第10話『アカシックワールド』
###第10話『アカシックワールド』
午後2時、草加駅近辺に到着した斑鳩(いかるが)だったのだが――その目の前に見えた人物は、何とアークロイヤルだったのである。
「アークロイヤル――いずれ、直接対決が避けられないと思ったけど――」
斑鳩の方は、いずれ戦うとは思っていたらしい。
詳細なバトル仕様が不明な点が多いのだが――自分よりも上のレベルのプレイヤーを撃破する事がスコアアップに求められるのだろう。
しかし、アークロイヤルは斑鳩と戦う気がなかったようにも見える。むしろ、本来の相手は――。
「戦うと言うのであれば――!」
バトルを避けたかったアークロイヤルだが、向こうが戦う気と言う事もあって応じる事にした。
下手にバトルを回避すれば敵前逃亡と言う事でネット上で炎上する事は、目に見えている。
ギャラリーの方は、予想外と言う具合に増えていた。どれ位かと言うと、1分に10人は視線を向けている状態である。
下手をすれば、通行規制が入りそうなレベルで集まる可能性も否定できない。そこで、運営は緊急システムを起動させることを決定した。
午後2時5分、草加市内のアカシックワールドの運営が入っている高層ビル。
1階と2階はショールームと言う扱いだが、3階~5階がアカシックワールドの運営及びサーバー等が入っていた。
草加市内に高層ビルは複数ある中で、このビルが一番異色だったのは耐震ビルだった事、台風や洪水等の自然災害に対応した環境――。
これに関してはゲームメーカーでここまで行うのか? 疑うのも無理はない設備や環境が出来ている。
ARゲームのサーバー自体が洪水や台風対策が出来ていないと設置許可が下りない――ある意味でも厳しい環境基準が設定されていた。
太陽光発電を含めた自然発電設備も必須な事に加え、交通渋滞等の様な事態に対応できる事も条件に加えている。
「これはまずいな――下手をすれば、騒動になりかねない。それに、周辺道路でも混雑が出る可能性も――」
「道路で混雑でもでたら、ネット炎上では――」
「こうなったら奥の手を使う。各スタッフに道路の封鎖指示を――」
運営のモニタールームでは既にスタッフが色々と動いているようだが――初の非常事態と言う事もあって、慌てているような印象も感じる。
しかし、このような事態になる事を想定して訓練も続けている事もあり、大きなトラブルが起きているような様子はない。
「該当エリアの道路に封鎖フィールドの展開を!」
運営の責任者と思わしき人物が指示をすると、草加駅近辺の道路を表示したと思われるモニターに変化が起きていた。
そのモニターでは、何やらバリア的なフィールドが高速で展開されていたのである。
『これより、ARカスタムフィールドシステムを展開いたします。フィールド展開の対象となる道路は一時的に封鎖されます。お手数ですが、該当する迂回ルートをご利用ください――』
展開前には電子タイプの道路標識で『道路閉鎖中』と表示されており、その表示が出ている標識から20メートル離れた場所からバリアと思わしき物が展開されていた。
バリア展開装置はARゲームサーバーを管理している高層ビルに設置されており、バリアの展開などもそこにある指令室で行われている。
バリア展開と同時に該当エリアではアナウンスが流れ、車両関係の迂回指示や該当エリアへの侵入を控えてほしいというお願いが流された。
あくまでもお願いではあるのだが、車両関係は強い口調で迂回を求めている辺り、ARゲームが原因で自動車事故が起こって欲しくないと言う事も含まれているのかもしれない。
一般人の住むマンション等がフィールドエリアに入る事はないようにしてはあるのだが――。
午後2時7分、該当エリアでギャラリーの一部がざわつく。アナウンスの件もあるのだが――。
一般人は怪獣映画で怪獣に潰されるのでは――と言う様な展開で草加市から離れているようにも思えた。
しかし、こうした一般人の行動と思われている物は、大抵が芸能事務所Aの超有名アイドルの宣伝や知名度上昇を狙ってのフラッシュモブなのは明白である。
それもあってか、一部のざわつき程度で済んでいるのは――不幸中の幸いか?
