第12話『アーク、再び』

###第12話『アーク、再び』



 6月2日は晴れてはいたが、午前中は曇り気味だった。雨が降らなかったのは不幸中の幸いで、コンディションも良好な環境でARゲームは行われる。

雨が降れば一部のARゲームで中止が告知されるので、該当する作品のプレイヤーにとっては天気も重要だったのかもしれない。

そんな中で、アーケードリバースでは大きな動きがあったのである。それが、アークロイヤルの出現だった。

出現エリアは谷塚駅近辺のARゲームフィールド、草加駅の方は混雑している気配だったので、谷塚駅近辺を選んだのだろう。

実際、草加駅近辺では別のゲームのロケテストも行われており、そちらのギャラリーも一挙に来ている為の混雑と言える。

《ただいま、草加駅近辺のアンテナショップ及びロケテストの行っているエリアでは、入場制限がかけられています》

 センターモニターの速報を見て、ギャラリーの方が驚く。草加駅の方へ行けば――という声も聞こえたが、ジャンルが違う。

そちらで行われているのはARパルクールと言うスポーツ系ARゲームである。アカシックワールドとは別物――。

相手プレイヤーも、入場制限のニュースは伝わっているが――そちらに興味を示すような表情はしていなかった。

『現れたか――アークロイヤル』

 アークロイヤルの目の前にいた人物、それは明らかに別のARゲームで見るようなガジェットを装備しているプレイヤーである。

SFテイストと言うよりは、ファンタジーに近いか? ARバイザーはフルフェイス型のメットであり――声は何故か男。

その口調は女性っぽい訳でもないので、もしかすると――かもしれないが。

外見を見る限りでも、十種類に近い重火器が確認出来るが、ギャラリーからはチートと言う意見も聞こえた。

 彼の装備は、確かに全身が重火器だらけと言うか――重量オーバーでも起こしそうな気配がする。

しかし、アカシックワールドでは3種類の武器しか使えず、全てが遠距離で固めるのも出来ない。その為、いくつかの武器は一斉発射扱いにしているのだろう。

もしくは、一部は近距離か中距離扱いで射程の短いショットガンを入れている可能性も――あるかもしれないだろうか?

チートガジェットが混ざっていれば、反則扱いにはなるだろうが――チェックは問題なく通過している。

『名指しとは――かなり物騒ね』

 既にアークロイヤルはARアーマーを装着済みであり、そのカラーリングを含めて今までとは違うタイプに変わっていた。

装備がガンブレードをメインとしたソード系メインなのは同じだが、微妙に装備を変えたという事か?

