第11話『集うランカー達』

###第11話『集うランカー達』



 5月26日、今回は昨日と違って晴れていたのは間違いないだろう。

ネット上でも掲示板等で話題となっていた単語である『コンテンツハザード』の正体、それがネット炎上だった事には衝撃を隠せないメンバーが多い。

ARゲーム運営側もネット炎上を防止する為の対策を、アイドル投資家の一件から強化しているのだが――それでも追い付かないことを意味している。

結局、コンテンツにおける炎上問題は避けて通れないのか――炎上しないコンテンツはフィクションの世界だけの存在だけなのか?

運営の会議は――微妙に壁を固くするだけ、つまり時間稼ぎにすぎなかったのである。

 しかし、時間稼ぎとは言っても――その費用対効果は単純な時間稼ぎとは比べ物にならない。

芸能事務所AとJ、それ以外の芸能事務所が噛みついてくれば――草加市はARゲーム運営を守る為にも営業妨害として事務所に対して警告できる。

草加市の行っているARゲームでの町おこしとは、町おこしと言う名称自体が隠れ蓑であり――と言う事はネット上でも有名だ。

どれ位の隠れ蓑なのかは――残念ながら明らかにはなっていない。これが表面化すれば、芸能事務所側がノウハウを悪用しかねない――という意見も多いためである。

「草加市の方がカードを切るとは――それだけ切羽詰まっていると言うべきなのか、それとも別の事情か?」

 ネット上でのニュースを見て、レーヴァテインはふと疑問に思っていた。

しかし、芸能事務所が横槍などを入れてこなくなるという点は彼にとって非常に大きい。おそらく、現状の目的を達成するのに邪魔者を削れるだろうか。

「とりあえず、利用できる物は利用しますか」

 気分屋でもあるレーヴァテイン、それは特撮番組でも同じであり――今の彼も同じだろう。

彼以外にも一部のガーディアンが草加市の対応に関して高く評価する一方で、まとめサイト等では『特定勢力に対する圧力』と非難する事がある。

その声に関しては百も承知の上で、今回の決定を下している為――彼らにとってはブーメラン発言と言えるだろう。

【まとめサイトや一部のアイドルファンがやった事を考えれば、草加市の対応は当然であり――ブーメラン発言とも言える】

【タバコのポイ捨て、歩きスマホ等と同列にスパムサイトレベルのアイドルグループ宣伝を――と言うのも無理な話だ】

【彼らは明らかに草加市の景観を損ねるような行為まで実行した――それが、あの判断を下す事になったと分からないのか?】

【アイドルファンがテロ組織の様な存在になる――と言うWEB小説はいくつかあったが、フィクションがノンフィクションにでもなるのか?】

【そこまでになったら、明らかにジャンヌ・ダルクの言うデスゲームと同じ事が起こる】

 掲示板の書き込み等では、一連の事件に関して触れられている物もあったが――大抵が草加市の行動に賛同する意見が多い。

一般市民にとっても、アイドルファンが起こしている行為に関しては迷惑行為と変わりないと判断したのだろう。



 午後7時となると、一部のARゲームでは安全を考慮してゲーム終了となるケースがある。

アカシックワールドは対象外だが――この時間になると参加するプレイヤーにも変化が出ているだろう。

【何処のバラエティー番組もワンパターン過ぎて――】

【スポーツ中継もあるが、衛星放送等のケースが多いな】

【こういう時こそ、夜のARゲームチャンネルだな】

【昼とは顔ぶれが異なるが、有名プレイヤーが集まると言う話だ】

【さすがに、こちらにまでジャンヌ・ダルクは――来ないだろう】

 掲示板では早速だが、様々なコメントが飛んでいる。それ以外でも――過激なコメントもあったのだが、そちらは即座に削除されていた。

夜になるとアンテナショップでも、中継を見る為に客が一斉に集まる。年代としては20代後半や30代前半が多い。

 さすがにビールやアルコールを片手に視聴する事はないが、これはアルコールの提供が禁止されているためだ。

酔っ払いが暴れまわって各種機器を破壊しては――問題に発展するのは間違いない。しかも、その額は軽く1000万円オーバーである。

ARガジェット用サーバーは一定の間隔で交換となる為、あまり費用はかからないが――太陽光パネル等の類やドローン、ARフィールド発生装置は破壊でもされたら一大事だ。

警備にも使用している中継用ドローン、一般家庭への電力供給にも使用している太陽光パネルや風力発電装置等はスペアの生産にも時間がかかるシロモノである。



 最初の中継で登場したのは、そこそこ有名なプレイヤーである。彼女にはミストルティンというコードネームがあった。

装備は西洋の騎士を思わせるが、露出度が高いアマゾネスに近いだろうか。武器もハンドアクスである。

「さて、あたしの対戦相手は――」

 ミストルティンは格好が露出度の高い割には――ガードも強い事で有名だ。

それに――彼女の性格はどちらかと言うと好戦的ではなく慎重派だろう。人は見かけによらない――。

『ミストルティン――神殺しと言う割には、その装備で大丈夫なのかな?』

 ミストルティンの目の前に現れたのは、まさかの大型ロボットだった。

アカシックワールドでは飛行ユニットを使うプレイヤーもいるのだが、彼女にとっては計算外と言える瞬間である。

ARマシンに片足を突っ込むようなデザインには、さすがのミストルティンも両足が震えているだろう。

