第8話『一つの勢力の終わりに』

###第8話『一つの勢力の終わりに』



 周囲がざわつくような状態になったのは、まとめサイト管理人とヴェールヌイのバトルが成立した辺りからである。

爆音だらけで詳細が分からずじまいだった中で、大きな事件になっていると一部の炎上勢力が盛り上がっているだけかもしれない。

「では――君が負けた場合は、まとめサイトを閉鎖してもらおうか」

 ヴェールヌイの口調は、今までの冷静口調から――力のこもったような口調に変化する。

これを踏まえると、明らかに向こうは本気で潰そうと考えている可能性が高い。

「閉鎖か――いいだろう。その勝負、乗った!」

 まとめサイトの管理人は、警察への自首や他のまとめサイト管理人のアドレスを要求されるとばかり思っていた。

それを踏まえて、自分のサイトだけを閉鎖という要求をのむ事にする。

おそらく、自分のサイトを閉鎖するだけであれば安い物と考えたのかもしれない。

相手がガーディアンの類だったりしたら、それはそれでチートを使えば即座失格だろうが――彼女ならば、気づかれないと思ったのだろうか?

まとめサイト管理人は、密かにガジェットのアプリの一つをダウンロードし――インストールを始めた。

「アカシックワールドのフィールドはここじゃない。場所を変えよう――」

 ヴェールヌイがまとめサイトの管理人に場所の移動を指示し、向こうもそれには素直に従う。

逆に素直に従った部分で違和感を持つべきだったのかもしれないが――。



 距離としては50メートル歩いた程で、目的地に着いた。

ARガジェットにもフィールドの場所がマッピング表示されるので、よほどの機械音痴でもない限りは迷子にならない。

ある意味でも新設設計と言うべきか? そして、センターモニターの指定スペースにARガジェットを接触させる。

《チートチェックを行います》

 画面には、不正アプリのインストール有無等を調べる為のアナウンスが表示される。

ゲージが100%になるとチェック完了だが、ヴェールヌイの場合はあっさりと終了した。

《ガジェット内にチートアプリ及び不正ツールは確認出来ませんでした》

 この表示がされたことで、初めてARゲームにログインできるという形式である。

屋外フィールドや特殊なフィールドでは、センターモニターがない場所もあるので――チートチェックに時間のかかる場合も多いが。

《チートチェックを行います》

 まとめサイト管理人のガジェットもチェックをしているが、こちらは処理に若干時間がかかっているようにも見えた。

ヴェールヌイの時みたいにあっさりとゲージが進んでいないばかりか、50%の所で50%と60%をループしている。

「もしかして――チートアプリ?」

 遠目でバトルの様子を見ようとしていたのは、私服姿のアークロイヤルだった。

ヴェールヌイを追跡する予定はなかったはずなのだが、気が付くと彼女の入って行ったARフィールドに足を運んでいる。

 動画サイトでジャンヌ・ダルクの情報を集めていた一方で、大きな収穫もなかったのでアカシックワールドのサイトへアクセスした所――。

《ヴェールヌイがゲームへログインしました》

 速報気味でゲームへのログイン情報が出てきたので、該当するアンテナショップへ向かい――現在に至る。

ジャンヌの情報もまとめサイトは信用していない為にスルーしているが、大きな情報は今のところ全くない。

それを踏まえ、ヴェールヌイの実力を見ておくべきか――と立ち寄ったのである。

《チートチェックを行います》

 いまだに、この画面から進めないまとめサイト管理人はスタッフを呼ぼうとも考えた。

しかし、あのアプリを気付かれてはまずい――と言う事で呼べずじまいだったのである。

下手に不審なリアクションを見せれば、ヴェールヌイも自分を疑うのは明らかだと分かっているからだ。

《データチェックを行います》

 しばらくして、ゲージが往復するような状態は抜けたのだが――今度はデータのチェックである。

データのチェックが入ると、高確率で不正アプリのインストールを疑われる為、これはまずい――とまとめサイト管理人は心の中で思う。

周囲のギャラリーも、バトルがなかなか始まらない事に違和感を持つ者が出始めている。

 しかし、それをきっかけにして暴動や乱闘騒ぎが起こる事はなかったのにはアークロイヤルも不思議に思った。

訓練されたギャラリーなのか――とも彼女は疑ったが。



 5分後、画面に大きな動きもない状態は続いたのだが――。

そこからしばらくして画面表示も変わり、予想外のインフォメーションに周囲も動揺する。

これにはアークロイヤルも驚きのリアクションを見せ、一部のメーカーからの偵察や産業スパイも驚いた程。

しかし、この周囲の動揺に無反応だったのは――ヴェールヌイだった。一体、どういう事なのか?