アーマーはベースが同じでも、様々な独自カスタマイズがされている。脚部や頭部アーマー、細かい装備違いがその証拠だろう。

パワードフォースにも似たような外見のプレイヤーがいたかもしれないが、それを今のタイミングで詮索するのも野暮と言う物である。

『お前のせいで終了したVRゲームを――忘れたとは言わせないぞ!』

 その一言を聞いたアークロイヤルの腕が震えている。しかし、その発言に反応して報復をしようと言う気配は――なかった。

その一方で、この発言をした本人は過去に該当するVRゲームはプレイしていない。おそらく、プレイしようとしたらサービスが終了していたと言いたいのだろう。

だが、アークロイヤルがプレイしていたVRゲームのサービスは終了していないのである。つまり――まとめサイト等で偽情報を拭きこまれた勢力かもしれない。

 フィールドはサバゲ―であるようなジャングル系フィールドではなく、市街地フィールドである。

しかし、市街地と言っても屋外フィールドを実際に使うタイプではないので――VRに似ていると突っ込まれそうだが。

それでも建造物はARウェポンをあっさり貫通するようなものではなく、オブジェクト扱いである。それに加えて――。



 バトルの方は既にラウンド2まで経過し、アークロイヤルは難なく2本先取する。

しかし、フィールドのトラップに苦戦しているような――そんな表情で周囲の状況を策敵しつつの攻撃が続いていた。

周囲のジャミングによって、半径50メートル辺りまでは相手の位置を特定できないようになっているのが――アークロイヤルの苦戦している理由――。

それに加えて、相手の遠距離武器の弾幕なので――近づくのが至難と言えるかもしれない。

 相手側もアークロイヤルの位置を特定できない部分は同じだが、ジャミングの解除アプリがインストールされている関係で、向こうよりは圧倒的に有利だ。

しかし、それでもアークロイヤルに致命傷を与えられないのには理由がある。それは、遠距離武器の威力が低い訳ではない。

だからと言ってチートアプリによるペナルティでもないのだが――彼は、疑問に思っている部分がある。

『何故だ――何故、向こうにはダメージを思うように与えられない? こちらの武器はチートアプリを使ってのブーストはしていないはずだ!』

 彼の方も撃ちまくっている状況から、途中からピンポイント射撃にシフトするのだが――それでもダメージは微々たるもの。

いらついても状況が変わる訳ではないので、そのまま戦う。

向こうのレーダーはこちらほどに優秀ではないし、武器も近距離なので時間切れを狙えば――。

『こうなれば――』

 そして、彼は思わぬ策に出た。アカシックワールドではタブーと言えるようなプレイスタイルを彼は取ったのである。

何と、自分が不利になるのを百も承知で接近戦に出たのだ。ばら撒いている弾幕の一発は威力が低くても、全て当てれば――と言う発想だろうが。

しかし、この策は別の意味でも自滅行為であり――特にアークロイヤルと戦うときには、近接がメインのプレイヤーでもない限りはタブーと言われる程の戦法だ。

 アークロイヤルも唐突にレーダーで相手を確認出来た時には、何が起きたのか疑問に思った。

先取した2ラウンドまでは、基本的に自分が接近しての勝利だったからである。おそらく、向こうに焦りがあったのだろう。

『戦法を変えたというのであれば――!』

 アークロイヤルは近接ではなく、中距離で相手を仕留める方法に出る。そして、ガンブレードを射撃にシフトし――。

『こちらも、勝つパターンを取るまで!』

 ガンブレードの近距離射撃に近い一発は、相手のライフを0にまで追い詰めた。一撃必殺ではなく、ある意味でもクリティカルヒットと表現した方が速いかもしれない。

向こうは防御力がそこそこ高い部類だったが、それでもアークロイヤルの戦法が一枚上――プレイスキルの違いと言える。



 最終的には3ラウンド共にアークロイヤルの勝利――ストレート勝ちだった。

相手のスキルよりも、アークロイヤルの判断力が勝ったという結果だが、相手の方は納得していないようにも見える。

「相手の認識不足だな」

「アークロイヤルを倒せると慢心した結果が、これか」

「レベルに似合わない戦法を披露したから、それで調子に乗って勝てると思ったのだろう」

「アークロイヤルのスキルは、常人では理解できない領域にいる。プロゲーマーに匹敵と言うか――」

「彼女は努力家と言う訳でもないだろう。それに、修行をしていた描写もない」

「ゲームで修業と言うよりも、経験値稼ぎと言った方が正しい?」

「アカシックワールドで経験値と言う概念があれば――だが。しかし、レベルアップの概念はあるからな」

「ある地点を境にしてプレイヤーがパワーアップするのは、パワードフォースにもよくある事だ」

 ギャラリーの方も、油断していた相手が弱いと言う様な発言が目立つ。

その一方で、アークロイヤルの実力も上がっている事を評価しているようだが――。

 フィールドをログアウトする前、彼の方は――。

『お前は何も分かっていない。別のプレイヤーに踊らされ、ここへ来たという事実に』

 それだけを言い残し、相手プレイヤーはログアウトした。姿の方は確認出来なかったが、自分がログインをしたままなので――姿が見えるはずもないだろう。

アークロイヤルの方は彼の言い残した言葉の意味が気になったが、今はどうでもいいことだろう。

『今の段階で重要なのは――コンテンツハザードを止める事。それが――優先される事』

 その後、アークロイヤルもログアウトし――別の場所へと向かう事にする。

その場所とは――草加駅だった。現在、ARパルクールのロケテストが行われている訳だが、そこへと向かうつもりなのだろうか?