 彼女の対戦相手は、まさかとも言える蒼風凛(あおかぜ・りん)であり――彼女の使用機体である『ヴァルキューレ』だった。

これにはさすがのミストルティンもレギュレーション違反を訴えるのではないか、そうネット上でも予想されていたが――。

【これを受けるのか?】

【無理だ。ベスト50以内の実力者でも、アレには勝てない】

【前代未聞の最強勝利フラグ――それがヴァルキューレだ】

【あの機体に勝てるのは、ジャンヌ・ダルクだけじゃね?】

【あれは別の意味でイレギュラーなのは間違いない。アカシックワールドのガジェット規格に入っているのか?】

 アカシックワールド初見の視聴者にとって、ヴァルキューレのインパクトは予想以上だろう。

それと同時に、アレをチートと言う様な人物はさすがにいない。チート発言をするだけでネットが荒れるのは明らかだったから。

「さて、お手並み拝見といきますか――」

 中継されているであろう谷塚と竹ノ塚の間に近いARフィールド、そこにはレーヴァテインが目の前の光景を楽しんでいるようにも感じていた。

ある意味でも特等席で彼は一連のバトルを見ていたからである。周囲には電車も通過し、そこからでもARバイザーがあればバトルを見る事は出来るだろう。

それこそ、花火大会を電車の車窓から見るような感覚――と言える。



###第11話『集うランカー達』その2



 ミストルティンは、アカシックワールドでもそこそこの実力者――と言われており、プレイヤーによっては実力差で敗北する事もある。

このバトルが始まるまでの数回のバトルでは、圧倒的な実力を見せて勝利していた。チートプレイヤー以外で負ける要素がないとネット上で言われる位に。

【今までのバトルを見ていなかったのか? あれだけの実力があって、負けるとは考えにくい】

 この書き込みよりも数コメント前では、蒼風凛(あおかぜ・りん)の出現にミストルティンが負けると言いだしたのである。

しかし、ミストルティンは100戦中80勝オーバーで――ここ最近は30連勝位していた。

それが負けるとは考えにくい――とネット上では議論されていたのだが、このレベルで炎上すればアカシックワールドのレベルを問われかねない。

幼稚な連中の集まるゲームと批判されるのが目に見えている――そうネットで炎上しかねないような暴走発言は、特に控えられている。

【確かにヴァルキューレの強さは動画でも実証されているが、実力差は違いすぎる】

【ガジェットの強さがARゲームの強さには連結しない。あくまでもARゲームは地力が試されるのだ】

【修行と言ってもゲームをプレイしたり動画の研究をしたり――と言うのが多くて、修行と言う雰囲気に見えない】

【それを描写したとして、本当に面白いかどうか疑問がある】

【ARゲームのプレイヤーは、大抵が更にゲームをプレイして地力の強化をしているが――】

【どう考えても、敗北フラグなのはヴァルキューレの方だ】

 一部のメタな発言もあるが――大方の予想はミストルティンにあった。

発言の一部は横槍と言うよりは、別のまとめサイトに掲載されていた物を意図的にコピペしたりして炎上を狙っているだろう。

つまり、超有名アイドルファンや一部の歌い手や実況者の夢小説を書く勢力が――アカシックワールドを炎上させようとしているのかもしれない。

芸能事務所側は既に大手まとめサイトの管理人が摘発された為、下手に動けば今度は海外進出なども白紙になるし、ネット上では否定されている日本政府とのパイプライン等も真実と言われかねないのだ。

 しかし、バトルが始まると――予想外とも言える大番狂わせが起こった。

ネット炎上等による弊害ではなく、単純に周囲の重圧に負けたのだろう。結果はストレート負けである。

【何と言う結果だ】

【これは予想できなかった】

【どういう事だ?】

【これが、現実なのか】

【現実は非情である――と言う事なのだろうか?】

 ネット上でも動揺しているのがよくわかるだろう。こうなる事は――レーヴァテインも予想済みであり、それを考えての現場観戦だった。

「やはり、こうなるか――ミストルティンもネット上で話題となりたかった人物かもしれないが、相手やジャンルを間違えたな」

 ヴァルキューレの圧勝劇を見守った後、レーヴァテインは姿を消した。彼は別の場所へ移動した可能性もあるのだが――。

その一方で、今回のバトルをフィールドで見ていた人物はもう一人いる。



 バトル終了後、蒼風は瞬時にしてARインナースーツから私服に戻し、そのまま帰路に――。

しかし、その目の前に姿を見せた人物は、何とアークロイヤルだったのである。彼女の私服姿だが、周囲にアークロイヤルとは気づかれていない。

「あなたが噂のヴァルキューレ……」

 アークロイヤルも彼女の素顔は見た事がなかったのだが、あのバトルフィールドに姿を見せていたプレイヤーは2人しかいない。

ミストルティンは素顔が見えるようなARメットを使用していた事もあって、顔を覚えていた――消去法を考えると、この出入り口から出てくるのは彼女しかいないだろう。

「アカシックワールドのプレイヤーに、知り合いはいないはずよ。あなたは一体、何者?」

 蒼風の方は追っかけのファンが、ここまでして接触するとは考えにくいと判断し――話を聞く事にした。

黒髪に若干長めのツインテール、それに目は黒――普通の女性にしか見えない。彼女がアカシックワールドで脅威となっている、ヴァルキューレのパイロットとは考えにくいのだが。