《ガジェット内にチートアプリは確認出来ませんでした》

 メッセージにまとめサイト管理人は疑問に思うが、一応はログインが出来るようになったのでログインを始める。

ヴェールヌイは既にアーマーを装備しており、向こうは臨戦態勢を取っているようだ。

向こうは既に使用するガジェットも選び終わり、まとめサイト管理人の反応待ちなのかもしれない。

《フィールドを形成中です。しばらくお待ちください》

 センタモニター、ログインした2人のARバイザーにはフィールド形成中のインフォメーションが表示される。

周囲に展開されているフィールドは、市街地と言うよりは秋葉原等を思わせるような駅ビルや店舗が並ぶ歩行者天国だ。

このフィールドを選択したのはまとめさいと管理人の方であり、ヴェールヌイではない。マップの選択権利は、向こうにあったようだ。

《天井までの高さは10メートルです。それをオーバーすると場外としてカウントされます》

 このメッセージに驚いたのは、ヴェールヌイの方である。

どうやら、彼女は今まで天井の制限がないフィールドでバトルをしていたらしい。

「なるほど――ARフィールドによっては、周囲の広さだけではなく高さも限定されるのか」

 天井を見上げるようなリアクションはせず、ARバイザーに表示されたマップ情報で天井制限を知る。

対するまとめサイト管理人は――自分の得意なフィールドにした事で、圧倒的有利を得ようとしていた。

周囲のオブジェクトは店舗、屋台トラック、歩行者天国恒例の通行止めの立て看板、自動車、自転車――他のステージないような要素は、特にないだろう。

 しかし、向こうの反応を見て――ヴェールヌイは何かおかしいとも感じている。

センターモニターでのチートチェックも、ザルだった様な――さすがに、運営が買収されてまとめサイトを有利にしているとは考えにくい。

そんな事をすれば、ARゲームでは事業停止のペナルティがあるのはガイドラインにも明記されている。


 

