第115話 連合国総理大臣アードボルトは、そういう男
「私は『世界統合政府』初代大統領、レオハンヒ・ジェミル。連合国中央政府および中央国会に告げる。連合国陸海軍の戦力のうちおよそ半分は我々の手中に落ちた。さらに、復活した古代兵器と合わせれば、我々の戦力はすでに裕に連合国を上回っている。二か月以内に政府及び国会の持つ全権を私に移譲せよ。さもなくば連合国全土は戦火の渦に飲まれることになるだろう」
総理官邸で音声を聞くアードボルトとリオラ。国防省幹部が音声を止めた。
「声紋鑑定では、この声が前陸軍元帥レオハンヒ・ジェミルである可能性は九十八パーセントという結果が出ました。まず間違いないでしょう」
アードボルトはハンカチで汗を拭いながら聞く。
「古代兵器というのは、この前目撃情報があった一連の?」
「おそらく。公海上の四カ所から飛び去った、超巨大飛行アーマーであると考えられます」
続いてリオラが聞く。
「ガラはどこまで知っていたの?」
ラグハングルでジェミル達が起こした事件によって、ガラはすでに国防大臣の座から降ろされていた。それどころか現在は、テロリストとなったジェミルとの関与を疑われて拘留中だ。
「本人は、ジェミルから持ち掛けられたのは『古代兵器を復活させて、連合国陸軍を世界最強の軍隊にする』という話だったと。自分はジェミル達に利用され、裏切られたのだと訴えております」
「ジェミル『達』?」
「ガラによると、現在行方が分からなくなっている陸軍四将と、その配下の百名ほどの将校が、ジェミルに従っていると。ガラが名前を挙げた将校は全員、行方不明になっています」
「なるほど……。アードボルト、軍の遠隔操作対応兵器が乗っ取られたのと、陸海軍の中枢にいた複数の軍人が行方をくらませたのは事実。まずはジェミル側といち早く接触しないと」
リオラがそう言うと、アードボルトは「うん……」と言いながらも、遠慮がちにこう続けた。
「確かにそうなんだけどね……こう、何と言うか……まずはアキツ国に行った方がいいと思ってるんだよ」
「は?」と国防省幹部を始め、秘書官他、その場にいる全員がきょとんとした。
「何のために?」とリオラ。
「あそこは、他の国家とほとんどかかわりを持たないけど、強大な軍事力を持ってるじゃないか。それがね、こう……気になるというか……」
「軍事同盟でも結ぼうということ?」とリオラが言うと、国防省幹部が言った。
「無理ですよあそこは。世界一閉鎖的で他国との貿易も皆無ですし、他の文明から隔絶された国です。元々自国を守れるだけの軍事力を持ってますし、今の所ジェミルの矛先は彼らに向いていません。今、連合国と軍事同盟を結ぶメリットは向こうにはないはずです」
「それはそうなんだけどね。こう……ほうっておけないと言うか……とにかく一度行かないといけない気がするんだよ」
「しかし……」と言いかけた国防省幹部をリオラが止め、アードボルトに言う。
「分かった。指示を」
「えっと、まずはカザマ議員をガラの後任として国防大臣に略式任命。次に、アキツの国家元首に私が行くと外務省から連絡を。もし『ダメだ』と言われたら……『もう出発しちゃった』とか、適当な言い訳しておいて。僕とリオラと、カザマ議員、あと必要最小限の人員で、すぐ出発しよう」
「動きなさい!」とリオラが言い、官僚達が部屋から出ていった。リオラも自身の秘書を連れて、扉に手をかける。
「アードボルト、アキツの国家元首とどんな話をするのかは、道中できちんと考えておいてちょうだいね」
「う、うん……」とアードボルトは、いつもと同じように頼りない雰囲気で答えた。
部屋を出ると、リオラはさきほどとは打って変わって、楽しそうな笑顔を浮かべながら秘書に言った。
「あなた、アードボルトが何をするつもりか分かる?」
「い、いえ……何をなさるつもりなのですか?」
「さっぱり! でもいい? 間違いなくこれが後々、色々と繋がって、連合国を救うことになる。その過程をよく見ておきなさい。彼はそういう男なの」
秘書はあまりにも楽しそうに語るリオラに困惑しながらも「なるほど」とうなずいた。
「頼りなさげに見えても、何か、お考えがあるのですね」
「いいえ!」
「は……?」
「考えなんてほとんどない。彼はそういう男なの!」
リオラは満面の笑みを浮かべ、またしても困惑している秘書を気にも留めず、大股で歩き出した。
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