろう」

「新作に関しては既に準備済みである以上、アカシックワールドの終了を変えることはできない」

「ユーザー数が1万人を超えるのはARゲームでも相当な作品に限られる。それを踏まえると、プレイヤー数は多い」

「しかし、メーカーとしては一連の炎上事件を――」

 幹部からは様々な意見が聞かれた。神原はそれを――完全無視をする事無く受け入れている。

今までの作品でも失敗の部分がクローズアップされ、打ち切りを宣言された。しかし、今回は打ち切りと言う訳ではない。

ヴェールヌイには『打ち切り』と言ってしまったが――嘘も方便である。真実を告げたとしても、彼女は受け入れずに抗う可能性が高いだろう。

「その炎上事件、それを一種のテンプレと考え、コンテンツ流通のあり方を考えようとする人間もいます」

 神原は断言した。コンテンツ流通を今のままでは駄目になると認識している人間がいる以上、正しい意味で変えていかなくてはいけないと――。

その為にも保護主義的な考えでもいけないのだ。ネット炎上を防いだとしても、わずかな身内にだけオープンしているような作品に未来はあるのか?



 10分後、ジャンヌの目の前に姿を見せたのは――ネット炎上勢力やアイドル投資家ではない。予想外の刺客だったのである。

「この俺と戦え! ジャンヌ・ダルク!」

 アーサー王の装備を思わせるARアーマー、それはアカシックワールドでも異色だろう。それもそのはず――彼はゲーマーではない。

『君では相手にならないだろう。周囲で倒れているアイドルファン――それ以下だろうな』

 アーサー王の方はジャンヌの一言を受けても、全く動じない。周囲の倒れている人物が、実はアイドルファンと言うのは今知った。

「相手にならなくてもいい! この俺が――有名になれば、それでいい!」

『貴様も――有名になりたいと思う人間か。この私を愚弄するのも大概にしてもらおう』

「そうだ! それでいい! この俺――歌い手の――」

 アーサー王の一言は、ジャンヌ・ダルクの本性を中継で晒すには十分なかませ犬となった。

彼が歌い手であるのは事実であり、夢小説で自分を題材にした小説が存在するのも知っており、そこから更に有名になろうとも考えていた。

夢小説の存在を知ってプライバシー侵害を訴えた歌い手とは真逆の考えだが、彼は夢小説でさえも自分が有名になる材料であると――そう思ったのである。

『それがコンテンツハザードに感染した人間の――末路だ』

 ジャンヌはサーベルを上空へ投げ、その直後に指をパチンと鳴らした。つまり、あの技を使うと言う事を意味している。

『森羅万象(しんらばんしょう)――これが、私の答えだ!』

 パチンとなったと同時に複数のシールドビットがアーサー王に襲いかかり、更にはシールドビットからはチェーンソーにも似たエッジが展開された。

そして、そのチェーンソーはアーサー王のARアーマーにダメージを与え続ける。アーマー破壊がないのは――ゲーム的な都合なのかもしれない。

「何故――お前は――歌い手を否定する?」

 アーサー王の一言を聞き、ジャンヌは更に攻撃の手を緩める事はしなかった。

まるで――先ほどのアイドル投資家やアイドルファンと同じように攻撃をしてくる。しかし、一撃決着をしないだけ――。

『否定はしないさ。しかし、君のようにネット炎上を起こし、それで他人が犠牲になろうと賢者の石の素材になるなら都合がいい――そう考える人間は、クリエイターと名乗る資格はない』

「自分以外の歌い手の夢小説を書いて逮捕されるより、自分が公認してその夢小説は書いてもいい――そうする事の何が悪い!」

 アーサー王はジャンヌの一言を否定するのだが、彼の方は完全に開き直っている。

『そのカテゴリーはフジョシ勢力向けと烙印を押され、目指すのを諦めて――別の職業を目指す。例えば、歌い手を諦めて格闘家になると言う人間を――君はどう思う?』

 唐突な質問返しをされたアーサー王は言葉を失う。自分のしている事が原因で歌い手と言う存在がネット炎上を生み出すと認定され、規制法案が成立したら――。

そして、アーサー王は倒れる。彼のアーマーが解除されると同時に姿を見るのだが、ジャンヌの予想通りの人物だったのである。

彼は歌い手を目指しているだけの悪目立ちをする為にジャンヌに挑んだ――彼の言う様々な事は、小説サイトのエッセイ等を見て鵜呑みにしただけに過ぎなかった。

文字通りのコンテンツハザード観戦者――簡単に言えば、承認欲求に飢えたまとめサイト信者であり、ネット炎上を金のなる木と考える――悪質なSNSモンスターその物である。