###第8話『一つの勢力の終わりに』その2



 フィールドが無事に形成され、そこに関してはヴェールヌイも安堵している。

特にノイズが確認されるような事もなく――正常に表示されているのも大きい。

その一方で、相手側のガジェットの形状を見て何か引っかかる物があるのも事実だった。

《ラウンド1――セットレディ》

 しかし、相手の方が準備していた装備は明らかにガイドライン違反のガジェットにも感じ取れる。

その形状だけで不正ガジェットの類とは判断できないのだが――。

《ラウンド1――ファイト!》

 ファイトと同時に、まさかの高出力ビームが飛んでくる。オブジェクトを貫通する様子はなく、歩行者天国の遮蔽物もない道路から――。

「――先制攻撃!?」

 これにはヴェールヌイも少し驚くのだが、顔では驚きの表情を見せる事は無く――バリアを即座に展開してビームを防いだ。

しかも、ノーダメージである。これにはまとめサイト管理人の方も、使用したアプリの効果を疑った程――。

「ラウンドコールと同時にエネルギーのチャージを行い、開始と同時に撃つ――確かにARゲームでも使われる高等技術――」

 ヴェールヌイはまとめサイト管理人が使用したのはテクニックの一種であり、一種のチートではないと看破する。

それ位の技術であれば、動画サイトを探せば発見できるし――あまりテクニックを必要としないので、扱える人物は多い。

 その一方で、まとめサイト管理人は若干慌てていた。ヴェールヌイが例のアプリに気付いたのではないか――と感じている。

せっかくの有利なフィールドを選んだのに、アドバンテージはなくなったに等しい。

「しかし、こっちとしてもあの情報を渡す訳にはいかない!」

 まとめサイト管理人は、ヴェールヌイもガーディアンのメンバーなのではないか、と疑っている。

そして、次に使用したのはホーミングレーザーだ。こちらは例のアプリに搭載されていたデータでもある。

レーザーの色は先ほどのビームとは違う為に見破られる可能性もあるが――相手を追尾する能力は、他のFPSゲーム等よりも非常に高い。

 しかし、ヴェールヌイが取り乱すような表情は一切見せなかった。

それだけではない――彼女の表情は、人形のように無表情で的確にバリアを展開してホーミングレーザーを無力化していく。

これには、さすがのまとめサイト管理人も――唖然とするしかなかった。

「馬鹿な――こっちは、高性能のアプリを使っているのだ! お前の様な時代遅れなガジェットを――」

 まとめサイト管理人は、思わず口が滑ってしまった。

自分でチートアプリを使っている事を話してしまったのと同然――その迂闊な行動は、ある意味で自身の破滅を呼ぶ事になる。

 まとめサイト管理人の一言を聞き、ヴェールヌイは自身の背後に魔法陣を思わせる何かを展開した。

次の瞬間、そこから放たれたのは無数とも言えるレーザーエッジだったのだが――それを回避する手段を彼は持ってなかったのである。


 

 結果として、まとめサイト管理人はヴェールヌイにストレート負けを喫した。

自分の発言が招いた自滅展開は、見るにも書くにも耐えられないワンサイドマッチと化していたと言う。

 ラウンド2の途中では、オブジェクトの一部がジャンヌ・ダルクの時に展開された現象もあったが、これは心理作戦だった事が発覚――普段は表情を変えないような彼女を激変させた。

ある意味でもまとめサイト管理人はヴェールヌイを煽りまくった結果、自分の行動がブーメランと化した自滅なのかもしれない。

「約束は覚えているな?」

 その一言と同時に、ヴェールヌイのアーマーは解除され、元の賢者を思わせるローブに戻る。

「何故だ! この俺が――負けると言うのか?」

「お前は――ネット炎上をさせたことで、様々なコンテンツが悲劇に見舞われても――それを金になると言って炎上させ続けた」

「違う! あれは、芸能事務所AとJの社長に命令されたのだ! 俺は悪くない!」

「負け惜しみもB級バトル漫画にありがちなテンプレだな――もう少し、言葉を選んだらどうだ?」

「今までの事件も、起こした側のフーリガン化したファンが悪い! まとめサイトは悪くない!」

「自分が起こした事を棚に上げて――まだ言い逃れか。ここまでくると、WEB小説の異世界転生物や異世界転移物の敵よりも哀れだ」

 まとめサイト管理人の方は、命令されたという事を話しているようだが――ヴェールヌイはそれを信用しない。

そればかりか、彼の発言をB級バトル漫画と切り捨てたり、様々な用語を使ってスルーし続けた。その表情は無表情――そして、口調も同様である。

「そうだ――ここで見逃してくれたら、別の情報をやろう! ジャンヌ・ダルクの原作についてだ――」

 まとめサイト管理人は、自分が逃げる手段として別の情報を提供すると言いだした。

ジャンヌ・ダルクと言う言葉を聞いた途端、ヴェールヌイの表情も若干変化する。

「聞かせてもらおうか?」

「ジャンヌ・ダルク。名前は歴史の教科書や映画等でも見る、あのジャンヌ・ダルクと同じだが――モチーフになったのは違う作品だ」

 ヴェールヌイも一応は聞くらしく、まとめサイト管理人は話を始めた。

周囲のギャラリーもジャンヌ・ダルクの情報と言う事で注目をしているが――。

「その作品とは何だ?」

「WEB小説だよ。なんとか姫という作品だったと思うが、あれはVRゲームにもなっていたな」

「VR? もう少し詳しく――」

「こっちもVRゲームモチーフのジャンヌ・ダルクと思っていたが、そっちとは違うらしい。俺が知っているのは、これですべてだ――」

 結局は詳細な情報はなかったが、メジャー作品等のジャンヌ・ダルクとは違うデザインを持っていただけに――彼女の出所には疑問に思う部分もあった。

その中で、彼がもたらした情報は非常に大きいだろうか? そして、それを聞いたヴェールヌイはログアウトをしようとARガジェットのログアウトボタンを押そうとするが――。