###第12話『アーク、再び』その2



 6月3日午前11時、草加駅に到着し、該当のロケテストの行われている場所へ到着する。

本来であれば昨日にでもチェックしようと思っていたのだが、電車が満員だったり――別の要因もあって、アークロイヤルは向かうのを断念していた。

実際に混雑しているという情報は既にチェック済みだったのだが、別の要因は向かおうとした途中でつぶやきサイト経由で知ったのである。

 別の要因とはネット炎上勢力の動きだ。彼らを壊滅させるには国会でネット炎上罪を認めさせるべきなのか――と冗談半分に思うほどは、政治には関心がある訳ではない。

そう言う思考をするのは、政治的要因を絡ませて番組を見てもらおうとするメディアとか――その辺りと考えるべきだろう。

「結局、VRゲームでもARゲームでもネット炎上やマッチポンプは起きる。避けられない――事なのだろうか」

 近年、放送されるドラマ等に超有名アイドル商法の批判的な意見や国会の情勢、それこそ政治的な駆け引きを脚色して放送し、視聴率を稼ぐ。

WEB小説でも、そうした状況がないとは言い切れないが――そんな感じである。

パワードフォースシリーズは、子供向けの特撮番組ではある一方で、勧善懲悪をテーマとしていた一面もあった。

しかし、刑事モノやサスペンス系、ホラー系のドラマと違って――死ネタは一切存在しない。アニメやゲームでも死ネタを扱う作品がある中、まさかの対応をパワードフォースのスタッフが取ったのである。

ホビーアニメ、女児向け及び男児向けのキッズアニメであれば、そうしたネタを取り扱わないケースが多い。しかし、パワードフォースはどうか?

