第9話『レーヴァテインの反撃』
###第9話『レーヴァテインの反撃』
5月20日、空は雲ひとつない快晴であり――風も台風に匹敵するような物が吹いている気配がない。
台風の様な悪天候であれば、屋外のARゲームが成立する訳がないのだが――。
そんな天候で、谷塚駅近辺のアンテナショップに人だかりが出来るような――ゲームフィールドがあった。
そこでプレイしていた人物は、草加市内で相変わらずのチートプレイヤー狩りという仕事をしていた――レーヴァテインである。
彼自身も無差別にチート狩りをしている訳ではない。中にはゲーム内で公式に使えるような公式チートとネット上で言われる物も混ざっていたからだ。
そこはジャンヌ・ダルクや一般コンテンツを炎上させようとするアイドル投資家や炎上請負人とは決定的に違う。
彼らの場合は――それさえも一般人には過ぎた兵器として排除する可能性が高いし、ARゲームを軍事利用可能なシステムと言及してネットを炎上させるのも朝飯前かもしれなかった。
レーヴァテインの場合、そう言った細かい事はどうでもいい。単純にゲームの楽しみを奪うチートプレイを許せない――それだけで動いている。
実際、原作版のレーヴァテインでもそう言った描写があったりするし、戦争に利用されそうな技術を保護して何とかしようと動く場面はあった。
『こっちとしては、単純なゴミ掃除をしている訳ではないのだがな――』
チートプレイヤーを倒したレーヴァテインが捨て台詞の様に語る。
その口調は、パワードフォースに登場したレーヴァテインその物と言ってもいい。
周囲の人物で、ここの部分にツッコミを入れようと言う人物はいないし、別にコスプレイヤーはたくさんいるので個別にツッコミを入れている余裕がないと言うべきか。
「この力をゴミだと言うのか!?」
レーヴァテインの対戦相手は激怒する。かなり分かりやすい――そう言えるだろう。
強い力を手にすれば――全てを手に入れられるのは、WEB小説のチート物だけであり、そこまで現実がご都合主義で動くわけはない。
『チートの力は本当の意味で力とは言わない。それこそ、ご都合主義――シナリオ通りに進む存在と分からないのか?』
レーヴァテインがチートを否定するのにはゲームを楽しみが奪われる――だけではないような気がした。
あくまでも、チートプレイが許せないと言うのは特撮番組としてのレーヴァテインであり、彼を指すとは限らない。
『本当の意味で強さと言うのは――』
その後、彼が何を言ったのかは相手プレイヤーが気絶した関係もあって――不明のままだ。
一体、彼は何を望んでいるのか? 単純に特撮番組のレーヴァテインと同一と言うには、矛盾が存在する。
あるいは――彼もジャンヌ・ダルクの様にさまざまなレーヴァテインが混ざっているのか?
しかし、彼に――そうした傾向は見当たらない。一部のネットユーザーが炎上を目的として歪めた情報を配信しているのだろう。
『こういう事だ!!』
彼が何もない場所から呼び出した武器、それは片腕に固定するタイプのレーザーパイルを打ち込むタイプのパイルバンカーだ。
彼の使用するパイルバンカーはパイルが3本という特殊な物であり――これが原作のパワードフォースでもクリティカルフィニッシュとして使用されている。
左腕で相手を掴み、右腕のパイルバンカーを打ち込むのではなく、遠距離からでもゼロ距離まで近づいてレーザーパイルを撃ちこむ――ある種の浪漫技だろう。
VRゲームであれば、動きすぎるモーション等もあって避けられてしまいそうだが――。
相手は回避行動が取れなかったという。それ程に消耗していたのか、バインド系のスキルが決まっていたのか、それとも――様式美だったのか?