『SNSモンスターと化したクリエイターに、クリエイターと名乗る資格はない。二次創作で承認欲求を得て個人的に楽しめば良いのだろう』

 ジャンヌはいつもの口調で捨て台詞を言う。しかし、この台詞を聞いてジャンヌについていこうと言う信者は――ほとんどいないと言ってもいい。

彼女は別の意味でも――最強の二次オリといえる存在であるのだから。しかし、それを彼女は自覚している。

『――アークロイヤル、私はお前と――VRゲームで共に戦った、あの時の再現を――』

 ジャンヌは思う。アークロイヤルは、間違いなく自分が過去にVRゲームで共に戦った事もある――彼女だ。

そして、全てはアークロイヤルと共に同じゲームを遊びたかった――それがジャンヌ・ダルクの真実でもある。



###第13話『決戦』その2



 アーサー王と名乗ったプレイヤーの正体は、単純にネット炎上を狙った個人だった。

その事に関して、ジャンヌ・ダルクは特に驚く事はなかったと言う。逆に、コンテンツハザードの感染者として――ネット上で晒し上げるには好都合だったと言える。

『――アークロイヤル、私はお前と――VRゲームで共に戦った、あの時の再現を――』

 一連の事件の発端、それは自分がアークロイヤルと共に同じゲームを遊びたかった――それだけの理由だった。

アークロイヤルがVRゲームから撤退した事情を知っていた為、それ以外のゲームを物色した所――ARゲームが盛り上がっている草加市の存在をネットで知る。

そして、その中でもプレイ人口が少ない物を――と考えた結果、アカシックワールドのロケテストを発見し――現在に至るのだ。

プレイ人口が多いゲームを選ぶと、事件を起こすと同時にネット炎上が起こると懸念していたのである。

『だからこそ、プレイ人口の少ないARゲームであれば――どのジャンルでもよかった。コンテンツハザードも、今を思えば――後付け設定と同じような物』

 ジャンヌはアークロイヤルを待っている。彼女がアカシックワールドをプレイしているのは――既に調査済。

『ネット炎上を根絶するのに、目的達成の為に手段は問わない――では、結局はまとめサイト等とやっている事が同じ――志は高くても』

『――最初はネット炎上根絶は後回しにした。つまり、手段の為に目的は選ばない――』

『もうすぐ、約束の日は来るだろう』

 そして、ジャンヌは例のCG演出で姿を消した。

既に目的を達成した――とは違う様子なのは分かるのだが、その詳細は謎に包まれている。

「やはり、ジャンヌ・ダルクの目的は――」

 姿を消したジャンヌを見て、何かを感じ取ったのはレーヴァテインである。いつもの衣装だが、未だに気付かれる事はない。

一部のコスプレイヤーには『コスプレですか?』と聞かれるが、突っ込まれてもそれ位だ。



 ジャンヌ・ダルクの中継に関しては、アンテナショップのセンターモニターでアークロイヤルも見ていた。

ほぼ名指しされたも同然な状況だが――彼女は、それどころではない。心境は複雑なのだ。

 ジャンヌ出現前に撃破したミストルティン、しばらくしてネットに拡散した自分の過去とも言える――黒歴史の数々。

様々な部分で、アークの心は折れる直前だったのである。かつて、VRゲームでも同じような悩みを抱え――最終的にはVRゲームその物から離れた。

「厄介なのは――何処も同じか」

 アークロイヤルはため息をつきながら――カップに入ったコーヒーミルクを飲みながら、センターモニターに視線を合わせていた。

彼女の服装は、何時ものメイド服なのだが――周囲が視線を合わせる事はない。あえてスルーを決めている訳でもないが。

「立ち直るには時間がかからないけど――今度ばかりは、さすがに厳しいかな」

 アークロイヤルの一言は若干以上に弱い気配――何時もの強い意志や強がりっぽい箇所もない。

まるで、アカシックワールドがサービス終了したかのような――ARゲームロスを思わせる状態だった。

《レーヴァテイン、連勝街道へ? 既に20連勝を記録――》

 センターモニターにも様々なニュースが表示されるのだが、そちらにも関心を持たない。

その姿は、VRゲームを離れた時の彼女と同じだった。失った物は、もう二度と――戻ってこないのか?