 確かに変身グッズ等の様な玩具が存在し、作品も子供向けにパッケージングした印象を持つ。だからこそ――疑問に思う個所が存在するのだ。

ジャンヌ・ダルクが、パワードフォースを題材にして一連の事件を起こしたという事に。

彼女に同調していたのは二十代や三十代近くという若者が多い印象である。それならば、ライトノベルや若者向けの作品を――と考えるはずだ。

「繰り返されるネット炎上――私は、また繰り返してしまうの?」

 アークロイヤルの右手は震えている。しかし、それでも確かめないといけない物があった。

それが――ARパルクールのロケテ状況。ネット炎上を繰り返せば、それこそコンテンツ市場の信頼問題にも関わってくるだろう。

だからこそ、そのコンテンツを愛するファン等を失望させる事は――してはいけないのである。



 十分が経過した辺り、やはりというか駅から出ると行列が出来ているのが分かる。

駅前からだとチェック出来なかったというのもあるのだが――午前中だと言うのに、予想外と言えるだろう。

「昨日も写真がアップされていたが、今日も似たような物だな」

 アークロイヤルはメイド服姿なのだが――それで注目されない位には、行列の凄さが分かる。

他にも知っているようなARゲームプレイヤーが並んでいる訳ではない。

しかし、アークロイヤルも動画にアップされているようなプレイヤーでも、知らないプレイヤーがいるので――そう言う感じだろう。

「こういう状況では、さすがにジャンヌも――」

 そう思っていたアークロイヤルだったが、大型スクリーンで緊急中継が映し出されたのは――。

「どういう事だ? 中継場所は谷塚だぞ」

「あれって、レーヴァテインか?」

「戦っている相手は――」

「嘘だろ? あれって――」

 大型スクリーンの方は音声なしだったが、それでも対戦相手が相手だけに見入ってしまうのだろう。

片方はレーヴァテインであるのはアークロイヤルも把握したが、もう片方が――。

「斑鳩――なのか?」

 アークロイヤルも即答に迷ったが、アーマーの特徴や使用ガジェットから斑鳩(いかるが)と予測する。

そして、今まで使っていなかったARガジェットのプレイヤー検索機能を初めて使う。

《プレイヤー照合完了》

 称号完了後、表示されたデータを見て――別の意味でも驚いていた。斑鳩なのは間違いないのだが――。

その対戦成績は、ファルコンシャドウを初めとしたネームドプレイヤーも撃破済。この成績には予想外と思う。



 谷塚駅より1キロは離れているであろうARゲームフィールド、サバゲ―にはうってつけな廃墟フィールドも完備している有名所――。

そこではレーヴァテインと斑鳩がバトルを行っていた。レーヴァテインはいつも通りチートプレイヤー狩りをしていたが、そこに斑鳩が姿を見せた形のようである。

「こっちとしては、君と戦う理由がない。第一、チートプレイヤーでもないし――因縁がある訳でもない。それに、こっちは得をしない」

 損得勘定が激しいのは原作同様だが、それ以上にARゲームに対する熱意には磨きがかかっている。

今のタイミングで斑鳩と戦っても、彼には大きな得をするようなポイントがない。それも、バトルを受けない理由でもあった。

『あなたにはなくても、こっちには理由がある。ジャンヌ・ダルクに関係している以上は』

 斑鳩がレーヴァテインをターゲットにしたのは、ジャンヌ・ダルクに関係しての事だった。

そして、今回の計画にはヴェールヌイも関係している。

「ジャンヌ・ダルク――聖女とも言われている、あの偉人か」

『厳密には、その名前を持ったARゲーマーと言うべきね』

「彼女がゲーマー? まとめサイトよりも冗談がきついな」

『そうよ。彼女は――ある人物をこのフィールドへ引き寄せる為に、今回の事件を思いついた――』

「ある人物――チートゲーマーであれば、ここまで大層なフィールドは用意しないか」

『その彼女は、思惑通りにアカシックワールドにエントリーした。私も、その話を別の人物から――』

「別の人物――?」

 2人の会話が続く中、バトルフィールドの近くで観戦していたヴェールヌイは状況を見守っている。

斑鳩との協力体制を結んだのは、一連の計画より前であるが――。彼女はカレーパンをかじりつつ、テーブル席で観戦をしている。

無言で観戦と言うよりは、彼女に限って言えばテーブルに置かれているドーナツや焼きそばパン、菓子パン類を食べつつの観戦と言うべきか?

それに加えて、今回のバトルにはジャンヌ・ダルクをおびき寄せると言う目的以外に別の理由がある。

「このバトルを見て、彼女が何かを思い出してくれること――」

 コーラの入ったアルミ製のタンブラーを手に――ヴェールヌイはセンターモニターを見ている。

そして、ジャンヌ・ダルクの正体が自分の思惑通りの人物であれば、アークロイヤルは何かに気付いてくれるだろう――そう思っていた。



###第12話『暴かれる世界』



 別のエリアで展開されていた斑鳩(いかるが)とレーヴァテインの戦いは、結果としてレーヴァテインの勝利で終わった。

しかし、そこで語られた衝撃の事実は――彼女の耳には届いていない。何故なら、アークロイヤルはレーヴァテインが2本取った辺りでARパルクールの行列に並んでいたからである。