「なるほど――こういう手段を使うのか。芸能事務所の連中は、殺人事件や大規模テロ以外であればライバル潰しに何をしてもいいと言うのか?」
慣れているとはいえ、芸能事務所が使う炎上マーケティングの手段には――呆れるしかなかった。
さすがに殺人事件や暗殺の類、大規模テロを起こしては日本その物の印象さえ悪くしてしまう為、逆に芸能事務所だけが潰される。
だからこその――フラッシュモブ等を雇ってのネット炎上を行うのだ。まとめサイトによる人心掌握や煽り商法、レッテル貼り等もその一環――。
まるで、パワードフォースで行われた事件を再現しているような気配さえ感じられる――と言うよりも、向こうもパワードフォースを炎上させる為に、こうした手法を使っているのだろう。
「やはり、元凶を潰すべきなのか――コンテンツ市場でリアルウォーを起こそうとしているような連中を」
レーヴァテインはギャラリーが集まっている場所をチラッと見るのだが、そこで足止めされているような時間はない。
芸能事務所をリアル炎上のような手段で潰そうとすれば――それこそ逆効果なのは、ガーディアン等も分かっているはずだ。
それをすれば大規模テロを計画しているとして摘発されるのは当然であり、更には二次被害も考えられる。それこそ、芸能事務所側の思う壺だろう。
午後2時10分、お互いにガジェットのARゲームアプリがロックされている状態は解除された。
5分前にはアプリを起動してARアーマーとガジェットを呼び出そうともしていたが――緊急ロックがかかって起動できなくなったのである。
その原因は――周辺道路の閉鎖やフィールドの展開、二次災害が出ないような環境にする為の準備だった。
これだけの準備をしなければ、リアルフィールドを使用したARゲームを大規模に展開できないのである。
その様子は、まるで特撮やドラマのロケを突発で行う様な物と例えられるような――超展開だったのは間違いない。
「さっきのロックは?」
アークロイヤルはガジェットのロックに関して事情が呑み込めなかった。
今までは問題なかったし、最初にジャンヌ・ダルクと戦った際もロックされる様子はなかった事も理由の一つだろう。
「ARゲームでは、二次被害等が想定されるようなバトルになる場合、道路閉鎖を含めた緊急対応を行う事がある――」
「道路閉鎖? ゲームにそこまでの事をするなんて――」
「それが本気だからこそ、ARゲームを導入しようと言う自治体は少ない。草加市や足立区の様な事例は特殊と言う事なのよ」
「まるで――」
アークロイヤルは斑鳩の話を聞き、別の意味でも驚いているようでもあった。
ますますパワードフォースをリアルで――。もしくは、アカシックワールドがパワードフォースとリアルコラボしていると感じさせる流れにもなっている。
「ARゲームには危険が伴う。生半可な考えでプレイすれば――怪我をするわよ」
斑鳩はアーマーを装着完了し、生成されたロングソードを構えた。
対するアークロイヤルも戦闘準備を完了し――いよいよバトル開始を思わせる流れとなったのである。
###第10話『アカシックワールド』その2
午後2時11分、天候は晴れ――特に雨が降りそうな気配は全くなかった。
本来のARゲームはゲームフィールドで行われる物であり、屋外でプレイするようには出来ていない。
一方で、ゲームアプリとしてのARゲームはスマートフォン等を片手にプレイする事は可能だろうが――歩きスマホ等で炎上する事も稀にある。
だからこそ、安全性を求めた結果が――現在のARゲーム。むしろ、そう言ったネット炎上しそうな案件に対して向きあった結果が――あのゲームなのだ。
「ARゲームには危険が伴う。生半可な考えでプレイすれば――怪我をするわよ」
斑鳩(いかるが)はアーマーを装着完了し、生成されたロングソードを構えた。ARアーマーは何時もとは違うデザインだが――アークロイヤル対策だろうか?