その真相は分からないが、レーザーパイルは見事に命中し――彼の使用していたチートガジェットは、文字通り砕け散った。
「馬鹿な――こんな事が、あっていいのか?」
その断末魔と共に、相手プレイヤーは倒れる。
デスゲームと言う概念をアカシックワールドは持っていないので、気絶しただけだが――。
相手が気絶したのを確認した後、レーヴァテインはログアウトをして即座に姿を消したという目撃者証言もあるが、真相は定かではない。
「こんな事? それは自滅っていう物だろう。スポーツ競技でいう所のドーピングに手を出した――お前が悪いのだからな」
ARインナースーツなども解除され、眼鏡にジーパン、半そでのワイシャツと言う外見の青年が姿を見せる。
彼がレーヴァテインなのか――と周囲のだれもが疑う。それに、レーヴァテインと言えば――。
「芸能事務所によって全てをコントロールし、利益至上主義や神すらも超越した――」
その一言をプレイヤーが言った事で、レーヴァテインは言葉に出来ないような表情でハンドガンを撃った。
しかし、その弾丸はプレイヤーに当たる事はない。既にARゲームは終わっているのだから。
「利益至上主義とか拝金主義ってのは、滅びて当然の物だ。それを未だにありがたるなんて――どうかしている」
彼は気分屋である。下手に地雷を踏むような発言をすれば、確実に消されるのは目に見えていた。
それを全く考慮せずにフラグを立ててしまった、相手側には同情するべきなのかもしれないが――。
同日午前11時、自宅で動画をチェックしていたアークロイヤルはふと、何かを気にし始めた。
それはジャンヌ・ダルクと言う存在である。検索サイトで調べても、さほど大きな情報もないし、まとめサイトの歪んだ情報に踊らされる危険性もあるだろう。
しかし、アークロイヤルはふと何かを思い出したかのように――あるサイトを調べ始めた。
「やっぱり――」
アークロイヤルの過去にあったトラウマ、それとジャンヌに関連性はないと思われたのだが――実際は違っていた。
SNSを利用した情報拡散やネット炎上のノウハウは過去に芸能事務所AとJが確立し、現在に至る。
そうした炎上ビジネスに利用されるであろう技術は――つぶやきサイトが生まれた辺りから懸念されていたのかもしれない。
高度な技術は――やはり悪用されてしまうのが宿命なのか?
「ジャンヌ・ダルク――そう言う事だったのね」
アークロイヤルが見覚えがあったのも無理はないだろう。
しかし、その時と今回のジャンヌ・ダルクではデザインが大きく異なる物であり、言われなければ気付かないかも――と言うレベルだ。
まるで、土台を別の物に変えたかのような――それ位にジャンヌ・ダルクの外見は変化していたのである。
「これは、私の中だけでしまっておくべきか――拡散をするべきか」
ジャンヌ本人の正体が『あの人物』とは限らない。
過去にVRゲームでフレンドになったプレイヤーのログは――彼女の元には既にないのだから。
「――?」
しかし、アークロイヤルはアカシックワールド用のARガジェットにあった謎のデータを――発見する。
何故、神原颯人(かんばら・はやと)にもらったガジェットにこのデータがあったのか?
圧縮ファイルと言う訳ではないので、そのままクリックかタッチをすればファイルが起動する事を意味する。
「何故――この名前を知っている?」
神原が、何故に自分がハンドルネームを変える前のネームを知っているのか?
