第148話 出発




「誰か、アカネの居所を知っておる者はおらんか!」

 ゴロウがそう言いながら城の中を駆けずりまわっていた。だが、霊獣蜻蛉のアカネもその行方を知る者も一向に見つからない。

「ええい、ジェミルの動向を探らねばならんというのに……!」

 城をしらみつぶしに捜そうとゴロウは台所の扉を開ける。カワウソの妖が三人ほど、何やらごちゃごちゃ話していた。


「アカネがそこにおるのか?!」

 突然現れたゴロウに戸惑いながらも、板長(料理長)のが首を横に振った。

「いえ、ここにはおりません」

「ではそこで何をゴチャゴチャ話しておるのだ!」


 カは蜂蜜の瓶を差し出した。

「蜂蜜がごっそり減ってまして……。ひょっとして若様か誰か」

「つまみ食いか、全く。では後でクロウを私の所へ連れてまいれ。それより……」

 カの横から脇板(副料理長)のレーと三番板(副料理長補佐)のムが「それが」と同時に口を開いた。

「おられんのです」

「探したのですが」


 台所を出ようとしていたゴロウの足が止まった。

「……ま、まさか……」


「クロウを探せ!」というゴロウの大声と共に城のあちこちに明かりが点き、アンド城が騒がしくなっていった。




               *




 夜の闇の中、パンサーはついにモス・キャッスルの上空までやって来ていた。五隻のデメバードはモス・キャッスルの下方と周囲を守っており、上部(第一区画)の守りは相対的に手薄だ。


 パンサーの中には、突入するマナ達の他に、巨大な爆弾が乗っている。これで装甲を破り、パンサーで乗り込む算段だ。


「ジョウ、まだダメか?」

 操縦席のリズがささやく。ジョウはジャオから貰った図面を睨みながら「うーん」とうなって、やはり小さな声で返した。

「理想を言えば、もう少し進行方向側がいいんだけど」

「ぐずぐずしてると雲に入るよ。そうなったら侵入できない。ここじゃ不可能なのか?」

「不可能じゃない。ただ、五カ所ある各区画への直通エレベーターから遠いんだよ」


 後ろからヒビカがやってきた。

「それは私達の足で何とかなる。まずは侵入しなければ」

「うん……そうだな」

 ジョウがそう言うと、リズがパンサーの扉のロックを外した。パンクが扉を開く。


「落とすよ」

 ジョイスがゆっくり爆弾を押し、ドアから落下させた。重い爆弾が転げ落ち、パンサーが少し揺れる。


 みんな窓にへばりついて爆弾の行方を見守った。夜の闇の中、窓を星のように光らせるモス・キャッスルに落ちていく爆弾は、小さくなり見えなくなった。何も起こらない。


「……不発だ……!」

 舌打ちしてリズがそう言った。


「えぇっ! マジかよォ!!」

 大声を出すパンクにコッパが「しーっ」と人差し指を立てた。パンクは慌てて口をふさぐ。



「マジだよ。もう三十秒経った。間違いなくモス・キャッスルにぶつかったはずだ」

 リズはそう言うと、ジョウの手元の図面を自分の方に引き寄せた。それを覗いた後、足元にある窓から、眼下の実物を確認する。


「予定変更。ここから入るよ」

 図面のリズが指さした場所を見て、ジョウは声を立てずに驚いた。


「っ……! どうやってだよ?! これは搭載されてる飛行機が発着するための発着口だけど、進行方向と逆向きだ。ここに近づいたら……」

 ジョウはここで音量を落とした。

「ハチの巣にされるだろ」


「普通に飛んで入ろうって言うんじゃない。あそこ、見える?」

 リズが足元の窓を指さした。モス・キャッスルの、リズが乗り込もうと言う発着口のわずか前方に、兵器の遠隔操作のための小さなアンテナ塔がある。


「あれを使う」

「つ、使って?」


 リズは視線を前に戻して説明し始めた。

「まず、一気にアンテナ前方めがけてモス・キャッスルの表面スレスレまで降下して砲弾をかわす。次に、エンジンを切って滑空しながら、パンサーの左主翼の端をアンテナにぶつける。機体を回転させて、発着口近くで片方だけエンジン入れて、回転速度を上げながら一瞬で中に飛び込む」


「な……」と開いた口がふさがらないジョウ。

「……そんなこと、本当にできるのか?」

「あの発着口はモス・キャッスルの今の進行方向と逆向きだ。乱流があるはずだから、それを利用すればいける」

「……分かった」


 リズが後ろに向けて叫んだ。

「全員席についてベルトを締めな! 大きく揺れるよ!」



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