「私の名前はアークロイヤル――と言えば、分かると思うけど」

 蒼風の方はアークロイヤルの名前だけは知っているが、どのようなプレイをするプレイヤーなのは把握していない。

プレイ回数も少なめなプレイヤーでは情報量が少ないのも――仕方がないのだが。

「アークロイヤル――そう言えば、最近になってランキングを上げているプレイヤーがいるって聞いているけど」

「まぁ、そう言う事よ」

「それで、あなたの目的は? サインをもらう為とかアドレス交換が目的ではないのは――明らかだけど」

「あなたに聞きたいのは――」

 蒼空の方もアークロイヤルの目的を聞きだそうと探りを入れるのだが、そう簡単に真の目的を言う事はなかった。

しかし、アークロイヤルが彼女に接触しようとしたのには理由がある。それは――あるプレイヤーに関しての事だ。

「ファルコンシャドウ――そう言えば、彼女もジャンヌ・ダルクと対戦して負けたという話を聞いているけど」

「ジャンヌ・ダルクと――」

 彼女の口から語られたのは、かつて自分と戦った事のあるファルコンシャドウがあっさりと負けたことである。

決して最弱だったりチートプレイヤーと言う訳ではない。それなのに、彼女はジャンヌに数度挑んで敗北――その後の消息は不明。

何時から姿を見せなくなったのかは聞けなかったのだが――姿を消した理由はジャンヌ戦の敗北が原因とするネット記事がある。

しかし、それを蒼空から教えてもらっても実感はわかない。自分と似たような――それこそ同族嫌悪をするような存在が、あっさりとゲームから退場する事に。

「アカシックワールドはデスゲームじゃないけど、一定の間隔で発表されるランキングで下位メンバーは脱落するとも言われているわ」

 それが事実かどうかは不明だが――アークロイヤルは蒼空から衝撃的な発言を耳にする。

それが下位メンバーの脱落に関してである。どのような方式で脱落しているのかは企業機密らしいので、何処までが事実なのかは分からない。

「アカシックワールドから脱落した場合は――ゲームがプレイできなくなるわけではないし、特に気にする問題ではないわ」

 アークロイヤルが若干深刻そうな顔をしていたので、言いすぎたかも――と思いつつ、蒼空は補足した。

現在行われているのは第2回ランキングとの事だが、第1回がいつ行われたのか――色々と謎は多い。




###第11話『集うランカー達』その3



 バトル終了後、蒼風凛(あおかぜ・りん)の目の前に姿を見せたのは――アークロイヤルだった。

「あなたに聞きたいのは――ファルコンシャドウの事よ。プライベートではなく、あくまでもアカシックワールドでの――事だけど」

「ファルコンシャドウ――そう言えば、彼女もジャンヌ・ダルクと対戦して負けたという話を聞いているけど」

 蒼風はあっさりと自分の知っている情報を教えた。価値がない情報と言う訳ではなく、単純に聞かれた教えただけに過ぎない。

その後、彼女はアークロイヤルにこう補足する。

「アカシックワールドから脱落した場合は――ゲームがプレイできなくなるわけではないし、特に気にする問題ではないわ」

 世間一般的に言われているデスゲームとはARゲームが違うのは有名な話だが、それ以上にアカシックワールドはデスゲームと例えられる事を嫌っていた。

その理由は元ネタと思われるパワードフォースがデスゲーム化したと勘違いされるのを防ぐ為――とも言われているが、定かではない。



 5月27日、ミストルティンの敗北はネットニュースにもなったが特に大きく炎上はしていない。

その理由として、倒された相手がヴァルキューレだったのも理由の一つだろう。ヴァルキューレは別の意味でも無双伝説がネット上でも拡散しているレベルだからだ。

【さすがのジャンヌ・ダルクもヴァルキューレは無理だろう】

【アレで勝てるのか?】

【アカシックワールドは認められたガジェットでしかプレイできないという話もある】

【チートガジェット使用者が次々とアカウント凍結されているのは――】

【おそらく、それに由来するだろう】

【しかし、チートガジェットは最初から使用不能のはずだ。おそらくは後付けツールかチートアプリと言う可能性が高い】

【チートアプリと言えば、別所の事件で配布サイトが摘発されたとか】

【それでも――氷山の一角であり、チートアプリ拡散の全貌と言う訳ではない。色々と調査が必要だろうな】

 ネット上の掲示板でも、今回の話題に触れる物はあるが――やけにあっさりした物が多い。

強い口調で発言すればまとめサイトに転用され、更には――という事もあるのかは不明である。

「ヴァルキューレがイレギュラーなのは分かっていたが、ここまでとは――」

 ネット上の書き込みを見て、ある意味でも想定外と言う反応をしていたのは神原颯人(かんばら・はやと)だ。

彼は会社へ向かう前のアンテナショップで、一連のニュースを知り――慌ててスマホで一連の掲示板を見る。

そして、彼は自分が認めた特例――ヴァルキューレが予想外の展開を生み出した事に、頭を抱えそうになっていた。

「だからと言って、ジャンヌが即座に排除仕様と動くとは考えにくい。まずは――?」

 スマホで掲示板を見ていた後に、別のニュースサイトを開いた所――まさかのニュースが飛び込んできた。

その内容を確認せず、一行だけの見出しで何かを察して会社へと急ぐ事に。タクシーを呼ぼうとしても場所的な事情で呼べないので、走って向かう事になるのだが。



 会社に到着した神原は、受付をスルーして2階の会議室へと急いでいた。階段ではなく、エスカレーターがある事は救いだろうか?

エスカレーターを降りてからは、指示看板通りに会議室へと向かい――何とか無事に到着する。会議室では緊急性の会議ではなく、別の会議が行われているのだが――彼は自動ドアの前に立ち、ドアが開いた。

 会議室と言っても、1室構成ではなく――パーテーションで仕切られた複数方式の会議室である。だからこそ、この会議室はかなり広めなのだ。

下手をすれば、コンビニ3件分位の広さはあるだろうか? 神原は、そこのゲーム企画会議の部屋の前に立つ。そして――。

「やはり、君か」

「ここへ来る事は分かっていた。どうなっているのか、説明してもらえるのだろうな?」

「今回は一連のネット炎上した別ARゲームとは次元が違う。下手をすれば、サービス終了の視野に入る」

 会議室にいた男性スタッフは、既に状況を理解していた。

話と言うのはアカシックワールドで間違いはないだろう。運営スタッフにもジャンヌ・ダルクの存在が気付かれたのか?

しかし、神原が入る前にはジャンヌと言う単語も聞こえていなかったので――もっと別の話題だろう。

「ここへ向かう途中、ニュースの方を目にいたしました。そちらの方でしょうか?」

 神原ははっきりと例のニュースに関して――話題を出す。これで反応がなければ、ジャンヌ・ダルクの一件が漏れたと思ってもいい。

「芸能事務所のゴリ押しコラボは――草加市ではNGのはず。それが、何故に通ったのか?」

 すると――スタッフの一人が案の定の発言を切りだした。

「アカシックワールドではないが、別のARゲームで芸能事務所Aのアイドルが歌う曲を無理やり収録されたと聞いている」

「これは明らかにARゲームに対する営業妨害以前に、圧力で何でも解決しようとする芸能事務所AとJの陰謀だ」

「こちらも、それに対抗できるコンテンツを開発し、それを広めなくてはいけない。芸能事務所AとJのアイドルは海外では大炎上している話もある」

「芸能事務所側の件はまとめサイトの管理人が逮捕されたことで、沈静化したはずなのに――何故、このタイミングで炎上した?」

 他のスタッフからも話題が出始めるが、どうやらジャンヌの件は知られていないようだ。

これに関しては、神原も別の意味で安堵する。ジャンヌの一件が開発スタッフなどに漏れていたら、それこそ大変な事になるだろう。

パワードフォースのスタッフも、この件は目にしている可能性が非常に高く――下手にロケテスト中止にでもなれば、それこそ大変な事になる。

神原は、何とかして次の作戦を進めなければいけない――会議の内容を確認しつつ、作戦のヒントになるような項目を探し始めていた。



###第11話『集うランカー達』その4



 午後1時頃には――様々な所で動きがあった。

【ジャンヌが動いたという話が――】

【ジャンヌ違いじゃね?】

【あのジャンヌだとしたら、今回出没したのと外見が違いすぎる】

【別のプレイヤーネームをジャンヌと見間違えただけじゃないのか?】

【意図的に衣装を変えただけかも】

【それはあり得ない。今回の目撃されたのは、どう考えてもネット炎上目当ての勢力だろうな】

 ネット上ではジャンヌ・ダルクの目撃情報があったのだが――それは偽物だという意見が大半だった。

その5分後には、あっさりと倒されたという情報がネット上で拡散し、予想通りとする意見が多く目撃される事に――。

『偽者が相変わらず現れる現状を踏まえて、ひとつ良い事を教えてやろう――』

 一連の偽ジャンヌ騒動に目ざわりと感じ始めた本物のジャンヌは、ある動画を投稿した。

その内容は、ある特定の人物でなければ分からないようなレベルの情報だったのである。

『アカシックワールドはデスゲームではない。だからと言って、芸能事務所が主導するようなコンテンツでもない』

 そして、ジャンヌはこう告げたのである。その口調は、まるでネット住民やまとめサイト等が予想していた説をあざ笑うかのような――。

『新たなコンテンツ市場を生み出す為に――古き悪しき慣習を根底から打ちのめす為のステージだ。芸能事務所の賢者の石を完全破壊する為の――』

 彼女の口から語られた衝撃の事実、それはアカシックワールドは単純なロケテストではなかった事だったのである。

しかも、それは賢者の石と呼ばれるコンテンツ流通にとっては悪しき風習を排除し、正常なコンテンツ流通を行う事だった。

『これだけは言っておこう。私は偽物達や特定信者が言っていたような正義の味方ではない。ましてやアンチヒーローでもない――』

 彼女は周囲の動揺が聞こえるかのような見下したような口調で、話を続けていた。まるで――まとめサイトをあざ笑い、閉鎖へと追い込むような――。

『私は単純に芸能事務所が暴走した結果としてのコンテンツ流通――それを警告する為だけに呼ばれた存在と言ってもいいだろう』

『つぶやきサイトで言及してもスルーされ、ブログ等の手段でもスルーされ続ける状況で、私はそれを語る事の出来るだろうフィールドを見つけた。それが――ARゲームだ』

『覚えているがいい――過去のARゲームを混乱させた事、VRゲームをサービス終了に追い込んだ事件――それらに芸能事務所AとJが関わっていた事実がある限り、全ては終わらない――』