重装甲アーマーは同じだが、両肩にはエッジシールドが装着されている。このシールドはワンオフではなく、汎用装備の一つだ。
つまり――ワンオフタイプにするには、まだ使い慣れていない証拠かもしれない。
「WEB小説のように――デスゲームと言う訳ではない以上、危険と言う言葉自体は存在しない!」
対するアークロイヤルは、はっきりと危険である事に関しては否定する。
体感ゲームでも危険なプレイが問題視されるが、それはガイドラインやルールを守らないプレイヤーの行っている事であり――自分には無縁の話だ。
《ラウンド1、ゲットセット》
インフォメーションの表示と共に、ラウンド1の始まりが近付く。それに水を差すような乱入者はいない。
そんな事をすれば――周囲のギャラリーからは大ひんしゅくを買うし、ネット炎上は避けられないだろう。
それを意図的に行う様な芸能事務所の雇っているフラッシュモブは退場済みだ。
「ARゲームの危険は、物理的な物とは限らない――」
斑鳩は数歩下がり、長さ1メートルほどまで伸びたロングソードを構える。どうやら、ソード部分はビーム刃らしい。
「それがコンテンツ炎上――」
アークロイヤルは何かを察するかのように、ガンブレードを構え――斑鳩を見つめる。
《ラウンド1、ファイト!》
ファイトの合図とともに、二人が動きだしたのだが――その動きというよりも光景を一般人が見ると、失笑が出るほどの流れになったと言う話も聞こえていた。
これは――アカシックワールドがARバイザー等の専用ガジェットでプレイするゲームと言う形式を取っているためで、それがないと――ただの生身で展開される喧嘩である。
稀にプロ格闘家も顔負けなバトルに見える場合もあるのだが、それはプレイヤーにそれ相応の実力があることを前提としていた。
二人の場合はプロの格闘家ではない為、それほど熱いバトルが展開されるような気配もない。
それに――二人の職業は、どちらかと言うとゲーマーである。プロと言う訳ではないが、お互いに実力者と言ってもいいだろうか。
プロゲーマーや実況者の様な存在はARゲームにも存在し、そうしたプレイヤーもいくつかのARゲームでは目撃するのだが――アカシックワールドには存在しない。
プロゲーマーは潜んでいる可能性を否定できないが、実況者はまずいない。運営側が彼らを題材とした夢小説が存在する事に対して、ネット炎上案件と認識しているのかは不明だが。
ヴェールヌイが遅れてやってきた頃には、既にラウンド3までが進んでいる状況だった。
しかし、その結果は五分五分であり――お互いに後には引けない物を持っているような展開だったのは間違いない。
「二人にとっては、これがターニングポイントとなるのか」
5〇〇メートルは走った気配だが、それでも汗を見せる様子は一切ない。
汗をタオルで拭いた後と言う訳ではなく――そのままの意味である。彼女は確かに走ってはいたのだが、それまではARボードと言う乗物で移動していた。
ARボード自体は操縦に免許がいる訳ではないのだが、自転車に乗るような感覚で乗ると痛い目を見るのは――ARゲームにはよくあることだ。
【どちらが勝つと思う?】
【戦績的には斑鳩が勝つだろうな】
【アークロイヤルは――そこそこの実力者に見えるが、相手が悪い】
【このゲームには参加していないが、夢小説人気だけで売れているような実況者ならば楽に勝てそうな――】
【どちらにしても、この勝負展開は読めなかったのは確かだ】
ヴェールヌイはつぶやきサイトの実況板でバトルのログは確認していた。
さすがにARボードに乗った状態でつぶやきサイトを追うのは、ARバイザーがメット式でない限りは無理な話だろう。
ヴェールヌイもメット式を使用しているが、それはゲーム中で使用する場合に限っているので、ARボードの操縦には使わないと言う事かもしれない。
しかし、ARメットはオートバイでいうヘルメットの役割もある為、何時ものメットとは別のメットを用意して移動していたと言ってもいいだろう。
ラウンド3はアークロイヤルが勝利を果たす。しかし、僅差なのは事実――。
斑鳩の方は各種ガジェットが損傷しているようなノイズも発生しているが、アークロイヤルにはそれがない。
【あいつ、チートじゃないのか?】
【アーマーが損傷すれば、それに応じたノイズやエフェクトが発生する。アークロイヤルにはそれがない】
【しかし、それだけで決めつけるのは早計だ。第一、チートガジェット判定はラウンド1開始前に分かっているはず】
【じゃあ、あいつはリアルチートだと言うのか?】
【ちょっと待て――プレイヤーネームが違うから分からなかったが、もしかすると――】
ネット上では、アークロイヤルのガジェット状態を見てチートと疑う人間が出ていた。
ラウンド終了後には両方のガジェットに損傷ノイズは消えるのだが――そのノイズが消えるタイミングが早かっただけで、まさかの炎上である。
彼らのやり取りは、芸能事務所の雇ったフラッシュモブによる炎上を目的とした煽りなのか?