「そんな事実があったとは――」

「まとめサイトのつぶやきに見覚えがあるフレーズがあった段階で気付くべきだった」

「全ては仕組まれていたのか?」

「芸能事務所を陥れる為とか――犯人は何を考えているのか」

 周囲のギャラリーは、そんな事を言っているが――彼女はARガジェットに集中していて、耳を貸していない。

今の彼女にとって――雑音にしかならない話題ではないのは分かっているが、周囲がそれを邪魔している。

本来であれば、この映像は動画サイト経由等で拡散するべき内容だったのだ。

それをARセンターモニターで公開設定したのは――彼女にとっては失敗と受け止められている。



 バトルが終わり、ヴェールヌイは残った菓子パンやドーナツを食べつつ、動画の再生数を確認していた。

中継ではある程度のギャラリーが見ていた事は、コメント数等を見れば分かる。しかし、問題はそこではない。

「一定のプレイヤーに注目はされたかもしれないが、これでは失敗と言うべきか――」

 多くのプレイヤーが視聴したのは事実だが、そのコメント内容は――民度の低さが目立つ一言ばかりである。

中には放送禁止用語もあった為、該当コメントは非表示になっているが――後は、顔文字や赤文字コメント等も目立つ。

ヴェールヌイは滅多にしないような深刻な表情で、動画の反応を注視している。

「どうだったの?」

 ARスーツを解除し、メイド服姿に戻った斑鳩がヴェールヌイの元へと向かうが――表情が何時もと違う事に疑問を抱く。

「反応は――あった。しかし、これでは失敗と認識されても仕方がない」

 何が間違っていたのか、ヴェールヌイには回答が見えない。しかし、それとは違う反応を示した人物も何人か存在する。

その人物の一人、それはリアルタイムで中継を視聴していた人物だった。



 草加駅のアンテナショップ近くにあるコンビニ、そこで中継を視聴していたのは――神原颯人(かんばら・はやと)だ。

「第三者の介入は――間違いない。しかし、どの勢力が介入したのか分かれば――」

 既に開発も完了したはずのゲームに、ここまで愛着を持つのも彼にとっては珍しい。

開発が終われば、後はメンテナンスなどの一部作業以外でゲームに介入する事はないのである。その彼が、異例とも言える反応をしていた。

それに加えて、彼はこの作品を何としても広めようとも考えていたのだ。滅多に組めないような人物と組めた事――それが理由だろうか?

「ネット炎上勢にしては手口が幼稚だ。芸能事務所もネット上で警戒されている以上はあり得ない。アイドル投資家は、もっと違う――」

 神原は口には出さないが、様々な勢力に関してエゴサーチしていく。しかし、手がかりになるような情報は出てこない。

レーヴァテインの言っていた事も気になるが、それ以上に気になったのは――。

『あなたがジャンヌ・ダルクと言っている人物、それはVRゲームでも有名だったコスプレイヤーゲーマーよ』

 バトル中の唐突な斑鳩の一言だ。これは、自分にとっても引っかかる要素にもなっている。

確かにアカシックワールドでは、オプションとして出現演出等をカスタマイズできるが――特定演出は禁止していた。

主に点滅要素が強い物――に限定されるが。しかし、ジャンヌ・ダルクはその様な演出は使っていない。

使っていた演出は、アバター出現演出と消滅演出である。おそらく、上手くカスタマイズしてそう見せかけた物かもしれないが。

「ジャンヌの正体がわかっても、次は――あのつぶやきコメントの出所か」

 神原も薄々は気付いていたのだが――まとめサイトや一部の炎上系サイトで使われていたつぶやきコメント――それは全てねつ造されていた物だったのである。

本物のつぶやきもあるかもしれないが、素人ではすぐに見落とすか、あるいはそこまで気にしないで拡散をしていくだろう。

それが向こうにとっては狙いだったと言える。それを証拠に、あるまとめサイトがアカシックワールドを取り上げた結果、ゲーム名称や内容も一気に広まった。

ゲーム作品をネット上で拡散し、広めてくれること自体は悪い事ではない。それは逆に歓迎すべき事なのだ。

 しかし、彼らの場合は――その内容を歪めている事が問題視されている。俗に言うネット炎上、ジャンヌの言葉で『コンテンツハザード』か。

一部コンテンツだけが生き残り、他は排除されるような選民思想やディストピア、フジョシや夢小説勢力や一部の過剰なファンによるオリジナルキャラの俺TUEEEに例えられるような考え方をする二次創作――。

