第142話 タブカ最後の連絡




 アンド城の小さな御殿に、クロウが走り込んだ。

「ヒビカさーん、来ました!」

 クロウが座禅を組んで瞑想していたヒビカに渡したのは、一枚の紙。書いてあるのは、普通に読めば支離滅裂な単語の羅列だ。それを読んでヒビカは「よし」とつぶやいた。

 すぐに紙を手の平に乗せると、もう片方の手を上からかざして熱の霊術をかけた。紙が自然発火し燃え尽きたのを確認して、ヒビカは立ち上がった。


「クロウ、手間をかけたな。タブカからの連絡もこれが最後だ」

「何と書いてあったんですか?」


「モス・キャッスルに搭乗している人員構成だ。ジェミルと陸軍四将、そしてバンク。他の将校は大方、ブインタスールへ向かったらしい」



 アキツから西に海を渡ったところにある、連合国の港町、ブインタスール。そこで、連合国とアキツの合同軍が、ジェミル軍を迎え撃とうとしているのだ。




               *




 パンサーに座るマナのところへ、片目の狸が走ってきた。マナが立ち上がると、狸は「そのまま」と手をかざして、マナを座らせた。


「ワシはアキツ八百八はっぴゃくやぐん参謀、ギョウブ様の筆頭大織眷属、片目のキンじゃ。コッパに頼みがあって参った」


「えっ、オイラに?」普段マナ達以外から用事を頼まれないコッパは、少し緊張した様子で、マナの膝で背中を丸めた。

「うむ。お主にしかできん仕事がある。ワシと一緒にブインタスールへ」


「えぇえっ!」とマナにすがりつくコッパ。

「無理無理! 戦争だろ?! オイラ無理だよ!」

「大丈夫じゃ。闘えっちゅうんじゃない。陣の中で済む。戦闘が始まる前にこっちに帰しちゃるわい」

「無理無理無理! 怖いよ!」

「そこを何とか! 勝利がかかちょるんじゃ!」


 手を合わせて拝むキンを見て、マナがコッパを抱いて言い聞かせた。

「私が一緒に行ってあげるよ。ランプで守るから、大丈夫」




              *




 ブインタスール近郊には、すでにジェミル軍が到着していた。台地を埋め尽くすエラスモとガンボールの奥にある小高い丘の上、参謀本部の大きなテントの中で、ジェミル配下の将校達が作戦を練っていた。


 一人の将校が、広げた地図を指さす。

「連合国とアキツの合同軍は、この山の上に陣を張っていると思われます」

「我々が気付いているとは知らんだろうな」

「おい、このあたりの地形は浮き沈みが激しいだろう。エラスモの配置は、これで大丈夫なのか?」


「はい。この山は頂上から降りるには、。降りてくる所にエラスモの砲撃を集中させれば、撃滅できます」


「なるほど。エラスモを上手く配置すれば、動かす必要すらないということか。合同軍の連中に狙いを気取られるなよ」

 何人かの将校達が敬礼をし、テントから出ていった。



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