基本的にVRゲームでは顔を見せた事はないはずなのに。しかし、何か思い当たる物はある。
VRゲームでもARゲームでも必要な物、それは――身分証明書だ。
身分証明書は本名でなくても問題ない――と言うのは、ARゲームとVRゲーム限定である。
それに加え、本名ではない身分証明書でも一部店舗であれば草加市内でも通用するのだ。
これには――市民の一部から反論もあった。ゲームプレイヤーに優遇し過ぎなのでは、と言う部分で。
それに、マイナンバーカードにしても色々と揉めていた時期もあるので――個人情報に関しては一掃厳しくなっている現状もあるが。
###第9話『レーヴァテインの反撃』その2
アークロイヤルが発見した謎のデータ、それは自分にとってもトラウマの内容と言える物だろう。
過去にVRゲームで自分が起こした――と言うよりも第三者によって引き起こされた事件だからだ。
【――によって引き起こされた、パワーインフレ。どう考えてもおかしいだろう】
【どう考えてもチートプレイヤーだよな】
【明らかに――。実際、あのプレイヤーのスキルは常識で考えても無茶過ぎる】
【カンストとかツールとか不正プレイと言う枠では扱えないだろう。むしろ、リアルチートだ】
【あの動きだとリアルチートとはほど遠い。パラメータ等を細工している可能性が高い】
あの当時は、プレイして一カ月位で話題になっただろうか?
自分があの領域に到達できない事に対しての嫉妬等で炎上させた――そうとも考えられた。
しかし、実際は違う人物が犯人だったらしい。この辺りの経緯は、意図的に削除されている――と言うよりも、書きかえられたらしい。
犯人が芸能事務所Jのジュニアアイドルなので週刊誌で報道されると都合が悪く、芸能事務所側の圧力があった――と言うのはまとめサイトが書いた記事による物。
この記事がきっかけなのかどうかは不明だが、このVRゲームはプレイ人口を一気に減らした。
サービス終了という話をネット上では効かないので、規模縮小のままサービスを続けているのか――は、分からない。
自分も興味がなくなったゲームなので、今更戻るような気力もなかったのもある。
その後もレーヴァテインは近場のフィールドで暴れまわっているチートプレイヤーを狩り続けていた。
「お前が噂のチートキラーか?」
今回のプレイヤーは、レーヴァテインをチートキラーと勘違いしているようである。
チートキラーは別のARゲームだった気配もするが――違うのだろうか?
「――ダンマリか。ありとあらゆる医療行為を全て魔法で解決するようなWEB小説が出版化している程の世界だ――お前の様な存在がいる位は、まとめサイトとしても都合がいい」
「それに、日本でネット炎上するようなかまってちゃんは、大抵が芸能事務所AとJに金で雇われたに過ぎない。一部のまとめサイトを摘発したとしても、第二、第三の――」
相手の方が喋り続けることに対して『速く始めろ』というブーイングも聞こえているようだが、レーヴァテインは無口でARガジェットを取り出す。
しかも、そのガジェットを取り付けたのは――右腕である。それを見て、相手は自分が敵に回した人物――レーヴァテインの恐ろしさを自覚した。
『パワードフォース、ガジェットオン!』
まさかの台詞にも相手は驚いた。それでログインは出来るはずがない事に加えて――。
相手はコールなしでログインを完了するが、これはオプションでログインコールを設定していない場合だけである。
ログインコールの台詞変更は、基本的にカスタマイズの領域であり、いわゆるゲーム料金とは別課金が発生するだろう。
課金と言うよりは追加料金の言い方が正しいのかもしれないが。
レーヴァテインの掛け声とともに、瞬時にARアーマーが装着される様子は――特撮番組であるパワードフォースの完全再現と言ってもいい。
これを見て――相手は逆に恐怖を感じるほどだった。まるで、一連の事件に関係していたジャンヌ・ダルクを思わせるようなアバターと思ってからである。
『レーヴァテイン――バトル開始だ』
彼の眼が本気だったのを――相手が読み取ることはできなかった。
既に戦意が消失しているような状態である事に加えて、相手にした人物を完全に間違えたと言わんばかりの展開だったのである。