「確かに、修復タイミングが他のガジェットよりも速いのは事実――」
ヴェールヌイも修復タイミングが早い事には疑問を持つ。しかし、アカシックワールドのジャンルはリアルの格闘技ではない。
ガジェットやアーマーの回復速度に関して問われるような事はないはずだが――。
###第10話『アカシックワールド』その3
ラウンド4に突入しようとしていた状況で、ある書き込みが話題になる。
アークロイヤルのガジェットがチートと言う訳ではない――と明言した上で、この人物は別の説を言及した。
【少し前に言及している人間がいたが、彼女の場合はチートではない。むしろ、リアルチートや公式チートの部類だろう】
公式チートと言う単語には疑問を持つ人物もいたのだが、彼の発言は全てが嘘と言う訳でもなかった。
確かに、アークロイヤルのガジェットはロケテストで使用されている――本来のARガジェットとは異なっている。
ロケテスト仕様のカスタム型ガジェットはロケテスト参加時に配布される形式を取っているが、その時の画像と違うガジェットを彼女は使っていた。
形状が違うガジェットでロケテストに参加できないというわけはないだろう。
【アカシックワールドで使用されているガジェットは、基本的にロケテスト用で市販はされていない。しかし、一部である仕様が残された初期型が出回っている話がある】
このつぶやきに関しても信用が出来るようなソースの情報ではないのだが、現状でアークロイヤルの現象を説明できる要素が何もない中では――唯一の情報となった。
そして、ネット上ではアークロイヤルを巡って再び消火されていたはずの案件が、再び炎上する事となるのだが――。
『そう簡単に、君たちの思惑には乗らないよ。それに、今更超有名アイドル商法で使われたネット炎上ノウハウは――不要の技術、君たちの使うネットスラングで言えば――オワコンだ』
ギャラリーが気づかないような特殊な場所で二人のバトルを見ていたのは、何とジャンヌ・ダルクだった。その声には、クールと言うには若干揺らぎがあるような喋り方だったのである。
しかも、ネットを炎上させようと言う勢力の存在に気付いたジャンヌは――アークロイヤルを炎上させようと考えていた書き込みを通報、その正体を暴露、更にはガーディアンに情報提供を行っていた。
それに使用した手段は、魔法的な何かではなく――普通にARガジェットである。一体、これが意味するのはどういう事なのか?
『単純にネットを炎上させたとして、それは自分が単純に目立ちたいだけだろう? そのような大義名分すらない無知のネット炎上を――』
バトルの様子を別の端末で視聴して、ガーディアンへの通報は自分のARガジェットを使う。
中継を視聴するだけであればARガジェットでも事足りるはずなのだが――ジャンヌは、それを行わない。むしろ、何かを恐れて使ってない可能性も否定できなかった。
「ネット炎上は、コンテンツ流通にはあってはならない悲劇――」
『それこそ、大量破壊兵器と同類――チートその物だ』
途中でジャンヌの声が何かの影響で変化したのだが、すぐに元に戻った。
その原因は不明だが――人為的なジャミングとも思えない。
斑鳩(いかるが)とアークロイヤルのバトルは、ラウンド4で決着した。
その結果は――アークロイヤルの勝利である。3-1という成績ではあるのだが、素直にストレート勝ち出来るような相手ではない。
「ARゲームとVRゲームは根本的に違う。それなのに、何故――!」
斑鳩は自分が負けた事を自覚していない――と言うよりも、悔しさのあまりに認めたくないのだ。
だからこそ、彼女は涙を見せずにARメットを脱いでアークロイヤルに向かって叫ぶ。
「ゲームである以上、VRもARも関係がない。操作や演出の違い以外に――何かあるのか」
アークロイヤルの方はメットを脱ぐ事はなかった。そして、ログアウトを行い、その場を去ろうとしていたのだが――。
「周囲のフィールドが歪んでいる?」
アークロイヤルがログアウトをしようとした矢先、周囲のARフィールドに歪みがある事に気付く。
ゲーム終了後は周囲の光景も歪んでいる物ではなかったはずなのに――。
「どういうことだ?」
「こういう事は、滅多にないと言うのに」
「一体、何が起こるのか?」
「これもジャンヌ・ダルクの仕業か?」
「違う。これは、もしかすると――」
周囲のギャラリーも目の前の光景を見て、慌てているようにも見える。
ARバイザーを着用していない一般人にとっては、彼らが何を見て慌てているのかは全く分からない。