それを裏付ける証拠として、ミストルティンを含めて有名プレイヤーを撃破したのに、それに対して喜ぶような感情を見せない。

普段であれば、派手に喜ぶまではいかない物の――何かしらのリアクションはあると言うのに、である。



 午後3時、様々な場所で動きがある中でヴェールヌイは草加市内のアンテナショップへ姿を現した。

本来は別の店舗に用事があったので、帰り際に立ち寄った程度だろう。それに、彼女は――。

「後は――本格的に作戦を実行へ移すだけ」

 斑鳩(いかるが)と共に別の作戦を実行した際は失敗に近かったが、今度は違う。

ARゲームと言うコンテンツを更に透明化する為にも――今回の作戦は重要だと考える。

メーカー側も利益を求めるのであれば、それなりの対応をするべきなのに――その対応すら行わない。

お金が得られれば、それでいいでは――あまりにも無責任だと思わないのだろうか。

「そのコンテンツを生み出した以上、様々な部分に関して見極めるのは――メーカーやクリエイターとしては当然の反応と思わないのか」

 ヴェールヌイは色々と悩み続けながらも、アカシックレコードの真実やネット炎上、賢者の石とも言えるビジネススタイル――それらを観察し続けた。

だからこそ、彼女は日本のコンテンツ市場を変える為にも――今回の作戦を考えたのである。

「もう一度、日本のコンテンツ市場を再生させる為に――」

 そして、彼女は決意する。日本のコンテンツ市場が超有名アイドル商法の様な悪質な商法とは違う物を――もう一度、コンテンツ市場を取り戻す為に。

その作戦こそが――パワードフォースをヒントにした、劇中劇とも取れるような作戦だったのである。



###第13話『プロジェクト・クロスオーバー』



 真戯武装パワードフォースのコスプレイヤーは、探せばいるような気配である。

しかし、ただのコスプレイヤー等では今回の作戦は失敗する事をヴェールヌイは予想していた。

ネット炎上勢力とジャンヌ・ダルクは別行動であり、目的も違うのは間違いない。

単なるコスプレイヤーではARゲームに詳しくなく、更に言えばネット炎上案件に利用されるのは目に見えている。

だからこそ――今回の作戦では本物に近い存在が必要なのだ。ジャンヌ・ダルクが元々はWEB小説から現れた人物だと言われているように。

「本物に近いようなコスプレイヤー自体――いるかどうかも疑問か」

 ヴェールヌイは、アンテナショップの周囲を見回すのだが――こちらの目に留まるような人物は見当たらない。

元々が特撮番組であれば主演俳優を――と言う路線もある。しかし、事情を話して協力してくれる可能性は非常に低いだろう。

それに加えて、この状況である。短期間の協力だけでもネット炎上する危険性も否定できない。それだけ、ジャンヌ・ダルク事件に関わるにはリスクがあると言う事だ。

 タブレットを片手にヴェールヌイはネット上でプロのコスプレイヤーを探す。

しかし、それでも目にかなう様な存在がいないので――手詰まり感が大きいだろう。パワードフォースのコスプレイヤーはいるのだが、再限度はジャンヌ・ダルクに遠く及ばない。