午後1時、アークロイヤルは自宅近くのコンビニで買いだしをしようと考えていたのだが――せっかくなので、そこから自転車で5分ほどのアンテナショップへ足を運ぶ。
そこでは既に何人かのプレイヤーがアカシックワールドとは別のARゲームをプレイしようと準備している。
ちなみに、アカシックワールドはプレイできる場所に制限がない。
アンテナショップでなくても、ARゲーム用のセンターモニターやガジェット読み取り機械があればプレイは可能である。
ただし、アカシックワールドはロケテスト中と言う事が公式で言及されている為、ガジェットが公式の物であったとしても草加市内でしかプレイできない。
「あのプレイヤーは――」
アークロイヤルがアカシックワールドのプレイ動画を映しているセンタモニターの前を通り過ぎると、そこには見覚えのあるプレイヤーが映し出されていた。
そのプレイヤーの正体は――別のタイミングで遭遇していた、あの人物だったのである。
「――レーヴァテイン。彼がどうして――」
あの時、彼女はレーヴァテインには遭遇していたが、それは彼本人ではなくコスプレイヤーか何かと判断していた。
後になって本人ではないか――と思い始めたのは、あってから時間がたってからである。
しかし、モニターに映し出されていたのは――本人と言って差し支えない。これには、驚くしかなかった。
「あれはコスプレイヤーだろう」
「芸能人がARゲームをプレイするのは禁止されているのでは?」
「芸能人禁止は違う。あくまでも芸能事務所AとJの所属アイドルは禁止じゃないのか」
「じゃあ、あれはどう説明する? 主演俳優は芸能活動休止のはずだ」
「もしかすると、そっくりさんと言う可能性もある。本人と決めつけるのは早計だろう」
センターモニターで見ていたギャラリーからも、本人とは否定する意見が多い。
実際、彼らのいう芸能人禁止はVRゲームの炎上した一件を受けて追加されたガイドラインである。
このガイドラインはネタだったりARゲームプレイヤーの夢小説等で炎上する事を防止する為――と言う風にはネット上で言われていが、実際には違うという意見も。
「あの人物を御存じなのですか?」
アークロイヤルの隣に姿を見せたのは、ヴェールヌイだった。
別のタイミングで会った事があるかもしれないが――アークロイヤル自身は、あまり覚えていなさそうな状態のようでもある。
###第9話『レーヴァテインの反撃』その3
アークロイヤルが発見した動画、それはレーヴァテインのプレイ動画だった。
これは先ほど終了したばかりの物であり、それを見かけた――と言う事らしい。
「あの人物を御存じなのですか?」
そこへ姿を見せたのがヴェールヌイである。しかし、アークロイヤルは覚えがないらしく――初見の様な表情をしていた。
ちなみに、ヴェールヌイはパワードフォースに関してはある程度勉強はしたのだが、細かいシリーズまでは分からずじまい。
レーヴァテインも外見でパワードフォースなのは分かったとしても、どの作品かまでは特定不能だろう。
「仮に知っていたとして、話すと思う?」
アークロイヤルのいう事も一理ある。見ず知らずに近い人物に、有力な情報を渡すとは思えない。
逆にネット上の掲示板やまとめサイトを探せ――とも返される可能性は否定出来ないだろう。
「しかし、あなたはあの人物を見て――見た事があると思った。それは間違いなく――」
「だからと言って――それだけで決めつけるのも、問題があるのでは? 明らかにネット炎上勢力のレッテル貼りと同じ――」
ヴェールヌイはセンタモニターの方を振り返ったアークロイヤルを見ていたらしい。
しかし、アークロイヤルの返事は明らかにレッテル貼りをされるのを嫌がるような――そんな口調である。
動画の方は――ラウンド2が始まる所だった。
ラウンド1はレーヴァテインの圧勝と言える展開だったが、彼自身は満足をしていない。
周囲のギャラリーは――レーヴァテインの勝利に沸いているようでもあったが、彼自身はアウェーの空気を感じている。
レーヴァテインが有利な空気なのに、彼がアウェーを感じるのは何かおかしいと思うが。
『バトルは3本先取――まだ1本取っただけだろう?』
レーヴァテインのいう事は一理ある。しかし、明らかに不利なのは――相手側だろう。