賢者の石と揶揄される芸能事務所側の超有名アイドル商法、特定芸能人のゴリ押し――それらを放置する訳にはいかないのだ。

全てのコンテンツが正常に流通していく事、それを神原は望んでいる。



###第12話『暴かれる世界』その2



 6月4日、この日は小雨だった。天気予報では曇り時々雨位の印象だったのに――。

そう言った事もあり、今回の草加近辺はガラガラであると誰もが予想した。しかし、現実は非情だったのである。

「本日のロケテストは小雨決行らしいが――場所が変わるようだ」

「ホームページの告知だと、あの場所か――」

「雨にも耐えられる場所は――あそこしかないだろうな」

「予想外の場所で行うのか。各駅停車で行かないと大変だぞ」

「草加からならば一駅で着くな」

 草加駅でロケテストの開始を待っていたプレイヤーは、ホームページで開催場所の移動を知って、再び電車移動をする事になった。

その場所は松原団地である。実際、ロケテストの場所をホームページで調べたプレイヤーは草加駅から各駅停車に乗り換え、松原団地へと向かうようだが。

「ロケテ会場付近が慌ただしかったのは、こういう事だったのか。早朝の内に移動準備を行っていたようだが」

 小雨なので傘をささずに草加駅に到着した神原颯人(かんばら・はやと)は、草加駅で降りて運営へと顔を見せようとも考えた。

しかし、ロケテの方が気になったので松原団地へ移動する事をショートメッセージで運営に送る。

「松原団地ではアカシックワールドをプレイ可能な場所が限られるが――向こうの様子を見るのには都合がいいかもしれない」

 ロケテストの実施場所の変更は、小雨から本格的な雨になる事を考慮しての対応だろう。

その一方で、アカシックワールドは雨天でも豪雨や台風クラスでなければ問題はないシステムにはなっている。

これほどのシステムを用意しなければ、一連の目的を実現できないと神原は考えたからだ。

「不当な利益を得ようと言う勢力がいる限り――まだ、幕を下ろす訳にはいかない」

 そう思いながら、神原はスマホをかざして改札口に入る。電子マネーに関しては、ある程度入っているので問題はないだろうが。

神原の本来の目的はネット上でも憶測だけで書かれており、本当の目的は運営側にもメーカー側にも悟られていない。

それに――類似行動をしている人物が、既に有名になってしまっているので――それを踏まえると、今更自分の目的を言った所でタダ乗り便乗と逆に炎上しかねないだろう。

「とにかく、賽は投げられた――」

 神原はエスカレーター経由で駅のホームへと向かい、そのまま松原団地に向かう電車へ乗り込んだ。

全ては――ARゲームを炎上させようと言う勢力の存在を消滅させる為に。



 午前11時30分、自宅のキッチンでテレビのニュースを見ていたのは青空奏(あおぞら・かなで)だった。

丁度、お昼を食べようとコンビニで買ってきたのり弁当を用意し、インスタントラーメンを作る為に電気ポットでお湯を沸かす。

「やはり、大きなニュースになっていないのか――」