 そのヴェールヌイの姿を見て、気になる表情をしていたのはレーヴァテインである。

彼は一連のネット炎上を行う人物を大量に検挙し、今の所は暇になっていたからだ。一連の決着は付いたと言ってもいい。

「あんた、何を探しているんだい?」

 気分屋でもある彼は、ヴェールヌイの真剣な表情でコスプレイヤーを探す姿を見て――気になっていたのだろう。

それに――自分もヴェールヌイの行動には気になる物が多い。

「コスプレイヤーを探しているのです。それも、真戯武装パワードフォースの――」

「パワードフォースか。この俺では――ダメなのか?」

「確かに、あなたは外見からしてレーヴァテイン――?」

「そうさ。俺がレーヴァテインだ」

 まさかのやり取りだった。ヴェールヌイもレーヴァテインと言うプレイヤーがいる事は把握していたが、それが――彼だったとは。

それに加えて、その外見はパワードフォースに登場していたレーヴァテインと瓜二つだ。過去にアークロイヤルが言及していたのはお終えていたが。

「確かに。あなたは外見からしてもレーヴァテインにそっくり。しかも、瓜二つですが――」

「何が足りない物でも?」

「アカシックワールドのプレイヤー同士である以上、何か疑われる」

「言いたい事は分かる。アカシックワールドは――ギルドとかレイドパーティーと言う様な概念はない」

「下手に組めば――八百長を疑われる事は否定できない。ただでさえ、マッチポンプひとつとってもネット炎上勢力が細かく通報するレベルで――」

「そこまで細かく通報されたら、ゲームの運営妨害を取られるだろう。心配するのは、コンテンツハザードじゃないのか?」

 レーヴァテインの言う事も一理あった。今はジャンヌの言うコンテンツハザードが拡散するのを阻止するべきだ。

それに――彼の態度には若干の問題はあるかもしれないが、根は良い方かもしれない。信用に値する人物――そう見てよいだろう。

「ヴェールヌイ、良い情報を――って!?」

 二人が会話している場面に姿を見せたのは、メイド服姿の斑鳩(いかるが)である。

しかも、レーヴァテインがいる事には困惑をしているような表情が――。

「あんたが斑鳩か――しかし、自分の知っている斑鳩とは外見も違うかもしれないが」

「彼女は、名前だけ斑鳩と名乗っている。おそらく、パワードフォースとは無関係だ」

「確かに――あの斑鳩はライダースーツだ。メイド服って柄じゃない」

「斑鳩とは協力体制を取っている。最低でもレーヴァテイン、君の敵ではない」

 斑鳩が姿を見せても、二人は落ち着いて会話しているような感じだ。

レーヴァテインが斑鳩の名前に反応したのは、過去の作品で斑鳩と言う名前の登場人物が出ていた為らしい。

何故、彼は斑鳩と言う名前を聞いて反応したのか――気になる部分は多いのだが、まずは自己紹介が必要と判断する。



 二人の自己紹介が終わり、斑鳩を加えた三人でアンテナショップの別エリアへ向かう。

別のエリアと言っても、センターモニターのある場所から数十メートル程度――アカシックワールドのエリアだ。

ゲーム内で話をする訳ではなく、その近くにあるセンターモニターへ移動すると言う事らしい。

「サービス終了自体の噂は聞いていた。利益的な部分ではなく、権利契約等の事情かもしれない」

「でも、アカシックワールドがサービス終了なんて――」

 そして、神原颯人(かんばら・はやと)や他の人物から聞いた情報を二人へ話す。

その話を聞き、斑鳩はサービス終了に関して驚いたようだが――レーヴァテインの反応は変わらない。

「自分としてはARゲームが終了するのは分かっていました。ジャンヌ・ダルクの騒動も、始まりがあれば――終わりが来るように」

 ヴェールヌイはサービス終了を割り切れないのだが、それでも――始まりがあれば終わりは来る。

終わらない物語は――本当の意味で物語と言えるのかが分からない。ネット上の都市伝説等に昇華する可能性もあるが――それがコンテンツとして正しい姿なのか?

「だからこそ、アカシックワールドを正しい方向へ戻して、無事にサービス終了を迎える――そう言う事か」

 レーヴァテインはヴェールヌイの考えを把握した。細かく語られるよりも、さっくりしていた方が彼には都合がよかった。

実際のレーヴァテインも、そう言った感じの性格だからである。彼なりにレーヴァテインと言う人物を考えた結果、若干のアレンジが入って――現在の姿にはなっているが。

「私は――サービス終了は取り消してもらいたい。その為に――協力はする」

 斑鳩も協力をする事を決めたが、サービス終了には納得できない部分もある。

ネットが大炎上した事、ジャンヌ・ダルクの事件が起こった事――他にも運営とは違う事で起きた事件ばかりだ。

それを理由にして運営叩きが平然とネット上で行われる事も、彼女は納得できなかったのに加えて――。

「おそらく、サービス終了は公式サイトで発表されている以上は止められないと思います。しかし――」

 アカシックワールドが終わるのは止められない一方で、別の形としてリスタートする事は可能かも――と。

しかし、それをやった所で同じ事の繰り返しになってしまうのではないか? それこそ超有名アイドル商法と同じではないのか――。

「最悪の形でサービス終了する事を止める。それを最大の目的として――動きましょう」

 ヴェールヌイは本気である。表情には出さないが、この作戦には超有名アイドル商法等を廃止に追い込むようなコンテンツ市場に対する変化――それを起こす事が出来るだろう。

例え、同意してくれる人間は少なくても――賢者の石商法のノウハウが間違っている事を、ジャンヌ・ダルクとは別の形で伝えられれば――と。

「作戦名は、プロジェクト・クロスオーバーです」

 ARゲームと特撮番組のパワードフォース、それが交差するような大規模なイベント――それを独自に行おうと言うのだ。

その計画の名は『プロジェクト・クロスオーバー』である。遂に――彼女は本気でコンテンツ市場の改革をする為に動き出した。


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