それを踏まえると、降参するのも一つの手と考えたくなる。
『しかし、アーケードリバースで降参と言う手段は考えない方がいい。チートを使っている事が発覚すれば、アカウントはく奪は回避できないし――』
レーヴァテインとしては警告と言うよりは――忠告というニュアンスかもしれない。
しかし、それを素直に聞き入れるとは考えにくいし、向こうが素直にチートを使っているとは認めないだろう。
『バトルの状況を見て、おかしいと運営が判断すれば――降参をする前に運営が強制ログアウトをするだろうが――』
「こっちとしては強制ログアウトは覚悟の上だ――と言ったら?」
『そこまで愚かなのか? いつからARゲームプレイヤーの民度は下がった? これでは芸能事務所AやJ、他の三次元アイドルファンと同じだな――』
「その手には乗らないぞ――レーヴァテイン!」
レーヴァテイン側もバトルが白けるのは――と言う事で、色々と考えるが、相手は向こうが何かに誘導しようとしているのを見破っている。
こうなってしまうと、レーヴァテインも打つ手なし――というパターンは、あくまでも特撮番組のレーヴァテインの場合だ。
『この流れでテンプレ的に様式美を決めるのは、特撮番組であれば――の話だ』
レーヴァテインから、この一言が出た時――相手側は失敗したと考えたらしい。
全てが攻略ウィキや攻略ガイドの様に上手くいく――それは、家庭用ゲーム機や一部ジャンルでの話だ。
ここはARゲームであり、目の前で行われている事も対人戦である。そこの見極めを――彼は明らかに間違えていた。
結果の方は――ほぼ見るまでもなく決まっていた。向こうが負けフラグを立てた段階で――勝負は決まっていたのである。
対戦相手側は未だに茫然としており、立ち直るには時間がかかるかもしれない。しかし、レーヴァテインがログアウト儀にはガーディアンが駆けつけ、彼は逮捕された。
理由はチートプレイなのだが、彼が使っていたガジェットは公式のガジェットであり――どう考えてもチートの様な個所は見当たらない。
この辺りは調査待ちになるだろう。チートアプリも、プレイ後には自動消滅するタイプの証拠隠滅を行うタイプがある位なので。
「相手のチートアプリを、どう思う?」
動画を見ていたヴェールヌイはアークロイヤルに尋ねる。しかし、その質問は――するまでもなく反応は分かっていたが。
「チートプレイが許されるはずがない。ARゲームでチートを使えば、自分にブーメランとなって返ってくる。どのような形であれ」
アークロイヤルの方は若干呆れ気味に応えるのではなく、視線をモニターに向け――真面目に答える。
ここで言うブーメランとは、ネット炎上やアカウント凍結、最悪のケースでは大事故にもつながるだろう。
ARゲームで大事故と言う物は怒っていないように見えるのだが――過去にはロケテ中に怪我人が出たという理由で中止になった作品もある。
あくまでもARゲームはWEB小説でいうデスゲームではない。命のやりとりをするようなゲームではないのだ、本来の意味では。
それを勘違いし、一瞬のスリルや快感を求めるあまりにアクロバットプレイに走るプレイヤーが存在し、動画サイトにも危険なプレイ動画が拡散している。
運営側も対応に追われているが、ジャンルによって対応がバラバラなのも――このような動画が拡散する環境のひとつかもしれない。
「チートプレイは、どのジャンルでも禁止されている――が、WEB小説ではチートの様な主人公が無双する作品が多いという」
「それは別の意味での当てつけなのかな?」
「そうではない。パワードフォースでもチートを否定するような展開が描かれ、最終的にはチートプレイを止めよう的な終わり方になって大団円――違うか?」
「パワードフォース全てが、そのテンプレートには当てはまらない。しかし、ゲームにおけるチートプレイは現実世界でも色々な形で起こっている」
「それを止める為に――」
「それ以上、口にしたらいけない。そこから先は――後戻りが出来なくなる」
ヴェールヌイは何かを言おうとしていたが、それをアークロイヤルは止めた。
ジャンヌ・ダルク、レーヴァテイン、それに――様々な人物。そうした人物の思惑が、アカシックワールドの中には存在するのかもしれない。