基本的にARゲームはARバイザーがなければ実際の画面を見ることはできないが、ARゲーム用のセンターモニターでならば――見る事は出来る。
しかし、そのセンターモニターも画面が真っ黒になっていた。これにはモニターを見ていたギャラリーも困惑気味である。
ただし、ニューステロップは下の方に表示されており、電源が落ちたりした訳ではない。
一連のバトルも途中からは中継映像も映らない状態であり、勝負が決着してから後が――。
『こうしたトラブルも――ネット上では炎上のネタとして扱われる――超有名アイドルを上げる為だけに。まるで、コラボ先作品の評判を落とす為だけの――』
『しかし、賢者の石に代表されるような――ビジネスノウハウは既に違法と認識されたはず』
『それを無視して、このような暴挙を行うとすれば――?』
稀にジャンヌの声がノイズ混じりになる。何故、このような状態が続くのか。
サーバーが不安定であれば、ARガジェットに不具合情報が出るはずなので――明らかに意図的なジャミングと感じざるを得ない。
しかし、ARゲームの技術は海外に流出したり、特定芸能事務所が独占したというニュースも拡散した形跡はなかった。
『スケジュールを、早めるしかないのか。向こうには事後報告で――』
ジャンヌは、ある計画を本格的に動かそうと考えた。
明らかにその表情は――芸能事務所に先手を打たれまいと動く週刊誌記者のようにも見える。
###第10話B『ジャンヌの反撃』
5月25日午前10時、若干の小雨が混じるような天気の中で――ある人物が映し出された映像がショッピングモールに設置された大型スクリーンを占拠する。
まず、草加駅にある大型スクリーンにジャンヌ・ダルクが表示されている段階で、何かの異変を感じている人物がいるほどだ。
身長180センチほどの銀髪セミロングツインテール、眼は紫と青のオッドアイ――そこに素顔を晒していたのは、間違いなく、あのジャンヌである。
彼女の装備は重装甲のアーマーに、左腕には白銀の籠手と剣がセットになったようなARガジェットを装備していた。
アーマーの色は青がベースとなっているようだが、元ネタのジャンヌは銀だったのでは――という声がある。
【アレが本物なのか?】
【ジャンヌ・ダルクと言っても、色々な作品で出ている以上――識別が難しい】
【しかし、目撃例のあったジャンヌはアレだ。間違いなく、奴が事件の真犯人だろう】
今までの目撃例を踏まえると、彼女がジャンヌ・ダルクの本物で間違いないようである。
ネット上のつぶやき等でも色々な疑いの声は一部で存在するだろう。しかし、今はそれを議論している余裕があるような展開とは思えない。
【事件と言うと、アカシックワールドの事件か?】
【それしかないだろう。それ以外の事件は、今回の件とは無関係――むしろ、ネット炎上勢力がARゲームをオワコンにする為にレッテル張りをしているだけに過ぎない】
【運営は無能等の書き込みも――芸能事務所AとJが神事務所と言う事を布教する為の物だ】
【あの夢小説勢力は、歌い手や実況者という実在人物の夢小説を表に出して芸能事務所AとJより人気があると言う事を――】
【それとこれとは話が違う。どこのWEB小説で書かれた作品の話題を出している?】
【奴は不正破壊者(チートブレイカー)の我侭姫ではない――】
ネット上の書き込みも混乱をしているようで、ジャンヌ・ダルクの出現に便乗して目立ちたいだけな書き込みも目立つ。
そうした書き込みはガーディアンによって削除され、書き込みをした人物の場所を特定してアカウント凍結、最悪の場合は逮捕と言う展開もあると言うのに――。
どちらを無知と言うべきなのか――? しかし、こうした動きもジャンヌ・ダルクにとっては百も承知なのかもしれない。
『初めてお目にかかる――と言う人物もいるだろうと思うので、改めて自己紹介をしよう。私の名は――ジャンヌ・ダルク』
ジャンヌの声が聞こえると同時に、周囲がざわつき始めた。
いわゆるひとつのジャック放送なのではないか、と疑う声もあったが――そうであればガーディアンがすぐに動くはず。
それもない以上は――公式の手順を踏んで放送している物とみて間違いはないだろう。それに対し、納得をしないメンバーもいるのだが――。
『一部の勢力は、私の目的がコンテンツハザードにあると考えているらしいが、そうではない』
コンテンツハザードと言う単語に言及するジャンヌだが、それに対して愛着があるような表情は見せていない。