 動画は、ここで終了している。他に何か発言するような物があった訳ではない。これが全てと言うべきか?

ネット上でもジャンヌのやっていた事に対して、夢から覚めたような表情をする人間もいる。

彼女の発言や行動を美化し続けていたような勢力も、ジャンヌではなく別の歌い手や実況者の夢小説へとジャンルを鞍替えしているような――様子だったという。

それ程にジャンヌの真実は周囲を白けさせてしまったのか? 逆に言えば、これ以上の深入りをすれば容赦なく切り捨てると言う警告と考える人物もいた。



 この発言を受けて、アークロイヤルは何かが気になったかのように情報収集を行っていた。

ジャンヌは、やはり何かを知っている――と。そして、VRゲームと言う単語にも数回言及した事で――ある疑惑まで浮上する事になる。

「あれは――やはり、別作品のジャンヌ・ダルクではない」

 アークロイヤルは引っかかっているようなワードがあると考え――タブレット端末で情報検索を始める。

今のタイミングでジャンヌ・ダルクを検索しようとすると――例の動画に関するネガティブな意見をまとめたサイトやアフィリエイト系サイトが表示されていた。

これでは有力な情報が埋もれてしまい、真実へたどりつけなくなってしまうだろう。それでも――。

 何度かワードを絞り込み、マイナス検索等をフル活用した結果として――あるWEBサイトの名称がトップに出てきた。

そのサイトは解説では『WEB小説投稿サイト』と書かれているのだが、本当にそうなのだろうか?

「このサイトは――!?」

 アークロイヤルもサイトトップを見て驚いた。

このサイトには様々なWEB小説が投稿されている――その全てが一次創作だった。二次創作は全くないと言ってもいい。

しかし、小説と言う形ではないような物が目立つのも特徴だった。その内容は半数以上がコンテンツ市場批判であり、芸能事務所AとJの名前を出さないものの――会社の方針批判も多いだろう。

何故、このようなサイトが放置されていたのかは不明だが、デジタルアーカイブの類ではなく――現在も作品が投稿されている。

「これだけの作品が削除されずに――」

 情報の役には立たないと思うが、掲載されている小説の内容を見てアークロイヤルは驚くしかなかった。

内容はフィクションである事を前提にしている為、コンテンツ市場批判でも的外れな物や古い物があるかもしれない。

それも、一連のARゲームとコンテンツ流通を巡る事件――。ネット上では都市伝説と言われているような物まで存在している。

本当に一連の事件がフィクションだったのかは、今となって探ることは困難だろう。一部で映像が残っていたとしても、特撮の撮影等で処理されかねない。

「これって、草加市の――聖地巡礼化の?」

 その中で、一つの作品を発見する。それは、草加市がARゲームの聖地巡礼化を考えていたと予測されるであろう小説。

その中身は別の意味でもアークロイヤルを困惑させる。まるで、この小説は実際の出来事を参考にしたのでは――と。

「それに、このニュースは――!!」

 思わず声が出てしまうような内容の小説を発見し、アークロイヤルは驚く。

その内容とは――ジャンヌ・ダルクと言う人物が登場する小説だったのである。それだけであれば、さほど驚くようなことはない。

過去にも類似小説は二次創作でも目撃していたし、ソーシャルゲーム等でも存在するだろう。

 しかし、今回発見した小説は一次創作だ。決して、何かのジャンヌ・ダルクがベースと言う訳ではない。

「虚構神話の我侭姫――」

 小説のタイトルには我侭姫とある。これをデンドロビウムと読ませる小説もあるのだが――それとは話が別物だ。

その作者名には見覚えがないのだが――何か引っかかるものがあったのは間違いない。その名前は――。

「青空奏(あおぞら・かなで)――?」

 顔には見覚えがないのに、その名前には何か覚えがあった。

一体どこだったのか――今のタイミングでは思い出せそうにない。

 