###第9話『レーヴァテインの反撃』その4
レーヴァテインがこのような行動に出ている事には理由があった。それはチートプレイヤーの根絶という説がネット上では有力とされている。
しかし、本当にそれで正しいのか――疑問が出てくる個所は存在するのも事実だった。
それは特撮版レーヴァテインと今回のレーヴァテインに決定的な違いがある事から来ているようだが――。
【仮に特撮版のレーヴァテインをコピペしているとしたら、行動理念に矛盾が生じる】
【彼は利益至上主義や人命軽視をするような組織に対しては――容赦なく潰す傾向があった】
【確かに――それは一理ある。チートの大本を潰そうと言う行動には出ていないな】
【その通りだ。もしかすると、あのジャンヌ・ダルクと同じように二次創作の設定等を取りこんでいるのかもしれない】
【それはありえないだろう。第一、ジャンヌ・ダルクの正体は未知数と言われている。それと同じとは――考えにくいはず】
【それを踏まえての矛盾と言う事か。単純に行動を真似るだけの愉快犯なら――いくらでも存在し、出現する度にネットで叩かれる】
【ネット私刑――ARゲームではガーディアンと言うべきか? どちらにしても、放置は出来ない事案だろう】
【ガーディアンとネット私刑を紐付けするのは危険だ。あくまでネット私刑は芸能事務所AとJに雇われたネット炎上勢力を揶揄しているだけに過ぎない】
【向こうのネット私刑とひとくくりにすれば――大変な事になる。実際、WEB小説で起きた事件をリアルで起こそうと言う人間もいた位だ】
【それを――】
ネット上のまとめサイトでは、レーヴァテインの正体を考察している記事も存在している。
しかし、それが本人の口から出たような物ではない為に――あくまでもネタの一種と言う事で判断しているようだが。
実際にレーヴァテインの行動は様々な分野に被害を出している訳もなく、逆にネット炎上要素となる存在を摘発した事に歓迎する声もある位だ。
その一方で、彼の行動を危険視するような勢力がいる事も事実であり――リアルで暗殺計画が計画されている話題も存在している。
動画を視聴し終わったアークロイヤルとヴェールヌイは、ここで別れる事になった。しかし、ヴェールヌイは引きとめているような無言の表情を見せる。
「あなた――」
アークロイヤルも、ここで帰ったらまずいだろう――そう思い始め、近くのコンビニへと買い出しに誘った。
その誘いには全力で応えたので――もしかすると、別の目的があって接触した可能性も高いだろう。
その後、ヴェールヌイは菓子パンやお菓子、ペットボトルのコーラを購入したと言う。この状況にアークロイヤルはドン引きをするが。
2人は再び同じARゲームフィールドへと戻ってきた。ここにはフードコートはないがイートインスペースがある。
つまり、コンビニで買ってきた弁当等を食べるスペースは存在すると言う事だ。ただし、ゴミは持ち帰るという前提条件付きだが。
2人がイートインスペースに座るが、ファミレスの様な席が設定されているようなスペースではなく、ネットが出来るようにセッティングされたようなパーテーション方式だった。
パーテーションと言っても1人用スペースではなく、ある程度の広さを持ったスペースと言う物であり、3人までなら――大丈夫だろう。
格闘家等の場合は1人用スペースになってしまうかもしれないが――特に狭いと感じないようにしてあるので、こういう仕様かもしれない。
「君の動画は以前にチェックしていた。相当な実力を持っているようにも見えるが――」
ヴェールヌイは、既にアークロイヤルのプレイ動画をチェック済みだった。つまり、接触理由もそう言う事なのだろう。
「そう言えば、あなたは一体――?」
アークロイヤルの疑問も最もだろう。動画サイトではそこそこ有名なヴェールヌイだが、一目見ただけでは――本人と分かりづらい。
「自己紹介がまだだったようだ――。私の名前はヴェールヌイ。これでも、アーケード――違った、アカシックワールドのプレイヤーだ」
別のゲーム名を出してしまい、何かを訂正しそうになったが――そのまま仕切り直す。訂正という単語もなかったので、うっかり出てしまった可能性も高いが。