 次の瞬間、まとめサイト管理人は――ある暴挙に出た。何と半壊したARウェポンを片手に何かをしようとしたのである。

しかも――手に持っているのはビームライフルであり、明らかに撃たれるような気配すらあった。

これには周囲のギャラリーもスタッフに通報して対応してもらおうとするが、それよりも速くまとめサイト管理人は引き金を引いたのである。

「――!? どういう、事だ?」

 まとめサイト管理人も――今の状況には呑み込めないでいた。

ビームが放たれたのは間違いない。しかし、そのビームはヴェールヌイに命中はしたが――ノーダメージだったのである。

「ゲームはすでに終わっている。それに――自分が既にアーマーを解除した地点で、ARウェポンは硬化を失う」

 ヴェールヌイはそれだけを言い残し、フィールドを後にした。

残されたまとめサイト管理人は、その後にガーディアンによって拘束される事になる。

【あのサイトも終わりだな】

【これで、煽り系炎上サイトがオワコン化してくれるといいのだが――】

【それを指揮していたとされている芸能事務所AとJは否定――そう言う事だろう?】

【結局は、あのサイト管理人の妄想だったという事か】

【しかし、ネット炎上や炎上マーケティングは終わらないだろうな】

【何故に人は炎上マーケティングと言う迷惑な行為に手を出すのか?】

【その答えを出すのは――】

 ネット上のつぶやきサイトでは、早速だが閉鎖されたまとめサイトの話題が拡散している。

そして、炎上マーケティングが大手まとめサイトの閉鎖で終わるのかと言うと――それも違うと否定された。

炎上マーケティングが引き起こす悲劇は、リアルウォーを呼びかねないのに――結局、人は繰り返すのである。



###第8話B『ジャンヌの正体』



 バトルが終わり、フィールドには別のプレイヤーがわいわいがやがやとアカシックワールドをプレイしている。

先ほどのバトルとは大違いの雰囲気に周囲のギャラリーも呆気にとられるが、それはアカシックワールドを普通のARゲームと同じ感覚でいる物だけだ。

あくまでも、アカシックワールドは『別の何か』を感じさせる世界観を持っているのだ。

それを知っているのは、ごく一握りの人物――とネット上では言われており、その一人がヴェールヌイと推測されている。

「アカシックワールドって、あそこまでのゲームだったのか?」

「普通にARゲーム、それもロケテ中の作品だと思っている。違うのか?」

【アカシックワールドは、何かを再現しようとしているかもしれない】

【何か? まさか、パワードフォースと言う気か?】

【パワードフォースの実写劇場版――それがアカシックワールドだと思う】

【しかし、映画の撮影であれば――エキストラ募集を含めて情報が流出してもおかしくない】

【だが、ジャンヌ・ダルクの能力と言い、一部プレイヤーのガジェットデザインも――明らかに狙っているだろう】

「つぶやきサイトでも、情報が錯綜しているな」

「何が本当で、何が嘘なのか――公式発表を待たないと。下手にまとめサイト等を鵜呑みにすれば――大変な事になる」

 あるプレイヤーは、タブレット端末に表示されたつぶやきサイトのつぶやきや掲示板の書き込みを見て――何かを確信した。

公式サイトの情報や見解、それが炎上マーケティングに歯止めをかけるきっかけになるかもしれない、と。

「まとめサイト依存も――危険だと思うな。まるで、ドーピング中毒と化した新記録ばかりを追い求めるアスリートを連想させる」

 話し相手になっていた別の男性プレイヤーの意見ももっともだ。

まとめサイトしか信じない――と言うのも偽の情報を見破ると言う個所や民度の低さを象徴する。

こうした偽情報や歪められた情報に依存するのは、ある意味でも危険なのかもしれない。

実際、そのまとめサイトでもジャンヌ・ダルクを危険人物と指定していた。

一部のギャラリーはジャンヌは危険人物でないと否定しているが、それをここで直接論じる必要性を感じていない。

それをやったとしても、一連のやりとりを芸能事務所AとJに従うまとめサイトが炎上ネタに悪用するのは――火を見るよりも明らかだろう。

そうした関係もあって、ヴェールヌイのバトルが終わってから個別解散するギャラリーが多い。

