第150話 第一区画 マナ、コッパ、ジョウ、リズ 前編




 第一区画を担当するマナ、コッパ、ジョウ、リズの四人。地図を見ながら歩くジョウを先頭に、通路を進んでいた。


「コックピットに着いたら、まず各区画を分離する操作をして、それから降下の操作。コックピットに着いたらまず各区画を分離……」

 ジョウはこれを呪文のように繰り返しながら歩いている。

「足元気を付けな」と言ったリズが、直後に「止まれ!」とジョウの肩をつかんだ。ジョウより先にマナが「何?!」と肩をすくめる。


「あそこ!」

 リズが指さしたのは天井の隅。小さな赤いライトが見える。

「センサーだ。こっちの位置を把握されたかもね」

「えっ、そんなシステムあったのか……?」ジョウは地図をもう一度見直し始める。だがコッパがすぐに頭を持ち上げて言った。

「何か近付いてくるぞ! 車輪の付いた……ロボットか?」


 ロボットの近付く音はすぐにマナ達にも聞こえるほど大きくなり、道の突き当りから、陸軍のガンボールより一回り小さい、黒くて四角いロボットが姿を現した。備えた銃をこちらに向けている。

「危ない!」

 マナがジョウとリズの前に躍り出た。ジャゴの白い灯に守られるマナが、ロボットの銃撃を全て受け止める。


「こっちだ!」

 ジョウが叫んで道を戻り始めた。リズもそれに続き、マナは二人の盾になりながら遅れてついて行った。



 ジョウが三人を連れて逃げて来たのは、小型のロボットアーマーが格納されている倉庫だった。何十メートルも上の天井まで、一人乗りの戦闘ロボットが所狭しと何百台も並び、吊り下げられている。

 ジョウはそのうちの一つにリズを押し込み、自分も何とか乗り込んだ。地図を見ながら頭を掻きむしる。


「くそっ! 隅の方に小さく書いてあった。さっきのはモス・キャッスルの免疫システムロボット『マクロファッジ』だ。コックピットとは別の制御室に行かないと動作を止められない」


「なるほど。他の区画にもあるだろうね。その部屋で動作を止めれば、他の区画も?」

「ああ。止められる」

「じゃあ、二手に分かれよう」

 リズは話しながらもロボットを動かそうとあちこちのスイッチをいじっているが、まだ何も反応がない。

 マナがジョウ達に追いつき、倉庫の扉を閉めて鍵をかけた。


「すぐそこまで来てるぞ!」

 コッパがマナの肩からジョウ達に叫んだ。ジョウがマナ達を「乗れ!」と手で呼ぶ。

「おいリズ、早くしろよ!」

「分かってる! 見たこともない機械なんだよ?! そんなにすぐ動かせるか!」

 マナは上に乗っている二人の様子を見て、ロボットの周りを確認した。

 一本、オモチャのネジのように突き刺さっている棒がある。

「これかも!」

 そう言いながらマナが引き抜くと、ロボットのライトが付き、アーマーが駆動し始めた。


「よし!」

 リズがすぐに操縦桿を倒すと、ギシギシと音を立ててロボットの足が動いた。マナも慌ててロボット側面の足掛けと手すりにつかまる。

 そうこうしているうちにマクロファッジが扉を銃撃で打ち破り、中に入ってきた。


「武器使えるか?」

 ジョウがそう言うまでもなく、リズは操縦席の隣にあるハンドルと引き金を操作して、装備されている大型ライフルをマクロファッジに向けて撃った。弾はマクロファッジをかすめて、向かい側のロボットを直撃して爆発した。

 マクロファッジの反撃の銃弾がロボットのフロントガラスに当たり、ギンギンとけたたましい音を立てる。


「おい、外れたぞ!」

「あんたに言われなくても分かってるよ! こういうのは苦手なんだ!」

 リズが声を張り上げる中、ジョウは照準レーダーの脇にスイッチを見つけ、すぐに押した。パチリと音がし、ライフルの角度が勝手に変わり始めた。

「やっぱり自動照準装置だ! これで何となく銃を向ければ勝手に狙いをつけてくれる。リズ、撃ちまくれ!」


 自動照準装置のお陰で二発目の弾がマクロファッジに当たり、粉々に分解した。

「うわあっ、すごい! こっちの方がずっと強いね!」

 珍しく破壊活動に興奮気味のマナに、ジョウは「当たり前だよ」と冷静に返す。

「向こうは艦内の被害を最小限に抑えるための免疫ロボット。こっちは敵を粉砕するための、ガチガチの戦闘ロボットだ。角砂糖を金づちで叩き潰すようなもんだよ」


 これでひと安心ではあるが、またすぐ他のマクロファッジが来ないとも限らない。ロボットで倉庫を出ると、ジョウはマナに地図を渡した。


「マナさんはコッパを連れて先にコックピットに行ってて。俺たちは二人で免疫システムを停止させに行くから。くれぐれも気を付けてくれよ」


「私達はランプがあるから大丈夫。二人の方こそ気を付けてね」そう言ってマナは走り出した。

 道の両方から、マクロファッジが走ってくる音が聴こえてくる。


「よしリズ、俺達は向こうへ真っすぐ。突き当りを左に曲がって坂道を登れ」

「了解!」


 リズが操縦桿を倒すと、ロボットは時速一キロ程度のスピードでゆっくり歩き始めた。「あーもう!」と苛立つジョウ。

「のろい!」

「分かってる! えーと、どれだ……?」

 リズはボタンやスイッチが山のようにある操作盤とにらめっこを始めた。ところが、すぐにギン! とフロントガラスが震えた。マクロファッジが銃撃を浴びせながら猛スピードで向かってくる。


「先にあっち倒せ!」とジョウに言われるまでもなく、リズはライフルを撃ち込み一体撃破した。撃たれたマクロファッジは勢い余って床を滑り、ロボットの足元にぶつかって止まった。

 通路の奥からは、さらに三体こちらに向かってきている。


 ロボットは、壊れた足元のマクロファッジの前で、足を上げたり下げたりを繰り返している。

「リズ、はやくそのマクロファッジ乗り越えろよ! このままじゃライフルが使えないだろ!」

「分かってるってんだよ! 足が高く上がらないんだ! くっそ、どれをいじれば……」

「これじゃねえのか?!」

 ジョウが操縦席斜め上のスイッチを押すと、フロントガラスのワイパーが動き始めた。


「ハッ! ダサいね、あんたもうすっこんでな!」

 イライラしながら操作盤を睨むリズ。すると、操作盤ではなく足元に小さなペダルがあるのを見つけた。

「これだ!」

 ペダルを踏むとロボットはガクンと揺れ、一気に足を伸ばした。頭の部分が天井に打ち当たり、ギリギリとこすれる。

「上げ過ぎだよ!」

「黙ってな! だけど、分かってきたよ!!」

 ライフルで残りのマクロファッジを粉々にし、ロボットは走り出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る