 ジャンヌ・ダルクの事件はエゴサーチを行う程に興味があった訳ではない。

しかし、自分の作品の登場人物がリアルで殺人事件等を起こすなんてことを――WEB小説家は恐れるだろう。

下手をすればネット炎上は避けられないし、それこそ大手芸能事務所のアイドルを売り込む為だけにかませ犬として利用される事も避けられない。

 彼としては大きな炎上案件等にならなければ――特にジャンヌ・ダルクの行動を非難する事はしないだろう。

どう考えてもキャラクターのイメージビジュアルが存在しないような人物を、コスプレするような物好きなコスプレイヤーはいないだろうから。

さすがにAVのようななんちゃってコスプレは言語道断だが―ーさりげなく、別の書籍化した小説作品でやられているだけに。

おそらくは――こうした歪んだコンテンツ消費に関して、警鐘を鳴らすのがジャンヌの目的なのかもしれない。

「やはり、彼女にも知らせておくべきか――」

 青空がスマホをテーブルから取ってきた時には、お湯が沸いている。そして、インスタントラーメンを作り始めた。

スマホにはヴェールヌイのメールアドレスが表示されているのだが――このアドレスはARガジェット用であり、一般のスマホでは使えない。

それに気づかずに彼はメールをしようとしたが、文面を途中まで入力した辺りで――送信を断念した。

「この件は――やはり、大炎上をしない限りは様子見をするべきか。パワードフォースの制作委員会側の様に」

 別のホームページでは、パワードフォースの運営が一連の事件に関して見極めるという趣旨のコメントを発表している。

下手に火消しをしようと動いた結果、逆に炎上してしまっては――特定勢力の思う壺と考えたのだろう。


 

 11時40分、ヴェールヌイは草加市内のARフィールドに姿を見せていた。

このエリアに現れるのは――初めてだろうか? この場所はサバゲ―と言うよりは脱出ゲーム向けのフィールドだろうか。

しかし、アカシックワールドはどのフィールドでも問題なくプレイは可能である。雨天に影響されないような場所は、草加市内だと絞られてくるかもしれない。

更に混雑していない場所を絞り込もうと考えれば、自然と場所は限られてくるだろうか?

「妙にギャラリーが多い。それよりも、別の意味で――」

 ヴェールヌイは入口の自動ドアが開いた段階で、かなりのギャラリーがいた事に驚く。

驚くと言っても――表情に変化はないのだが。そして、ギャラリーが行列を作っている場所の最後列を見つける為、少し周囲を見回していた。

「あのゲームは――」

 ヴェールヌイが最後列を発見したと同時に、ある電子ポスターが掲示されている事に気付く。

そのゲームとは、ARパルクールである。昨日、草加駅の近くでロケテストをしていた機種なのだが――本日は雨天と言う事もあり、松原団地で行うと告知されていた。

これは彼女にとっては別の意味でも都合がよかったのかもしれない。ARパルクールはチェックしようと考えていた機種でもある為、ここで確かめられるのは一石二鳥と言う意味でも――。