次のバトルを見ているのは、ゲームの順番待ちというプレイヤーだけだろうか。

 こうした会話を遠目で見ていたのは、アークロイヤルである。

ヴェールヌイのバトル、それを見て――ARゲーム以上に何か危険なものを感じた。

「下手をすれば、VRゲーム以上の危険も――」

 身体的な危険と言うよりも、この場合はネット上での危険と言うべきか。

過去に似たような事件に巻き込まれた事のある彼女にとっては――。



 5月19日、ある動画が公開されたことで――事態は大きく変化する。

まとめサイト勢力の行っていた炎上マーケティング、特定アイドルグループの宣伝にARゲームを悪用していた件――。

それ以外にも様々な暴露をした動画がアップされたことで、芸能事務所の活動を自粛せざるを得ない状況になったのである。

その動画の正体とは――予想外の人物の宣戦布告と言えるような動画だった。

『私の名は、ジャンヌ・ダルク――この世界のコンテンツに革命をもたらす者――』

 動画に映し出された人物、それはジャンヌ・ダルクだったのである。

外見は明らかにアカシックワールドでも目撃されている外見と同じであり、間違いなく本物だろう。

背景に関しては、ショッピングモールにも見えたのだが――買い物客が一人もいないので、おそらくはARゲームのフィールドである可能性が高い。

『既に、この世界のコンテンツは特定芸能事務所によって独占され、一部の利益至上主義者や拝金主義を掲げる人物によって――』

 この後、ジャンヌ・ダルクは芸能事務所によって起こされた一連の事件を告発する。

それ以外にも様々な事件の真相を公表し、それによって芸能事務所や週刊誌の出版社、更には広告会社等――芸能事務所AとJの関係企業は徹底的に摘発されていく。

しかし、これらの告発は一連の事件とは特に関係ないと切り捨て、更に――話を続けたのである。

『これらの事件は――所詮、ある作品のシナリオをなぞらせる為に用意された舞台装置の一つに過ぎない』

『君たちは、これから自分達が起こしてきた炎上行為が――どのようなシナリオを生み出すのか――それを知る事になる』

『つぶやきサイトで承認欲求やストレス発散、自己満足で炎上行為を起こす者は――自分達がARゲームを戦場とした戦争――リアルウォーを起こしたと自覚しないだろう』

『そうした人物を――私は絶対に許さない』

『コンテンツハザードの恐ろしさは、ネット炎上をさせた人間が知る事になるだろう――』

 この発言は、かなりのメタである。まるで、ジャンヌ・ダルクは――。

しかし、彼女の発言を一種の便乗宣伝やテレビに映りたい等――そうした行為で考え、まとめサイトに掲載する管理人も相次いだ。



 この動画を見ていたプレイヤーは、それぞれの立ち位置で発言をする者が相次いだ。

しかし、それさえもジャンヌの手のひらで踊らされている可能性は否定できない。

だからこそ――アークロイヤルは一連の動画を見て、あるトラウマを思い出して恐怖し始めたのである。

 彼女はARゲームのゲームフィールド付近で、一連の動画を見ていた。

動揺している表情こそは見せなかったが、他の人物からしたら近寄りがたい状態だったのだろう。

「ジャンヌ――ダルク。貴女は――」

 アークロイヤルは思う。彼女が暴走し、遂には地球を破壊しかねないような発言をしない事を。

それこそ――パワードフォースのシナリオを模倣していると言われかねない状況であり――彼女が一番懸念している事だ。

 ホラーゲームやグロテスクな表現等の影響で殺人事件が起きたというクレームがあって、そうしたゲームを排除しようと言う運動が起きた事もある。

これが影響して、ARゲームでは明らかに大規模テロや戦争、殺人事件を連想するような世界観を禁止している。

せいぜい、少年漫画やフィクションのSF映画、WEB小説位の表現にとどめるようにとガイドラインにも明言されていた。

「ARゲームでVRゲームのデスゲーム系WEB小説が再現でもされたら――」

 アークロイヤルは途中から口にする事はなかったが、一番懸念しているのはそこだろう。

芸能事務所AとJがメインのコンテンツ以外を完全排除する口実に、ジャンヌ・ダルクの動画が利用されてはいけない――と。

 