###第11話『集うランカー達』その5



 アークロイヤルが発見した小説『虚構神話の我侭姫』と作者である青空奏(あおぞら・かなで)――。

彼女自身は名前に覚えがありつつも、思い出せない一方で、その人物を探している人物は別に存在する。

「やはり、彼に真相を聞くべきなのか――」

 蒼空を探している人物、それは神原颯人(かんばら・はやと)だった。

何故、彼が探しているのかには理由がある。それは、ジャンヌ・ダルク事件が彼の差し金ではないのか――と言う部分。

実際には様々な考察サイトが事件の真相を暴こうとしているが、アイドル投資家説やARゲーム炎上勢力説と言う的外れなものばかり。

そう言った情報も歌い手や実況者のフジョシ向け夢小説を炎上させる為のネタに書き換えたり、それこそ――と言う状態になっていた。

まるで、ジャンヌの言っていた『コンテンツハザード』が現実化したような状態である。

 このままでは――クールジャパンどころでもないし、芸能事務所AとJの日本支配を許す――と言う話どころではない。

何としても一連の事件を鎮静化させ、解決させなければ――それこそ、超展開やご都合主義を自在に起こせるであろう『フラグ』を使用してでも。

「しかし、芸能事務所の話題は別所でも炎上しているが、肝心のジャンヌに関しては――」

 歩きスマホをする訳にもいかないので、アンテナショップの前に止まり――そのままネット検索を始める。

【偽者騒動も鎮静化したな】

【本物が警告をしたくらいだからな――】

【あの発言の影響もあってか、最近はARゲームも静かになっている。ネット炎上が減っている的な意味で】

【炎上させていた勢力は、歌い手や実況者のフジョシ向けジャンルに移動して炎上させているのかもしれない】

【芸能事務所AとJは?】

【その話題は草加市ではタブー扱いだ。下手をすれば、逮捕されかねないレベルで摘発される噂も拡散しているほどだ】

【そこまで動くのは警察ではないだろう。ガーディアンの名を騙る炎上勢力だろうな】

【どちらにしても、最近のARゲームはネット炎上防止の為に保護主義サイドへ移行している話もあるが――】

【それこそ、特定のネット炎上勢力に燃料を投下しかねない案件だ】

 ネット上では様々なつぶやきがあるのだが、いかにもネット炎上させようとねつ造つぶやきを入れてまとめをしているサイトも――ある程である。

それはWEB小説上だけなのではないか――と見ている神原も疑うのだが、現実世界でも類似案件はあるらしい。

こういった闇バイトが横行すれば、いずれはリアルウォーが起こる可能性も否定できないだろう。今のうちに、対策をする事が必要かもしれない。



 午後3時頃、一部の芸能ニュースがネット上で話題になっているタイミングで蒼空がアンテナショップで何かを見ていた。

彼の視線にはセンターモニターがあり、ARゲームのニュースを見ているような気配がする。

 しかし、彼はARゲームをプレイしていただろうか? プレイヤーネームで似たような名前もなければ、アカウントを持っている形跡もない。

私服に関してもセンスがあるようには見えず、まるで自分の存在を隠すかのような気配さえ感じ取れるだろう。

「やはり、そう言う事なのか――」

 彼は過去にヴェールヌイと接触をした事があり、そこで様々な事を聞いた。

ジャンヌ・ダルクに関しても、その時に知ったのだが――未だに信じられない状況である。

本当に、あのジャンヌ・ダルクなのか? イメージビジュアルすら出ていないようなキャラクターが――このような経緯で表舞台に出るとは。

 しばらくして、彼の隣に姿を見せたのは――何と神原だったのである。人影には気づいていたようだが、蒼空本人は神原が姿を見せたとは気づいていなかった。

「そう言う事とは――?」

 神原の方は蒼空の発言が気になっていた。彼が何に対して言及しているのかを含めて。

しかし、それをあっさりと見ず知らずの人間に教えるほど――甘くはない。

「噂には聞いています。神原颯人――あなたの事は」

 何か含みを持っているような蒼空の言い回しだが、今は突っ込まない。

下手に何かを見せれば、彼が何をするのか分からないからだ。WEB小説家だと言っても作品は多数執筆しており、一部は書籍化もしている。

それに、彼は確か――。

「蒼空奏――そう言う事か」

 ようやくだが、彼の正体がわかったような気配がした。あるARゲームでシステムデザインを担当した人物であり、そのゲームを担当したのは――自分である。

「こちらとしては――こういう形で遭遇したとしても、答えが出ないと思ったが――」

 そして、ある画像が画表示されたスマートフォンを青空に見せた。そこに映し出されているのは、ジャンヌ・ダルクである。

動画からのキャプションを使っている関係で、画像は微妙なのだが――顔は分かる範囲で映っているので、そこの問題はない。

しかし、ジャンヌのイメージイラストは存在しない以上――別絵師の看板娘等のコスプレと言い切られたら、それで終わりだ。

「なるほど――貴方も気になっていたのですか、ジャンヌ・ダルクが何者かを」

 蒼空はため息をひとつ――その後に話を始める。彼としては、ジャンヌの正体を調べていく内に――ある事実を知ったのだが。

その後、神原は問い詰めようと強引な策に出る事はなかった。しかし、彼は何かを避けている可能性は高い。

「こちらも――向こうの目的がコンテンツハザードだけとは思えない」

 神原もある事を知っている関係で、微妙に詳細をぼかす。そうでなければ、企業機密を関係者とはいえ――第三者に話してしまう事になる。

向こうも黙っている事があるのでお互いさまかもしれない。

「ネット上では、様々なトップランカーが集まりつつあるという話もありますが――」

 蒼空にとってはネット上の情報は興味がないと言うよりも――愛着がわかない。

あくまでも自分の小説で使えるような題材出ない限りはスルーを決めるつもりだろう。



###第11話『動き出す勢力達』



 6月1日を前に、様々な勢力が動きだしてはガーディアンと小競り合いを行っていた。

アイドル投資家はガーディアンではなく、ジャンヌ・ダルクへ挑んだ事があだとなって壊滅したという。

超有名アイドルファンも、ネット炎上で悪目立ちをした事が仇となり、今までの件と含めて活動に規制を求める署名活動が行われる寸前まで追い詰められた。

他の転売屋勢力等も――自滅したと言ってもいい。悪目立ちをしようとSNSを使うネット住民は――語るまでもないだろう。

「ここまで追い詰められても、まだしぶとく活動をしようとは――どれだけ金を貢いだというのか」

 一連のニュースを谷塚駅にあるセンターモニターで確認していたのは、レーヴァテインである。

彼も単独で様々な勢力と戦っていたが、そちらにも一連の決着が付いた。残るはジャンヌ・ダルクだろうか?

 しかし、彼女はアイドル投資家勢力を壊滅させ、更には一部のまとめサイトを閉鎖に追い込んだ以外では大きな行動をしていない。

それらの勢力もアカシックワールドに参戦し、そこで倒されたという話がネット上で拡散している。

一体、ここ数日で何が起きたというのだろうか?

「しかし、1人で数億だろうと1兆円貢ごうか――それが単なる投資と見られるようでは、本当の意味でコンテンツを存続させたいとは――考えられないが」

 一連のまとめサイトを探すまでもなく、自己解決をしたレーヴァテインはタブレット端末で別の情報を発見し――そこへ向かう事にした。

場所が草加駅なので、電車で移動する事になるだろうが。



 その一方で、今回の事件を含めて超有名アイドル商法に何かあるのでは――と考えている人物もいる。

ARゲームの運営サイドは『それこそネット炎上を招き、向こうの思う壺』とスルーを続けているのだが。

ジャンヌは超有名アイドル商法を『コンテンツハザード』の元凶だと考えているのではないか――と。

だからこそ、あの行動に出た――という説がネット上では多く拡散していた。

 しかし、それに疑問を持つ人物も存在している――と言うよりも、超有名アイドルの陰謀説やマッチポンプ説が絶対ではないと断言する人物もいるのに、意見が一つになるはずがない。