その後、ヴェールヌイは購入してきたカレーパンにかじりついた。
「そう言えば――私を動画で見た事があるって言っていたけど」
アークロイヤルは、あまり自分でも動画をアップしていなかった事を踏まえ、ヴェールヌイに動画の事を聞こうとしていた。
しかし、彼女はカレーパンを1分も満たないような速度で食べ終わり――その後にペットボトルのコーラを開けている。
さすがにパンくずをこぼしたりはしていないが――あまり褒められるような食べ方ではないだろう。
しばらくして、カレーパンを食べ終わった辺りで本題に入るかのように表情を変化させる。
「その通りだ。私はARゲームとは違う動画で君を目撃した。その時はハンドルネームも黒塗りで――分からなかったが」
まさか、ヴェールヌイは自分のVRゲーム時代を知っているのか――別の意味でも動揺した。
ARゲームではなく、VRゲームの方を知っている人間が他にもいたことには驚きを隠せないが――。
「そこまで分かっているのね――」
アークロイヤルは、これ以上隠し通せないと判断してヴェールヌイに事情を話す。
VRゲームで炎上騒ぎに巻き込まれて撤退せざるを得なかった事、それに――。
「そう言う事が――。しかし、それとジャンヌ・ダルクに何の関係が?」
ヴェールヌイもそこだけは引っ掛かる。アークロイヤルの言うある人物――それがジャンヌ・ダルクと名乗っていた事を。
しかし、現状ではその人物と今回のジャンヌ・ダルクが同一人物とは限らない。その為、色々と悩んでいる部分があるとも言った。
「コンテンツハザード、聞いた事がないわね」
アークロイヤルもコンテンツハザードは初耳であり、VR時代のジャンヌも言及はしていない。
別作品のジャンヌではないか――二次オリの様な概念のジャンヌとも仮説を立てていたヴェールヌイの見立ても、ここで振り出しに戻ってしまう。
「彼女がコンテンツハザードを達成させる為に、一連の事件を起こしている可能性もある」
ヴェールヌイの一言を聞き、アークロイヤルは深刻そうな表情を見せる。
彼女には何か思い当たる部分があるのだろうか――。しかし、これ以上に話題を広げて彼女のトラウマを――という懸念も持っていた。
ヴェールヌイはジャンヌの言うコンテンツハザードには、パワードフォースで言及されていたソレとは違う意味を持っている可能性が――と思う
アークロイヤルはパワードフォースでコンテンツハザードに似たようなエピソードがあったのか、脳内データベースで検索をするが――思い出せないでいる。
お互いにコンテンツハザードを阻止する事が最終目標になるという点だけは共通しているようでもあった。
###第9話『レーヴァテインの反撃』その5
5月21日、天気予報では明日から雨が降る予報だったらしいのだが――この晴天で翌日に雨と言うのもおかしな話である。
午前10時30分、周囲も驚くような観客を集めたバトルが予想外の所で行われていた。
そんな中でもレーヴァテインの反撃は、まだまだ続いている印象である。パワードフォースのシナリオ再現を思わせる部分はあるのだが――彼としては、そこにはこだわっていない。
「こっちも、噂の人物が言っているような事にはなってほしくないからな――チートアプリの出所を教えてくれれば――」
ARアーマーを解除したレーヴァテインは、相手プレイヤーにチートアプリの出所を聞こうとするが、それで簡単に教えてくれるはずがない。
相手側はレーヴァテインと分かった上で勝負を挑んだのだが、それが裏目に出た形である。
「こっちも公式サイトにアップされていたアプリをダウンロードしただけだ」
「公式サイト? そんなはずはないだろう。偽装されたサイトや裏サイトの間違いじゃないのか?」
相手は公式サイトでダウンロードをしたと証言するが、レーヴァテインはその発言を信用していない。
むしろ、嘘発見器でもARガジェットに搭載されていれば即座に使うレベルだ。
「裏サイトではない。裏サイトでアップすれば、ガーディアンに摘発されると掲示板でも言われている。だから、公式サイトに――」
相手は他にも何かを言おうとしたようだが――何者かに口止めされたかのように気絶する。
一体何者が――とレーヴァテインが周囲を警戒するが、人の姿は全くない。一体、どのようなトリックを使ったのか?