###第8話B『ジャンヌの正体』その2



 今回公開された動画は、ある人物にとっては別の意味での衝撃的な展開を生み出していた。

「まさか? そんなはずは――」

 ネットで話題となっている動画をチェックしていた青年、彼の服装は青をワンポイントに置いた物を着ている。

その一方で、セミロングの髪型だが髪の色は黒。青にこだわりを持っているような気配ではないのだが――。

彼が動揺している理由は、動画サイトにアップされていたジャンヌ・ダルクの動画だった。

 この動画は自分が投稿した訳ではなく、それに動画に映し出されていたジャンヌに関しても自分が知っている人物と言う訳ではない。

それなのに――ジャンヌ・ダルクが動画に使われていた理由――彼は、それが何か探ろうと考えていた。

ネット炎上や一連の事件には一切興味がなく、ジャンヌ・ダルクの存在理由という一点だけ――それを知りたい。

「あのジャンヌ・ダルクが、知っているジャンヌだとしたら――?」

 その後、彼の元にショートメールが送られて来た。そこには――。

【あなたの知りたいと思う情報に心当たりがあります】

 このメッセージと共に送られていた画像、そこには動画とは違うスクリーンショットのジャンヌ・ダルクが添付されていた。

その外見を見ると、確かに――覚えのあるジャンヌ・ダルクだと分かる。

 しかし、仮に自分の考えが正しいとするならば――本来の彼女には――。

色々と思う所はあるのだが、このメッセージの送り主が指定した場所へと向かう事にする。

その場所は――彼も予想だにしない場所だった。



 指定された場所はさほど遠い距離と言う訳ではない。単純に言えば、草加駅から谷塚駅へ移動するレベルだ。

谷塚駅近くのアンテナショップ、指定された場所へ向かうと、そこに待っていたのはメイド服と賢者のローブと言うコスプレイヤーを思わせる女性である。

ここは秋葉原では――と思う部分もあったのだが、彼は背に腹は代えられないので彼女たちに事情を聞く事にした。

ちなみに、若干恥ずかしいと思いつつも入り口で待機していたのは斑鳩(いかるが)の方であるが――。

 その一方で、2人組と接触する人物に心当たりのあった人物がいた。

彼の方は私用で見回りをするといって谷塚に向かったのだが、思わぬ収穫を得たと考えているようである。

「あの人物は――まさか?」

 今回は、たまたま私服で出かけていた為に神原颯人(かんばら・はやと)は周囲に気付かれる事無く、この現場を目撃できた。

運がいいとは思いつつも、3人を尾行するような形でアンテナショップの中へと入る事にする。



 3人が向かった部屋は、アンテナショップとは思えないような個室である。10人位のパーティールームを想定した物だろうか?

置かれている機材はカラオケではなく、ARゲーム用のセンターモニターとARゲーム専用動画サイト等を閲覧できるタブレットである。

テーブルはガラスではなく強化プラスチックの類であるため、ちょっとやそっとでは割れない。

 そのテーブルに置かれているのは、何故かお菓子類と注文した覚えのないドリンクバーである。

お菓子類は駄菓子と言うよりは、この店舗で用意されたスイーツのようにも思えるだろう。

確かに、フードコートを案内される途中でも見かけたのだが――そう言う事だろうか?

