第139話 墜落



「おいリズ?!」


 バタフライ・ルーチェの後方から徐々に誘導弾が距離を詰めてくる。


「リズどうした、応答しろ! くそっ、ひょっとして、無線壊れたか?!」

 ジョウがそう言うと、マラコがスピーカーに耳を当てた。

「違いますね。向こうの計器の音が、かすかに聴こえます」

「ってことは、G(※)で失神したんだ! おい、リズ起きろ!!」(※重力の事。急激な上昇、旋回等で大きなGがかかり、失神することがある)


 マナとコッパも、マイクをつけていないにも関わらず大声で呼びかける。

「リズ起きて!!」

「寝てる場合じゃないぞ!」








「……悪い、ちょっとクラッときた」

 やっと来たリズの応答に、みな胸をなでおろした。マナもジョウの肩に食い込ませた手をようやく緩める。


 だが、まだ何も終わっていない。

「リズ、後ろから残った誘導弾が一発来てるぞ! 何とかしてよけろ」


「ああ。……あれ? 今、機体どうなってる? 失神してちょっと感覚が……」

「ほぼ百八十度ロール(※)してる。計器見ろ!」(※上下逆になっている状態)

「表示が止まってる。全然動いてないんだよ」

「……っ?!」

 ジョウは言葉を失い、返事ができなかった。機体の状態を管理するための計器は、一つ壊れただけでも命取りになり得る。


「ヨーとピッチ(※)どれくらい?」(※ヨー……左右の傾き ピッチ……縦の傾き)

 リズの言葉でようやくジョウは我に返った。

「えーっと、ヨーはモニター越しだとよく分からない。ピッチはコックピット側に十度くらいかな? 平たく言うと、ひっくり返って機首を地面に傾けながら徐々に下降してる」


「オッケー。なんてことない。すぐ持ち直すよ。感覚も戻ってきた」

 軽い口調でリズはそう言い、すぐにバタフライ・ルーチェの姿勢を整え直した。旋回して誘導弾を引き離し、後ろ向きに供えてある機関銃を浴びせて迎撃した。


「リズ、出直した方がいい。機器のチェックを……」


「ダメだ。このチャンスを逃したら、せっかく全部落としたミニワスプが、他の場所から新しく集まって来ちゃうだろ。次で決めるよ」

「……次で決められなかったら、何があっても戻って来いよ?!」

「分かった。でも、次で絶対落とすよ。見てな!」


 バタフライ・ルーチェはデメバードの横から接近し、さっき攻撃した後方のメインエンジンではなく、翼端についているサブエンジンめがけて突撃していった。


「おい馬鹿! 横からじゃ木っ端微塵にされる!」

 ジョウが言った通り、すぐにデメバード側面の砲台が一斉に砲撃を浴びせた。それと同時に、バン! という音。砲弾は幻のバタフライ・ルーチェをすり抜け、彼方へ飛んでいった。

 直後、巨大な爆発音と閃光が走り、デメバードのメインエンジンが火を噴き出した。

 その炎の陰から姿を現したのは、もちろんバタフライ・ルーチェだ。



「やったーーーーーっ!!」

 ジョウが両腕を空へと突き立て、マナや妖達も一斉に大歓声を上げた。

 モニターには、墜落していくデメバードと、帰還していくバタフライ・ルーチェが映っている。


「マナさん、痛い」

 そう言われ、マナは慌ててジョウの肩に食い込ませていた手を外した。「ごめん」と言いながらマナが改めてジョウの顔を見ると、笑いながらも涙を流していた。



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