これも演技の一つだろうか――と一連の映像を見ている人物は分析を行う。分析と言うよりは、まとめ記事――と言う勢力もいるが。
分析をしているのはガーディアン、各種ARゲームメーカー、神原颯人(かんばら・はやと)、アークロイヤル、斑鳩(いかるが)等――かなりに及ぶ。
それ以外にもまとめサイトやアフィリエイト利益を稼ごうとする人間、アイドル投資家等のような人種も――中継に注目しているようだ。
悪目立ちをするような勢力や、それをネタにして夢小説を書こうと言う人間もいる。
興味がないのは、ARゲームに首を突っ込まない警察や一般人位かも――と言う位にジャンヌの中継の注目度が高かった。
『コンテンツハザードと言う単語自体は、バイオ・ハザード――自然災害のコンテンツ版だ。つまり――』
コンテンツハザードを直訳するとコンテンツ災害――おそらく、彼女が言いたい事はアレの事だろう。
一部の人間は、その内容を察し始め、まとめ記事を作り出す。おそらく、ねつ造も含めた上での炎上目的があるのだろう。
『――君たちに分かりやすい言葉で言えば、ネット炎上と言えば分かるかな? 君たちが気に入らないコンテンツに対して行った事――』
彼女の笑みは――不気味や気持ち悪い等を通り越して、計画通りと言わんばかりの物だったのは間違いない。
おそらく、まとめサイトが内容を歪めて書くのも――織り込み済だろう。
【馬鹿な――】
【つまり、既に我々の行っている事がジャンヌ・ダルクの思惑通りだったのか?】
【ジャンヌに踊らされて、炎上マーケティングをしてしまったのか――】
【俺は違う! ジャンヌの言っている事は間違っている】
【芸能事務所AとJがジャンヌの操り人形だったなんて、認めない!】
ジャンヌの一言は破壊力が高かったらしく、ネット上の混乱もピークとなっている。
自分達のやった事がジャンヌ・ダルクの思惑だった事を否定するかのように、つぶやきサイト上ではネット炎上に関するカミングアウト合戦となった。
『私は――このような世界を生み出した人間に対し、宣戦布告をする事にした』
しかし、それでもジャンヌ・ダルクは言葉を続ける――。彼女の怒りは、これで収まるものではないからだ。
宣戦布告発言でも、強気な口調ではなく――普通の表情を続ける。宣戦布告と言う単語にも興味がないのだろうか?
『コンテンツハザードは、パワードフォースでも警告されてきた物――フィクションの作品で出来た事を、何故にリアルの君たちが実行できない?』
この一言を聞いて反応したのは、草加駅のホームにあるベンチに座っている状態で大型スクリーンを見ていたレーヴァテインである。
他の発言でも言いたい事はあるのだが、ここで八つ当たりしてもネット上でネット私刑やネット炎上で身動きを取れなくされてしまうだろう。
その為、敢えて彼は――手に持っていたカレーパンを一口かじった。
『君たちにとって、パワードフォースとは特撮ドラマと言う認識だが、私にとってはそうではないのだ』
『フィクションの作品によっては、二次オリや二次創作でコミュニティを形成したり、更には夢小説やフジョシ向け小説を妄想したりするだろう』
『私も、それと同じ事をしているにすぎない。この世界のコンテンツハザードを阻止する為に――』
他の発言に対してだが、神原も我慢の限界と言わんばかりに拳を作ってテーブルを叩こうとする。
しかし、ジャンヌの中継を見ているのはスタッフも同じなので――スタッフの気持ちを汲んで、あえて物に当たるのを我慢した。
『大量破壊兵器を用いるような手段は――私の趣味ではない。あくまでもデスゲーム以外の手段で、この世界を征服してこそ――私の目的は完遂する!』
デスゲームと言う単語を持ち出し、それ以外の手段で世界征服を実現させると明言した。
その時の表情は、先ほどまでの興味がなさそうな単語があると呆れていたジャンヌではなく――本気の表情を見せている。
【デスゲーム以外? つまり、彼女は戦争や大規模テロ以外の手段で世界征服をするのか?】
【まさか、アイドルで世界征服か? それとも玩具で世界征服と言うキッズアニメみたいなことをする気か?】
【分からんぞ。ゲームで世界征服とか言い出しかねない。確か、パワードフォースでは――】
様々な考察が出る中、実況板に張り付いていたのはヴェールヌイである。
彼女がいた場所はアンテナショップだが、アンテナショップでも混雑はしていたので屋内のネットコーナーの一角だ。
センタモニターも混雑していた関係で、中継を視聴できそうなのが、ここしかなかったというべきか?
