第144話 ブインタスール大戦
「グオオオオオッ!」
巨大化した狼のバクが、エラスモの装甲を牙と爪で引っぺがした。積まれていた砲弾が転がり落ち、それを片目のキンが拾い上げる。
「ほいさ!」とキンが投げた砲弾が、ガンボールを四つ吹き飛ばした。
「ギャハハハ! ほれ、お主もやってみい!」
キンが放った砲弾をコエンが「おっとと!」とよろめきながら受け取る。
「重てえな……おりゃあっ!」
コエンが投げた砲弾は別のエラスモを直撃。積まれた砲弾も誘爆し、大爆発を起こした。「うひょーっ!」と楽しそうな声を上げるコエンに、キンが「ほれ次じゃ!」と二つ目を投げてよこした。
「むんっ!」
タザの掌底がガンボールを押し飛ばした。そのまま他のガンボールをなぎ倒しながら転がり、エラスモに衝突して爆発する。
「きゃーっ、さっすがー!」と大喜びのテンコ。
「タザさん、巨体は伊達じゃないね」
「どうも……褒めて下すって……」
タザが巨体を折り曲げてお辞儀する。その脇から走って来るのはシバ。
「テンコちゃん、もう一度じゃあ、もう一度じゃあ!」
「はあい!」とテンコが返事をすると、シバがポンと飛び跳ねて体を丸めた。さらに、炎をまとい高温の火の玉ボールとなり、テンコの足元でポンと跳ねる。
「とりゃあっ!」
テンコのシュートでシバがエラスモを貫いて飛んでいき、キンの目の前まで転がった。キンが「こりゃ」と拾い上げる。
「テンコ! もっとちゃんとコントロールしちゃれ! 無駄が多いぞ!」
そう言ってキンがシバを投げると、大きくカーブしてエラスモ三機とガンボール二機を貫きながら、テンコの方へと戻っていった。
*
急斜面を一気に駆け下りてきたアキツ
「本部から応答はまだないのか!!」
「全くありません!」
「くそっ、どうなってる……このままではやられる一方だ」
「エラスモ、また一機……いえ、三機やられました!」
「仕方ない、私が指揮を執る! 山の西側を通って裏へ回れ! 反対側は緩やかなはずだ。回り込んで敵の本陣を叩くんだ!」
エラスモとガンボールが一斉に山の西側へと動き始めた。それを山の頂上で眺めているのは、タマモとツキトだ。
「タマモ様の睨んだ通り、西側へ向かっておりますな」
「当然じゃ。わらわの完璧な段取りを崩せる者など……」
「あの三姉妹の他は、おりませんでしょうな!」
ツキトがそう言うと、タマモはチラリとツキトを見た後「ふふん」と楽しそうに笑った。
「言いたいように言うがよい」
「もうすぐ裏側が見えます。後方の敵も引き離しつつあります!」
「よし、一気に裏側から山を登れば、まだ勝機が……」
将校達の乗ったエラスモが突如グラリと揺れた。慌てて一人が扉を開け、外の様子を見る。
ガンボールとエラスモで埋め尽くされた地面が、水面のように波打ったかと思うと、ドオッと弾けて煙を巻き上げた。
吹き飛ばされるガンボールやひっくり返るエラスモ、そして煙の中から現れたのは、頭を八つ持った巨大な蛇。おどろおどろしい声が空に鳴り響く。
「ここを通れると思うなああっ!」
コシチの頭の一つが地面を叩くと、巨大な地割れがエラスモとガンボールを一気に飲み込んだ。
将校の乗ったエラスモは慌てて後退する。
「こっ、ここはダメだ、引き返せ!」
「しかし後方には獣人の軍が……」
「本部は! 本部はまだ応答ないのか!」
「ありません!」
「くそっ! それなら……ん? うわあっ!!」
うろたえる将校達のエラスモを、コシチが起こした大きな濁流が押し流した。
*
「全員集まったか!」
ヒビカの号令でマナ達は姿勢を正した。
「タブカからの最後の連絡で確定した。モス・キャッスルに乗っているのは、ジェミルと陸軍四将、そしてバンクだ。これより、モス・キャッスルの分離、沈没作戦の最終確認をする!」
ヒビカは剣を地面に突き刺し、人差し指を立てた。
「リズがデメバードを撃墜したため、モス・キャッスルを守っている守備範囲に切れ目ができた。パンサーに乗ってそこから接近。上空から爆弾を投下し、モス・キャッスルの装甲に穴を開け、パンサーに乗ったまま内部に侵入する」
親指も立て、二本に。
「五つの班に分かれ、モス・キャッスルの第一から第五区画にそれぞれ向かう。第一区画の中央コックピットにて分離と降下の操作、それ以外の区画のコックピットでも海に沈むよう降下の操作を行う」
中指も立て、三本。
「第一区画の班はリズのパンサーで脱出。それ以外は、シンシアの操縦する脱出艇が分離したその他の区画を回り、全員を乗せ、脱出する」
薬指も立て、四本。
「作戦は以上だが、班分けを確認する。第一区画はマナ、コッパ、ジョウ、リズ。第二区画は私。第三区画はジョイス、シンシア、ヤーニン。第四区画はパンク、ギョウブ様。第五区画はイヨ」
全員、同じ班の者と顔を見合わせ、確認する。
「作戦開始までは各自パンサーの周辺で待機。質問や意見がある者は随時、私の所へ来い。日没を待って出発する!」
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