その一人が蒼空名城(あおそら・なぎ)――ジャンヌ・ダルクに敗北後、密かに情報を収集し続けていたのである。

彼は独自に神原颯人(かんばら・はやと)に接触しようとARゲームメーカーのビルへと向かうが、そこに神原はいなかった。

どうやら、不在にしているとの事らしい。特に用件は話さなかったが、向こうが神原の名前を出されたことで何かを察し、即座に対応したのも不思議に見える。

「ジャンヌ事件の犯人は――神原だと思っているが、違うのか」

 蒼空はそう思ったのだが、口には出さない。ビルを出てからも、その疑問は消えずにいる。

ジャンヌ・ダルクは創作の題材としても用いられテイル事が多く、知名度や注目度と言う点でも都合がいいだろう。

それこそ、有名な歌い手や実況者の名前をもじったりするより――特定芸能事務所のアイドルを名指しするよりも、ネット炎上と言う個所でも都合がいい。

 実際、ジャンヌの発言を歪め――自分達の都合のよいニュースにしてしまうケースが多く、そこがシナリオ通りと考えているのかもしれない。

芸能事務所のアイドルが絡めば、事務所からのクレームが来る事は避けられないし、下手をすればマスコミを敵に回し――自分の発言がブーメランとして戻ってくるだろう。

だからこそ、真犯人はジャンヌ・ダルクを選んだ。存命の芸能人でなければ、そこは織田信長でも徳川家康でも――それこそ坂本龍馬でも問題はなかった。

しかし、彼女は――あえてジャンヌ・ダルクと名乗っている。モチーフになった小説はあるかもしれないが、それでも彼女がジャンヌを選んだのには理由がある可能性が高い。

「それに――?」

 ビルを出た辺りでセンターモニターを目撃し、そこではパワードフォースのブルーレイボックスのCMが流れていた。

特撮番組として、そこそこの人気を持っている『真戯武装パワードフォース』だが、それはマニアックな人気に過ぎないだろう。

現実で有名な特撮をモチーフにして事件を起こせば、炎上案件となるのは間違いないはずなのに――それが逆に草加市への観光客を増やしている気配さえある。

 一体、何処で認識を誤ってしまったのか――ネットに踊らされる様な事は危険だと言うのに、何故に同じ事は繰り返されるのか?

まるで、今回のARゲームを巡る事件も過去のVRを巡る事件と――そう考えていた時、何かを閃いたかのように驚く。

「そう言う事だったのか――VRゲームで起きた事件を忘れるな的な事件、それが今回のジャンヌ・ダルク――」

 パワードフォースとジャンヌを繋ぐものは見つかった。後は――ジャンヌが何者なのか?

蒼空はギャラリーの集まり始めた一角へと向かう。そこにはアカシックワールドが始まろうとしており、更には――。



###第11話『動き出す勢力達』その2



 同日午後二時、報道バラエティー番組では相変わらずの芸能事務所AかJに恩を売るようなニュースばかり――。

ニュースを見てつぶやきサイトのユーザーが情報を共有し、無数に拡散していき――超有名アイドルを神コンテンツとするごく狭いコミュニティが出来上がる。

一連の『賢者の石』として拡散したビジネスノウハウも――草加市では禁止される事が発表され、近い内に実行されるとの事。

 草加市では密かに――芸能事務所の一強体制とも言えるコンテンツ市場を変化させる動きが始まろうとしていた。

この動きに関して言えば、ジャンヌ・ダルク事件が起きる前にも実行されていた物であり、草の根運動の一つともネット上で言及されている。

ジャンヌ・ダルクが一連の活動に関してスポットライトを当てるきっかけになったのは間違いないだろう。

「お前達の様な人間がいる限り――コンテンツ市場は変わらないと言うのか」

 ネット炎上勢力は、どのような些細なことでも理由を付けて炎上させたがる。承認欲求と言う部分もあるだろうが――。

ある場所のARフィールド、そこではレーヴァテインがネット炎上勢力を倒したばかりだった。今回倒した勢力も、最近になって出没した新鋭である。

スキルが低いプレイヤーだったのが不幸中の幸いだったのかは――分からないが、レーヴァテインにとっては都合がよいと考えていた。

逆にプロゲーマーや実況者を買収し、手がつけられないような実力者が来られると自分では対処できないとも思っている。

 しかし、それを本当に実行できるかどうかには疑問点があった。実はエントリープレイヤーが一定以上に到達した為、登録受付を一時ストップしている。

これには残念という声もある一方で、ジャンヌ・ダルクの一件もあってか――登録受付ストップと言う名の閉鎖ではないか、と言う声さえある。

【登録受付の一時停止? それだけの数が来たのか?】

【ARゲームでは千人の同時接続でも問題がないという話だが――どういう事だ?】

【ARゲームの場合、CG処理や演出――それ以外でも様々な部分でサーバーに付加を賭けているという話もある】

【そう言えば、ARゲーム用のサーバーを動かす為だけに太陽光発電施設をつくったというニュースも話題になっていたな】

【そう言う事だ。つまり――】

【サービス終了であれば公式ホームページで告知されるはずだ。しかし、一部のネット炎上勢力はサービス終了としてニュースを拡散するだろう】

 ゲームプレイ後、レーヴァテインはタブレット端末を起動し――つぶやきサイトを見るのだが、その内容は案の定だった。

やはり、ネット炎上勢力の目的は――芸能事務所AとJによる世界支配なのだろうか? そうだとすれば――パワードフォースにも該当するエピソードがあったはず。

 しかし、そのエピソードは劇場版だったような記憶もある。炎上勢力も、パワードフォースの内容を知った上で再現でも行おうと言うのか?

その一方で――それは違うと言う書き込みも存在しており、この辺りは情報の混乱が起きている。

これが、ジャンヌの言った『コンテンツハザード』なのかもしれないが、迂闊な判断は――。



 午後二時一〇分、ヴェールヌイが何時ものローブを身にまとい、向かったのは草加市役所である。しかし、ヴェールヌイの姿を見た警備員が駆けつけてしまう。

「すみませんが職務質問を――」

 警備員が職務質問をするのか――そう疑問に思ったヴェールヌイは、ARフィールドの有無を確認するが、残念ながら見当たらない。

見当たらないと言うよりは、明らかに目立つシステムがないことである。さすがに市役所の前で騒動が起きるのは運営サイドも望んでいないのだろうか?

「最近の警備員は――市役所側や警察がARゲームには非干渉と言う事も知らないのか?」

 ヴェールヌイの背後から姿を見せた人物――それは、蒼空名城(あおそら・なぎ)だった。

彼は別の用事で草加市役所に立ち寄ったのだが、その帰りにヴェールヌイと遭遇したのである。

「怪しい人物がいれば、テロリストと言う可能性も――それに、この人物が有名アイドルの――」

 別の警備員と思わしき人物が反論した際、思わずボロが出てしまった。それをきっかけに、ガーディアンを呼ばれる事となり――偽警備員は御用となる。

その後の話では、彼らは別の有名アイドルファンだったが、芸能事務所AとJのアイドルばかりが注目される現状を見て、何としても他のアイドルの存在をアピールしたかったらしい。

しかし、彼らのやった行動は芸能事務所AとJが行った賢者の石である事は間違いなく、結局は同類だったのである。

【結局、草加市が対策をしたとしても――ネット炎上はなくならない】

【しかし、ネット炎上が進化した戦争と極論を言い放つ勢力もいると聞く】

【アイドルやコンテンツによる代理戦争でも行おうと言うのか?】

【ジャンヌが言っていたのは『血が流れない戦争』だったな】

【厳密には違う。彼女の言っていたのは『デスゲームではないゲーム』だ。戦争と言う言葉に置き換えるのは不適切だろう】

【結局はVRゲームで起きていた事がARゲームに置きかえられただけ――なのだろうか?】

 ネット上では、あまりにも情報戦過ぎるようなワイドショーやネット上のまとめサイトに付かれた意見もあった。

SNSが発達したのは良い事――ト誰もが思っていたが、実際は悪い事もクローズアップされ、その比率が逆転する。

何時の日か、芸能事務所AとJがSNSを使用して洗脳まがいとも言えるメディア戦略を確立し、それがネット上で賢者の石と炎上した。

しかし、それが理由で炎上したのだろうか? 考え方の違いではないのか? 特定の人物のまとめサイトが誘導したのではないか?

