第131話 坑道で
坑道を歩くジョウとリズ。先に歩いているジョウが分かれ道を左へ曲がった。
「おい、ちょっと待ちなって! そこは右から来たんだろ」
リズがそう言うと、踵を返して戻ってくるジョウ。素直に従うのかと思いきや、こう言った。
「帰れなくなったら、責任取ってくれるんだよな?」
二人はすでに迷っていた。帰ろうと言うリズにしぶしぶジョウが従う形で引き返してきたのだが、来る時にもよく道を確認せずにどんどん進んでいたため、どこでどう曲がったか、降りたか登ったかは、二人ともよく覚えていなかった。
リズに言われた通り右に行こうとしたジョウの腕をリズが力を込めてつかんだ。ジョウと無言で向き合った後、リズはそのまま腕を引いて、初めの通り左へと進んでいった。
しばらく行くと大きな扉が姿を現した。明らかに見覚えのないその扉に、ジョウもさすがに間違いを無言で認め、体を反転させて戻る。
リズは、自分を通り過ぎようとするジョウの腕をまたつかんだ。
「ジョウ、あんた……」
ジョウはリズに顔を向けず、腕を振り払おうとするが、リズはがっしりつかんだまま離さない。
「……放せよ……!」
「待ちなって……あんた」
「放せっ……!」
「待ちなってのに!」
リズは渾身の力を込め、ジョウを引っ張って、顔をこちらに向けさせた。
「あんた……泣いてんのか?」
リズに向けられたジョウの顔は、すでに滝のような涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
*
最低でも三つは欲しい、とイヨが思っていた
むしろこんなに持って行っていいのかと思いつつ、イヨは取りあえず二つの風呂敷に包んだ。
「ザハさんには散々捜索で頑張って頂いたんで、この風呂敷は私とカンザさんで持ちましょう」
イヨは泉のほとりで座っているカンザの隣に風呂敷を一つ置き、すぐに歩き出した。
ところが、いつまでたってもカンザどころかザハの足音も聞こえない。
不審に思ったイヨが振り返ると、足を引きずるカンザにザハが肩を貸していた。
イヨは慌てて戻り、ザハに代わってカンザに肩を貸す。
「ひょっとして、足……折れました?」
カンザは「ははは」と笑う。
「そんなたいそうなもんじゃねえよ。ちょっとひねっただけだ」
強引なキスの後黒雷でイヨに追い立てられ、その後はずっと座っていたカンザ。いつ足をひねったのかは、考えなくても分かる。
「ちょっとやり過ぎました……ごめんなさい。でも、もう二度とあんなことしないでくださいね。私だけじゃなくて、他の女性にも」
足元を見ながらイヨがぼそぼそと言った。すると、カンザもいつもと違う静かな声で言った。
「ああ、もう分かってる。俺が悪かった」
*
ジョウの泣き様は尋常ではなかった。リズに顔を見られてから、しゃがみこんで膝を抱え、激しく肩を揺らしてしゃくりあげながら泣いている。息はちゃんとできているのかと心配になるほどの勢いだ。
脇に立って見下ろしているリズが言った。
「ジョウ、あんたひょっとして……怖かったのか? 謝るのが」
返事はない。首を横にも縦にも振らないが、そういうことだろう。リズは何を言うか迷った末、一言「大丈夫だよ」と言って、しばらくジョウの泣くのにまかせた。
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