この光景に関して、案内された3人と言うよりも――2人に同行した男性の方が驚く。

「ここはARゲームの動画編集ルーム――」

 男性の方は、この部屋が何をする為の場所なのかを察する。

2人は用途を把握した上で借りた訳ではない。あくまでも秘密裏の話をする為の部屋を予約した結果が、ここだった。

「君たちは、ジャンヌ・ダルクに関して何か知っていると言ったが――」

 男性はせっかくなので、ドリンクバーでホワイトコーラと言う変わり物ドリンクを別の場所でタンブラーに入れる。

他の2人は既にアイスコーヒーを入れているようだが――。

「確かに、間違いは言っていないわ。私たちはジャンヌを知っている」

 話を切りだしたのは、何故か斑鳩の方である。

普通は、隣でコロッケパンや春雨サンドを食べているヴェールヌイが説明するのだが――。

「あのジャンヌは何者だ? 何故、あの装備をしている」

 明らかに男性の方はジャンヌの正体に薄々気付き始めているようだが、確信は持てない。

それもそのはず。あのジャンヌは一般ユーザーが知っているような人物ではないからだ。

「ジャンヌ・ダルクと言えば、創作作品ではよく使われている題材のひとつ――。そして、あなたの作品でも使われている」

 コロッケパンを食べ終わったヴェールヌイが切り出すが、本来であれば彼女が呼び出したので彼女が最初に話すべき話題でもあった。

何故、ヴェールヌイはジャンヌの正体に気付いたのか――それをいくつか彼に説明する。

「――そういう事になる。彼女は複数の創作作品をミックスさせたジャンヌ・ダルクとも言える存在、その中で一番比重が置かれているのが――」

「自分が生み出した作品のジャンヌ・ダルク――と言う事か」

「虚構神話(きょこうしんわ)の我侭姫(わがままひめ)――さすがに、正直な事を言うとこちらも驚いた」

「そこまで分かっている以上は――」

 虚構神話の我侭姫、それに登場しているジャンヌ・ダルク――そう2人は確信していた。

しかし、それをそのままトレースした物ではない。あくまでも素体となっているのが、そのジャンヌ・ダルクであるだけである。

他の創作に登場するジャンヌ・ダルクも含まれている為――オリジナルと言うよりは二次創作のジャンヌ・ダルクと言うべきか。

あるいは――二次オリとしてのジャンヌ・ダルクが、今回の動画に登場したジャンヌと言う事になる。

「あなたが青空奏であることを承知の上で――聞きたい事がある」

 青空奏(あおぞら・かなで)、虚構神話の我侭姫というWEB小説の原作者であり、それ以外でも様々な作品を書籍化させている――WEB小説家でもあった。

彼に接触した事の真の目的、それはジャンヌの正体を聞きだす以外にも別の事があったのだが――。



###第8話B『ジャンヌの正体』その3



 防音設備も完備のパーティールーム、そこではヴェールヌイと斑鳩、青空奏(あおぞら・かなで)の三人が様々な話をしている。

その中で、ジャンヌ・ダルクの話題が出てきた事で状況は変化した。

「聞きたい事とは?」

「ずばり、あなたがアカシックワールドの――」

 ヴェールヌイは何かを切りだそうとしたのだが、青空の方は若干深刻そうな顔をする。

話したくないと言う表情ではなく、別の事だろうか?

