第147話 イヨとカンザ、ジョウとリズ




「イヨちゃん」

 かわやを出た途端声をかけられ、イヨは思わず肩をすくめた。

「か、カンザさん……まさかあなた、覗いてたんじゃ」

 カンザは「おいおい」と苦笑い。

「いくらなんでも酷くねえか? そんな事する男じゃねえよ」


 イヨは冷めた目でカンザを見ながら、置き去りにして歩き出した。それを慌てて追いかけるカンザ。後ろからイヨの手を取って、何かを握らせた。

「待ってくれって。これ、持って行け」


 カンザが握らせたのは、長い紐が付いたお手玉だった。

「もしお前さんに何かあったら、俺も辛いからな。万が一の時は、だまされたと思ってそのお手玉を開けてみろ」


 怪訝な顔でお手玉を見るイヨ。

「お手玉を開ける? 中に何が入ってるんですか?」

「それは開けてからのお楽しみだ」

「……まあ、一応持って行きます」

 イヨはお手玉の紐を首にかけ、懐にしまった。




                *




 パンサーのコックピット。操縦席にはリズ、助手席にはジョウが座っていた。二人にはお決まりの位置だ。

 本を読んでいるジョウをリズが「なあ」と呼んだ。

「デメバードを落として帰ってきた時あたし、『怖かった』って言ったろ?」

「ああ」と軽くうなずくジョウ。「また怖いのか?」


「もちろん。……もっと怖いよ。みんなの命預かってるからね」

「パンサーの整備は慣れてるし、マラコさんにも手伝ってもらって完璧にやったよ。もしどうしても怖いなら、俺よりヒビカさんとかに相談した方が……」


 リズは含み笑いをして首を横に振った。

「助手席のあんたに分かっててほしいんだよ。本当は心配かけたくないけど、一人で抱えてるともっと怖くて」

「俺はもう知ってるよ。お前が見た目よりずっと繊細だって」


 ジョウの言葉に顔を赤くして笑うリズ。

「気付かれるのは恥ずかしいけど、いざ気付いてもらえると、少し安心だよ。……あんたに会えてよかった」

 ジョウも笑い返した。

「やめろよ。これから死ぬみたいじゃんか」

「そうだね。ごめん」


 リズはイスの脇に置いてあるボトルを取り上げ、水を一口飲んだ。フロントガラスの向こう、徐々に暗くなっていく空を見ながら言う。

「日が暮れるね」

「ああ……いよいよだな」

 ジョウは本を閉じてカバンにしまい。リズと二人で前を向いた。



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