様々が憶測がネット上で拡散し、承認欲求や悪目立ち、ネガティブな行動が――ジャンヌの警告した『コンテンツハザード』を生み出した。

 結局は――人間の欲望が悪い意味で暴走した結果が、今回の事件の原因だったのではないか?

しかし、そうと結論付けるには――真犯人がジャンヌなのか、それを証明する必要性がある。

蒼空は――その犯人を、神原颯人(かんばら・はやと)と考えていた。彼ならば、アカシックワールドを生み出した本人であり――。




###第11話『動き出す勢力達』その3



 ヴェールヌイと遭遇した蒼空名城(あおそら・なぎ)だったのだが、彼はすぐに姿を消してしまった。

どうやら、偽警備員が気になったという可能性が大きいだろうか? 特に話を聞くような相手とも思えなかったので、この対応は正解かもしれない。

【草加市役所の近くで騒動があったらしい】

【偽警備員か? その手のニュースは見飽きている】

【ソレとは違う物もあった。おそらく――】

【しかし、一部の芸能事務所は今までやって来た賢者の石に背を向けて、一連の事件を炎上させようとするだろう】

【それこそ、パワードフォースの再現か?】

【パワードフォースの再現は、速い段階で否定されたはず。ジャンヌ・ダルクが姿を見せた段階で】

【ジャンヌ自体はパワードフォースには存在しないキャラだ。しかし、こうも例えられるのでは――クロスオーバーと】

【それこそあり得ないだろう。権利関係とかクリアする課題が多すぎる。パワードフォースと別の作品をクロスオーバーさせるなんてことを――】

【ソシャゲのコラボ枠みたいな扱いであれば――あり得るのでは?】

【しかし、ARゲームのコラボ枠もあるにはあるが――】

【最近になって超有名アイドルの楽曲をリズムゲームにゴリ押し収録しようとした芸能事務所が、運営に警告されていたな】

【それ位にARゲームのコラボ枠には壁が多い。実現したとしても――ジャンヌの様な存在が登場するかどうかも疑わしい】

【しかし、ARゲームのアバターデザインは特に制約がないはず。さすがに権利関係が危険な海外作品はアバター再現している人間はいないが――】

【つまり、ジャンヌ・ダルクも実はプレイヤーの一人と? それこそ冗談がきつい】

【考えても見ろ、ARゲームのNPCやターゲットキャラと同じようなCG演出で消えるようなプレイヤーが――】

【そう言えば、アカシックワールドではCG演出や一部のガジェット回りもオプション設定出来ると書かれていたような――】

【こう言いたいのか? ジャンヌ・ダルクの正体は――】

 ヴェールヌイはスマホで一連のつぶやきサイトをチェックする。もちろん、歩きながらではなく市役所前で立ち止まった状態で。

周囲の視線もあるのかもしれないが――彼女を指差す人物もいないので、そのまま画面に集中しているようだ。

「――ジャンヌ・ダルクの正体が判明しつつあると言う噂、あながち嘘ではなかったか」

 冷静に状況を整理したヴェールヌイは草加駅方面のアンテナショップへと向かう事にする。

その姿を見て、スマホで写真を撮ってネットで拡散しようとするような人物は――大抵が監視ドローンに捕捉され、ガーディアンを呼ばれる事になるのだが。



 チートプレイの現実は、やはりというかARゲームの運営にも影響を及ぼしていた。

一部運営では使用禁止を明言してはいたが、使用者が後を絶たない為に――遂にはアカウント凍結等の対応を取る事になる。

チートを規制しただけで神運営と呼ばれる訳ではないし、ARゲームの運営は別の事情で『神運営』と呼ばれる事を避けている傾向があった。

それはアークロイヤルの関与したと言われているVRゲームの炎上騒動、マッチポンプ疑惑がありつつもうやむやになった一部のARゲームで起こった超有名アイドルの宣伝行為――。

こうした事件がARゲーム運営の神運営と呼ばれるのを嫌う事情なのだろう。神運営という称号は、彼らにとって芸能事務所AとJにコンテンツ炎上の口実を与えるものだから。

「神運営という呼称は、あくまでもネットスラング――そう割り切れない運営にも認識の違いがあるのかもしれない」

 会社でのデスクワークに集中する神原颯人(かんばら・はやと)は、ネットの情報を鵜呑みしない方向で情報収集を続ける。

ゲームの運営であれば、誰もが理想の運営にする為――様々な対応をするのは当たり前だ。しかし、人間がやる事なので確実に失敗しないと言う事はない。

失敗が一切ない運営があれば――それはフィクション上のゲーム運営なのは間違いない。もしくは欠陥だらけのゲームに対して――と言うのもWEB小説のVRMMO物にある傾向だ。