###第12話『暴かれる世界』その3



 アークロイヤルが過去にVRゲームで一連の事件を起こした、あの人物と同じ事はネットでも話題だったが――こちらはニュースで取り上げられることはなかった。

何故取り上げなかったのか、その真相は不明だが――芸能事務所的な意味でも言及を避けた可能性が高い。

しかし、この件が拡散したのはアークロイヤルにとってはトラウマを拡散されたのも同然で、大きく落ち込んでいた。

「これが拡散してしまった以上――」

 午前12時、アークロイヤルはセンターモニターで流れるARニュースを見ていたが――そこで自分の話題がニュースになっていた事に気付いた。

VRゲームで起きた、あの炎上事件を――。封印しておくべきであり、同じような犠牲者が出る事を恐れていた例の事件である。

「もう二度と――同じような悲劇は起きて欲しくない。アフィリエイト系まとめサイトバブル等と揶揄された――あの事件を」

 アークロイヤルは、急ぎ足と言うよりは早歩きで別のARフィールドへ向かう。何かを探すというよりは、フィールドへ向かってから決めるような表情で――今は急ぐ。

普通に走ってもよいのだが、混雑具合を踏まえると――走ってけがをするとネットで炎上しかねないリスクがある。

 距離としては数キロ単位ではなく、店舗の3~4件ほど先のARフィールドが目的地だ。数百メートル程度なのでARボード等を使えば、すぐに到着するだろう。

それでもボードを借りるのに手続きがある為か、走った方が早いと考えているのかもしれない。

 様々な部分でアフィリエイト系まとめサイトが増え始め、まとめサイトビジネスと言う常識では考えられないような超展開が起きた。

それに巻き込まれる形でアークロイヤルが炎上し、気が付けば自分のプレイしていたVRゲームも大炎上したと言う。

――そこまではネット上にもまとめが存在していた。しかし、これにはネット上で言及されていない続きが存在する。

一連の炎上事件を生み出したのが、芸能事務所AとJ、それに様々な権利団体等が協力してVRゲームを潰しにかかったのだ。

その結果として、一部のVRゲームが事業撤退、そこを射抜きするかのように芸能事務所Aに所属するアイドルとタイアップしたゲームが誕生している。

しかし、そのゲームはプレイユーザーが一万人未満だったという話もある。そして、そのバックには様々な芸能事務所絡みの――と言えば、大体がどういう状況なのかは容易に想像出来るだろう。

つまり――そう言う事だ。一連のVRゲームにおける炎上事件の犯人は――芸能事務所と見せかけて、邪魔なコンテンツ排除をしようとした特定コンテンツ勢力だったのである。

それが何処の勢力なのかは、ネット上でも憶測ばかりが飛び交い、それこそ炎上合戦に展開していた。

この状況を皮肉として『日本ネット炎上事変』と皮肉を混ぜて紹介するまとめサイトもあったが――。



 その一方で、アークロイヤル以上にニュースで取り上げられているのは芸能事務所Aのアイドルによる不祥事だった。

内容はネット上でも話題となったが、その情報は何とSNSで取り上げられることはなかったと言う。

週刊誌限定で拡散した訳ではないが――おそらくはSNSの運営を買収して情報の拡散を防いだとも言われている。

 この状況に対し、明らかに何かを再現していると考えたのはジャンヌ・ダルクだった。

更に付け足すとすれば――今回のSNS封じとも判断できる作戦は、ヴェールヌイ発案ではない。

『遂に――化けの皮が剥がれたようだな。自分の妄想を他人に押し付けて――それを承認させる。歌い手や実況者の夢小説勢力によくある事だろうな』

 ジャンヌは、偽まとめサイトの件を含めて――事件と見せかけて便乗している勢力を突きとめていた。

単純に通報して夢小説禁止法案を出させるのは簡単だろうが、それではジャンヌとしては白けるのは間違いないし、これを瞬間的に壊滅させたらご都合主義と言われるのは当然だろう。

まるで、超展開で俺TUEEEを展開し、打ち切りエンドや飽きた等の理由で執筆断念するようなWEB小説の典型例なのは間違いない。

『真犯人よ――簡単には逃がさない。貴様がVRゲームで行った事を含めて――』

 ジャンヌの口元は、あまりの怒りで震えていたのかは不明だが、何時もの冷静さを欠いていたのかもしれない。

だからこそ、あるニアミスでフラグを立ててしまった――そう言わないと説明がつかないミスを起こしてしまう。

『この私が――直接引導を渡してみせる!』

 明らかに私情で動いている可能性が高いのだが――ジャンヌは草加市へと向かう。

向かう手段はARボード――特殊な形状のARゲームエリアへ移動する専用のサーフボードだ。

バイクの免許も車の免許も持っていないし、自家用車でも乗ろうと言うのであれば正体がばれてしまうかもしれない。

太陽光システムを使っているARボードであれば、ARガジェットと連動して動かす事は可能という利点もある。

 


 午前12時15分、アークロイヤルとジャンヌ・ダルクは偶然にも同じアンテナショップで遭遇した。

『アークロイヤル――今は、お前に構っている時間はない』

「それはこっちの台詞――ジャンヌ・ダルク!」

 お互いに急ぐ事があったので、重要な遭遇のはずなのに――スルーという状態である。

それ程に急がなければいけない理由は、目の前の光景にもあった。それは、ARパルクールのロケテストの中継なのだが――。


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