ブインタスール大戦

第141話 マナとゴロウ




「だぁりゃぁっ!」

 雄叫びと共に金砕棒かなさいぼうを振るパンク。丸腰の片目のキンが、それをひょいっと飛び越え、パンクの顔面を蹴とばした。

「ぶぐっ!」

 後ろに倒れそうになるのをぐっとこらえ、再び金砕棒を構える。よけるキンに繰り返し金砕棒を振るパンク。当たりこそしないものの、キンの動きを予測しながら、効率よく振っていた。


 ここアンド城での二人の練習を少し離れて見ているのは、狼のバクとジョイス、ヤーニン。


「ねえお姉ちゃん、パンクの振ってる『かなさいぼう』って、何で出来てるの?」

 ヤーニンがそう聞くと、バクの方が教えてくれた。

「ありゃかしと鉄ですわ。重さは三貫ほどですかいな」

「『さんかん』ってどれくらい?」とジョイスを見るヤーニン。やはりバクが答える。

「お嬢達の単位に直すなら十キロほどですわ」

「十キロ……」と言いながらヤーニンは改めて金砕棒を振り回すパンクを見る。

「バクさん、本当にあれ十キロ? 二キロくらいじゃないの?」

「ほんでは、二人の手合わせが終わったら、持たせてもらいなされ」



 キンが金砕棒をくぐり抜け、パンクの腹を蹴とばした。

「うごっ!」

 金砕棒を持ったまま、パンクがジョイス達の元へ転がってきた。


「キン、その辺で!」とバク。パンクが「ふーっ」と腹をさすりながら立ち上がった。

「キン様ぁ……武器を持ってないキン様は速すぎますって。ついて行くの無理っすよぉ」

「馬鹿もん。ワシが武器持っちょったら、お主の金砕棒など一瞬でふっとんどるわい」


「そうっすけどぉ……」と若干ふてくされ気味のパンク。キンはそれを見て「ギャハハ」と笑った。

「しかしまあ、よくワシの動きを読めるようになっちょる。振りの速さも悪くない。よく一ヶ月間やったわい。少し休め」



「パンク、あんた結構たくましくなったじゃん」

 ジョイスにそう言われ、パンクは「そうかぁ?」と苦笑い。

「キン様にもバク様にも、全然勝てねぇんだぞ?」


「でも、ここに来る前はそんな物とても振れなかったでしょ?」

 ジョイスが指さした金砕棒を、ヤーニンが「ちょっと貸して」とパンクの手から取り上げた。


「まぁそれは確かにな。軍隊にいた頃は火炎アーマー使って、バンクのヨーヨー手伝いばっかしやってたし」


「うっ、えー重っ! ふんっぬ!」

 ヤーニンが必死に金砕棒を持ち上げて振りまわそうとしている。


「筋力もそうだけどさ、あんた動きも相当よくなったよ。無駄がなくなったっていうか」

「うおおおおっ! お……んおぉおっ!」

 ヤーニンは金砕棒と奮闘中だ。だが振っているというより振られている。


「マジ?! その辺は自分じゃよく分かんねぇんだよなぁ」

「うぐぉっ、おうりゃ! ぅんぬぐぅっ!」


「マジだって。攻撃食らった後、体勢戻す時に重心が……」

「ふおっぐんなおお!! うっぶ!! うんのぁっぐぉっ!!」


「うるっさい!!」

 ジョイスに怒鳴られ、ヤーニンはビシッと敬礼。手を放した金砕棒が倒れ、持ち手がヤーニンのつま先を直撃した。

「いっっっ! ……っっ……っっ!!」

 つま先と口を押えてピョンピョン飛び跳ねるヤーニン。パンクは「うわぁ」と苦い顔をした。

「気持ち分かるぜ。いてぇんだよなぁそれ」


 そう言うパンクをジョイスは「ハン!」と笑い飛ばした。

「全く、その程度で二人とも」

「いや、あれすっげぇ重いんだって! お前も持ってみ……」

 そこまで言ってパンクは『しまった!』と言葉をめた。こいつは……


 ジョイスは金砕棒をひょいっと持ち上げ、バトントワリングのようにクルクル回し始めた。ヤーニンは「さっすがー!」と拍手。パンクは面白くない。


「くっそォ……鬼熊の怪力女め」




                *




 アンド城に置いてあるパンサー。扉のふちに座って、マナは休んでいた。

「ねえコッパ、棟梁のゴロウさんってどんな人? 私まだ喋ったことないから……」

 コッパはマナの肩の上で「うーん」と頭を掻いた。

「難しいな。ギョウブとコシチを足して二で割った感じかな?」


 マナはすでに四賢人とは一応の対面をすませている。だが軽く挨拶をした程度で、その中身まではよく知らない。足して二で割ると言われても、サッパリ分からなかった。

「おっ、噂をすれば影だ」

 コッパがそう言って、こちらに近付いてくるゴロウを指さした。




「マナ殿」

 名前を呼ばれてマナは立ち上がった。

「はい、ゴロウ様。あの、私みなさんには本当に……」

 話し始めようとしたマナをゴロウは手の平で制止した。


「ワシに『様』など不要です。謝罪も礼もいりませんぞ。この戦争はジェミルが私利私欲で起こしたもの。そなた達を守っているのも、ジャオやクロウの意思を聞いた上で、ワシが自分の判断でしたことです。そなたはモス・キャッスルを海に沈める作戦に集中して下され」


 言おうとしていた事を全て先回りされ、マナは取りあえず「はい」とだけ返してお辞儀した。ゴロウはにこりと笑った。


「ワシが来たのはねぎらいのためです。デメバードの撃墜、大儀でしたな」

「えっ、いえいえ。私は見ていただけですから……」

「仲間の奮闘をかたわらで見守るのも、大切なことですぞ。とはいえ、リズ殿が最も奮闘したのはもちろんでしょう。次は彼女の所に参ります。どちらに御座おわしますかな?」


 マナが場所を教えると、ゴロウはマナにお辞儀をして去っていった。


「なんか……妖の国を治める人だから、もっと怖い化け物みたいな人かと思ってたけど、話してみると普通の人だね」

 マナが遠ざかっていくゴロウの後姿を見ながらこぼした。コッパは一度「うん」とうなずいてから言った。

「でも、オイラ達を完璧に守ってくれてるし、頼りになる人だよ」



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