 しかし、わずかなミスに対しても『詫び石』と要求するようなソシャゲも存在し、プレイヤーのモラルも問われているのは事実だろう。

ARゲームに関しては最初からプレイするのに投資が必要なので、ソシャゲの様なアイテム課金制度と言う概念はない。

それでも――アイテム課金のソシャゲと同率にARゲームを騙るような人間がいるのは事実であり、そうした勢力がネット炎上を起こしている。

「コンテンツハザードとは――良く言った物だ」

 神原はジャンヌ・ダルクの言った事を思い出しながらも、情報収集に全力を注ぐ。

しかし、何でもタダで入手出来るような――そう錯覚させるようなコンテンツ市場にも問題提起を起こす声もあり、そうした勢力が炎上すると言う話もある。

いっそのこと、コンテンツ市場の話題から撤退してジャンヌ・ダルクの思うままに変革を起こさせるのも手かもしれない――そう考える人間もネット上では少数いた。

「しかし、コンテンツに対し――理想の対価が得られる事をゼロから教えなくてはならないのか」

 一次創作至上主義ではないが――そうした意見も存在する。しかし、こうした意見は歌い手や実況者を題材とした夢小説を書くフジョシ勢力が容赦なく炎上するだろう。

共存共栄出来るのか――という疑問も浮上する中、神原はあるプロジェクトを始める為の計画を密かに進めていた。

《アカシックワールド・ネクストステージ》

 企画書と思われる電子ファイルの表紙には、そう書かれていた。

どのような内容なのかは、トップシークレット表記もあって――現状では不明のままである。



###第11話『動き出す勢力達』その4



 蒼空名城(あおそら・なぎ)の所属していたガーディアン組織、それはチートプレイヤーの摘発等で活動していた。

しかし、チートプレイヤーの摘発はコンテンツ流通の正常化を目的としたものであり――ネット炎上防止という観点では的外れではない。

 その一方で、ガーディアンのコミュニティと思われるサイトでは――。

【蒼空の離脱は非常に痛手だろう】

【しかし、チートプレイヤーの摘発自体は他の構成員でも問題はない】

【彼のカリスマは組織にとっても重要だった。離脱してからは空気が別の方向に変わりつつある】

【カリスマが高く、広告塔にもなるという点では――彼の離脱は痛手と見る人間は少なくない。その一方で、彼が外れて行動の自由度が増したという意見もある】

【どちらも一長一短と言う事か】

 ガーディアンのコミュニティでは、彼の離脱で痛手を受けたという意見もある一方で――彼の離脱で行動の成約が減ったという意見もあった。

行動の制約は――規則と言う部分では重要となっていたのだろう。しかし、ガーディアンは軍隊ではない。そこまでの制約をする必要性は――という意見も多かった。

他のガーディアンを踏まえると、それだけ蒼空がいたことが警戒する要素となっていたのかもしれないだろう。

【蒼空がジャンヌに敗れたという話が飛び込んでから、その後の足取りがつかめない】

【あのガーディアンのガジェットでもジャンヌには太刀打ちが出来なかった――】

【何としても、あのジャンヌは沈黙させなくては――コンテンツハザードを阻止する為にも】

【しかし、コンテンツハザードはすでに起きていると言う。彼女は類似する案件としてネット炎上を例えに出していた。つまり――】

【尚更、ジャンヌを止める理由が出来たという事か】

【ガーディアン全体で協力はできないのか? コンテンツ市場の正常化は他のガーディアンも望んでいるのだろう?】

【ソレは無理だろう。ガーディアンと言っても、全ての組織が意思疎通出来るような状態だったら――あそこまで炎上はしなかったはず】

 結局、ガーディアン内でも解決出来ないと言う事なのだろうか?

どちらにしても――『コンテンツハザード』を阻止する為に、情報共有は必要と思われる。

しかし、それが進まないと言う事が意味するのは――そう言う事なのかもしれない。

 ガーディアンの方では蒼空の失踪がある時期がら話題となり、拡散していたのだが――。

他の組織ではジャンヌに接触しないように注意喚起を行う、別のARゲームで人員が不足しているジャンルへ向かう等の対応を取っている。

それだけ、他のガーディアンもジャンヌ・ダルクには警戒しているのだろう。しかし、ジャンヌを倒せば『コンテンツハザード』を止められると早合点する勢力もいた。

だからこそ情報収集は重要だと言うのに、ネットでは偽情報が拡散してガーディアンをジャンヌとぶつけようとする。

おそらく、このような手段を使うのはガーディアンが邪魔だと思うアイドル投資家の残党やSNSで目立つのもを苦敵とした一部ユーザーだろう。

こういう勢力に限って、ネットマナーやモラルを無視する傾向があり――自分の行動がブーメランするのだが。



 その中で、ヴェールヌイは草加駅に到着する。近くにコンビニも見えるのだが――そちらではなく、別の道に入って行く。

五分位歩いた所で中規模店舗のアンテナショップを発見、入口の自動ドアを開き――ヴェールヌイは店舗へと入って行った。

「ここか――」

 周囲を見て一言つぶやくが、それが何を意味しているのかは本人にしか分からない。それを含めて――彼女は何を考えているのか?

彼女も一般客と同じ扱いなのは変わらない。コスプレイヤーもARゲームのアンテナショップを利用するので、白い目で見られる事もないだろう。

その一方で、ARメット以外のフルフェイスは止められる可能性が高い。銀号強盗と勘違いされるからだ。

ARメット自体が銀行等の施設で被ったままだと、銀行強盗に間違えられるのは――間違いないだろう。

 ヴェールヌイは商品には興味を示さず、そのまま奥の方にあるARゲームコーナーへと向かっている。

そこには様々なARゲームのサンプルやマニュアル、展示コーナーが展開されていた。さすがに広いフィールドを使う物は展示されていないが。

「やはり、あのニュースは拡散の直前で――」

 CM告知用のセンターモニターでも最新の配信動画やニュースを見る事は出来る。

しかし、ヴェールヌイの気になっているニュースは配信されていない。おそらく、ARゲーム運営側が止めている可能性も――。

それ以上にアカシックストーリーズの運営が止めた可能性もあるのかもしれないが、証拠がある訳ではないので言うだけ無駄だろう。

「アカシックストーリーズの正体は――」

 アカシックストーリーズの電子パンフレット等も展示されているので、そちらもチェックしているのだが――内容は一般的なパンフレットと変わらない。

それだけではなく、怪しい文面等も存在していなかった。これが正式リリース版になるのか――それとも、既に正式版でサービスしているのか?

そう言った記述がなかったので、結局は分からずじまいである。そこで、ヴェールヌイは何かを閃いた。

「――調べてみるか」

 そして、彼女はアカシックストーリーズを調べ始める事にしたのだが、基本的な事は公式ホームページを見れば済む事である。

あるWEB小説サイトにあった情報――それが大きな鍵になるのではないか、そう信じてWEB小説サイトを探る事になった。



 その一方で、様々なまとめサイト等をARゲーム用のモニターでチェックしていたのは――ジャンヌ・ダルクだった。

『やはり、ヴェールヌイはそこに気付いたか――』

 まとめサイトではヴェールヌイの目撃情報が拡散されており、そこからジャンヌは彼女が何を探しているのか把握する。

アカシックワールドとパワードフォースの類似性は何度か言及はされているが、それ以上の深みに入る事は――。

『しかし、それを見つけたとしても――本来の目的に辿り着く事は――?』

 その一方で、ジャンヌは別のプレイ動画の存在に気付く。その動画では、アークロイヤルがアカシックワールドで勝利を収め――連勝記録を伸ばしているようでもあった。

プレイ動画としては、閲覧数が急激に伸びるような傾向ではない。魅せプレイでもなければ、上級者向けでもない部分が痛いだろう。

『順調に強くなっているようだな、アークロイヤル――』

 彼女はアークロイヤルの成長を見守っているようにも――感じ取れる表情をしていた。

そして、他にもアークロイヤルの動画を何本かチェック済みでもある。

他のプレイヤーの動画もブックマークしているが、アークロイヤルの比率は、他のプレイヤーよりも多めであり――。

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