###第10話B『ジャンヌの反撃』その2
大型スクリーンのジャンヌ・ダルクの演説は続く――。周囲には数百人は集まっているだろうか?
そして、警察が出動する展開にもなっていた。しかし、さすがの警察もARゲーム絡みには首を突っ込みたくないので、あくまでも一般人がスーパー等へ入られない状況を解消する為の交通規制しかできない。
『大量破壊兵器を用いるような手段は――私の趣味ではない。あくまでもデスゲーム以外の手段で、この世界を征服してこそ――私の目的は完遂する!』
この発言を受けて、ネット上は様々な個所で炎上をしていたのである。
ある意味で、彼女はコンテンツハザードがどのようなものか――分からせようとしたのかもしれない。
その一方で――このやり方に関してはゴリ押しと言う声もあれば、効果を疑問視する声もある。
ネット炎上を止める為には――やはり、憲法で規制するか禁止するしかないと言う極論に発展しかねない発言さえあるだろう。
「やはり、このやり方には――何か裏がある」
この考えに至ったのは、アークロイヤルだった。この手法には覚えがあると言うよりも――。
【あのアークロイヤルを騙る人間は――】
ジャンヌの発言を聞いた時、過去に見たことのある書き込みを思い出したのだ。
その時の書き込みでは、犯人は別にいると言う事だったが――真相は自分がVRゲームを離れる辺りまで、分からずじまいだったと言う。
最終的に芸能事務所Aのアイドルファンが炎上させた事実が公表されたのは、それからしばらくしての事である。
「ジャンヌ・ダルク――自分が炎上勢力に仲間入りしてどうするつもりなの?」
アークロイヤルも、ジャンヌの演説を聞いて、それを感じている。
しかし、彼女としては炎上勢力とは違うとでも言いたそうな気配がするが――。
『もう一度だけ言う――アカシックワールドを使って、ネット炎上勢力を一掃する! これは遊びではない――コンテンツ市場を守る為の聖戦だ――』
演説は、ここで謎のノイズに妨害される形で中断される。ノイズは動画サイトで配信されている物限定で、大型ビジョンでは発生していない。
動画サイト側で見ていたヴェールヌイは、大型ビジョンのある場所へと向かおうとするが――行ける距離なのかと言うと、別の問題で行けない状態になっている。
「まさか――こういう事になるとは」
アンテナショップを出たヴェールヌイは、草加駅の方へと向かおうとしたのだが――交通規制が敷かれていたのだ。
この状況では、タクシー等も迂回、シャトルバスも満員で乗れない可能性も高い――歩くか、該当の場所までARマシンを使うか、どちらかしかないだろう。
「彼女の考えが、仮に――」
ヴェールヌイが危惧しているのは、彼女の発言を歪んで受け止めた結果として――大規模テロを起こそうと言う人間が現れることだ。
ジャンヌは命の奪い合いを望んではいないし、そうした世の中を全て否定しようとも考えているかもしれない。
だからこそ――あの時にデスゲームと言う単語であるワードをオブラートに包んだ可能性が否定できなかったのである。
大型スクリーン付近では、警察が誘導を行っているのだが――ジャンヌの方を見ている警官はいない。
やはり――スルーしているのが正解と言うべきか。その一方でガーディアンも一般人の誘導を行っているが、こちらは――モニターの方を見たりもする。
これがARゲームに関与しない側と関与する側の差と言うべきだろう。それをリアルで見せられているような光景に、周囲は衝撃を受けた。
『今回の映像をジャンヌの名を騙った人物によるネット炎上と言う人物もいるだろう。その辺りの認識は人それぞれだ。私は否定しない――』
『しかし、一部芸能事務所やアイドル投資家の様な暴走を行う勢力が歪め、まとめサイトを利用してネット炎上をビジネスにするような事――そう言った過去の拝金主義を引きずるコンテンツ流通の考え方は改めるべきだ――』
『私はコンテンツ流通を正常化しようという考え方を持つ人間に関しては、排除をしない。しかし、拝金主義や利益重視に走るやり方は――火を見るよりも明らかに失敗する』