午前11時40分頃、今回のレーヴァテインに関するニュースが拡散する。
《レーヴァテイン、相手プレイヤーを気絶寸前まで攻撃。芸能事務所Aに対するヘイト目的か?》
この辺りであれば、小学生並の偽装であり――見破られる可能性は絶大だ。
実際、このニュースを拡散したユーザーはガーディアンが速攻で摘発している。
《レーヴァテイン、相手プレイヤーをKO。その後、何者かに襲撃》
これもあっという間に炎上した。理由としては襲撃されたのは相手プレイヤーだけであり、レーヴァテインは違うからである。
芸能事務所の名前を出さなければ炎上しないと言う浅知恵と慢心が、炎上を招いたと言えるだろう。
《レーヴァテイン、相手プレイヤーを撃破するも――試合が没収される》
こちらも相手プレイヤーに関して深く言及されていないが、あっさり炎上した。
公式サイトでも没収試合はチートが使われた時と非常時限定と明言されており、その辺りのルールを知らなかった為と思われる。
「やはり、偽ニュースが高速で拡散するのは何とかならないのか――」
レーヴァテインも疑問に思う様な気配だが、これは他の人物も同じだろう。
そして、お昼のニュースでも取り上げられそうだが――。
『お昼のニュースをお伝えします――』
しかし、レーヴァテインの予想を裏切るような形で別のニュースが報道された。
その内容は芸能事務所の不祥事との事だが――。
「やはり――あのニュースを報道するのは芸能事務所側に抹消されると言う事か」
センターモニターでニュースを見ていたのだが、そこではレーヴァテインのニュースは取り上げられなかった。
あくまでも民放のニュース番組であり、ARゲーム専門ニュースサイトのインフォメーションではない。
何故、このような事が起こるのか? 草加市では一連のニュースをタブーとしている動きがあるのか?
その真相は不明のままである。おそらく、レーヴァテインが一連の行動を起こしている理由と関係があると思われるが――。
午後2時、一連のレーヴァテイン事件を追跡していたのは斑鳩(いかるが)だった。
彼女は普段のメイド服ではなく、既にARインナースーツ姿で行動している。ARインナースーツ姿でも警察に捕まらないのは、草加市内では着用許可されている事もあるが――。
「もしかして――?」
斑鳩が草加駅の近くまで到着した所で、ある人物が視線に入って来たのである。
その人物は――レーヴァテインと全く別の人物だったのだが、ここで会うのは想定外の人物でもあった。
「遅かったようね。既に――決着した後だけど」
アークロイヤルの言う通り、既に決着後と言う状況だった。相手プレイヤーはガーディアンによって拘束され、既にこの場にはいない。
相手プレイヤーが何を知っているのかどうかは、アークロイヤルも分からずじまいだったと言う。
「あなたが――あの事件に関係していたとは、思わなかった」
斑鳩はARガジェットを展開し、戦闘態勢に入っている。
それを見たアークロイヤルも、戦闘を回避する事は出来ないと考え――ARガジェットを構えた。
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