「アカシックワールド――初耳だな。ARゲームで、そう言うタイトルがあるのは把握したが――」

 残念ながら無関係――と言いたそうな発言であっさりと話を切り上げた。

ならば仕方がない――とヴェールヌイが思ったのかは不明だが、別の話題を切りだそうとする。

「では、質問を変えましょう。ジャンヌ・ダルク――あの人物が何者なのか? ご存知ですか」

 かなりの直球発言である。ヴェールヌイは、青空にジャンヌの正体が何者なのかを聞こうとしていた。

虚構神話の我侭姫に登場するジャンヌがベースになっている事は分かっているが、それだけとは思えない。

さすがにアレの正体がコスプレイヤーとも考えたくもないが、ぶつけるだけぶつけてみる事にする。

「あの人物の顔は見覚えがない。元々、あのジャンヌはイメージイラストもなかった――それが、あそこまで設定を把握して精巧に作るとは――」

 青空の話を聞いた斑鳩(いかるが)も若干疑問に思い始める。

今の話を踏まえると、正体と思われる人物がゼロから小説をチェックした上でコスプレ衣装を作ったようにも思える発言だ。

「ネット上のまとめサイト等の話題には興味がないし、その辺りの話は詳しくない。それに――」

 青空の視線はヴェールヌイの方を見ている。視線が泳いでいるような事は決してないので、嘘はついていないのだろう。

誘導尋問などをするのも酷なので、この話はここで切り上げる事にした。

「話したくない事があるのであれば、それでも構いません。私としては、ジャンヌ・ダルクの正体――それに関係する情報が得られれば問題はないので」

 まるで、彼女もネット上の記事を全く信用していないような――そんな口調で断言した事に、蒼空も何かを感じていた。

ヴェールヌイはジャンヌ・ダルクの正体を知りたかったのは事実であり、自分がWEB小説の作者である事も知っている。

謎の部分は多いかもしれないが、下手に深く関わると消されかねない――そう青空は感じていた。



 近くのアンテナショップを見回り、空の様子を見てそろそろ切り上げようと思ったのは神原颯人(かんばら・はやと)だった。

彼は――別のアンテナショップの入り口に通りかかった所で、青空とすれ違う。

ただし、神原は青空の顔を知っている訳ではない。その一方で青空の名前は何度か見覚えがあるので、全く知らない訳ではないが。

 気のせいか――と思いつつも、青空の歩いていった方角を見ると、そこには何人かの通行人が青空の方を見て――。

「あれは、青空じゃないのか? WEB小説家の――」

「青空奏だと? 何処だ――」

 一部の野次馬が彼を追いかけようとするのだが、そんな事をすれば――警察沙汰になるのは目に見えていた。

それに、高層ビルの入り口には監視カメラが設置されており、ARゲームの中継用ドローンも飛んでいるような状況である。

近年になってネット私刑や炎上勢力の様な存在もネット上で話題となり、取り締まり強化法案を求める声主あるほど。

そのような状況でストーカーをしようと言うのは――警察に犯罪者アピールをするような物である。

「あれが――青空奏なのか?」

 神原が注視した頃には既に彼の姿はなく、顔が確認出来るような状況ではなかったと言う。

しかし、彼のような人物が草加市に姿を見せると言うのは珍しい。

「この街特有の事情を取材しようとしているのか――?」

 草加市がARゲームの聖地巡礼等に力を入れている話題は、色々な媒体でも取り上げられている。

それに、草加市内ではコスプレイヤーがきわどいコスプレでもない限りは――警察官が声をかける事もない。

その手の裏サイトでパンチラ等の盗撮写真をアップしようと言う事を考えそうな人間もいるかもしれないが――自分で犯罪者アピールをするような環境では、行う事はないだろう。



 青空が帰ってからも、二人はパーティールームで色々と調べ物をしていた。

ARゲーム用モニターには、アーケードリバースの中継が映し出されているのだが――。

「あのアーマーは?」

 ヴェールヌイも別のプレイヤーが対戦している相手のアーマーの形状、そのデザインが他と違う事に気付く。

しかし、思い出せそうで思い出せない――そんな微妙な状態である。その為に人物名が出てこないのだ。

プレイヤーネームは中継映像の下段に表示されているが、それが丁度見えていない状態なのかもしれない。

「――えっ?」

 斑鳩はプレイヤーネームを見て驚いた。まるで、見覚えのあるような名前に――。

【レーヴァテイン】

 プレイヤーネームは、神話等をかじった事があれば聞いた事があると思われる物で――そんなに珍しくはない。

むしろ、問題はそこではなかった。アーマーの形状、レーヴァテインと言う名前――それが意味するのは、一つしかなかった。

「パワードフォースにも実際に登場していたレーヴァテイン? どういう事なの?」

 まさか、ジャンヌ・ダルク以外にも別作品のデザインを持ったアバターがいるのか――とも考える。

しかし、ジャンヌとレーヴァテインの違いは、ARアーマーの演出的な部分にもあった。

ジャンヌが中途半端にアバターを再現したような演出だったのに対し、向こうは特撮色が出ているのは間違いない。

ARゲーム自体も特撮色が濃いようなCG技術が使われているが――それを差し引いても、テレビで実際に使用したモデルをそのまま転用していると言っても過言ではないだろう。

それを踏まえて、斑鳩はレーヴァテインのアーマーデザインを『ありえない』と言う考えで驚いたのだ。



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