『芸能事務所Aと芸能事務所Jを唯一神とするようなビジネススタイル――拝金主義を更に強めたような賢者の石を用いるコンテンツ流通ノウハウは、時代遅れなのだ』
一連の発言を聞いていたレーヴァテインは、心底機嫌が悪いような――そんな状態で一連の演説を聞いている。
それでも、彼が物を投げたりするような行動に出る事はない。駅のホームで視聴しているのも、駅の下の光景を見れば一目瞭然だろう。
「やはり、あのジャンヌ・ダルクは――そっちではないか。これで決まりだな――」
レーヴァテインはカレーパンを食べ終わった所で、ベンチから立ち上がり――近くの視線に入った階段から降りる事にする。
「次のターゲットは決まった。倒すべき敵は――」
レーヴァテインが立ち止まり、持っていたタブレット端末である人物を検索し始めた。
そして、数秒後に表示された人物――それはアークロイヤルだったのである。
『最後に一つだけ言っておこう。私はクールジャパン構想、聖地巡礼、市町村等によるコンテンツを盛り上げる為の方法――そう言った箇所に関心がない訳ではない』
『やり方を間違えれば、それらも大失敗してネット炎上し――それが芸能事務所AとJだけが盛り上がればいいという展開になる』
『一部の歪んだ愛情や感情、不満などが――歌い手や実況者を題材としたナマモノ文化の表舞台進出、一部アイドルファンのフーリガン化――そう言った傾向を加速されているのだ』
『私は警告をする。歪んだコンテンツ流通は、拝金主義者や特定芸能事務所に悪用され――リアルウォーを呼び込むきっかけに――と』
ジャンヌの演説は、そこで終了した。彼女の発言は――ある意味でも危険領域に入っていることは間違いない。
しかし、それを何の迷いもなしに否定できる人間は――演説を見ていた中には全くいなかったのである。
「確かに――我々は踊らされていた。芸能事務所AとJに」
「しかし、それは芸能事務所AとJに対して存在を抹消するようにも――」
一部ギャラリーは動揺する。ジャンヌは芸能事務所を滅ぼしたいのか、と。
しかし、そんな事をしなくても芸能事務所は自滅するとも言っていた気がした。つまり、彼女の発言はそこがメインではない。
結局はネット炎上こそが悪であり、別の意味でも形を変えた代理戦争等と同じ――そう言いたかったのだろう。
「だが、彼女は戦争を望んでいる訳ではない」
「血が流れるようなことは望まない。ジャンヌは、そうとも言っていた」
「だからこそ――考えを改めなくてはいけないのかも」
別のギャラリーからは血が流れるような事態に発展する事をジャンヌが嫌っていると考えていた。
だからこそ、彼女はデスゲームと言う単語を使用して――直接的な表現を避けている。
それが何を意味しているのか――。
「これがパワードフォースの撮影じゃないのか?」
「それはさすがにない。パワードフォースのエキストラ募集は行われていないはずだ」
「しかし、デスゲームと言う単語を使い、更にはパワードフォースを知っている口調だったのは――」
更には今回のジャンヌの演説をパワードフォースのロケと考える人間もいる。
確かにパワードフォースを知っているような口調であり、更には――と言う部分もあるだろう。
「それに、レーヴァテインは明らかにパワードフォースに出ていた特撮俳優に似ていた。彼も一枚かんでいるのは――」
男性ギャラリーの一人が発言した直後、彼は明らかに負けフラグを立ててしまった――。
彼が自覚をする前に、周囲が何かを言いたそうな表情をしているのだが――彼は全く気付いていない。
「なるほど――そう言う解釈もあるのか」
彼の背後で話を聞いていた人物――それはレーヴァテイン本人だったのである。
今更――発言を取り消せるわけもなく、その人物はガーディアンに通報され――ネット炎上の罪で逮捕された。
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