第133話 雪解け
ジョウはどれくらい泣き続けただろうか。何もせず立ちっぱなしのリズは足が辛くなり、左右代わる代わるブラブラ振ったりしていた。
呼吸は落ち着いてきたジョウだが、その顔はまだ涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「お前のさあ……言う通りなんだよ」
ジョウがようやく話し始め、リズは隣に同じように膝を抱えて座った。横からジョウの顔を見る。
「ラグハングルでさあ……お前のいう通りに門を閉めてれば、マナさんは……」
『それは違う』と言いたかったリズだが、こらえてジョウの話を聞いた。
「謝らなくちゃって、思ってたんだけど……お前に何言われるかって考えると……怖くて。俺の味方してくれるやつなんていないし、お前にも愛想尽かされて、何も言ってもらえなくなっちゃったし。それが悔しかったから、この鉱山入ってお前が話しかけてきても、無視して……。実はさ、さっき谷底に落としたあれ、ここの地図だったんだよ」
そんな事はとっくに気付いている。リズは鼻から空気を抜くように笑った。息を切らせて泣いているジョウには聞こえないだろう。
「さっきの分かれ道でも、勝手な事言って。……ごめんなさい」
十五歳の少年の『ごめんなさい』。なんだか親に叱られて謝っているような雰囲気だ。だが、リズは決して親ではない。
「あんたが苦しんでたのはよく分かった。もういいよ。でもね、あたしは正直言うと……」
ずっとジョウを見ていたリズの顔が、前を向いた。今度はジョウがリズの顔を見る。リズが口を結んで瞬きすると、ぽろっと涙がこぼれ、頬を伝った。
「キツかった……本当にキツかったよ。ラグハングルから、毎日あんたにあたしのすることを攻撃されて」
リズの涙は止まるどころか多くなっていく。胸やお腹も呼吸で大きく揺れ、息を落ち着けながら話を続けた。
「あんたの言葉は、自分で思ってるより鋭いんだよ。言ってることは大体当たってるしね。毎日胸をえぐられるみたいで。しかも、相手があんただっていうのも……キツかった」
十歳以上年上で大人のリズが、自分の言葉でそんなに傷ついているとは夢にも思っていなかったジョウ。責任を感じながらも、困惑してリズを見つめていた。
「もう、あんたが飛行機作って、あたしが操縦してっていう……相棒みたいな関係には戻れないのかなって思って……キツかったんだよ……すごく」
「ごめん」と「いや」が短く続き、リズは涙を拭って大きく息を吸った。
「あたしも悪かったんだ。そんなにキツかったのに、変なプライドが邪魔して、誰にも助けを求めなかった。心配してくれたやつもいたのにね。それに、そもそも……」
リズは顔をグイッと傾け、首元の臭いを嗅いだ。
「あたしのタンクトップ、間違いなく汗臭いし」
ジョウがブシッとふき出した。
「ラグハングルであんた、あたしに聞いたよね。『最後に洗ったのいつだ』って。……多分ね、オッカにいる時」
「嘘だろ……まさか、海に落ちた時に海水で洗ったなんて言うんじゃねえだろうな」
「よく分かったね」とリズが言うと、ジョウは「ははは」と声を出して笑った。
「でもさ、これ一枚をずっと着てるわけじゃないんだよ。同じやつがあと二枚あるから」
「それはいつ?」
「え?」
「最後に洗ったのいつだよ」
「一枚はファルココでパンサー直してる時。もう一枚は……あんた達と会う前。コーラドにいた時」
「信じらんねえ……」
二人で涙を拭きながら笑っていると、道の先の曲がり角から、明かりが現れた。
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